Interview:スコット・ハーパー&トム・マジェスキが語るChase Blissの現在と未来 Interview:スコット・ハーパー&トム・マジェスキが語るChase Blissの現在と未来

Interview:スコット・ハーパー&トム・マジェスキが語るChase Blissの現在と未来

ジョエル・コルテがミネソタ州ミネアポリスで立ち上げ、超個性的なペダルを創出し続けるChase Bliss。直近のトピックとして、Cooper FXを手がけていた、エンジニアのトム・マジェスキがChase Blissに加わったことは、コアなペダル・ファンを大いに喜ばせた。YouTubeチャンネルの“Knobs”を運営し、独自の視点からエフェクター紹介動画を発信していたスコット・ハーパーもディレクターとしてChase Blissに合流し、その勢いは増すばかりだ。Chase Blissでの2人の役割や、今後の動きについて聞いた。

通訳:トミー・モリー 文:編集部 写真提供:Chase Bliss
*本記事はギター・マガジン2022年9月号の特集『Chase Bliss』を再編集したものです。

Habitのようなペダルは、ペダルへの理解が深い日本で受け入れられると思います。

スコット・ハーパー
スコット・ハーパー。YouTubeチャンネルの“Knobs”からChase Blissに合流。
トム・マジェスキ
トム・マジェスキ。Cooper FXからChase Blissに参加した。

コラボレーションにより違った考え方が融合します
──トム

YouTubeチャンネルKnobsから、スコットが参加しましたね。現在のChase Blissでの役割を教えて下さい。

スコット 製品開発の監督をしています。とは言え、実のところChase Blissの技術者たちは監督者を必要としていないので、“これからの5年間で何をするのか?”といった、長期的な視点でのゴールを定めたり、彼らのサポートをしていますよ。

スコットがコンセプトを出したという新作エコー・コレクター・ディレイ、Habitは、Chase Blissの中でも個性的な1台ですね。端的に説明すると、どのような機能を持ったモデルですか?

スコット シンプルに考えればディレイと言えます。一般的にペダルを操作する時というのは、何かしらの意図がありますよね。例えばリバーブを踏む時はサウンドに広がりを持たせたいと意図するものです。しかしHabitについてはそういった意思決定を、ペダルを踏んだあとに行なうことができます。このペダルはバイパス時でも、通過する音をサンプリングし続けています。一度プレイしたサウンドに戻ることができて、それをループさせたりエコーをかけたりすることができるんですよ。あらかじめ考えてからプレイするのではなく、偶発的に発生する音を使えるのです。こういった音楽の作り方を可能にさせているペダルはほかで見たことがありませんね。

Cooper FXからトムが参加したことも大きなトピックですね。Cooper FXはChase BlissのDark Worldのリバーブをデザインするなど、もともとChase Blissとは関係が深かったようですが、トムがブランドに参加したのは、どういった経緯があったのですか?

トム もともと私はコンピューターを使ってペダルのデザインや制作をすることが好きでしたが、ビジネスについては好きではなかったんです。Chase Blissのジョエル・コルテと仕事をした時に、自分が経営に向いていないことに気づき、クリエイティブでいるためにはChase Blissの一員になるべきという結論に達しました。おかげで、今のところ順調にやれています(笑)。

ジョエル・コルテ
▲Chase Blissの創業者、ジョエル・コルテ。

2人から見た創業者/オーナーのジョエル・コルテはどんな人物ですか?

トム 彼は最高ですよ(笑)。私のことを信頼して仕事を任せてくれているので、より良い製品を作りたいという気持ちも芽生えていきます。こういう人がリーダーであることでインスパイアされているところは多分にあるでしょう。

スコット 技術者と経営者で衝突するようなことは今まで一度もありませんでした。彼は私たちに仕事をさせるという意味で非常に優れた人で、それがChase Blissの素晴らしさにつながっています。

Chase Blissは色々なメーカーとのコラボレーションを積極的に行なっていますね。この意図を教えて下さい。

スコット ジョエルは、私たち従業員がペダルを作ること自体が“BIlissful experience(至福な体験)”であることを大切にしたいと願っています。ペダル製作はクリエイティブであるべきですが、実際には忍耐を必要とする部分も多く、ビジネス的な側面も避けられません。しかし同じ志を持った人々と一緒に作業をして、楽しみを共有することで、もっとリッチな経験をエンジニアやその他の従業員に提供できると考えています。

トム コラボレーションすることにより、まったく異なる考え方同士の融合が生まれるというのもポイントだと思います。個人では気づかなかったことが他者によってもたらされることもあります。すべての答えを持っている人などいませんから、多くのインプットがあることは素晴らしいんです。今後も会社の垣根を超えたコラボレーションは続けたいですね。

歪みペダルの設計は私たちのやり方ではない
──スコット

日本を除く全世界で代理店経由の販売を廃止し、今後は公式サイトの直販オンリーになったということですね。この意図を教えて下さい。

スコット たくさんの理由がありますが、旧来の販売方法では多くの店舗に置くためには多くの台数を製造しなければならず、私たちはまるで製造する機械のようになってしまいました。次第に会社の健全な体制から遠ざかることとなり、その解決策として直販を選んだのです。

日本のみ代理店経由での販売を継続するということですが、日本のマーケットというのは特別なのでしょうか?

スコット そうです。日本の代理店であるアンブレラカンパニーとは特別な関係を保てていて、私たちは多大なサポートを得ています。私たちが助かるようなシステムが構築されているので、離れる理由が見当たらなかったのです。

日本とほかの国のユーザーとの違いを感じることはありますか?

スコット 私は若い頃に交換留学生として福岡と山形に住んだことがあるんですよ。世界的に見れば日本の市場規模はそこまで大きいわけではないですが、ユーザーたちはペダルが持つ機能について深く理解しようと努めていると感じます。ペダルによるトリックを巧みに使うギタリストたちも目にしたことがありました。Habitのようなペダルこそ、日本のマーケットで受け入れられると思います。

Chase Blissの製品は簡単に使いこなせるものではありません。どのように使い方を習得していくのがお薦めですか?

トム 確かに近寄りがたい印象を持たれがちですね(笑)。だけど、触ってみると実はそこまで複雑ではありませんよ。冒険的な気持ちで開拓すると新しいことができると思います。

スコット 最初からある程度の操作をするだけでグレイトなサウンドが得られますが、使っていくうちに、やれることが増えて多くの発見がありますよ!

Chase Blissでは、Preamp mkIIを除けば歪み系エフェクターがありませんね。何か理由があるのでしょうか?

スコット それはいい質問ですね! Preamp mkIIのような際立った個性を持つモデルを別にすれば、一般的な歪み系ペダルの設計は、基板のレイアウトや使用するパーツの組み合わせを試行錯誤し、サウンドを確かめるといった作業のくり返しです。しかし、Chase Blissではそういう方法の設計はあまりしないんですよ。私たちはアイディアを出発点としてそれを製品化しているからです。あと、このブランドが始まった当初、ジョエルはすでに気に入ったオーバードライブ・ペダルを持っていた一方で、自分の気に入るビブラートがなかったのでそれを作るようにしたのでしょうね(笑)。

今後の展望を聞かせて下さい。

トム これからもコラボレーションは続くでしょうし、クールなものが生まれてくることでしょう。今までChase Blissが積み上げてきた輝かしい歩みは私を動かす原動力となっていて、今後もそれに続く製品を送り出していきたいです。

スコット 今後の展望の1つは、トムがやって来てGeneration Loss Mk IIを開発したことから始まりました。それからはその次のフェイズに移ろうとしていて、Chase Blissらしい製品をトムたちが新たに作ろうとしています。まだ私たちが開拓したことのない製品を今後送り出していく予定です。Chase Blissの製品は個性的ですが、奇をてらったものを作ることが私たちのゴールではありません。魅力的なものを、入手可能な形で送り出していきたいと考えています。

Blooperでの音作りを試行錯誤しながら録音をするスコット
Blooperでの音作りを試行錯誤しながら録音をするスコット。

Generation Loss mkIIとMOODのチェックをするトム
Generation Loss mkIIとMOODのチェックをするトム。

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