Interview|小野瀬雅生(CRAZY KEN BAND)結成25周年でたどり着いたシンプルなギター・サウンド Interview|小野瀬雅生(CRAZY KEN BAND)結成25周年でたどり着いたシンプルなギター・サウンド

Interview|小野瀬雅生(CRAZY KEN BAND)
結成25周年でたどり着いたシンプルなギター・サウンド

デビュー25周年を迎えた今もなお、精力的な活動を続けているCRAZY KEN BAND(以下:CKB)が、22枚目のオリジナル・アルバム『樹影』を完成させた。多様なジャンルの音楽をベースに、シンプルかつ円熟味のあるサウンドに仕上げられたアルバムの制作を、小野瀬雅生(g)に振り返ってもらった。

取材=白鳥純一(ソウ・スウィート・パブリッシング) 写真=本多亨光

“楽曲が完成するまでの流れを、メンバー同士で楽しむ作品になった”

今作『樹影』は、いつ頃から制作を始められたのでしょうか?

 年始に1曲だけ録りましたけど、本格的な曲作りが始まったのは、今年2月の終わり頃だったと思います。まずは、横山剣(以下、剣/vo,k)さんが作曲を始めて、僕はアレンジの方向性が定まった4月頃からレコーディングに参加しました。

ギターに関してはどのような音作りのイメージを持っていましたか?

 さすがに25年も一緒にやっていると、デモ音源を聴いただけで音のイメージが浮かぶようになっているので、そこに向けて作業を進めていきました。「Almond」や「莎拉 -Sarah-」、「ウェイホユ?」あたりの曲は数回録っただけで終わりましたし、レコーディングも順調に進められたように思います。

ギター・サウンドにおいて、これまでの作品との違いや、小野瀬さんご自身のこだわりはありましたか?

 実は、特にこだわりがあったわけではなくて。今回はドラム・サウンドが打ち込みだったこともあって、ギターもほとんどアンプを使わずに、ラインで録った音を中心で考えました。“具体的にこれをやりたい”というギターをそのまま録って重ねていくという感覚でレコーディングしていきましたね。

ワウやカッティングなど、小野瀬さんのギター・プレイの魅力が織り込まれた作品ですよね。レコーディングで楽しまれた部分はありますか?

 “剣さんが作ってくれた楽曲そのものを楽しんだ”という感じですね。自分が音を作っていくというよりは、ある程度サウンドが完成した中に飛び込んで、自分のギター・サウンドを当てはめていく流れでした。僕自身は本当に苦労もなく、“曲ができあがるまでの流れを一緒に楽しめたな”と思っています。

“得意分野のワウと、勢いのあるガット・ギターが生み出したシンプルなサウンド”

「ドバイ」は、イントロや曲の要所で使われているシタールのサウンドが印象的でした。

 剣さんからエレクトリック・シタールを入れてほしいと指定がありました。これまでも、ほぼすべてのアルバムでエレクトリック・シタールを使っていたこともあって、“なるほど今回はこの曲ね”という感じでしたね。

 レコーディングで意識したことを挙げるなら、演奏時のギターのフレットや弦の位置でしょうか。開放弦をあまり使えないA♭キーのフレーズを綺麗に聴かせるためには、ロー・ポジションで弾いたほうがいいのか、それとも、もう少し高めのポジションを取りつつ、5~6弦の音を交えながら弾いたほうがいいのか。ポジションごとの音の違いを考えながらレコーディングを進めていきました。

ボサノヴァ風の「夕だち」では、小野瀬さんのリズム・ギターが耳に残ります。

 この曲では、「タオル」(2007年)などでも弾いているガット・ギターを使いました。これまでは、ガット・ギターを強いストロークで弾くことはほとんどなかったので、ちょっと大変でした(苦笑)。とにかく勢い良く弾くことを心掛けましたね。

 「ワイキキの夜」や「こわもて」、そして「コウタイ」でも同じギターをマイク録りしていて。今回は、ガット・ギターが多めに登場する作品になりました。

ワウの使い方に着目すると、「莎拉 -Sarah-」では細かなリズムを刻んでいて、一方で「Orange Cinnamon Sunset」、「The Roots」などでは、アクセントをつけるようなプレイが印象的です。

 今作に限らずですが、ワウは自分の得意分野でもありますし、僕自身も、今から30年前に“ワウが踏めるから“ということで剣さんと一緒にやれるようになったと思っているので、色々なバリエーションを使い分けながら弾かせてもらいました。今回に関しては、“ワウを踏んだら、大体曲のイメージにハマる”という感覚でしたね。

どのようなワウを使ったのですか?

 レコーディングでは、普段ライブで使っているワウ・ペダルではなく、HOTONEのSOUL PRESSという小さなワウ・ペダルを使いました。あまり音に際立った特徴はありませんが、可変域が意外に広いわりにはクセがあまりないところに魅力を感じていて。アルバムのサウンドにも意外とハマったので、多用しましたね。

「Orange Cinnamon Sunset」では、エレキの細かいオブリがアクセントになっています。

 この曲は、プリプロの音源で使われていたギターのサンプリング・ループをヒントにしながら、僕がもう少し具体化していきました。そしてまたそれをまたループにして使っています。ライブではちゃんと全部弾きますが(笑)。

「The Roots」のギター・ソロは、どのようにフレーズを決められたのでしょう?

 「The Roots」のギター・ソロも、デモの段階でサンプリング音源が使われていました。その雰囲気を大事にしつつ、もう少し手を加えたほうがいいかなと思って、改めて僕が録音しました。“頑張って苦労しながら積み上げた”というよりは、その場で感覚的に演奏したフレーズが、そのまま記録されたという感じですね。自分の素の部分がけっこう出ていると思います。

「Honmoku Funk」は、冒頭のホーンと、切れ味鋭いギター・カッティングが印象的な楽曲です。

 この曲は、ファンクの基本でもある低音域の単音カッティングのフレーズや、イメージに合う高音の響きを探しながらレコーディングしました。カッティングのフレーズは多少考えましたけど。じっくりと作り上げることよりも、長年の経験から出た定番フレーズでいけるかなというくらいの気軽な感覚で、ギター・トラックを完成させました。

「スカジャン・ブルース」は、あえて音を切って隙間を作り出すカッティング・プレイが耳に残りました。

 ベースが細かい音を刻んでくれているので、ギターはコード感や、1拍目と2拍目のノリを出せればいいかなと思って弾いたレーズです。2拍目頭の置き方に関しては、けっこう気を遣いました。

続く「おじさん」は、リバーブが多く使われていますよね。

 僕自身としては。まずはコードがしっかり聴こえることと、リバーブの乗りが上手くいくようにミュートのタイミングなどを意識しました。リバーブの雰囲気に関しては、ギタリストとしてのこだわりよりも最終的なミックス重視で、エンジニアの高宮永徹さんに按配をお任せしました。

「コウタイ」は、今作では唯一の小野瀬さんが書かれた楽曲です。

 当初は、3曲のメドレー形式のような曲にしようと考えていましたが、とにかく自分のイメージが膨らみ過ぎてしまって、うまくまとまらず(苦笑)。最終的には、ちょっとファンキーな前半の曲とオールド・スタイルな泣きのギターの後半の曲をそれぞれ作ってクロスフェードさせて、その間にフィードバックを入れるアイディアに落ち着きました。今あまり流行らない泣きのギターをあえて入れてみたとか(笑)。自分のやりたいことを素直にギターで表現してみたので、その心意気を楽しんでいただけたらなと思います。

続く「ワイキキの夜」でも、ガット・ギターを使われています。

 この曲はコード・プレイがギターのみです。アップライトのウッド・ベースと一緒にコード感をしっかり綺麗に出すために、やわらかいタッチでいながらも、はっきりとしたギター・プレイを心掛けました。

曲の最後には、お馴染みのドラの音も聴こえますね。

 剣さんの趣味です(笑)。ドラと共に中華っぽいフレーズも弾いてみました。

“自分らしさ”を改めて思い知ったような感覚がある

今作で使用したギターを教えて下さい。

 エレキ・ギターは、RSギターワークスのOLD SOULというTLタイプを基本にしながら、僕が長年使っているコンバット)(Combat Guitars)のTLタイプ、ギブソンのFirebirdなどを使っています。あとは、2000年代初頭に友人から譲ってもらったホセ・アントニオ・ギターズ(JOSE ANTONIO GUITARS)という、スペインのメーカーのガット・ギターを使っています。

続けて、それぞれのギターを使用された箇所を聞かせて下さい。

 僕が書いた「コウタイ」に今回使用したギターのほとんどが登場します。曲の前半部分はOLD SOUL、真ん中の部分をCombatのアーム付きのTLタイプ、後半部分をCombatの白いTLタイプで演奏していて。あとはガット・ギターも使いました。ファイアーバードは、「The Roots」のリードフレーズを弾く時に使いました。

様々なギターが登場する作品ですね。今作の制作が、ギタリストの小野瀬雅生さんに影響を及ぼしているとしたら、それはどのような部分でしょう?

  2000年代の前半に入手し、レコーディングを中心に使ってきたホセ・アントニオ・ギターズのギターで「こわもて」のリードを弾いた時に、“ついにこのギターを鳴らせるようになったか”という手応えがあって。今回のレコーディングではガット・ギターも含めて、色々な新しい境地のプレイができている自負があります。それが特別目立つわけではないのですが(笑)、自分がまだまだ進化し続けているのだという確信は得ました。まだまだ上達したいです。枯れるなんてとんでもない(笑)。

小野瀬さんは、ファイアーバードを使っているイメージもありますが、今作ではTLタイプが活躍しているんですね。

 僕はこれまでにミニ・ハムバッカーのファイアーバードやエクスプローラー、コンバットのST-Custom MODEL-1といったハムバッカーのギターを愛用してきました。20~30代の頃は、ストラトキャスターを多く使っていましたが、3つのピックアップは多すぎるような感覚もあったので、ファイアーバードを多用してきたんです。今回使ったTLタイプは、ハムバッカーのようにパワーがありすぎることもないので、非常に使いやすくて。まさか自分がTLタイプを愛用することになろうとは思ってもいなかったので、僕自身も驚いているところではあるんですけど。

TLタイプと出会った時の印象的なエピソードなどはありますか?

 ありましたね。もう随分前なんですけど、TLタイプのギターを飛び入り的なセッション・ライブに持っていって弾いた時に、自分にもの凄くフィットするような感覚があったんです。ファイアーバードはルックス的にはカッコ良いのですが、大きくてバランスが悪くて、得意不得意がハッキリしている特殊なギターなんです。それと比べて、TLタイプを手に取った時に、シンプルで使いやすく、守備範囲の広さも感じまして。自分の出している音の隅々までわかることが、僕にとって一番魅力的でしたね。

ピックアップの使い方は?

 バッキングではほとんどフロント・ピックアップを使っていますが、今作の「コウタイ」では、リード・パートの前半をフロント、後半をリアと切り替えて演奏しています。その時に、1台のギターの中にある音色のコントラストが、素直に出せたという手応えも掴めたんですよね。昔は、“歪んでガッツのある中音域を出したいな”と思っていたのに、気づいたら、僕は“テレキャス派”のギタリストになっていたという感じです。

今作はラインでレコーディングされたとのことでしたね。使用したアンプを教えて下さい。

 おもにVOXのAC30をモデリングした小さなアンプ・ヘッドを使って、そこから直接ラインで録ったり、スタジオにあったマーシャルのスピーカー・キャビネットで音を出したりしました。そしてエフェクターは、Donner製のTube Driveという小さなオーバードライブと、長年愛用しているCombatのオーバードライブのコンビネーション。あとは先ほどお話したHOTONEのSOUL PRESSのワウ・ペダルを使っています。

 実はリハーサルや小さなライブで使うエフェクターのセットで、デモ段階のギターを録るつもりが、そのままOKテイクになってしまった曲も多くあって(笑)。機材にこだわりがある皆さんからは、怒られてしまいそうなんですけど(苦笑)。ライブでも大きなエフェクター・ボードは足下に置いてあるのですが、ほとんどのエフェクターがオフになっていて(笑)。まさかそうしたナチュラルなトーンのほうに向かうとは、自分が一番驚いている昨今です。

色々な楽器が鳴っているバンドだからこそ、シンプルな音のほうが馴染むという側面もあるのでしょうか?

 そうですね。ベースの音色がまずははっきりと決まっていて。キーボードは曲によって様々な変化があります。僕自身は様々なプレイを求められるのですが、音色のバリエーションを出し入れするよりも、ナチュラルな音色を基準にして曲に合わせたフレーズを考えるということにしています。今回のレコーディングでは、自分の出したい音を上手くサポートしてくれるのが、その小さい機材群であったという感じですかね。

“とにかく自由に何でもやる”
CKBらしさが増しているような感覚がある 

今作の楽曲をライブの編成で演奏して気づいた点はありますか?

 これまでは、“ライブでレコーディングしたサウンドをなるべく再現する”という考えだったのですが、今回は、“ライブではライブなりのアレンジで楽しく演奏する”ことを重視しています。レコーディングされた楽曲を元に、ライブ向けのアレンジをかなり加えています。アルバムとのサウンドの違いを楽しんでいただけたら嬉しいです。

具体的にアレンジが違うところなどがあれば聞かせて下さい。

 まだ、ちょっと秘密なんですよ(笑)。例えば、ギターだけで始まる曲を、バンド全員の演奏で始まるようにしたり、曖昧な音で終わる曲に、ライブ向けに新たなエンディングを加えたりとか。そんな感じですね。お客さんに聴いてもらう前にメンバーが楽しんでいるところがあるので(笑)。その楽しみが音になって、お客さんに伝わればいいなと思っています。

小野瀬さんは、ファンの皆さんとSNSで交流されていますが、そういったコミュニケーションはサウンド面にも影響を及ぼしていたりするのでしょうか。

 僕自身は、CKBだけではなく、1人でギターを背負って、あちこちに演奏に出かけたりもしていて。色々なご縁や、ソロ活動の時に感じた気持ちが、CKBのステージにフィードバックされているような感覚があります。ここ数年は、特に人前で演奏することの大切さを感じるようになりました。自分のリーダーバンド小野瀬雅生ショウでも、セッション・ライブでもソロでの弾き語りでも、機会があれば、もうどこにでも出向いて演奏する。“人前で演奏してナンボである”という感覚で、日々ライブの魅力を噛み締めています。

小野瀬さんが考える「CKBらしさ」とは何ですか?

 “クレイジーケンバンド”というバンド名は、“剣さんに、遠慮せずに本領を発揮してほしい”と思って僕が名づけたんです。剣さんが面白いと思ったことを、みんなですぐに試してみるて、またそれがちゃんと具現化できちゃうことが“らしさ”なのかもしれませんね。僕らは、すごくこだわりながらやっていますけど、フレキシブルでこだわりがないように思われる部分もありますし。最新のサウンドも、古典的な音も取り入れる。“とにかく何でもやる”というのが、僕らなのかもしれませんね。

 最近は、これまでよりも自由度が増えているような気がするので、“そんなこともやるの?”と思われることにも挑戦していきたいですね。まだまだアイディアがたくさん出てくるという確信を得られたのが、今回の『樹影』というアルバムだったかなと思います。

CKBは、今年25周年を迎えました。今後の活動に向けた小野瀬さんの思いと、ファンの皆さんへのメッセージをお願いします。

 ドラムの廣石(恵一)さんが膝の故障で今回のツアーをお休みしていますが、基本的にみんな元気でがんばっています。剣さんがよく口にする“生涯現役”が僕自身の願望でもあるので、できる限り現役として長くやっていこうと思っています。ファンの皆さんも、まだまだ進化するクレイジーケンバンドを楽しみにして下さい。末長くご贔屓によろしくお願いします。

LIVE INFORMATION
CRAZY KEN BAND TOUR 樹影 2022-2023

SCHEDULE

2022年10月4日(火)/市川市文化会館(千葉)
2022年10月6日(木)/ウェスタ川越 大ホール(埼玉)
2022年10月10日(月祝)/NHK大阪ホール(大阪)
2022年10月23日(日)/中野サンプラザ(東京)
2022年10月29日(土)/常陸大宮市文化センター ロゼホール(茨城)
2022年11月8日(火)/紋別市⺠会館 大ホール(北海道)
2022年11月10日(木)/札幌市教育文化会館 大ホール(北海道)
2022年11月19日(土)/神奈川県⺠ホール(神奈川)
2022年11月20日(日)/神戸国際会館こくさいホール(兵庫)
2022年11月22日(火)/日本特殊陶業市⺠会館ビレッジホール(愛知)
2022年12月4日(日)/横須賀市文化会館 大ホール(神奈川)
2023年2月18日(土)/仙台電力ホール(宮城)
2023年2月25日(土)/川口総合文化センター リリア メインホール(埼玉)
2023年3月4日(土)/厚木市文化会館大ホール(神奈川)
2023年3月11日(土)/アイプラザ豊橋(愛知)泣きながらツイスト
2023年3月17日(金)/かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール(東京)

チケット詳細は公式HP
https://www.crazykenband.com/

作品データ

『樹影』
クレイジーケンバンド

ユニバーサルシグマ/UMCK-1719/2022年8月3日リリース

―Track List―

01. Almond
02. ドバイ
03. 夕だち
04. 強羅
05. 莎拉 – Sarah –
06. ウェイホユ?
07. Orange Cinnamon Sunset
08. 樹影 – eye catch –
09. The Roots
10. ヨルノウロコ
11. Honmoku Funk
12. スカジャン・ブルース
13. おじさん
14. 㐧二樹影 – eye catch –
15. コウタイ
16. ワイキキの夜
17. こわもて
18. Almond Jelly * 杏仁豆腐- Dessert –

―Guitarist―

小野瀬雅生