Interview|antz(Petit Brabancon)化学反応を生んだ独自のギター・アプローチ Interview|antz(Petit Brabancon)化学反応を生んだ独自のギター・アプローチ

Interview|antz(Petit Brabancon)
化学反応を生んだ独自のギター・アプローチ

MUCCのミヤとTokyo Shoegazerのantzという実力派ギタリスト・コンビを擁する新たなプロジェクト、Petit Brabancon(プチ・ブラバンソン)の待望の1stフル・アルバム『Fetish』が完成した。初作品ながら、両名が鳴らすツイン・ギターは洗練されたアレンジで、すでに円熟の域に達しているようにも思える。今回はアルバムの制作について、antzの視点から詳しく話してもらった。

取材/文=村上孝之 写真=河本悠貴

自然体で作った結果、今回のようなアルバムになったんだと思っています

『Fetish』を作るにあたって、テーマやコンセプトなどはありましたか?

antz 自分がPetit Brabanconに声をかけてもらって、最初に5人で集まった時のミーティングで上がってきたワードが、“90〜00年代のニューメタル/ラウドロック”だったんです。あの辺りの匂いがするもので、かつ洗練され過ぎず、80年代のニューウェイブみたいなヒリヒリ感も感じさせられるものをやりたいと。それで自分に声がかかったんだなと(笑)。そういう形で今回のアルバムにつながっていったんですけど、最終的にどう着地するかはまったくわかっていませんでした。

てっきり事前に綿密な話し合いをされたのだと思いました。

antz していないですね。今作はメンバー5人の個性が同列で出ていると思うんですよ。良い意味でバランスがつんのめっているというか、5人全員が前に貼りついている感じがあって。それが自分は凄く良いなと思っています。とはいえ、なんといっても京さん(vo/DIR EN GREY)の存在が全体を引っ張っていてアルバムの統一感になっている。つまり、自然体で作った結果、今回のようなアルバムになったんだと思っています。

Petit Brabancon
左から高松浩史(b)、yukihiro(d)、京(vo)、ミヤ(g)、antz(g)

全員が個性を発していながら強固なバンド感を放っているのはPetit Brabanconの大きな魅力です。そうすると、今回antzさんが書かれた曲も最初のテーマを意識しつつ書かれたんですか?

antz そうですね。初めて5人で集まった段階で5曲デモがあって、1番最初に聴いたのがアルバムの最後に入っている「渇き」だったんですが、それが“ズシン!”ときたので。ただ、自分も同じようなジャンルの音楽を聴いてはきましたけど、7弦を使ったりするようなバンドはやってこなかったんですよ。なので、自分のフィールドの中で“こういうのはどうですか?”みたいな感じで、「Ruin of Existence」を作りました。

antzさんが書かれた曲はアルバムの良いアクセントになっていますね。「Ruin of Existence」もデジロック感が香っています。

antz この曲は完全に自分のフィールドで曲を作りました。この曲のテイストが生まれたのは、自分が個人でやっているバンドでフェンダーのバリトン・ギターを使うようになったというのがまずあって。それに、自分はバンド・サウンドもめちゃくちゃ好きですけど、80年代のEBMやインダストリアル、日本でいうところのSOFT BALLETとかも大好きだったんです。あと、ナイン・インチ・ネイルズとか、そういった電子的なサウンドの中で鳴るディストーション・ギターみたいなものがずっと好きだったので。そういう方向に振り切った感じの曲かなと思いますね。

メンバーのデモを聴いて“こう来たか”と感じたりすることを楽しめました

そんなantzさんがいることは、Petit Brabanconの大きな強みといえますね。antzさんが作った曲だと、6/8拍子のリズムやドラマチックなサビをフィーチャーした「主張に手を伸ばす修羅」や、どこかグランジの匂いがある「無秩序は無口と謳う」なども聴き逃せません。

antz 「主張に手を伸ばす修羅」はミヤさんがリ・コードしてドラマチックになっているところもありますが、僕からはそこまでメロディを指定していないんですよ。バック・トラックを聴いたイメージだけで京さんにメロディをあててもらって、どんどん形になったところが多くて。この曲は元々自分の中ではメロウなイメージがなかったんですけど、京さんのメロディ・センスのおかげでエモーショナルになった部分が大きくて。

原曲を作ったantzさんが予想していなかったところにいって、なおかつ凄く良い形に仕上がったんですね。

antz はい。自分はそういう化学反応みたいなものを楽しみたかったところがあるので、メロも作れるけど、今回はそこまで作らなかった。だから、どんなものが上がってくるんだろうとか、上がってきたものを聴いて“こう来たか”と感じたりすることを楽しめました。

 もう1曲の「無秩序は無口と謳う」ですが、グランジっぽさはとくに意識していなかったですね。この曲は、リフのネタがずっと前からあったんですけど、活かせるような場がどこにもなくて。でも、新曲を増やすとなった時に16ビートっていうワードが挙がって、Petit Brabanconならいけるかなと思い、自分のストックの中から引っ張り出しました。

この曲のクール&メカニカルなリフは凄くカッコ良いですし、こういう曲にタブラの音を入れるというセンスのよさも光っています。

antz ここ最近はあまり聴かないですよね(笑)。キリング・ジョークとかセパルトゥラ、ソウルフライみたいに、太鼓がドコドコいっているものや民族的なグルーブも凄く好きで、この曲に合うだろうと思い入れることにしたんです。シタールやタブラを入れたデモを作って、あらためてyukihiro(d/L’Arc〜en〜Ciel)さんに打ち込んでもらったりもしました。

ギターだけはミヤさんと2人で“せーの!”で録ったんです

「無秩序は無口と謳う」はPetit Brabanconの可能性をより広げた1曲ともいえますね。では、続いて今作のギターで大事にされたことは?

antz 自分はここ最近Tokyo Shoegazer/東京酒吐座の楽曲で、エフェクターを重ねて音像を作るというのをやっていたんですけど、ミヤさんは1つのフレーズとか音色パートに対して、ドストライクで最適なエフェクターをあてていくんですよ。そこに改めて刺激を受けて自分もそれを意識しました。

 あとは、ギターのアンサンブルをあまり細かく正さないというか、タイトさよりもテンションのほうを大事にしたというのがあって。自分は、普段の技量が70%くらいの人が、本気を出して100%を目指そうとした時のテンションとか勢いからくる表現が凄く好きなので、そういうものを目指しました。

たしかに、ライヴ感や荒々しさのあるギターは凄く心地好いです。

antz ミヤさんはオケを1発録りしたかったみたいなんですけど、それができない環境やスケジュールだったので、ギターだけは2人で“せーの!”で録ったんです。それもライヴ感につながっているんじゃないかなと思いますね。

えっ、ギター2人で一発録りですか? 珍しいパターンですね。

antz そう思います(笑)。そういう録り方はしたことがなかったので、当初は“どうなるんだろう……。”みたいな感じだったんですけど、レコーディングを何度かくり返していくうちに慣れていきましたね。その手法が作品に良い効果を与えていることを感じたので、このバンドに合っている録り方なのかなとも感じました。

柔軟さが良い結果を呼びましたね。ツイン・ギター感を活かしたアプローチも多いですが、ギター・パートを考える時はギターを持って色々弾く派でしょうか?

antz その時々によるけど、ギターを触っている時のほうが多いですね。色々弾いていると“これだ!”というのが出てくるんです。それを実際に録ってみて、冷静に良し悪しを判断したりします。一方で、風呂で急に“こういうアプローチ、カッコ良いかも!”というのが浮かんでくることもあります。楽曲のオケを作っている時にもそういうことがあって、髪を乾かしながら“フガフガ”言ってるのを録ってみたり(笑)。

今回はトゥールのような雰囲気に寄ってみました

風呂でアイディアが降ってきて、裸のまま鼻歌を録ったというような話はよく聞きます(笑)。ギター・ソロについてもお聞きしたいのですが、まず「OBEY」で、antzさんとミヤさんのかけ合いを聴けますね。

antz それはミヤさんから当日いきなりその場で言われまして(笑)。“これを弾いてもらって良いですか”ってレス・ポールをポンと渡されて……“ええーっ!?”みたいな(笑)。

えっ、使うギターも指定ですか?

antz そうなんですよ(笑)。それで、どういうフレーズを弾くのかを教えてもらって、何回か合わせたら“じゃあ、録りましょう”っていう(笑)。

いきなりで戸惑ったかとは思いますが、“バッ!”と弾いた勢いやスリリングさが良い方向に出ていることを感じます。「非人間、独白に在らず」の後半のトレモロ・ピッキングのソロは、どちらが弾かれているのでしょう?

antz 自分ですね。僕はトゥールが凄く好きで、このバンドは歪みの前にディレイがかかった淀んだ空気感が特徴なんですが、今回はそういった雰囲気に寄ってみました。トゥールのアダム・ジョーンズは全部のエフェクターがプリアンプの前にあって、クリーンも歪みもそのままアンプにいくんですよね。

音作りも功を奏して、引きずり込まれるシーンになっています。

antz ありがとうございます。「非人間、独白に在らず」のトレモロ・ピッキングのパートを含め、自分はビッグマフの荒い音色で、ミヤさんは洗練された歪みという形になっている。要は“半分半分”みたいな感じにしたかったんです。そのイメージをちゃんと表現できた曲かなと思いますね。

その話を聞いて思い出したのですが、ヘヴィなギター2本をクリアに鳴らすのは難しい面があると思います。その辺りはいかがでしたか?

antz そこはミヤさんに任せていました。ミヤさんはエンジニアリングもされるので、音作りのノウハウも豊富なんですよね。彼はヘッド・アンプとかにも凄くこだわっていたし、僕にオススメしてくれることもよくあったんですよ。自分は本当にギターのことだけで、それ以外の録るところはミヤさんにお任せしていました。

基本的にはバリトン・ギターで録りました

では、その辺りのことはミヤさんに聞いてみます。続いて、今作のレコーディングで使用したおもな機材も教えて下さい。

antz さっきお話したフェンダーのバリトン・ギター(Fender/Blacktop Baritone Telecaster)です。去年末くらいに買ったアイバニーズの7弦ギター(Ibanez/FRIX7FEAH-CSF)も使ったんですけど、基本的にはバリトンで録りましたね。

バリトン・ギターの気に入っているところは?

antz このバリトンは、このバンドというよりは自分のバンドで必要になり探していた時に出会ったんです。なので、Petit Brabanconの曲を弾くために買ったギターではなかったんですけど、意外とヘヴィなリフも合うと気づいてから使い始めました。

シルバーのバリトン・ギターでヘヴィな音を出しているところが凄くカッコ良いです。新たに入手した7弦ギターはいかがですか?

antz 自分は“ヘヴィだから7弦”という思考は安易だと思っていたので、6弦でやりきりたいなと思っていたんです。ただ、ミヤさんが7弦を使っていたので自分も試しに7弦を買ってみたら、めちゃめちゃ良いなと思ってしまい……(笑)。

 7弦ギターって6弦ギターに7弦用の1弦足されているから、思っていたよりいつもの感覚のまま弾けるんですよ。6弦だと無理をしないといけないフレーズが沢山あったけど、そこが凄い楽になるので、“だからみんな使うんだ……”と1人で納得してました(笑)。

なるほど(笑)。アンプはどんなものを使われたのでしょう?

antz メサ・ブギーのRoad Kingです。キャビも同じくRoad Kingですが、スピーカー・ユニットは半々で違うものが載っています。メサ・ブギーはガッツ感というか、“ゴンッ!”とした感じが好きですね。マーシャルももちろん好きですけど、また違った重厚さがあってずっと気に入っています。特にリフを弾いた時に凄く気持ち良いです。

メサ・ブギーはローが豊かでありながら音の立ち上がりが速いのが魅力ですよね。エフェクターはどういったものを使いましたか?

antz 歪みエフェクターは「非人間、独白に在らず」の時にビッグマフを使ったくらいで、あとは全部アンプの歪みです。自分のバンドで使っているブースターとかも色々試してみたんですけど、狙った感じにならなくて。なのでどんどん取っ払っていって、最終的にシンプルになっていきました。

 空間系はBOSSのDD-20(マルチ・ディレイ)とか、ZOOMのMS-50GやMS-70CDRなどのマルチ・エフェクターですね。その場ですぐに音を作り込めるし、無茶なセッティングも簡単にできるので使いやすいんです。『Fetish』はそれらで作ったエグい空間系の音とかそのまま活かしてます。

洗練されているライヴを披露したいという気持ちがあるんです

ZOOMは低価格のモデルも音のクオリティは高いですよね。さて、『Fetish』はPetit Brabanconの魅力が詰め込まれた一作になりました。本作を携えて9月から行なわれる全国ツアーも楽しみです。

antz ツアーがどういうものになるかは、自分はわからないです(笑)。まだ2回しかライヴをしていないので。その内の1回は川崎のCLUB CITTA’でシューティングを兼ねたライヴだったんですけど、その時よりもグレードアップしているものにしたいですね。

 自分は、アルバムを出したての初々しい感じは出さずに、ちゃんと洗練されているライヴを披露したいという気持ちがあるんです。あとは、レコーディングされた楽曲を生でもちゃんと表現できることを証明したいですね。みんなの期待を超えられるように、がんばります。

LIVE INFORMATION

Petit Brabancon Tour 2022
“Resonance of the corpse”

【スケジュール】
2022年09月08日(木)/Zepp Nagoya
2022年09月09日(金)/なんばHatch ※SOLD OUT
2022年09月13日(火)/Zepp Yokohama
2022年09月16日(金)/Zepp Fukuoka
2022年09月21日(水)/Zepp Haneda ※SOLD OUT

【チケット】

SS席 グッズ付 ¥25,000
S席 ¥15,000
A席 ¥6,500
2階席 ¥15,000
(税込・ドリンク代別) 

ツアーの詳細は公式HPまで
https://www.petitbrabancon.jp/

作品データ

『Fetish』
Petit Brabancon

MAVERICK DC/DCCA-107/2022年8月31日リリース

―Track List―

01.Don’t forget
02.疑音
03.OBEY
04.Ruin of Existence
05.主張に手を伸ばす修羅
06.刻
07.come to a screaming halt
08.I kill myself
09.Pull the trigger
10.非人間、独白に在らず
11.Isolated spiral
12.無秩序は無口と謳う
13.渇き

―Guitarists―

antz、ミヤ

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