Interview|亀本寛貴(GLIM SPANKY) ギターで表現する“ポップスとしてのロック” Interview|亀本寛貴(GLIM SPANKY) ギターで表現する“ポップスとしてのロック”

Interview|亀本寛貴(GLIM SPANKY)
ギターで表現する“ポップスとしてのロック”

GLIM SPANKYの最新作『Into The Time Hole』は、彼らにとっての転機となった前作『Walking On Fire』の流れを汲み、さらにパワー・アップした作品に仕上がった。アレンジも担当するギタリストの亀本寛貴に、ポップスの中でロック・ギターはどのように在るべきかを聞いてみた。

インタビュー=福崎敬太 写真=上飯坂一

ソロに関しては、極論“なくても良いや”とも思っていました

『Into The Time Hole』は、イントロダクションから始まる感じや打ち込みの採用、ギターの差し引きなど、前作『Walking On Fire』の延長線上にあると感じました。ギター的にどういった作品に仕上がったと感じていますか?

 確かに延長線上というか、基本的な考え方は前作からあまり変わっていないですね。“ポップ・ミュージック、ロック・ミュージックの中でギターがこう鳴っていたらカッコ良い”っていうイメージは同じで。前作でやったことに手応えがあったので、さらに個性を強力に出して作っていった感じです。

今作もギター・ソロはたっぷりありますが、前作と比べると間奏や展開の一部分という役割が強まった印象があります。ソロの置き位置などで考えていたことはありますか?

 ソロに関しては、極論“なくても良いや”とも思っていました。たしかに、シンプルに“ギター・ソロ! イェーイ!”っていうロック的なものは減ったかもしれないですね。本当に曲ありきで、展開として必要なものや効果があるものを入れたいとは考えていました。

 それこそSNSで“ギター・ソロを飛ばす”っていう話題がありましたけど、僕も自分がプレイヤーではない楽器、奏法や仕組みなどに見聞がない楽器のソロを聴いている時に、“何をやっているかわからない”っていう感想を普通に持つんですよね。

 ギター・マガジンを読んでいる方やギターを弾く方には、長いギター・ソロも“聴きたい”、“好き”って言ってくれる方がたくさんいて、それは嬉しいんですけど、音楽をやっていない多くの人たちって歌を聴いている。例えば歌唱力が凄い人がいたとして、テレビみたいに誰でも観るようなメディアでもみんなが賞賛して、誰もが理解できるじゃないですか。それってやっぱり、特に日本にはカラオケの文化があるし、みんなが“歌のプレイヤー”だからなんですよ。

それこそ歌は学校で教育としても学びますしね。

 そう。だから歌が凄いっていうところに理解が追いつくんですけど、みんながギターのプレイヤーではないわけで。そういう人たちがギター・ソロに興味を持てないのは当然の感覚だと思うんです。なので、時代の流れというよりは、ポップ・ミュージックとしてより求心力のあるものにしたいという意味で、効果的な間奏だったり“意味のあるものへ”っていうところを考えていましたね。でも、ロック・ギターのカッコよさや爽快感が“ここはそれで良いでしょ!”っていうものは、意図的に入れている。

AC/DCもオアシスもポップスだし、ビートルズなんかは超ポップス

前作からよりポップスを意識したトラックになって、ロックな要素とのコントラストが高まった印象があります。ポップスとロックのバランス感覚はどのように考えていますか?

 これは個人的な感覚なんですけど、ロックってポップ・ミュージックの1つの要素だととらえていて。色々な音楽を聴いて自分が好きな音楽を突き詰めていくと、ポップスとして存在しているロック・ミュージックが凄く好きだなってことに行き着いたんです。

 例えばハードなギター・サウンドの中でも、最近はAC/DCが好きだと思うようになってきて。どこが好きなんだろうって考えると、体裁としてはギター・ロックなんだけど、ポップスだからだなって思ったんですよね。ローリング・ストーンズも、ガンズ・アンド・ローゼズやエアロスミスも、間違いなくロックなんだけど、普通にポップスだよなって。なので、“自分がやりたいのはポップスなんだ”っていうのはより強く感じるようになったんです。僕の感覚の中では、AC/DCもオアシスもポップスだし、ビートルズなんかは超ポップスなんですよ。

では、GLIM SPANKYの中でロックという要素はどういう立ち位置なんでしょうか?

 自分が使える武器というか。FPS(シューティング・ゲーム)で例えると、右手で持っているR2ボタンで打つメインの武器があるじゃないですか。それがロックみたいなイメージです(笑)。そこは絶対に負けない。で、サブのボムとかは、それを補助するためのほかのジャンルだったり楽器、ほかのエッセンスという感覚でとらえているというか。

 あと、80年代にかけてロックが商業的に大きくなっていって、そのカウンターとして出てきたオルタナティブ・ロックやインディーが、90年代以降だんだんと崇拝される傾向が高まっていった気がするんです。そこから、シンプルにお客さんを盛り上げるっていうよりも、自分の芸術的表現や前衛的な表現がロックにとって大きい存在になっていった。単純にそれが今はメインストリームではなくなったんですよね。

 ロック・シーン全体が、またシンプルに“お客さんを楽しませる”とか“迫力を出す”っていう方向にいったら、普通にメインストリームになると思っているし、実際にマネスキンだったりがそういうふうにやっているじゃないですか。だって、ロックは気持ち良いしカッコ良いから、キャッチーで爽快感があってみんなで盛り上がったら普通にメインストリームになるでしょ? AC/DCやストーンズに感じたものを、マネスキンにも凄く感じていますね。

なるほど。ただ、キャッチーなロック=ポップスになるわけではなく、現代のエッセンスがないと“今のポップス”にはならないですよね。打ち込みサウンドの導入などもありますが、ギター的に“今っぽさ”というところで意識していることはありますか?

 やっぱりギターのコード・バッキングをあまりしないっていうことですね。オープン・コードやパワー・コードを8分(音符)で敷いちゃうと、空間を埋めちゃう。音としては“ジャー”っていうだけなのに、音響的に埋まってしまうので全体の情報量が落ちてしまうんです。それをなるべくしないように、どうアレンジするかを考えましたね。そうすることで、ドラムのリリースやシンセのリバーブだったり、色々なものが聴こえてくる。それだけで古典的なロック感は消えるんです。

 でも昔のロックとかも、実はみんなコード・ストロークってしていないんですよね。例えばジミー・ペイジって、ロー・コードで8分のストロークをする曲ってある?みたいな。邦楽だとサビで8分のストロークがけっこう入ってたりするんですけど、ジミー・ペイジは一回もやってないけどなって昔からずっと思っていたんですよ。前作もそうですけど、今作はよりそれを具現化できたかなと思います。

個人的には特に「レイトショーへと」がそういうアレンジなのかなと感じますが、亀本さん的にそれがうまく表現できたのは?

 本当に「レイトショーへと」がそうですね。ギターはいるんだけど、伴奏として埋めていない。ワウのカッティングでアプローチしている部分とかは特に。あとは「ドレスを切り裂いて」も、ベースなどとユニゾンのキメにすることによってコード伴奏にはしていないですし、「HEY MY GIRL FRIEND!!」でもコードは弾かずにファズで単音にしていて。「シグナルはいらない」はサビではコードを弾いているんですけど、ちょっとリフっぽくしたりしていますね。

僕はロックを近くで見すぎていた

「シグナルはいらない」のリフはダウン・チューニングですよね?

 ドロップDにして、そこからさらに全部の弦を半音下げていますね。

ミクスチャー・ロックっぽい歪みで、ヘヴィな雰囲気が意外でした。

 「シグナルはいらない」はたしかにミクスチャー・ロックやラウド系の歪みの感じですよね。昔はあまり好きじゃなかったんですけど、最近はそれもアリだなって思うようになってきたんですよ。それもきっかけがあって。さっきの話とつながるんですけど、僕はロックもギターが好きすぎるので、細かく見すぎてしまっていたんですよね。“このファズは60年代っぽい感じがして好きだ”とか、“これはトーン・ベンダーだろう”、“ファズフェイスだろうな”みたいな。そういう感覚でロックを聴いちゃっていた。でも誤解を恐れずに言うと、プレイヤーじゃない多くのリスナーからしたら、色んなロック・ミュージシャンは同じ“ロック”なんじゃないかなって思うんです。

好きなジャンルは特に細分化しがちですからね。

 僕はロックを近くで見すぎていて、ホワイト・ストライプスやザ・ブラック・キーズ、レッド・ツェッペリンみたいな音が好きだって思っていたから、それまでラウドな感じの音は排除してしまっていたんですよね。でも、“これも引きで見たらロックだよな”って俯瞰してみたら、ブリング・ミー・ザ・ホライズンやトム・モレロのソロとかが、凄くカッコ良いと思うようになったんです。でも多くのリスナーは、もともと“ロックでカッコ良い”ってちゃんと見えている。考え方がそういうふうに変わって、ロック・ソングでカッコ良いものを普遍的な感じでやりたいと思ったんです。

 それでラウドな歪み感で歌メロが立つようにしながらも、リフはちょっとブルージィだったり、クラシックなロックな感じもありつつ、っていうのを初めてやったのが「シグナルはいらない」なんですよね。

打ち込みをやるようになってギタリストとして変化がありましたか?

 ギターを演奏している時に感じているリズムの解像度は年々上がってきていて。よりリズムでニュアンスをつけられたり、気持ち良いリズムが見えるようになってきている気がするんです。最初の頃は、打ち込みも8分音符以上に細かいものはない、フィルですら全部16分のグリッドぴったりとかでしか作れなかったんです。3連なんかは概念すらない(笑)。なので、自分の理解の範疇もそこまでだったんですよね。でも、打ち込みの技術が向上したことによって、自分のギターのリズムも変わってきたと思うんですよ。

打ち込みの技術向上によってリズムの引き出しが増えていったような?

 それは絶対にありますよね。ギターを弾く人はみんなやったほうが良いし、理解したほうが良いですよ。今の子たちはそんなことはないかもしれないですけど、僕は入りがロックだったので、そういう3連やスウィング感も感覚でしか認識していなかった。普通に考えてヤバいよなぁって(笑)。

ギター演奏の情報量は上がっていると思います

レコーディングで使用した機材についても教えて下さい。

 ギターはいつものギブソンES-345と、最近ライブでも使っているTRUTH Guitarの青いJMタイプをけっこう使いましたね。ファットすぎないようにしたい時、TRUTHが多かったかな。あとはローディさんのストラトキャスターかな。レス・ポールはあまり使っていなくて、デビュー当初の頃に使っていたゴールドトップのレス・ポール・デラックスを少し使ったくらいです。あとはES-330を「ウイスキーが、お好きでしょ」で使ったのと、「レイトショーへと」のサビでわからないくらいの感じで使ったりしましたね。

アンプは?

 SHINOSの和田唱さんモデルを、ファズと絡めてリードを弾く時は多かったです。あとはローディさんのフェンダーのDeluxeを使いました。ツイードじゃなくて、“Knotty Alder”っていうトーレックスを張っていないアルダー材筐体のモデルで。12インチ一発なんですけど、スピーカーがセレッションのグリーンバックなんですよ。フェンダーのイナたい感じとマーシャルっぽい感じが合わさっていて、ビンテージ感が欲しい時はそれが多かったです。あとは普通にマーシャルの1959を、大爆音にして歪みを作るとか。JCM800も何曲か使ったかもしれない。

歪みはどう作っていきましたか?

 ベンソン・アンプのBenson Preampはどの音色を作る時でもかけっぱなしが多かったですね。ワウを使う時もそれをかけていたほうが良い感じだった。で、「シグナルはいらない」はアースクエイカー・デバイセス(EQD)のHoofとBenson PreampとSHINOSのアンプ。Hoof自体はあまり歪みは深くせずにプリアンプ的に使っていて、サステインをBenson PreampとSHINOS側で稼いでいる状態にしていて。そうすると、ファズっぽいんだけど、サステインはちゃんとある感じになるんですよ。

 ほかの音色だと、EQDのBlack Ashやマンライ・サウンドのRonno Bender、ベンソン・アンプのGermanium Fuzz、ユニオン・チューブ&トランジスターがジャック・ホワイトのレーベル=Third Man RecordsとコラボしたBumble Buzzも使いましたね。あと、「形ないもの」のアウトロで、オーガニック・サウンドのORGAROUNDも使いましたね。

歪み以外だといかがですか?

 レトロ・ソニックのChorus Stereo Edition(コーラス)とか、BOSSのRE-20(ディレイ/エコー)もけっこうかけっぱなしで使いましたね。ディレイも足下でかけることも多かったので、距離が欲しい時にRE-20をかけたりしました。

では最後に、読者にオススメしたい今作の聴きどころを教えて下さい!

 良い意味で聴きやすいポップな音楽になっていると思うんですけど、ギター演奏の情報量は上がっていると思います。パッと聴くとギターの存在感は少ないんですけど、ギターのおいしいところがたくさん入っているアルバムになっている。そこは過去イチという気がしているので、隅々まで聴いていただきたいですね。ギター・サウンドに本当にこだわっているので。

作品データ

『Into The Time Hole』
GLIM SPANKY

Virgin Music/TYCT-60198/2022年8月3日リリース

―Track List―

01. Intro: Into The Time Hole
02. レイトショーへと
03. シグナルはいらない
04. HEY MY GIRL FRIEND!!
05. It’s A Sunny Day
06. 風は呼んでいる
07. ドレスを切り裂いて
08. 未完成なドラマ
09. 形ないもの
10. Sugar/Plum/Fairy
11. ウイスキーが、お好きでしょ

―Guitarist―

亀本寛貴