Interview|ゾルタン・バソリー(Five Finger Death Punch) メタル界の黒帯リズム・ギター Interview|ゾルタン・バソリー(Five Finger Death Punch) メタル界の黒帯リズム・ギター

Interview|ゾルタン・バソリー(Five Finger Death Punch)
メタル界の黒帯リズム・ギター

全米ロック・チャートを賑わすスラッシュ・メタルのモンスター・バンド、ファイブ・フィンガー・デス・パンチ(以下FFDP)が新作『AFTERLIFE』をリリース! 健康上の理由で離脱していたリード・ギタリストのジェイソン・フックが正式に脱退、それに代わりアンディ・ジェームズが加入してから初のフル・アルバムだ。今回はリズム・ギタリストでバンドの中心的存在であるゾルタン・バソリーに、アンディがFFDPにもたらしたものは何だったのか、そして鋼鉄リズム・ギターの極意を聞かせてもらった。

インタビュー/翻訳=トミー・モリー 質問作成=福崎敬太 Photo by Mike Lewis Photography/Redferns

ギターが上達したかったら、ヘヴィメタルも学ばなきゃならないと思ったんだ

我々としては初のインタビューですので、新作『AFTERLIFE』の話はもちろん、色々とお話を聞かせて下さい。オッス!

 ハハハ(笑)、押忍! 君も何かマーシャルアーツをやっているのかい?

高校生の頃に柔道部に所属していましたが、突き指でギターが弾けなくなくなることに常に怯えていました。

 俺は9歳の頃から柔道をやっていて、今も続けているんだぜ!

グレイトですね! ではさっそくですが、ギターを始めたきっかけから教えて下さい。

 5歳の時に、電気回路に問題がある、ボディにクラックが入ったギターを手に入れていて、そのボディをのこぎりでカットしてB.C.リッチのワーロックっぽいオリジナル・シェイプのギターを作ったんだ。残念ながらプレイできる代物にはならなかったけど、昔からギターは持っていた(笑)。で、10歳の頃に本格的にギターへの興味を持ったんだけど、当時はまだ鉄のカーテン(鉄条網)が敷かれた共産主義のハンガリーに住んでいたから、ギターを買うなんて考えられなかったんだ。

 当時の俺は、かつてW.A.S.P.でプレイしていたランディ・パイパーが持っていた、大きな頭蓋骨が描かれたギターに憧れていてね。14歳になってついに、念願叶ってそのギターを手に入れたんだ。けど、あれは高かったね(笑)。ただ、ビデオでランディ・パイパーがプレイしていたのとまったく同じものを手に入れた時は嬉しくて、初めて本物のギターを手に入れた気分だったよ。

最初のバンドはどういったものでしたか?

 14歳でそのギターを手に入れてから、すぐにパンク・バンドを始めたんだ。U.K.サブスやマニュファクチャード・ロマンスといった、3〜4個のコードでプレイできちゃうようなイギリスのパンクが好きで、そういったものをやっていたね。で、コードやちょっとしたリックを練習してパンクまっしぐらだったけど、ポール・ディアノの頃のアイアン・メイデンはパンクらしさがありつつもギターの凄さに驚かされた。ギターが上達したかったら、ヘヴィメタルも学ばなきゃならないと思ったんだ。

アンディ・ジェームズは作曲能力が高いと言わざるを得ないね

新作『AFTERLIFE』は、ジェイソン・フック(g)に代わってアンディ・ジェームズ(g)が加入して初めてのアルバムです。アンディが加入した経緯を教えて下さい。

 このバンドに加入した時点でアンディはすでにギター・ヒーローで、7〜8枚のソロ・アルバムを出してシュレッド系のギタリストなら誰もが知る存在だったんだ。そして彼は昔、うちのドラムのチャーリー・エンゲンとバンドをやっていて、何年か前にチャーリーが紹介してくれたんだよ。

 で、イギリスでの公演を目前に控えた時にジェイソンが抜けてしまい、俺たちはアンディに電話したんだ。そこで“このセットリストの曲を覚えるのにどれくらいの時間が必要だ?”と聞いたら、“お前らのことは好きで曲は知っているから、そんなに時間をかけなくてもプレイできるさ!”と答えてくれた。“じゃあ5時間後の飛行機に乗ってイギリスに来てくれ! 俺たちとの初めてのライブはお前の母国だ。しかも、売り切れのウェンブリー・アリーナになるぜ!”って返したら、“なんだと!”と彼は電話を落としてしまった(笑)。それ以来ずっと仲間としてやってくれているよ。

アンディとのツイン・ギターはいかがですか?

 “今までのFFDP”を続けさせてくれたってところもあるけど、アルバムを作るとなったら、彼は色彩豊かなパレットを持ち込んでくれて、俺たちに進化する余地をもたらしてくれた。彼が俺たちの歴史や歩みを知っていてくれたこと、そして彼はシュレッド系のギタリストだけど、バンドや曲を支える存在になるべきことを理解してくれたことがとても大きいね。ドラマーやリード・ギタリストが過剰にプレイしてバンドの良さを殺すなんてことは、俺たちの場合ありえないんだ。彼はバンドでやるべきことを理解していて、ソロ・ワークとはしっかりと棲み分けている。そして俺と同じ誕生日っていうのもある(笑)。

それは運命的です(笑)。

 あと、パンデミック以降、彼は母国イギリスに帰れなくて2年ほど俺の家に住んでいたんだ。で、毎日一緒にギターを弾いて曲を書いていた。ジェイソンと過ごしてきた10年間以上に、揃ってギターを弾いてきたかもしれないね。それだけこの2年間ずっと家でギターを弾きまくってきたんだ。

「IOU」のソロはアンディによるプレイですか?

 そうだね。これはアンディによるプレイだ。

これまでのFFDPチのソロは、ペンタトニックを軸とした少し無骨でキャッチーな印象でしたが、アンディのソロは凄くスムーズな音運びでドラマチックな印象を受けました。あなたから観たアンディというギタリストの魅力はどういったところでしょうか?

 リードって曲中の曲って感じだと思うんだけど、そういった観点でも彼は作曲能力が高いと言わざるを得ないね。

 ベートーベンやヴィヴァルディもボーカルのない曲を書いているけど、俺たちだってボーカルなしで景色が思い描けるようなものを書かなくちゃならないんだ。「四季」を聴いてみたらどこが夏のパートなのか、曲を聴いていればわかるものだろう?

 そして細かいグルーヴについても俺たちは大切にしている。例えばギターとドラムだけでリフをプレイするとして、スネアの位置を微かに遅らせることでリラックスしたグルーヴが作れる。また同じリフでドラムをクォンタイズさせると、マーチング・バンドみたいなフィーリングになる。そしてスネアをちょっと前に持ってくると、不安や緊張感が演出される。ドラムの叩き方によってヴァイブが大きく異なってくるんだ。

 それからメロディを考えていき、ハーモニーやメロディがどんなカラーを生み出すのか考えていくんだ。ドラムが作ったヴァイブに対し、自分はどんな全景を添えられたのか確認し、アイヴァン(ムーディ)にボーカルを任せるんだよ。

 アンディはこのすべてを理解してくれて、映画音楽を作るような作業を共にしてくれているんだ。彼のリードは景色を描くものとなり、それは彼が自分のソロ・アルバムでやってきたものとは大きく異なっている。

1つのリフで3種類のミュートを使うこともある

『AFTERLIFE』はヘヴィなものからメロディアスなもの、ラウドなものから壮大で美しいサウンドスケープまで、非常に多彩なスタイルが聴ける作品だと感じます。アレンジはどのように考えていくのですか?

 アレンジをする際は、“曲の目的”を大切にする必要がある。誰もが様々な意見を持っているけど、音楽って何かを共有するための乗り物になるべきなんだ。で、映画が2時間程度のように、曲にも一定のフォーマットがあって、3~4分という尺が多いだろう? ポピュラー音楽はその中にメッセージを込めて、多くの人に届きやすい形にしなければならないんだ。その上で、ギター・ソロが必要か否かを考えていく。

 例えば「Judgment Day」は死にゆく世界を表現するうえでギター・ソロが必要じゃないと感じ、曲の構造もそこから次第に定まっていった。

 ほかにも俺が書いた曲に対して、アンディが何か伝えたいことを感じて、リフを持ってきたりもした。彼が持ってきてくれたサウンドスケープは俺たちに新しい風をもたらしたし、前作からの進化は一聴すればすぐわかるだろうね。

先ほどグルーヴのこだわりが聴けましたが、あなたが弾くリズム・ギターも重要な要素ですよね。リズム・ギターの魅力とは?

 俺はリズム・ギタリストだけど、シュラプネル(ヘヴィメタル中心のレーベル)系のギタリストが好きで、今もスウィープを混ぜたソロは弾ける。でも、いつからかリズムに傾倒していったんだ。

 ギター・ソロは必ずしもあるわけじゃないけど、リズム・ギターは常にあるだろ? ロック・バンドのサウンドやカラーって、ボーカルとリズム・ギターのサウンドで決定づけられていると思うんだ。ベースとドラムはその土台を支える存在で、リズム・ギターのサウンドがバンドの音を支配している。もう最近ではソロを弾くテクニックの練習はあまりしなくなったくらいだよ。

例えば「Roll Dem Bones」では、コーラスのリフで音価の長さを絶妙に調節して後ノリな感覚を出しているように感じました。グルーヴを自在に操るコツを教えて下さい。

 しっかりと聴き込んでくれて嬉しいね。右手のミュートもどこに掌を置くかがポイントで、ブリッジに近づけば倍音が増し、遠ざければより深いトーンになる。同じリフの中でも右手を置く位置を変えて、ハイを利かせたい音やローを利かせたい音のメリハリをつけているんだ。それと、掌のミュートを解除する瞬間も、どのくらい弦から離すかによってフィードバックをコントロールしている。これらはすべてリズムの要素になるから、常に意識しているよ。

 1つのリフで3種類の掌のミュートを使うこともある。同じリフでもグルーヴするようなプレイと、引き締まったプレイの両方が可能なんだ。これだけの技を詰め込んでいることに気づいてくれる人がいて嬉しいよ(笑)。

Kemperによるトーンの再現性には驚いたね

今作のレコーディングで使用した機材についても教えて下さい。ギターは何を使いましたか?

 基本的に今までどおりスタジオではB.C.リッチのギターをプレイしている。暖かみや丸みのあるサウンドを目指して、長らくフロイド・ローズ・タイプをフロートさせずに、ブラスのブロックと組み合わせて使ってきたんだけど、最近EVERTUNEのブリッジに交換したんだ。そして、今回はディマジオの出力が高めのピックアップを使っている。

 メインの6弦ギターには.013〜.070というバリトンみたいなゲージを張っていて、これだけ弦が太いとシグナルも強いし、ゲインを控えめにできるからノイズが抑えられるんだ。さらにピックアップも出力が高いから、十分なパワーが得られる。ゲインの高いディマジオのピックアップにしたのは今回が初めてだけど、満足しているよ。

新たなEVERTUNEブリッジの感触は?

 チューニングに最高の安定性を与えてくれていて、今まで使ってこなかったことを後悔しているよ。俺はフロイド・ローズ・タイプで満足していたけど、アンディに薦められて使ってみたらサウンドの面でも完璧だったんだ。これに切り替えてから、倍音の出具合からしてホットなピックアップが合うと思って交換に至ったんだ。もうハードに弾く必要もなくなってプレイも安定するようになったし、スムーズなプレイスタイルになってきたよ。

アンプは何を使いましたか?

 スタジオではこれまで初代POD Proのラックマウント型を使っていて、このナチュラルなコンプレッションはほかの機材では得られなかったんだ。何も処理が必要のないパーフェクトなサウンドなんだよ。正確にはこれと、クソみたいにノイジーなリズム・ギターを重ねるとパーフェクトなサウンドになるんだ。

 で、このトリックにアンディが驚いて、“これをKemperでサンプリングできないか?”と言ってきた。で、やってみたら見事にこのトーンを再現してくれて、このアルバムではそれを使うことにしたんだ。Kemperによるトーンの再現性には驚いたね。現在はステージでもKemperをプリアンプとして使い、EVHのヘッドをパワーアンプとして使っているよ。

それまでのライブでは何を使っていたんですか?

 Diamond Ampによるカスタム・アンプを使っていたね。俺は常にパーカッシブなローエンドを大切にしてきて、そのニュアンスが出せるものを求めてきた。その解決策として大きな変圧器をアンプに組み込み、低い音をプレイする際にパワーを送り込むことにしたんだ。アリーナみたいに大きなステージなら、会場自体が響くからリバーブやディレイなんて必要なくて、このパワフルなアンプがあれば十分だったんだ。

ジムダンロップの先端が30度ねじれたピックを使っていますが、そのメリットは?

 俺みたいなリズム・ギタリストはギターを低く構えるだろう? すると手首を捻るようになってきて、それでも対応できなくなるとピックが弦に対して斜めに当たるから意図せぬハーモニクスが生まれてくる。ピックが擦れることによる高音のノイズも聴こえてくるんだ。そこでピックが弦に水平に当たるように、加熱したペンチで先端を捻ってみたらバッチリでね。

 で、これを特許化してみようと調べたら、ダンロップがすでに特許化していた。俺は彼らと一緒に仕事をしてきたから、電話をしてこの特許に基づくピックを作ってもらったんだ。“Speed Pick”という名前で製品化していて、プロデューサーのケヴィン・チャーコも興味を持ってこのピックを愛用しているよ。このピックはクリーンなリズムをプレイする上での秘密兵器なんだ。

本日は様々な極意を教えていただき、ありがとうございます。私からあなたに見事な“イッポン!”を差し上げたいと思います。

 ハハハ(笑)! ぜひ近いうちに日本で会おうね!

作品データ

『AFTERLIFE』
ファイヴ・フィンガー・デス・パンチ

輸入盤/2022年8月19日リリース

―Track List―

01. Welcome To The Circus
02. AfterLife
03. Times Like These
04. Roll Dem Bones
05. Pick Up Behind You
06. Judgment Day
07. IOU
08. Thanks For Asking
09. Blood And Tar
10. All I Know
11. Gold Gutter
12. The End

―Guitarists―

ゾルタン・バソリー、アンディ・ジェームズ