Interview|西田修大“求められるギタリスト”の現在地 Interview|西田修大“求められるギタリスト”の現在地

Interview|西田修大
“求められるギタリスト”の現在地

中村佳穂『NIA』についてのインタビューをした時、ギター・マガジン本誌ではスタジオ・ミュージシャン特集の制作真っ只中だった。多数のサポート・ワークを抱えている西田修大も、ある意味ではスタジオ・ミュージシャンの1人。今回は本誌特集にかこつけて、最近のサポート・ワークや今のギタリストとしてのスタンスについて話を聞いた。

取材=福崎敬太 写真=君島大空

音色の作り方を忘れることはないんですよ

ギター・マガジン本誌がスタジオ・ミュージシャン特集なんです。それにかこつけて、西田さんが参加するサポート・ワークについて聞きたいと思っています。まず、今参加しているプロジェクトはどんなものがありますか?

ギター・マガジン2022年8月号
スタジオ・ギタリストの仕事
2022年7月13日(水)発売

 君島大空合奏形態、KID FRESINOのバンド・セット、中村佳穂BAND、石若駿、角銅真実とやっているSongBook Trio。あと今年に入ってからUAさんのバンドで、バンドマスターをやらせてもらっていますね。石崎ひゅーいさん、odolとも最近一緒にやらせてもらっています。ほかには、坪口昌恭(k)さんと大井一彌(d)と3人でOrtanceというバンドを3~4年やっていますね。あと、ライブで弾いているっていうところで言うと、アイナ・ジ・エンド。名越由貴夫さんと田中義人さんが基本的に弾かれているんですけど、どちらかが行けない時にどっちのパートでもいける二刀流で。

めちゃくちゃ大変(笑)。

 もちろんお二人のようには弾けないんですけど、名越さんと義人さんとそれぞれツイン・ギターで弾けるって自分からしたら役得じゃないですか(笑)。アイナさんも素晴らしいし。で、Bialystocksでも7月のライブでギターを弾かせてもらいます。

膨大ですね……。かなり多数の楽曲を覚える必要があると思うんですが、どのように頭を整理しているんですか?

 それこそミュージシャンの友達とも話すんですけど、みんな人によって差はあれ、コード進行の流れだったり、メロディで覚えたりするんですよね。でも、俺はけっこう丸覚えだから、ちゃんとやっていないとダメなんですよ。“いつでも引き出せる”っていう感じでは全然なくて。本当……力技で覚えているっていう感じなんですよ(笑)。

アハハ(笑)。

 俺は“G~、Bm7~、Am~”みたいに覚えていて(笑)。コード進行やテーマ・メロみたいのは完全に力技です。でも、音色や歌詞はよく覚えていますね。

音色は覚えているんですね。でも、西田さんのボードってかなり大きいし、プログラム制御でもないじゃないですか。各音色の再現はどうしているんですか?

 音色の作り方を忘れることはないんですよ。意図的に変えることはありますけど、元のペダルの組み合わせとかは覚えていますね。歌詞やサウンドのイメージで記憶していて、“この音はこうだった”っていうふうにやることが多いですね。

プレイヤーとしてではありませんが、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの『プラネットフォークス』でサウンド・プロデュースをしていますよね。「エンパシー」の喜多建介さんの音に西田さん味を感じて聞いてみたら、西田さんのジャズマスターを使っていると。

 そうでしたね。「エンパシー」と「フラワーズ」を最初にやらせてもらったんですよ。うしろでチェイス・ブリス・オーディオのBlooperとかMoodを使った小さいノイズもずっと出していて。建さんが弾いている中でボリューム・ペダルだけ俺が操作させてもらったりもしました。そうやって自分の質感を入れる余地をもらえたんですよね。

弾いているならまだしも、サウンド・プロデュースで西田さんの色が感じられるのは凄いなと思いました。

 それこそ、この間友達のギタリストと話をしていたら、“色んなところで弾いてて凄いな。でも、わりとどこでも同じことしかしてないよね”って言われたんですよ(笑)。でも、自分はそうは思っていなくて。俺が考えているのは、曲の中でフィットする音を出したいっていうことで、それは曲によって全然違うんです。でも、一緒にやる友達とかには、“西田は西田らしいことばかりしている”と言われる(笑)。

楽曲に対して“こうしたら良い”と思う確固たるものがあって、それが西田さんのサウンドになっているんでしょうか?

 でも“俺っぽいものを出したい”ってあまり思えたことがなくて。どちらかと言うと新しいことだったり、ピタってくるものをやりたいと思って弾いてきたんです。でも、今言ってもらったように“俺っぽい”って思ってもらえることが少しずつ増えてきている感覚もあって。アジカンの楽曲も、“俺の音を叩き込んでやるぜ”とは思ってやったわけじゃないんですけど、そういう意志とは違っても“俺っぽい”って言ってもらえるのは励みになりますね。

自分の憧れを全部、どうせなら成就させたい。

西田さんは幅広いルーツがあって、かなり色んなことができるギタリストだと思うんです。多様な環境で色んな役割を求められる中で、“自分らしさはこういうところだな”と感じた場面はあったりしますか?

 ……ある意味ずっとそれを探しているんですよ。自分は凄く欲張りで、即興演奏だったりある種の芸能から離れた表現を追求したいというのもあるし、いわゆる“グラミー獲りたい”みたいにエンターテインメントに振り切った欲もある。それぞれのシーンに自分のヒーローがいるし、ギターのカッコ良さもそれぞれわかるんですよ。

 それに、自分はどっちが好きかっていうのが、日によって変わるし、拮抗しちゃってるんです。ほかにも、サウンドを巧みに操る人もカッコ良いと思うし、一方でフィジカル一発の強さにも憧れる。“俺はこういう音を出す!”、“こういう現場しかやらん!”みたいのにも凄く憧れるんですけど、やりたいことや憧れが多くて。それを全部、どうせなら成就させたい。なので、プレイもそうなるというか。

でも、そういう“天秤にかけた時にどちらにも振れそうな危うさ”みたいなところが、逆に西田さんらしさなのかもしれないですよね。だって、王道のロックにも音響芸術的なところにも同じ比重で魂を置ける人ってなかなかいないじゃないですか(笑)。

 そう言ってもらえると嬉しいですけど(笑)。でも、自分らしさって何かって言われると、“決めてない”っていうのもあるし、“完成させたくない”っていう気持ちもあるのかもしれないです。わからないですけど、たぶん欲張りたいんですよ(笑)。その分も頑張んなきゃいけないですね。

逆に、現場で共通して求められることってあったりしますか? いわゆるスタジオ・ギタリストをアサインするという感覚じゃなく、“西田修大”を入れたいっていう現場ばかりだと思うんですよ。

 最近はエフェクターを絞るとかギターを変えるっていうことがないんですよ。いつも自分が思うことを一番やれるなっていうものを持っていっているって思うと、そういうことを要求されているんだろうなとは感じますね。“これ全部いらなかったじゃん!”みたいな時はないというか。

ギターらしい時のクオリティがより重要になっている。

最近は実験音楽的な要素がポップ・フィールドに馴染んでいる感覚があるんです。西田さんはいわゆる“ギターらしさ”を残しつつも、音響的なアプローチもされていると思うんですが、実際に体感としてそういう流れは感じますか?

 うーん……逆に今のトレンドは、ギターをギターっぽくない感じで扱うというよりは、いわゆるギターらしい良い音をどう出すか、どう使うか、だと感じていますね。ギター斜陽みたいな時代は確実にあったと思うんですけど、ここ数年はギターがまた明らかに増えてきたんですよ。で、一度ギターの上モノとしての役割がサンプリング・ソースやシンセなんかに置き換えられたあとにまた出てきているので、それを“経験したギター”になっている気がしていて。

というと……。

 “ここだけリバースしたい”、“リバーブをもっと広げたい”とか、それをシンセでやると直近の音楽と似たサウンドになっちゃうから、ギターでできないか、という。極論として言うと、ギターに取って代わったシンセが中核を担ったあと、シンセでできていたことがギターでもできるようになってきたし、シンセだけでそれをやるのは聴き飽きたから、ギターでもやろうよって。ギターも上モノというくくりで、シンセみたいな要求をされていった結果、より音響的なギターもリスナーにとってナチュラルになったのかなって思うんです。

非常に面白い分析です!

 シンセのようなギターは、もはやしっかり聴き馴染みがあるものなんですよ。だからこそ今は、ギターらしい音……“ファズ、カッコ良い!”とか、そういうのが一発ハマった時の価値が高まっているように感じるというか。新鮮にも感じると思います。ただ、それをアルバム1枚、ライブでずっと使うというのは難しい。例えば、1時間のライブでずっとオーケストラがいたら、途中でシュッとしたサウンドが聴きたくなるじゃないですか。ギターらしさに価値が出てきた分、それ以外の時間が大事になってくるんです。うまく言えないんですけど、“ギターの時間”と“上モノとしての時間”の両方が求められるというか。

たしかにコントラストの高さがあったほうが魅力的に聴こえるかもしれない。

 結局シンセみたいなことがギターでできるようになったからこそ、ギターらしい時のクオリティがより重要になっていると思っているんですよね。

なるほど。さて、以前インタビューさせていただいた際、記事にはしていないんですが“やっぱりソロ・アルバムを作らないとなぁ〜”って言っていましたよね。改めて今後の展望を聞かせて下さい。

 やっぱり俺は“音”が好きなんですよね。なので、その“音”がカッコ良く響く曲っていうコンセプトで作りたい。最近その音色はけっこう決めていて、曲自体も何曲か書いているんです。

 そしてソロについて考えるにつれ、普段自分がどこで誰とどんな音楽をやっているかも、一層大事にしたいなと感じるようになってきました。レッチリで弾いているからジョン・フルシアンテのソロもまたカッコ良い、レディオ・ヘッドで弾いているからジョニー・グリーンウッドのソロも、ウィルコだからネルス・クラインも、みたいのはあるなと、改めて。これまで以上にギタリストとしても邁進したいし、今挙げた人はみんな自分のソロも出しているし……ウダウダ言いましたけど、頑張ります(笑)。

ソロ作の準備はしているんですね。

 しています。でももっとやんなきゃダメだよなぁ~。結局、“時間ができたらやろう”って絶対できないんですよね。そう思うのってやらないヤツだから、“そうなっちゃうよ”って俺は自分に対して思っているんですよ。だから、無理矢理ね。なので、あらゆる手段を講じてでも、やります!

INFORMATION

西田修大とCHAIのドラマーYunaによるセッション映像配信、“Yuna × Shuta Nishida Live at W/M basement”が決定。西田が仲間たちとチームを組みスタートしたプライベート・スタジオ=W/M basementで収録された演奏だ。チケットはW/M storeから発売中で、アーカイブ配信は8月7日(日)23時59分まで。

■ W/M 公式サイト
https://w-m.stores.jp/