Interview|たかはしほのか(リーガルリリー)“歪み”の質感を徹底的に追求した新作 Interview|たかはしほのか(リーガルリリー)“歪み”の質感を徹底的に追求した新作

Interview|たかはしほのか(リーガルリリー)
“歪み”の質感を徹底的に追求した新作

2022年1月にフル・アルバム『Cとし生けるもの』を完成させたばかりのリーガルリリーが、同年8月に早くも4曲入りの新作EPとなる「恋と戦争」をリリース。アルバム・ツアーと並行して制作された今作は、彼女らの“轟音なギター”というイメージをひっくり返すような、タイトで洗練されたサウンドが収録された1枚だ。ギターの音作りだけでなく、楽曲のアレンジにまで、新しい手法をふんだんに取り入れたという本作の制作秘話を、ギター・ボーカルのたかはしほのかに語ってもらった。

取材/文=伊藤雅景 ライブ写真=MASANORI FUJIKAWA

バンドで“せーの”で合わせた時の感覚を超えるものがなかなかないんだなと

『Cとし生けるもの』(2022年)のリリースから間もないですが、新作EP「恋と戦争」の制作はいつ頃から始まったんですか?

 アルバムのツアーと並行して楽曲制作をしていたので、2022年の春ですね。録り溜めていたデモではなく、今作のためにメンバーと集中して作りました。

制作はどのように進めていったのですか?

 一例だと、「明日戦争がおきるなら」は、歌詞だけできていた状態だったんです。メロディやアレンジは何も決まっていなかったので、まずはスタジオでメンバーに歌詞やイメージを説明して。メロディはその場で弾き語りながら即興で作って、みんなと一緒にアレンジを進めていきました。そこからほぼ1日で完成しましたね。メンバーには私の頭の中の曲のイメージに寄り添ってもらったんですが、色々汲み取ってくれたので凄く嬉しかったし、スムーズに作曲が進みました。

リーガルリリーではそういった作り方が多いんですか?

 今までは弾き語りの録音をメンバーに送ることが多かったんですけど、そういった、いわゆる“ライブ感”のある作り方は最近は少なかった気がします。バンドでリアルタイムで一緒に作ると緊張感もあるので、それが良い方向に働きました。

 1人で曲を作るとなると、どんな方向にも作れていけちゃうじゃないですか。それも利点なんですけど、私は逆にまとまらないことも多くて。なかなか最後まで完成しないんです(笑)。コロナ禍ではDTMで作ってみたりもしたんですけど、メンバーがいるとそれぞれの凹凸というか、曲のピースが揃った瞬間がより見えやすくて。やっぱりバンドで“せーの”で合わせた時の感覚を超えるものがなかなかないんだなと改めて気づけました。

RATを踏むのは“感情”なのでしょうがないですね(笑)

今作はバンド感がより強くなりつつ、音像もスッキリしたような印象を受けました。

 音圧に頼らないアレンジを心がけたので、音は確かにスッキリしましたね。その分、アンサンブルのブレイクや、楽器の休符を効果的に使って作っていきました。ギター的な話だと、前作まではギターの歪みで“音の壁”を作るような手法が多かったんですけど、今回はギターも曲に寄り添って、より歪み量を下げてシンプルにしました。その方向性は新鮮でしたね。

 今までは“そもそもギターって歪んでいるものでしょ”みたいな感覚があったので、結果的に“音の壁”になることが多かったんです(笑)。でも最近になって、“音色を歪ませる理由”をちゃんと考えようと思ったんですよね。今まではがむしゃらに歪ませていた節もあったので、しっかり自分でそこをジャッジしようと思いまして(笑)。

RATでドカーンと歪ませるのではなく(笑)。

 あ、RATを踏むのは“感情”なのでしょうがないですね(笑)。でも、例えばクランチ・サウンドでちょっとだけギターをざらつかせるような音色は、曲にとって一番大事な表現を担うことが多いので、なんとなくじゃなく、ちゃんと作り込もうと思って。

 今まではそういった微妙なサウンドに対しては鈍感だったんですけど、だんだんとそこまで見えるようになってきたというか。耳が良くなってきたというより、目が良くなってきたっていう感じですかね。

一方、空間系のエフェクトは最小限に抑えられているなという印象でした。

 今回は曲調的に、空間系の広がりを抑えた、いわゆる“ギター・ロック”なサウンドが合うと思っていたので、今までと比べて特にリバーブは控えめにしました。そうするとギターのコード感が前面に出てくるので、結果的に歌のメロディ・ラインも見えやすくなりましたね。

わかりやすく聴ける空間系エフェクトだと、「ジュテーム?」のサビのアルペジオくらいでしょうか?

 そうですね。その音色はBOSSのDC-3でコーラスをかけています。ニルヴァーナのようなディストーション×コーラスっていう音像が好きで昔から使っていて。ライブでは、曲のサビでほぼこのエフェクターを踏んでいるくらい……。ただ、コード感が見えにくくなってしまうので最近は使うのを控えています。歪みと同じように、エフェクトをかける箇所も厳選するようにしました。

そのおかげか、今までのリーガルリリーの楽曲よりギターの音色がはっきりと感じられます。それこそ「地球でつかまえて」のバッキングも絶妙で。

 ありがとうございます。この曲はキラキラしたギターにしたいと考えていて、アコースティック・ギターと歪んだエレキ・ギターを混ぜ合わせて表現しているんです。そこが楽曲の表情を表わす大切な部分になったなと思います。また、アコギはパーカッションのような立ち位置でも入れていて。そういった試みは初めてだった気がしますね。

アコギの16分音符のストロークがドラムのビートと絡み合って気持ち良いですよね。

 この曲はアコギのリズム感がキモになってます。ドラムのハイハットとアコギの音の立ち位置って少し似ているので、そこの兼ね合いが上手くいったんですよね。アウトロのエレキのカッティングもそうですけど、私は色んな楽器を組み合わせた“リズムの遊び”を考えるのが好きなので、そのニュアンスが活きた曲になりました。

“感覚”で弾き切ることが多いです

1曲目の「ノーワー」はどういったイメージでギターを作っていったんですか?

 これは最初にゆきやま(d)が曲の構成を考えてくれた曲なんです。その構成でアレンジを考えた時に、“エモさ”を表現するギターのイメージが湧いてきて。そこからは流れるように曲ができていきましたね。

バンドならではの“エモさ”が今作で最も伝わる楽曲だと思います。また曲後半のアルペジオで、音程をわざとはずしている部分もとても印象的でした。

 私、そういうアレンジがけっこう好きなんですよ。Weezerの「Say It Ain’t So」のアルペジオみたいな不協和音を表現したかったんです。ちょっとだけはずれている感じの。

なるほど。コードの側面から見ると、「ノーワー」はオンコードを効果的に使用していますよね?

 そうですね。この曲は4フレットにカポを付けて、レギュラー・チューニングで言うところのDのフォームでベース音を展開していくオンコードになっています。Dのコード・フォームの響きが凄く好きなので、基本的にほかの曲もカポの位置だけを変えて、できるだけ同じフォームでコード進行を作るようにしています。

 良い意味でコードの存在感をボヤかしてくれるし、コードが変わってもずっと同じ音が含まれているので、コードの印象も一定になってくれる。そうするとメロディ次第でどこにでもいける曲になるので、そこが魅力ですね。

「明日戦争がおきるなら」も同じくオンコードが主体ですが、この曲はアウトロのギター・ソロが耳に残ります。例えるなら、どういったギタリストに影響を受けましたか?

 ジョン・フルシアンテですね。超好きです! 一番好きなギタリストかもしれない。

ギタマガWEBの企画“このギター・ソロ聴いてみな?飛ぶぞ!!”でもレッチリを挙げていましたね。

 そうですね! やっぱり、ジョンのように歌ってるギターが弾きたいと思っていて。理想では彼のようなギター・ソロを目指したいんです。「ノーワー」でもソロを入れているんですけど、こっちはなかなか決まらなくて。できあがったフレーズは、事前に決めたものではなく、本番のレコーディングで何十回もテイクを重ねながら、感覚を研ぎ澄ませて録れたものなんです。私がギター・ソロを考えるときは、そういった“感覚”で弾き切ることが多いですね。

そのほかのフレーズの作り方も聞かせて下さい。

 前作『Cとし生けるもの』では、“どれだけ面白いギターが入れられるか”という意識が強くて、ギターが歌と同じくらい前に出てくる感じがあったんです。その時に感じる“違和感”が前作だと良い方向に働いていたんですけど、歌が2人いる感じがあって。それで、今作は“どれだけ歌のメロディが良く聴こえるか”に重点を置いて作りました。リード・ギターというよりは、伴奏で弾くフレーズという感覚ですね。そういった意識でフレーズを作りました。

特に気に入っているフレーズを選ぶとするなら?

 本来はギター・ソロとかだと思うんですけど、挙げるなら「ジュテーム?」の最初のアルペジオですね。これは身体からそのまま出てきたアレンジだったので。脳みそと直結したような感覚で出てきたのが印象深かったです。ギターを弾いている感覚じゃなかったというか。そうやって生まれたフレーズには良いものが多いですね。

ギターのフレーズにしっかりと意味を持たせたい

それでは、レコーディングで使用した機材も教えて下さい。

 ギターは全曲テレキャスター1本で完結しています。リードもバッキングも両方ですね。アンプはフェンダーのスーパーソニックを使って、足下には普段使っているボードを置いて、ほぼライブと同じ環境で録りました。歪みの音色は、OCDとRATを使い分けるような感じです。

ライブと同じように、ペダルを踏み替えながら録ったりも?

 そうしてますね。音色ごとにトラックを分けるのではなく、ライブと同じようにエフェクターを踏んで音色に変化をつけています。ギターは今までもそのやり方でレコーディングしていました。

今後歪みで試してみたいエフェクターは?

 なんだろう……。ビッグマフとかは凄い憧れますね。その音色だけで曲ができそうなくらい強烈な音色なので。ビッグマフのための曲を作っても良いくらい(笑)。

ありがとうございます! それでは、ギタリストとしての今後の展望を教えて下さい。

 大切にしたいのは、頭で考えて弾くのではなく、心が溢れ出てくるようなギターを弾くっていうことですね。感情のままに弾いているのに、なぜか意味があるように感じてしまうフレーズ……みたいな。ただ、闇雲に弾くだけだと成り立たない部分もあるじゃないですか。

 でも、そこを正当化するのは美しい歌のメロディだったり、そのほかのアレンジだったりするので、そこも重視したいです。そして、楽曲の中で鳴っているギターのフレーズにしっかりと意味を持たせたい。これからもそういったギターを生み出していきたいですね。

LIVE INFORMATION

リーガルリリー 『cell,core 2022』

【スケジュール】
2022年11月09日(水)/名古屋ボトムライン w/羊文学
2022年11月15日(火)/大阪BIGCAT w/My Hair is Bad
2022年11月17日(木)/Zepp Haneda w/くるり

【チケット】
詳細はリーガルリリー公式HPまで
https://www.office-augusta.com/regallily/

作品データ

『恋と戦争』
リーガルリリー

キューンミュージック/配信/2022年8月10日リリース

―Track List―

01.ノーワー
02.明日戦争がおきるなら
03.地球でつかまえて
04.ジュテーム?

―Guitarist―

たかはしほのか