Interview|野呂一生(CASIOPEA-P4)超贅沢な『NEW TOPICS』本人全曲解説 Interview|野呂一生(CASIOPEA-P4)超贅沢な『NEW TOPICS』本人全曲解説

Interview|野呂一生(CASIOPEA-P4)
超贅沢な『NEW TOPICS』本人全曲解説

 今年はカシオペア結成45周年、またCASIOPEA 3rdとなってから10周年という節目でもある。このタイミングで第1期カシオペアの元メンバーであり、第2期の半ばからCASIOPEA 3rdまでの長きにわたりサポートを務めてきたドラマー、神保彰がバンドを卒業した。自身の活動に専念するための円満退社である。

 神保彰からの申し入れがあった時点より、次は誰にどういう形でやってもらおうか?という思案は水面下で進められ、最終的に絞られたのは34才の今井義頼。今井はドラムの練習を始めた少年時代よりカシオペアに親しみ、神保のドラムのコピーや研究に明け暮れていたほどのカシオペア・ファンである。

 入学した東京音楽大学では野呂一生(g)や鳴瀬喜博(b)の授業を受け、卒業後は鳴瀬喜博の野獣王国のサポートも務めた。現在も様々なバンドで活躍しながら、東京音大では講師も務めている。大髙清美(k)とも別々のバンドで対バンの経験もあった。

 このように気心の知れた仲だけに、バンドからの最初の依頼はサポートだったものの、すぐに新メンバーとして迎えることになった。カシオペアに正式メンバーとしてドラマーが加入するのは25年ぶりのことである。これによりカシオペアは30代から70代まで4世代のバンドとなった。これを機会にバンド名をCASIOPEA-P4と改め、カシオペアの第4期がスタートした。

 そしてカシオペアとしては3年ぶりとなるニュー・アルバムのレコーディングに入る。新曲は事前に譜面を送っておき、各自で自宅練習。実際に全員で音を出したのはレコーディングの初日であった。テイク数は1曲につき3~4テイク。1日に2曲ずつ、10曲を5日間で録音している。

 今回のアルバムのコンセプトとして、“どこか懐かしいのだが新しい”、野呂はそんなサウンドを考えていた。今井という若い才能の加入でバンドのモチベーションも上がり、野呂の狙いどおり“メロディやリズムは新しいのだがデビュー当時の世界観を持つサウンド”ができあがった。

 そしてもう1つの狙いは、聴き終わった時にコンサートを体験したように感じるアルバムにすること。今回は確かにキャッチーな楽曲が多いため、アルバムはオープニングからラストまでテンポよく進む。野呂の曲を3曲、そして中盤にメンバー3人の曲を1曲ずつ挟み、後半の4曲でまた野呂の世界が広がるという構成。ラストの曲で一番盛り上がるように作られているので、コンサートを観に来た感覚でアルバム1枚を通して楽しむことができる。

 それではニュー・アルバム『NEW TOPICS』に収録された珠玉の10曲を、ギター・アプローチやサウンド・メイクも含めて野呂一生に解説していただこう。

取材/文=近藤正義 写真=神田高紹(カンダタカツグ)

カシオペアとしてのアルバムは3年ぶりです。しかも新しいメンバーを迎えましたので、『NEW TOPICS』というタイトルにしました。

この3年あまり世の中は色んなことが起こり、大変な時期が続きましたから、それらを踏まえた曲想になっています。そして少しでもサウンドによって元気な気持ちになっていただきたいという思いを込めました。

── 野呂一生

01. TODAY FOR TOMORROW(作曲:野呂一生)

 一番最初にメンバーで音を出した曲です。リズムに特徴があって、キックがサンバに似たパターン。そんなポップな要素を加えてあります。ドラム・ソロみたいに聴こえる箇所は、譜面にはフィル・インと記しただけなのですが、今井君は思い切りソロを入れてくれました(笑)。

 ギターのピックアップはフロントのハムとセンターのシングルをミックスしています。逆相ではなく正相なのでストラトのハーフトーンみたいなフェイズっぽいサウンドではありません。フロント・ハムの太い音にセンター・シングルの鋭い音を加わったサウンド。このセッティングは頻繁に使っています。

 エフェクターはLine 6 Helix Floor(ギター・プロセッサー)のプリセットにあるコンプレッサーとディストーションで、オーバードライブに近いセッティングです。ただ、ライブではディレイもLine 6のプリセットを使いますが、レコーディングでは卓でかけています。

 レコーディングする時のマルチ・エフェクターのセッティングは、なるべくシンプルにしたほうがフィンガリングのニュアンスが出やすいという性質があります。設定が多すぎると、エフェクター内での演算処理に時間がかかってわずかな遅れが生じますからね。また、あとで加工しやすいようになるべくドライに近い音で録っておき、空間系などはPro Toolsで処理するというのも理由の1つです。

 ギター・ソロは、Ⅱマイナーが続いてⅤオルタードというコート構成の上で弾いています。弾く時の注意点は、ヤマ場となるⅤオルタードの箇所が周期的に巡ってきますので、そこを見失わないようにすることです。見失うと訳がわからなくなりますから(笑)。そこをどう処理するかが、このソロを弾く醍醐味です。また、ソロをとるコード進行としてはシンプルなパターンですが、いかに飽きずに聴いてもらえるソロを組み立てるか? それが大事です。

 オルガン・ソロはギター・ソロとは対照的に変化していくタイプのコード進行。バンド全体として気をつけたのは、いかに焦らずに走らずに弾くか、でした。

02. DREAMER’S DREAM(作曲:野呂一生)

 私が書いた最初の譜面では、出だしのベースは1オクターブ低かったのですが、鳴瀬さんの提案で1オクターブ上げました。70代と30代による世代を超えたベースとドラムのコンビネーションも聴きどころです。

 ギターはセミアコ・タイプやフレットレスを使う時以外は、ヤマハのIN-DX野呂一生モデルです。ピックアップはリアのハムバッカーとセンターのシングルをミックス。リアだけにすると確かに鋭くなるのですが、それだけではちょっと薄く感じるので、センター・シングルの音も加えています。

 エフェクトはコンプレッサー、ディストーションとショート・ディレイ、そしてリバーブ。ショート・ディレイはビートに合わせてリピート1回です。

03. UNTHINKABLE(作曲:野呂一生)

 どういう音色でいくのかレコーディングの当日まで迷いましたが、この曲想ならストレートでクリーンなギターサウンドが合うかな?と思いました。

 ギターはFホールのあるセミアコ・タイプのSG-Mellowを使っています。クリーンな音色でジャジィに弾くには、ボディの箱鳴りが欲しかったんです。フロント・ピックアップを使って、さらにギター本体のトーン・コントロールを絞って柔らかい音にしています。ピッキングの強弱を強調したかったので、コンプレッサーも通していません。ディレイも使っていませんが、リバーブは目一杯効かせています。

 後半のギター・ソロは、とても弾きにくいコード進行です。Ⅱマイナーの間に半音下のオルタードが入るというパターンが続くんです。

04. NoOne…EveryOne…(作曲:鳴瀬喜博)

 最初に鳴瀬さんから渡されたデモ・テープを聴いた時、これはギターとしてどうすればいいのか?と考え込みましたよ。シュールな曲ですからね。特にAセクションの抽象的な響きが個性的です。考えた結果、シングル・ノートを強く弾くことでリズムを強調することにしました。そうすることによってベース・ラインにバリエーションをつけるという形を考えたんです。

 ギターのピックアップはフロント・ハムとセンター・シングルのミックス。それをステレオ・コーラスに通したのが基本のセッティング。ギター・ソロの時はそこにディストーションを加えています。極端な音色の変化ではなく、いつの間にか歪んだようにしてありますので、メロディからソロへと違和感のない変化を聴いていただけると思います。

 あと、後半で驚くようなコード進行が登場しますが、それがいかにも鳴瀬さんらしいと思いました。

05. Vivaciously(作曲:大髙清美)

 これはブギーですね。事前に彼女にリクエストしておいたのは“元気が出るようなゴキゲンな曲をお願いします!”ということでした。

 自分が作ったのではない曲に対しては、敬意を持って弾かせていただくという姿勢なので、このコードに対してはこのフレーズ、などと念入りに研究しておきます。譜面に“目立つカッティングよろしく!”と書いてあれば、そういうのを考えますしね(笑)。

 最初のフィル・インからギターで、ロック的なペンタトニックがいいのか、ビバップ的なスケールがいいのか、迷ったんですが、その中間みたいな感じで弾いてみました。だからスイング的なフレーズもけっこう取り入れてあります。

 後半のギター・ソロの部分は彼女特有のコード進行があって、それにいかに追従していくかが肝でした。全部を速いパッセージで弾くことも考えたんですが、この曲のスピードでは難しい。そこで、概略を固めておいてそれを速いパッセージでつなげていくという形にしました。

 ギターのピックアップはフロント・ハムとセンター・シングルのミックス。コンプレッサーとショート・リバーブをかけています。

06. DAILY BREAD(作曲:今井義頼)

 今井君の曲です。彼が自分のソロ用に書いている曲はもっと激しいのが多いんですが、今回はボサノバ風なバラードです。ドラマーの曲なのに叩きまくりではなくて、ブラシを使っていて地味(笑)。でも、逆に一番面白い曲でした。

 彼には事前に“メロディに気をつけて作るように!”と言っておいたんですよ。ドラマーが作りそうにない曲を期待していたんです。彼なら難しいことはいくらでもできますが、そうではないものが欲しかった。

 ギターの音色は迷いましたね。最初はアコースティック・ギターにしようかと思いましたが、それでは当たり前になってしまう。そこで、あえてエレクトリック・ギターのクリーン・トーンにしました。ギターのピックアップはフロント・ハムだけ。ピッキングは強過ぎず弱過ぎず。

 エフェクターはコンプレッサー、ステレオ・コーラス、ディレイが基本です。そこへ、後半のサビ・メロではピッチシフターでオクターブ上を加えました。オクターブ音は甘い音色にして、リバーブを深くかけています。この、クリーン・トーン+オクターブ上というパターンは昔よくやっていたのですが、実は久しぶりなんです。パッと聴くと、ギターとシンセがユニゾンしているように勘違いしそうですが、そうではありません(笑)

07. A BEAM OF HOPE(作曲:野呂一生)

 キャッチーな8ビート・ポップです。この曲ではディストーションではなく、チューブ・アンプのボリュームを少し上げたようなクランチな歪みを使っています。ギターのピックアップはフロント・ハムとセンター・シングルのミックス。ディレイのテンポは曲のリズムに合わせてあります。ライブではそこまで気にしていられませんが、レコーディングでは合わせたほうがバンド・サウンドがくっきりするという効果があるんです。

 最初はもっと甘いサウンドだったのですが、もう少し鋭いほうがいいかな?と思って、本ミックスの時にハイを上げてもらい、輪郭がはっきりするように仕上げました。ギターのピックアップはフロント・ハムとセンター・シングルのミックスです。

 この曲もソロは弾きにくいコード進行です。私の場合、だいたいの曲がコードが変わるたびにスケールも変えなくてはならないパターンになっていますが、コードに対するそれぞれのスケールをいかに滑らかにつなげるかが難しい作業となります。スケールのつなぎ目を歌わせることですね。でも、たまには唐突なつなぎ方が面白いこともありますけどね(笑)。

 8ビートのリズムで面白く聴かせるために、後半にいくと速いパッセージが増えるという形にしてあります。 

08. PURE HEART(作曲:野呂一生)

 最初からフレットレス・ギター(SG-Mellow Fretless)で弾くことを前提に書いた曲です。16ビートのバラードで、あくまでもメロディ優先。自分の作ったバラードの中では最もオーソドクスなタイプです。フレットレス・ギターの音には特有のアタックやリリースがありますから、それらを活かした曲作りをします。

 弾き方としては、ピックを使わずに親指のダウンだけ。そこにハマリング・オンやプリング・オフを組み合わせて弾いています。指板には一応ラインを引いてありまして、そこよりもほんの少しヘッドよりのポイントを押さえるとジャストなピッチが得られます。それから、このギターはコードを弾くのが難しい楽器です。通常のギターのように人差指でバレーするコードは使えないので、コードの響きを決定する主要な3音くらいを押さえて弾くことになります。そういった工夫が必要で、こんなことをもう40年やっています(笑)。

 この曲ではハムバッキングのリア・ピックアップだけを使い、卓で少し低域を増やしてもらっています。そこに深いリバーブ、ディレイ、ステレオ・コーラスというサウンド・メイクです。

09. FLY ME TO THE FUTURE(作曲:野呂一生)

 イントロからシンセには金属的な音色で弾いてもらいましたが、これがこの曲を象徴するサウンドです。メロディがギターでは弾きにくいタイプで、“聴いている人にそれを感じさせないようにするにはどうすればよいか”を考えました。譜面に書いて作曲している時は気がつかなかったのに、いざ弾いてみると弾きづらい(笑)。特にAメロの出だしの箇所をリズムに乗せるのは大変です。

 後半のギター・ソロも難易度が高いです。Ⅱ-Ⅴのようで、実はそうではないというパターンが続きます。聴いていると気づかないのですが、実際に弾くと気がつきます(笑)。滑らかなフレーズに聴こえますが、実は弾くと大変。演奏する時の注意点は、自然に聴こえるように弾くことです。

 ギターのピックアップはフロント・ハムとセンター・シングルのミックス。エフェクトはコンプレッサー、ディストーション、ディレイです。

10. THANKS A LOT(作曲:野呂一生)

 ストレートな盛り上がる曲です。久々にシンセによるブラスみたいな音が出だしから入っています。コード進行に追従するスケールを切り替えながら、どうやって全体的に盛り上げていくか? それが弾いていて感じる醍醐味です。

 テンポが速いので集中しないと次から次へと移っていってしまう。それに追いつくというより、こちらからリードしていくくらいでなくちゃいけませんから、そこまでのスピードを身につけるのが大変です。

 9thなんだけどオルタード・スケール、♭5thのオルタード・スケールとかけっこう出てきます。私の場合、ハーフ・ディミニッシュや9th系でアプローチすることが多いのですが、こんな風にオルタード・モードをよく使っています。

 ギターのピックアップはここでもフロント・ハムとセンター・シングルのミックスですね。

作品データ

『NEW TOPICS』
CASIOPEA-P4

HATS UNLIMITED/HUCD-10315/2022年10月12日リリース

―Track List―

01. TODAY FOR TOMORROW
02. DREAMER’S DREAM
03. UNTHINKABLE
04. NoOne…EveryOne…
05. Vivaciously
06. DAILY BREAD
07. A BEAM OF HOPE
08. PURE HEART
09. FLY ME TO THE FUTURE
10. THANKS A LOT

―Guitarist―

野呂一生