Interview|Jose(TOTALFAT)バンドの秘めた可能性と向き合った意欲作 Interview|Jose(TOTALFAT)バンドの秘めた可能性と向き合った意欲作

Interview|Jose(TOTALFAT)
バンドの秘めた可能性と向き合った意欲作

2019年10月にKuboty(g)が脱退し、3人体制で再始動したTOTALFATが、1年半ぶりのミニ・アルバム『BAND FOR HAPPY』を完成させた。様々な苦難を乗り越えて見出した、バンドに対する思いや決意を込めた全5曲の制作をJose(vo,g)に振り返ってもらった。

取材=白鳥純一(ソウ・スウィート・パブリッシング) ライブ写真=伊東実咲

疾走感や表現の幅は、かえって広がったような感覚がある

2019年10月から、TOTALFATは3人編成で活動されていますね。

 3人になって間もない時期に発表した『MILESTONE』(2020年1月発売の10thアルバム)や、『WILL KEEP MARCHING』(2020年7月発売)の頃は、自分たちにもまだ4人編成のイメージが根強く残っていたんです。だけど、体制が変わって3年近く経ったこともあり、当時を思い返す機会はだんだん少なくなってきているように思います。

サウンド面での変化を感じる場面はありますか?

 4人で活動していた頃は、僕自身もKubotyのギターの音を聴きながら歌うことが多かったのですが、鳴り響く音が減ってしまったぶん、ほかの2人の音に耳を傾ける機会が増えて。Bunta(d)がこだわっている“裏ノリのグルーヴ“を感じやすくなったことで、これまで以上に疾走感が増したような感覚もあるんです。

過去のレパートリーを演奏される際の違いや、新体制におけるサウンド面での工夫はありますか?

 “この音を入れたら面白いんじゃないか?”といったメンバー同士の話し合いをもとに、シーケンスを入れたり、ギターを5本くらい重ねたりしながらアレンジを加えていきました。

 自由な発想を持ち寄りながら、様々な形の挑戦をして気づかされたのは、“音の隙間を埋めなきゃいけない”という気持ちが強かった自分たちの姿だったんです。ブレイクする時の無音の時間や、アンプをつないだだけの“丸裸の音”を自分たちが受け入れたことで、これまでよりも音量やダイナミクスのメリハリがハッキリとつけられるようになりましたし、かえって僕らの表現の幅は広がったような感覚を覚える瞬間もあって。TOTALFATというバンドが持つ可能性を、改めて知ることができたようにも感じています。

およそ1年半ぶりの新作となる『BAND FOR HAPPY』ですが、制作にはいつ頃から取り組んでいたのですか?

 1曲目の「Miracle」は、今から1年くらい前に作り始め、4ヵ月ほどかけて完成させました。元々は、スケートボーダーのキセキノナカウラ君から、“ランボルギーニの上をスケボーで飛び越える様子を動画で撮影する”と聞いたところから曲作りが始まっていて。“動画のBGMになるような応援歌を作りたい”というコンセプトです。

「Miracle」は、曲中で4つの場面が展開されるナンバーです。どのようなイメージで、楽曲を制作されたのでしょうか?

 ナカウラ君の映像のストーリーに沿って音をつけていきました。彼がスケボーを準備しているシーンに始まり、倉庫のような場所からスケボーで外に出ていく。その後は世界観が開けていき、彼がジャンプして着地を成功させたタイミングで、フルのバンド演奏が始まる。映像の場面ごとに、“どんな音が鳴っていたら気持ちいいか”をイメージしながら、曲を仕上げていきました。

続く「Steer This Band」は、“これからもバンドを続けていく”という皆さんの強い決意を感じさせる楽曲です。

 “バンドの決意表明をする曲にしたい”というShun(vo,b)の思いを聞いていたので、大まかなアレンジは彼に任せつつ、僕はオーディエンスと一緒に盛り上がれるようなコーラス・パートを加えましたね。

3曲目の「Dirty Party」は、ラテンのリズムが印象的なナンバーに仕上がりました。新生TOTALFATの幕開けを感じさせるこの曲は、どのような経緯で制作されたのでしょうか?

 僕が、サブスクで“怪しげなシーケンスが使われた楽曲”を耳にしたことがきっかけで作りました。 “これまでにやったことがない雰囲気を表現しよう”と思って弾いたリフをBuntaに聴かせたら、ラテンのビートを作ってきてくれて。リフの譜割を変えてこのビートを取り入れたら、確かにめちゃめちゃカッコ良くなる……んですけど、今度は、“振り幅の大きな要素を、どうやって1曲にまとめればいいんだろう?”という課題に直面しまして(苦笑)。だいぶ悩んだ末に、何とか完成させることができました。

 一方では、テンポをBPM160にすれば、曲の途中でラテン調のパートが組み込めることを発見したりとか、僕らにとっても大きな発見があったナンバーでした。

雰囲気の異なるパートを併せ持つ、個性的なナンバーに仕上がりましたね。

 僕らとしても“凄く面白い曲が作れた”という実感がありましたけど、ほかのミュージシャンからも、“どうやって思いついたの?”とか、“何を参考にしたの?”と聞かれることが多くて。その反応には驚かされましたね。

 結果として、音楽的な“面白さ”を追求しながら作り上げた新しいパーティ・チューンが仕上がったと思っています。ライブでお客さんが盛り上がってくれる様子を実際に見た時には、僕もシンプルに嬉しさが込み上げてきて、何とも言えない感動を味わうことができました。

4曲目の「Ashtray」は、アンサンブルをリードしていく疾走感のあるギター・フレーズが耳に残る楽曲です。

 “コロナ禍が明けた瞬間に、みんなと一緒に喜びを爆発させられるようなテンポの速い曲を作ろう”というところから制作がスタートしました。

 デモを作ってきたShunが、“300回くらい録ったら弾けた”という速く刻んだフレーズを持ってきてくれて。“単純に速いだけではなく、ドラマチックな曲にしたい”という思いから、クリーンの音で演奏したり、ワルツのような3連符を奏でるパートを作ってみたりして。曲の展開にこだわりながら作りました。めちゃくちゃ疾走感があるので、ライブでも楽しく演奏させてもらっています。

最後を締めくくる「白煙」は、感動的なバラードですね。

  “スロー・テンポなバラードは、自分たちが大人じゃないと説得力がない”と思っていたこともあり、長い間寝かせていた楽曲だったんです。でも“そろそろ挑戦ししてみようかな”という気持ちの変化があったこともあり、ようやく完成に至りました。

 実は、歌詞の内容や、ギターのフレーズを決めるタイミングで、Shunがコロナを患ってしまって。体調が良くない状況の中でも、歌詞とメロディを作ってくれた彼の頑張りのおかげで、レコーディングにギリギリ間に合わせることができました。Shunの気持ちが入った素晴らしい曲が仕上がったのではないかと思います。ライブで演奏する時は、ついつい全パートを歌いたくなってしまうので、実は少しだけマイクを離して、Shunのパートも歌っちゃっているんですよ(笑)。

ギター・フレーズはどのように作り込んでいきましたか?

 もともとブルースやペンタトニック・スケールが大好きなので、なるべくシンプルで、“ライブの時に顔で弾ける”ような泣きのフレーズを意識しました。

時が流れても変わらないギター・サウンドの美しさにカッコ良さを感じる

レコーディングで使用したギターは?

 最近作ってもらったEDWARDSのLPタイプのオリジナル・オーダー・モデルをメインで使いつつ、クリーン・パートはESPのSNAPPERで弾いています。

オリジナル・モデルの特徴や、Joseさんのこだわりを教えて下さい。

 一番のこだわりは、親指を置くために取り付けてもらったダミーのセンター・ピックアップです。最近は指で弾くことも増えてきたので、使いやすさを感じています。サウンド面では、フロント・ピックアップにSeymour DuncanのP-90タイプ、リアにSeymour Duncanのカスタムが装備されていて、“イヤらしい感じの独特な音”が特徴ですね。機能と音質の双方の面で、とても気に入っています。

Joseさんが感じるギターの魅力は何ですか?

 周辺機材に視点を向けると、アンプが真空管からデジタルに置き換わったり、1台で色々な音が出せるエフェクターが出てきているのに、ギターはずっと変わらない。最近は、“時が流れても変わらない美しさ”にカッコ良さを感じることが多いですね。

続いて、レコーディングで活躍した機材を教えて下さい。

 あえて挙げるとしたら、SSLのオーディオ・インターフェースですね。今回は、ギターをすべてリアンプでレコーディングしたのですが、自宅にいながらにして、綺麗なラインの音が録れたことは、自分にとっては大きな発見でもありました。特にプラグインとして使ったBIAS Ampの音作りが楽しすぎて。本当はすぐに録らなきゃいけないのに、色々と試しているうちに、いつの間にか時間が過ぎていたということもあって(笑)。

リアンプの作業ではどのようなアンプを使ったんですか?

 スタジオでは、Mesa/BoogieのRoad KingやMarshallのJubilee、Bogner、Two-Rock、テックさんが作ったマーシャル系アンプなどを試しながら、曲に合うサウンドを選んでいった感じです。今回のレコーディングを通じて、リアンプで録音しても遜色ないサウンドに仕上げられることがわかったので、これからもどんどん活用していきたいですね。ライブの時は、Communeに改造してもらったマーシャルのJVM410がメインで、足下はディレイとオクターバーを使っています。

音楽を楽しむのがTOTALFATらしさ
面白いアイディアをどんどん形にしていきたい

今年で活動23年目を迎えましたが、Joseさんが考える “TOTALFATらしさ”は、どんなところにありますか?

 昔は“誰にも真似出来ないバンドになりたい”と考えていたんですけど、最近は“誰よりも音楽やバンド活動を楽しんでいるところ”が、一番TOTALFATらしい姿なのかなと感じています。先日も、ライブの演奏を終えたあとにアンコールの拍手が鳴り止まなかったことがあって。“もう終わりだよ”と言っているのに、みんなの思いが溢れ出てコールを送ってくれている状況を目の当たりにした時に、泣きそうになるほど感動しました。“みんなの心を動かせるような音楽を作ることができたんだな”と思えた瞬間でしたし、僕らも本当に幸せな気持ちにさせてもらえた。その瞬間が、今でも忘れられないんですよね。

コロナ禍の到来により、様々な制限がある中でのライブを経験されてみて、感じたことはありますか?

 この3年間の活動を通じて、ソーシャル・ディスタンスがあるほうが、かえってライブを楽しめるお客さんもいることに気づかされたんですよ。なので、僕らも、これまでは “かかってこい!”とモッシュやダイブを煽っていたパートを、最近は “手を上げろ!”などの言葉に変えたりしていて。みんなに楽しんでもらえるようなライブ作りを心がけています。

そういった“気づき”は、今後の楽曲やサウンド作りにも影響を及ぼしそうですか?

 そうですね。今作では、“ガンガン攻めていこう”という気持ちを込めたパンク色の強い曲も収録されていますが、バンド内では、“打ち込みのビートを取り入れたスローなナンバーにも挑戦してみたい”といった話も出てきていて。今後は“ゆったりしたビートだけど、みんなが楽しめるような曲を作ってみたい”という気持ちもありますね。

TOTALFATの今後に対して、Joseさんはどのような可能性を感じていますか?

 メンバー間では、“ゆったりとしたビートのスカ・チューン”とかをやってみたいなんて話をしています。これまでもレゲエ・ミュージシャンのJ-REXXXと一緒に「Delight!! feat. J-REXXX」(2017年)、「We’re Gonna Make a Bridge feat. J-REXXX」(2020年)といった楽曲を作ったりしてきましたが、これからも変わらずに自分たちの新たな表現の可能性を広げていきたいと思っていて。パンクが好きなラッパーに積極的に声をかけたり、ハウスなどの打ち込み系のミュージシャンの人たちと一緒に曲が作ったりとか。色々と思い浮かぶ面白そうなアイディアを、どんどん形にしていけたら良いですね。

最後になりますが、読者へのメッセージをお願いします。

 “新生TOTALFATの魅力を存分に凝縮した作品ができた”と感じています。最近は、CDを出すアーティストも徐々に減ってきていますけど、ライブは今後も絶対になくならないでしょうし、 “ライブハウスで聴く音楽が一番カッコいい”と僕らも思っているので、いつでもライブハウスに遊びに来てくれたら嬉しいです。

LIVE INFORMATION

〜イベント出演〜
8月20日(土)/苫小牧ELLCUBE
8月21日(日)/札幌SPICE
8月27日(土)/神戸Harbor Studio
9月4日(日)/豊洲PIT
9月7日(水)/渋谷Spotify O-EAST
9月16日(金)/横浜F.A.D
9月19日(月祝)/秋田Club SWINDLE

BAND FOR HAPPY Tour 2022 〜振替公演〜
12月12日(月)/渋谷Spotify O-WEST  w/ ハルカミライ

チケット等、詳細は公式HPへ。
TOTALFAT公式HP>

作品データ

『BAND FOR HAPPY』
TOTALFAT

RX-RECORDS/UK. PROJECT/RX-193/2022年5月13日配信リリース

―Track List―

01. Miracle
02. Steer This Band
03. Dirty Party
04. Ashtray
05. 白煙

―Guitarist―

Jose