Interview|サトウカツシロ(BREIMEN)“感情”を詰め込んだギター・アレンジ Interview|サトウカツシロ(BREIMEN)“感情”を詰め込んだギター・アレンジ

Interview|サトウカツシロ(BREIMEN)
“感情”を詰め込んだギター・アレンジ

BREIMENの約1年ぶりとなる3rdフル・アルバム『FICTION』がリリースされた。“シネマティック”というキーワードを掲げて制作された今作の中で、サトウカツシロはどのようにして楽曲へのアプローチを考えていったのだろうか。進化を続ける彼のギター・ワークについて、詳しく話を聞かせてもらった。

取材・文=伊藤雅景 写真=星野俊

今作は楽曲の制作方法に制約を設けていたんです

今作は“シネマティック”という言葉がキーワードとなっています。ギターのフレーズはどのようにしてイメージしていったのですか?

 前作に引き続き今作もベースの(高木)祥太が曲を書いているんですが、『FICTION』は今まで以上に祥太の私的な部分を歌にしていて。その世界観を自分のギターで解釈したという感じですね。

 今作の歌詞だったりは、祥太の私的な物ではあるんですけど、自分に重なる部分がけっこうあって。共感っていうとちょっとアレなんですけど、楽曲や歌詞に対して、自分のパーソナルな部分を照らし合わせていくというか。もちろん音楽的なアプローチであることは大前提として、今まで以上に肉体的というか、生々しい表現になったかなと思います。結果的にですが。

アルバムはどんな制作方法だったんですか?

 毎月1週間ほど、山中湖のスタジオにメンバー全員でこもりっきりで制作していました。曲作り、プリプロ、レコーディングまで、すべてをそこで完結させましたね。そして今作は曲を作り始める前の段階から、楽曲の制作方法に制約をいくつか設けていたんです。“クリックを使わない”ということと、“メンバー5人の音だけしか使わない”ということ。あとは、プラグインであったりを使わずに“実機のみを演奏する”というものでした。

 特に前回のアルバム『Play time isn’t over』(2021年)は“自分たちと周りの仲間たち”っていうコンセプトで作っていたので、友達だったり仲の良いミュージシャンだったりが参加していたんですが、今回は完全に5人の演奏だけを収録しました。

その“生感”が凄く伝わってきます。

 デモを作らずに作曲したっていうのも大きいと思います。いつもは曲によってデモがあったりなかったり……といった感じなんですが、今回はデモなしで制作を進めていたんです。そのやり方にすることによって、メンバーみんなで音を出す瞬間までどういう曲なのかがわからないという状況が生まれたので、新鮮でしたね。

 祥太の頭の中にあるイメージは、口頭や文面である程度しか共有されていなかったので、いい意味でそれぞれが抱く印象だったり認識にズレが生じた感じがあって。そのズレから着想を得て、新しいアレンジが生まれたりしました。すべてではないですが、今まではメンバーそれぞれがデモを聴いて、そこに各々の解釈を持ち寄ってアレンジしていくっていう流れがけっこうあったんです。でもそれは、あくまである程度形が見えているものに対してのレスポンスじゃないですか。

簡単に言えば、同じことをやってる人間がいないんです

フィーリングと演奏技術の両方が求められる作り方ですね。その制作方法を通してどのような変化がありましたか?

 やっぱり、楽器が上手くなったなと感じましたね。でもそれは、“クリックを使わないでレコーディングをすれば上手くなる”みたいな単純な話ではなくて。今回みたいな作り方だと、5人の演奏だけで楽曲を組み立てないといけないので、やっぱりみんなアプローチだったり考え方をアップデートしていく必要があったと思うんです。そうでなきゃ自分を納得させられないというか。もちろん俺もそうだったので、ほかの楽器のフレーズの組み立て方に対して自分のアプローチも変えていく必要があったんです。今まで以上に相互的に作用するようなアプローチというか。なので、変化というよりはそういう類の“気づき”がいっぱいありましたね。

ギター・アレンジでこだわった点を教えて下さい。

 BREIMENでは“これがバッキングで、これがリード”みたいなわかりやすいアレンジはあまりやっていなくて。例えばリード曲の「MUSICA」では、コードや和音の要素を鍵盤とギターで分担して弾いていて、俺とだーいけ(池田優太/k)の鍵盤で1つのコードになるようになっているんです。俺はサビではルート音と3度の2つの音しか弾いていなくて。それに絡むようなタイミングで、ギターが鳴らしたコードの成分以外の音を鍵盤が鳴らしていたり。

個人的には「CATWALK」のサビもそういった手法なのかなと感じました。

 まさにそうですね。サビではサックスが“パーパラパ、パーパラパ”っていう旋律を吹いていて、鍵盤はステレオに振ってコードを鳴らしているという。その中で俺は旋律なのかコードなのかわからないようなギターを弾いています(笑)。なので凄く簡単に言えば“同じことをやってる人間がいない”っていう感じですね。

それでいてバンド・アンサンブルが聴きづらくなく、むしろポップに仕上がっていますよね。

 そういったアレンジが、BREIMENにしかできない”ポップ“の概念を生み出しているとも思うんですよね。例に挙げると、「綺麗事」では1:56くらいからコンサート・ピッチが変わっていて。

 楽曲のピッチは440khzなんですけど、このセクションから432khzに下がってるんです。そしてラスサビに戻る時にもう一度440khzに戻るので、転調をせずともひらけた印象に聴こえたり。回想から現在に戻るみたいな。

目から鱗のアレンジですね……!

 ギターも突拍子もないことをやっているんですよ。アコギのアルペジオを、リズムの表と裏で弾いてLRにパンニングし、さらに上からポジションが下がっていくアルペジオのパターンを重ねるってアレンジになっています。それを音源で聴くと、全部が合わさって6連符に聴こえるっていう。

 ほかには「チャプター」のアレンジも。ここ(2:29〜のノイズ)とかヤバいじゃないですか(笑)。

 普通はこんなアレンジ、思いついてもできないっていうか。ここは同じ音が6秒以上続くからラジオでは流せないと言われちゃったんですけど……(笑)。今作はそういった良い意味でアホみたいなアイディアがほかにも色々散らばっています。

それを合宿の現場で作り上げるバンドの瞬発力が凄いですね。

 こういうものはその場の瞬発力っていうよりかは、どれだけ音楽にバカになれるかっていう部分が大きいのかも。それに、みんなで毎月泊まり込みでアレンジを考えてたんで、全員頭のネジがちょっと飛んでたのかもしれないです(笑)。でも、結果的にすべてのアレンジが最適解に仕上がったなと思ってますね。

ジャズマスターとZ.VexのLo-Fi Junkyを組み合わせた音がしっくりくる

それでは、今作で活躍した機材を教えて下さい。

 ギターはなんだかんだメイン・ギターのジャズマスターが多かったですね。レコーディングでは色々な機材を一応試したんですけど、結局ジャズマスターとZ.VexのLo-Fi Junkyを組み合わせた音がしっくりきちゃって。メンバーからも“これが一番カツシロの音って感がして好きだわ”みたいに言われることが多かったです。ほかの楽器でも楽曲にハマるパターンは全然あるんですけどね。

その組み合わせがサトウさんのシグネチャー・サウンドになってるんですね。

 BREIMENのサウンドの中では代名詞的なサウンドになっているかもしれないですね。特に「ドキュメンタリ」はけっこう面白いサウンドになったなと思っています。これはLo-Fi JunkyをLo-Fiモードにして、コーラスのデプスを上げて、あとからオクターバーでオクターブ下を足して録った音です。ちょっとバカっぽくてフニャフニャした音になって気に入ってますね。

一聴してもギターの音には聴こえないインパクトのある音色ですね。では、これからのギタリストとしての展望も聞かせて下さい。

 いまは全部出し切った直後なので未来のことはあまり考えられないんですけど、今回のような作品をこれからも生み出していけたらいいなと思ってますね。“自分自身にシールドを挿して、アンプにつないで鳴らした”みたいな、そういう表現をこの先もしていけたらいいなと思ってます。

LIVE INFORMATION

BREIMEN 3rd ALBUM 『FICTION』
RELEASE ONEMAN TOUR “NON FICTION”

【ツアースケジュール】
2022/09/17(土)/梅田シャングリラ
2022/09/18(日)/名古屋UPSET
2022/09/29(木)/Spotify O-EAST

※チケット購入の詳細は公式HPまで
https://brei.men/

作品データ

『FICTION』
BREIMEN

スペースシャワー/PECF-3272/2022年7月20日リリース

―Track List―

01. フィクション
02. ドキュメンタリ
03. CATWALK
04. 苦楽ララ
05. MUSICA
06. D・T・F
07. あんたがたどこさ
08. 綺麗事
09. チャプター
10. エンドロール

―Guitarist―

サトウカツシロ