Interview|ミヤ(Petit Brabancon)ライヴ感をパッケージしたツイン・ギター Interview|ミヤ(Petit Brabancon)ライヴ感をパッケージしたツイン・ギター

Interview|ミヤ(Petit Brabancon)
ライヴ感をパッケージしたツイン・ギター

DIR EN GREYの京(vo)が率いる、Petit Brabancon(プチ・ブラバンソン)の1stフル・アルバム『Fetish』が完成。MUCCのミヤとTokyo Shoegazerのantzが鳴らす今作のギター・サウンドは、ライヴ感を重視するために、2人で向き合いながら同時にレコーディングしたという。今回はそういったツイン・ギターならではの制作の秘密をミヤに聞いた。

取材/文=村上孝之 写真=河本悠貴

メンバー全員の美学が重なりあっているんだと思います

今作の制作に入る前は、どういったことを考えていましたか?

ミヤ 3年くらい前に、最初にDIR EN GREYの京さん(vo)とL’Arc〜en〜Cielのyukihiro(d)さんに会って、こういうことをやりたいねという話をした時に出たのが、“90年代とか00年代初頭の激しい音楽”という言葉だったんです。それを俺なりに形にしてみようかなというところから、Petit Brabanconが始まっていきました。最初はほかのメンバーは決まっていなくて、3人しかいなかったんですよ。なので探り探りに“こういう感じがいいのかな?”と考えながら作曲していました。

Petit Brabanconはヘヴィ&ダークでいながら、サビがドラマチックだったり、叙情的だったりして、強く心に響く楽曲が核になっていますね。

ミヤ 自分が作った曲は、わりとそういうパターンが多い気がする。激しいものが好きだけど、激しいだけものは好きじゃないから。ただ、MUCCよりも構成がシンプルかもしれない。Petit Brabanconはそれぞれが自分なりに曲を理解してアプローチしてくれるので、素材の段階であまり細かいことはしていないんです。

 あとは、自分が作ったメロディや楽曲を、京さんに歌ってみてもらいたかったというのもありましたね。だから、京さんが歌うならどういう世界観が面白いかなという考え方の曲作りをしていました。それはほかのメンバーに対しても同じようにありましたね。

ということは、自作曲の歌メロはミヤさんが指定されていたんですね?

ミヤ そうですね、必ずメロディが入った状態で渡しました。ただ、それを京さんが彼なりにアレンジするかしないか、ということは楽曲によって違っていました。まったく別のメロディが乗っている曲もあれば、俺と京さんの考えたものが合体している曲もあるし、俺のメロ1本の曲もあります。

ミヤさんと京さんは強い美意識を持たれているところが共通していながら、それぞれの美意識は違っていると思うんですよね。その異なった美学が折り重なっていることがPetit Brabanconの大きな魅力になっています。

ミヤ 美意識みたいなものがめちゃくちゃ強い人が集まっているから、メンバー全員の美学が重なりあっているんだと思います。それぞれの美意識のポイントは全然違うけど、“ここに対してそんなにこだわりが強いのか”と驚く部分もあって。大変な部分もあるけど、それはバンドにとって良いことだと思っています。

何をやろうとも、このバンドでやると絶対に独自のものになる

メンバー5人の個性が並び立つことで、強固かつ独自のバンド感が生まれていますからね。では、コンポーザーとして印象の強い曲をあげるとしたら?

ミヤ 1番最初に作ったのが「渇き」という曲ですね。それがアルバムのラストになるというのはなかなかなことだなと思ってます。曲順に関しては、ほぼ京さんが考えたとおりの順番になっているんです。

「渇き」は、それくらいの力を持った曲だと思います。

ミヤ 初期衝動の塊のような曲ですからね。制作の流れとしては、2018年に3人で最初に会って、そこからいつくらいまでに曲を作りましょうかという話をしたんです。ただ、曲を作るの俺だけだしな……みたいなことを考えたりもしながら(笑)。その時期から溢れるようにイメージが湧いて形になったのが「渇き」でした。

 ほかにもそこから5曲くらい作って、そこでは「擬音」ができて。それで、もうちょっと違ったアプローチのものも聴きたいという意見がスタッフからあったので、それを踏まえて作ったのが「OBEY」や「刻」だったり。

そういう流れだったんですね。「OBEY」は、どこかグラム・ロック的な匂いがありませんか?

ミヤ あるかもしれない。ただグラム・ロックを作ろうという意識はなくて、俺的にはオフスプリングみたなイメージでしたね。ラウドなオフスプリングとビリー・アイリッシュが混ざったらどうかな……みたいな感じでした(笑)。何をやろうとも、このバンドでやると絶対に独自のものになるから、それくらいわかりやすいコンセプトのほうがよかったんですよ。

 でも、「OBEY」は、元になっているものに寄らな過ぎて結果的にめちゃくちゃ新しいことをやっている曲になっています。京さんが“1人多重アカペラ”というかなり新しいことをやっていたりもする。でも、全員の個性が強過ぎるからそこがあまりフィーチャーされないんです(笑)。そこに関しては“それは果たして良いことなのかな?”と思ったりもしますが。

ほかにも注目の曲は沢山あって、例えば“人力ブレイク・ビート”を活かした「Don’t forget」は最先端の音楽にふさわしい圧倒的なスピード感を味わえます。

ミヤ この曲は勢いがある曲を作ってほしいと言われて、最後の曲出しで作った曲です。こういうアプローチにはyukihiroさんのドラムがばっちりハマりますよね。どこからどこまでが生なのかわからなくなるというか。でも最初は、この「Don’t forget」をリードにしたいという意見がメンバーから出ていたのですが、その時は嫌だと言ったんです。

えっ、何故でしょう?

ミヤ アルバムの中のスパイスの1曲だと思って作ったのに、それをリードにされるのはちょっと困るな……みたいな感じだったんです。MVを撮ることになるともまったく思っていなかったし。でも、やってみたら今までのMVとの対比が凄くよかったし、監督との相性もよかったので、結果としてはよかったと思っています。

お互いの音がよく聴こえるように寄り添おうという意識がありました

アルバムの中の1曲という意識で作って、リードにふさわしいものができるというのはさすがです。では続いての質問ですが、今回、ギターの面で大事にしたことや、こだわったことは?

ミヤ 今回はメンバーがレコーディング中に1回も集まっていないんです。完全なリモート・レコーディングだったので、ギターくらいは2人で同時に録りましょうといって、スタジオで2人で向き合って弾きました。

えっ、そうなんですか? ギタリストが嫌がる録り方な気がしますが。

ミヤ そうですね。antzさんは嫌だったかもしれない。性格的に(笑)。あの人はなんでもできちゃうから、快諾してくれたと思うんですけど。ギターを一緒に録ることにしたのは、別録りだとライヴ感がなさ過ぎちゃうなと思ったからです。ギターまで完璧にカッチリさせてしまうと、京さんがイメージしている1stアルバムの荒々しさがなくなってしまうなと。

 なので、レコーディングは“せーの!”で録りました。それぞれが出している音が根本的に違うから、1人の人間が同じ音でダブル・トラックにするのとは全然違った良さが生まれる。ツイン・ギターの面白さはそこかなと思っていて、違う音が“バシッ!”と重なった時に2倍が2.5倍になるというか。今回それを改めて実感しました。

カッチリとしたダブル・トラックとはまた違う良さがありますよね。では、ギターの音色面で気を遣ったことは?

ミヤ 音作りは普段の自分からそこまで変えているつもりはなくて、お互いの音がよく聴こえるように寄り添おうという意識でした。antzさんの音は俺よりもさらにミドル寄りなので、その良さを活かすために俺の音はそれに対して、もうちょっと上と下を出してantzさんのギターを包むような感じにしていて。

 俺は支える側で、antzさんのミドルを引き立たせる役割りですね。タイム感も、俺のギターは1歩引くようにしています。このバンドは立体感が必要なので、LRで鳴っているギターが両方同じスピード感で来るよりも、どっちかがちょっと後ろにいっていたほうが都合が良いんです。

antzさんは、ギターの音はミヤさんが自身のギターの音をコントロールしたり、エンジニアリングとしてのノウハウを活かしたんじゃないかとおっしゃっていました。

ミヤ もちろんそうですが、antzさんにリクエストを出したりもしました。antzさんは俺よりもゲインが高めだったので、“ゲインが高いと抜けが悪くなってしまうので、ギリギリまでゲインを落としてもらえませんか?”みたいに。

 それと、俺が7弦ギターなのに対して、antzさんは6弦だったんですよ。6弦のドロップA・チューニングだとかなり太い弦を張ることになってしまい、それによって音のスピード感にけっこう差が出るので、その差を埋めるために7弦ギターを使ってもらったりもしました。そういった試行錯誤はありましたね。

antzさんに“ちょっと待って下さい”と言われた記憶がある(笑)

ミヤさんとantzさんのギターの絶妙な混ざり具合もPetit Brabanconの魅力になっています。2人で違うことを弾いて広がりや奥行きを出しているパートのフレーズなどは、ディスカッションして決めたのでしょうか?

ミヤ 基本的に俺の曲は、音源に入っているフレーズがデモの段階から入っていました。ギターは激しいところでダブルになることが多いんですけど、せっかくのツイン・ギターだから、サビとかは2人でまったく違うことをして音像を広げたいなと思って。逆に「渇き」とかは、サビでバッキング・ギターがなくなるんです。それによってタムまわしが聴こえてくる。空白に必要な楽器が入ってくるから、音数が減っても全然問題なかったり。そういうアプローチも採っています。

やはりミヤさんは引き算にも長けていますね。ということは、ミヤさんの曲のギター・パートはantzさんが再現されたんですね。

ミヤ そうですね。antzさんの曲に関しては、俺がantzさんが作ったデモをなぞって“これで良いですか?”と確認したり、リフの細かい癖の感じを教えてもらったりしました。antzさんが作った「無秩序は無口と謳う」という曲のリフとかは俺も弾きそうな感じなんですけど、実際はantzさんの細かい手癖が入っているんですよ。“そこに休符を入れるんだ”みたいなことを考えながら、自分にないantzさんの手癖を完コピしました。

 あと、リフの話でいうと「渇き」のリフはyukihiroさんに“あのリフが理解できないから説明してくれないか”と言われました。あのリフはギターだけが2拍3連で、ほかの楽器は違うんですよ。“いくらやっても合わないんだけど”と言われて、“いや、合わないのが狙いなんです”っていうやりとりがあったり(笑)。

そんなこともあったんですね(笑)。リード・プレイについてもお聞きしたいのですが、「OBEY」の間奏はミヤさんとantzさんのかけ合いになっていますね。

ミヤ 「OBEY」は飛び道具系の曲だったので、わかりやすいギター・ソロがあっても良いかなと思って入れました。かけ合いは本番の時に、俺がかけ合いにしましょうと言ったんです。現場で提案したらantzさんに“ちょっと待って下さい”と言われた記憶がある(笑)。でも、antzさんはできる人だから大丈夫だと思っていたので、急遽お願いしました(笑)。

このバンドは言葉で説明するんじゃなくて、
空気感とか、楽曲の表現で伝えるバンドなんじゃないかな

その場でお願いするミヤさんも、それに応えるantzさんも凄いです(笑)。続いて、今回のレコーディングで使用したおもな機材も教えて下さい。

ミヤ ギターは、ハパス・ギターの7弦(Hapas Guitars/SLUDGE727)のみです。ハパスの赤、オレンジ、緑の3種類。レコーディングを始めた初期段階は赤しかなかったので赤を使って、ローG・チューニングの曲でオレンジを使って。で、3回目のレコーディングの時は緑があったので、緑を使いました。なので使っている機材はMUCCとまったく一緒なんですよ。ただ、メサ・ブギーのヘッドはMUCCで使っているオレンジ色のではなくて、銀色のほうです。トリプル・レクチファイヤーですね。

関連記事

Interview|ミヤ(MUCC)
新体制で放つNEWシングル「GONER/WORLD」

機材の詳細は本記事で紹介しています。

ギターに関しては、ハパス・ギター以外は持ち出す必要がないという感じだったのでしょうか?

ミヤ ハパスではないギターを追加すると、antzさんの音とバランスが取れなくなってしまうんです。ハパスはちょっとドンシャリなんですよ。それがantzさんの音との相性がよかったのでそうしました。リードや、ベーシックではないトラックをダビングする時には違うギターも使いましたけどね。

バンド・サウンドを踏まえてギターを選ぶあたりもミヤさんらしいです。エフェクティブな音も効果的に使われていますが、そのあたりはいかがでしょう?

ミヤ antzさんもそうですけど、レコーディングの時は全曲でボードをセッティングしました。1発録りなので、いわばライヴと一緒なんですよ。エフェクティブな音とかはデモの段階でスケッチしていたイメージをより洗練させるために、本チャンのレコーディング時に各エフェクターのセッティングをさらに詰めていくという感じでしたね。

バンドのために、新しいエフェクターを導入されたりなどは?

ミヤ 「I kill myself」のリフ用にBOSSのRE-202(スペース・エコー)を買いました。俺は元々オリジナルのスペース・エコーが好きだったというのもあって、凄く気に入っています。

さて、『Fetish』はPetit Brabanconの魅力が詰め込まれた一作になりました。本作を携えて9月から開催する全国ツアーも楽しみです。

ミヤ まだ2回しかライヴをしていないから、どういうツアーになるかわからないです。ただ、ひとつ言えることは、このバンドでしか味わえない空気感を味わってもらえると思いますよ。ただ、それが凄くわかりやすいものかどうかはちょっとわからないですが。あと、このバンドは言葉で説明するんじゃなくて、空気感とか、楽曲の表現で伝えるバンドじゃないかなという気がしているんです。なので何が起きるかわからない。京さんがこのバンドはMCをしようかなといきなり言いだすかもしれないし(笑)。

 京さんはPetit BrabanconはPetit Brabanconというバンドで、DIR EN GREYともsukekiyoとも違うと言っていて。同じく俺もMUCCとは全然違うものだと思っているので、どういうライヴになるかは蓋を開けてみないとわからないです。なので、見てのお楽しみということにしておいて下さい。

LIVE INFORMATION

Petit Brabancon Tour 2022
“Resonance of the corpse”

【スケジュール】
2022年09月08日(木)/Zepp Nagoya
2022年09月09日(金)/なんばHatch ※SOLD OUT
2022年09月13日(火)/Zepp Yokohama
2022年09月16日(金)/Zepp Fukuoka
2022年09月21日(水)/Zepp Haneda ※SOLD OUT

【チケット】

SS席 グッズ付 ¥25,000
S席 ¥15,000
A席 ¥6,500
2階席 ¥15,000
(税込・ドリンク代別) 

ツアーの詳細は公式HPまで
https://www.petitbrabancon.jp/

作品データ

『Fetish』
Petit Brabancon

MAVERICK DC/DCCA-107/2022年8月31日リリース

―Track List―

01.Don’t forget
02.疑音
03.OBEY
04.Ruin of Existence
05.主張に手を伸ばす修羅
06.刻
07.come to a screaming halt
08.I kill myself
09.Pull the trigger
10.非人間、独白に在らず
11.Isolated spiral
12.無秩序は無口と謳う
13.渇き

―Guitarists―

ミヤ、antz