新作『Wilderness of Mirrors』をリリースした、現代サイケデリック・ロックの雄=ザ・ブラック・エンジェルズ。先に公開したインタビュー記事では、ギタリストであるクリスチャン・ブランド&ジェイク・ガルシアの2人に、音楽性や作品制作について話を聞いた。今回はその続きとして、それぞれの使用機材について語ってもらおう。本人撮影の機材写真とともにお届けする。
取材:錦織文子 翻訳:トミー・モリー 写真:本人撮影
ビートルズの楽器を使って
どんなものが生まれるか興味があった。
──クリスチャン・ブランド
クリスチャンはリッケンバッカーの345やエピフォンのCasino、それからピュア サレム・ギターズ(PureSalem Guitars)のTom Catやバイオリン型のギターなどの珍しいものまで、様々なギターを使っていますね。どのような基準で機材を選んでいますか?
クリスチャン・ブランド(以下CB) “ビートルズがプレイしていたなら買ってみよう”って感じで手に入れてきたものがほとんどなんだ(笑)。メインで使っているのは、78年製のリッケンバッカー345で、一緒に墓に入れてほしいくらい大事なギターだね。ほかには、330-12やグレッチのCountry Gentlemanも使っていて、やっぱり彼らの楽器に執着しているところがあるよ。ビートルズが認めた楽器を使ってみて、自分からどんなものが生まれてくるのか興味があったんだ。
改造などはしていますか?
CB ほとんどのギターは全部オリジナルの状態のままで、Casinoだけはたしかローラーのピックアップに交換したかな。
使い分けはどのように?
CB いつも345の音色を基準に考えていて、もっと厚みやレゾナンスが欲しければ、Country Gentlemanをプレイするね。345はリトマス試験紙みたいな存在で、グレッチは俺にとって最も分厚いサウンドが得られるギターなんだ。ファズで言うとサウンドが分厚いもの、薄いもの、その中間の3種類を求めているんだけど、ギターも自分が求めているトーンのレンジに応じて選んでいるよ。
ジェイクはギブソンのES-335やフェンダーのジャズマスターを使っていますよね。
ジェイク・ガルシア(以下JG) 二十歳の頃、ギター・ショップの壁にこの71年製の左利き用のES-335が吊るされていたのを発見して、“どうしても手に入れなきゃダメだ!”と思ったんだ。だって、ロイ・オービソンやチャック・ベリー、ピーター・グリーン、ミック・テイラーといった偉大なギタリストたちが使ってきたギターだからね。
セミアコ独特なフィーリングがお気に入りで、しばらくはこのギターしかプレイしない時期が続いたんだけど、実は去年になってジャズマスターを手に入れたんだ。カスタムショップのマスタービルダーが手がけた59年製の復刻モデルで、手作業で巻かれたピックアップを搭載しているところも気に入っているよ。僕はトーンのテクスチャーを変える目的でこれらを持ち替えているよ。
ES-335はホーンの部分にセレクターが増設されていますが、自身で改造をしたのですか?
JG 僕が購入した時点で、このような改造がされていたんだ。ピックアップもオリジナルではなかったりと色々いじられていたよ。もうはずしてしまったけど、以前はハムバッカーをシングルコイルに切り替えるためのスイッチも付いていて、今は埋めてある。そもそもギター用のスイッチですらないものが使われていて、本当に酷い改造だったんだ(笑)。
そうでしたか(笑)。現在はどのような仕様になっているのでしょうか?
JG 昔のギブソンの工場にあったコイルを巻くための機械や、ピックアップに使われていた59年当時の銅線のストックを持っている人が知り合いにいたんだ。その人に作ってもらったオリジナル・ピックアップが搭載されていて、ベルみたいに素晴らしいサウンドがして気に入っている。ペグはシュパーゼルのロック・タイプのものに交換しているね。地元でリペアをしている人に何度かリフレットもしてもらい、ギター内部の配線も完璧にやり直してもらったよ。
Christian’s Guitars
Gretsch/#6122 Country Gentleman Left-Handed
ジョージ・ハリスンが愛用した名器に憧れて
メイン器である345の次に信頼を置いている、グレッチのCountry Gentleman。ボディが17インチと大ぶりであるのが特徴で、ジョージ・ハリスンが使用しているのに憧れて入手したという。345よりも厚みやレゾナンスが欲しい時に本器を使用するとのこと。
Jake’s Guitars
マグナトーンのビブラートは
ボ・ディドリー的に感じる。
──ジェイク・ガルシア
最近はどのようなペダルを愛用していますか?
CB 俺は常にペダルを入れ替えたり、ジェイクと貸し借りしたりしているから、固定したものを使い続けていることはあまりないんだ。色々使っている中でも、ACID FUZZERはTone Bender MK1のクローンみたいなもので、けっこう気に入っているよ。マエストロのファズみたいな良い意味での薄っぺらさがあるんだけど、トーン・スイッチによってかなり分厚いサウンドへと切り替えることもできるんだ。今作ではジェイクのボードに入れて使ってもらったよ。
ファズ・ペダルは様々な種類のものを使用していますが、どういったこだわりがありますか?
CB やっぱり俺が好きな60年代のサイケデリック音楽のサウンドとつながるものをついつい選んでしまうところはあるよ。色んなものを試しては曲によって頻繁に使い分けているね。
今組んでいるボードには入れていないけど、アナログマンのファズは頻繁に使うペダルの1つだね。Sun Faceは2種類持っていて、まるっきりキャラクターが異なっているんだ。シリコン・トランジスタのBC108のほうは、ピンク・フロイドの『Live at Pompeii』(2017)でデヴィッド・ギルモアが使用していた青いFuzz Faceにサウンドが似ている。ゲルマニウム・トランジスタのNKT275は、Fuzz Faceに搭載されたものと同じトランジスタを使っていて、ジミ・ヘンドリックスみたいな驚異的なサウンドが得られるよ。
ほかに、Peppermint Fuzzも持っていて、BC108を搭載したSun Faceとサウンドが似ているから最近は出番がなくなっているけど、ストロベリー・アラーム・クロックの「Incense And Peppermints」(1967)のソロで聴けるサウンドを参照しているファズみたいで最高だよ。
ジェイクはモズライトのFuzzriteやBOSSのFZ-1などのファズ・ペダルを使っていますが、使い分けはどのように?
JG Fuzzriteは金属製のゴミ箱を叩いたような音で(笑)、かなり面白いサウンドで特に気に入っているよ。Hyper FuzzはShin-eiのファズみたいなテイストなんだけど、それよりもさらにワイルドでクールなサウンドが得られる。普段はブースト・モードに設定して使っているよ。
それから、サンダー・トマテ(Thunder Tomate)のMuffin’ Manというファズも新作のレコーディングで使ったね。これはスペインに住む友人が作ってくれたBig Muffのクローンで、トーン・コントロールの幅がより広がった感じなんだ。おもにこれらを使い分けて曲ごとに様々なテクスチャーを作っているよ。
先ほども話していたように、レコーディングでは50台ほどのファズ・ペダルを試したそうですが、ほかにどのようなものを使ったのですか?
CB ワットソン・クラシック・エレクトロニクス(Wattson Classic Electronics)のFY-2っていうペダルは、Shin-eiのCompanionのクローン・ペダルで、ライブでかなり役立っているよ。レコーディングでも使っているけど、オンにすると音量が下がってしまうところが難点なんだよね。WEMのRush Pep Boxもなかなか素晴らしいペダルだよ。60年代のグレイトなFuzz Faceも何台か使ったんだ。
JG ストーンズが「(I Can’t Get No)Satisfaction」(1965)のレコーディングで使用したのと同じオリジナルのマエストロのファズ(FY-1)もレコーディングで活躍したね。すべてのペダルを床に並べた様は壮観で、曲に応じて自由にピックアップして使っていったよ。
ちなみに、マグナトーンのトレモロを再現したペダルMaggieは、クリスチャンもジェイクもよく使用していますよね。
CB マグナトーンのアンプってかなり変わったトレモロを搭載していて、その揺れがまたユニークなんだ。ファズと組み合わせるとかなりクールなんだよね。新作のレコーディングでももちろん使ったよ。
JG 僕的にはボ・ディドリー的に感じるところがあってね。
CB ハハハ(笑)!
JG 彼は何にでもああいうトレモロを加えているんだけど、Maggieではそれを目指しているみたいだ。もうこのペダルはもう生産されていないらしくて、僕らは最後の数台をすべり込みで手に入れたんだ。
それでは、ザ・ブラック・エンジェルズの音作りに欠かせないペダルを3つ選ぶなら?
CB アンプの上に常に置いている真空管入りのテープ・エコーのTube Tape Echoは俺のサウンドの中核なんだ。そして、VOXのV846。例えば、クリームの「Tales of Brave Ulysses」(1967)で聴けるようなサウンドを求めて使っていて、これもはずせないよ。それからファズは……Bumble Buzzかな。ファズとワウ、テープ・エコーという組み合わせは必須なんだ。
JG 僕はトレモロとファズ、ディレイの3台かな。セイモア・ダンカンのShape Shifterか、BOSSのTR-2を使うこともあるね。ファズだとFuzzriteははずせないかな。
Christian’s Pedalboard

【Christian’s Pedal List】
①Electro-Harmonix/EHX-2020(チューナー)
②Aclam/Dr. Robert(オーバードライブ)
③Union Tube & Transistor/Bumble Buzz(オクターブ・ファズ)
④Ibanez/TS9DX(ブースター/オーバードライブ)
⑤Acid Fuzz/REBEATER(トレモロ)
⑥Gurus/Echosex 2°(ディレイ)
⑦Electro-Harmonix/Black Russian Big Muff(ファズ)
⑧不明
⑨British Pedal Company/Rush Pep Box(ファズ)
⑩Wattson Classic Electronics/FY-2(ファズ)
⑪Danelectro/Back Talk(リバース・ディレイ)
⑫VOX/V846(ワウ)
⑬Fulltone/Tube Tape Echo(テープ・エコー)
取材後にiPhoneで撮影して送ってくれた、2人が最近使用しているペダルボードの中身を紹介しよう。
クリスチャンはレコーディングでは曲によってボードの中身をよく入れ替えるそうだが、基本的にはこのラインナップが中心だという。信号の流れは、ギターから①〜⑫へと進み、⑬Tube Tape Echoからアンプへと流れるシンプルな接続順。
③Bumble Buzzは、“このボードの中にある最も分厚いサウンドで、爆撃機並みの驚異的な勢いを作り出すファズ”とのこと。新作では「Empires Falling」で使用。
④TS9DXは少しだけ荒さを加えたい時にブースターとして使用。新作のレコーディングでも活躍したほか、2012年リリースの「Entrance Song」は本機が“最も活躍している曲だね”とのこと。Binson Echorecを再現した⑥Echosex 2°はお気に入りのようで、シド・バレッド的なエコー・サウンドを出すにはうってつけだそう。
⑦Black Russian Big Muffからはファズを連続して接続。ボ・ディドリーのステッカーが貼られ、真っ白に塗装された⑧は実態不明だが、おそらくファズ系のペダルではないかと推測。
逆再生サウンドを生み出す⑪Back Talkも長年愛用しており、彼にとって欠かせないペダルと言えそうだ。ボ・ディドリーのステッカーが貼られた、67年製の⑫V846は、“液体のようなピチャピチャしたサウンドに仕上げてくれる”そうで、“ペダル3台でボードを組むなら?”の質問でも必須の1台として挙げている。
最後に、アンプの前に必ず接続するという⑬Tube Tape Echo。クリスチャン曰く“自分のサウンドのブレイン的な役割”とのこと。
Jake’s Pedalboard

【Jake’s Pedal List】
①BOSS/TU-2(チューナー)
②EarthQuaker Devices/Ghost Echo(スプリング・リバーブ)
③Acid Fuzz/Acid Fuzzer MKI(ファズ)
④Divided By 13/Dyna-Ranger(ブースター/オーバードライブ)
⑤Big Tone Music Brewery/Maggie(トレモロ)
⑥Thunder Tomate/Muffin’ Man(ファズ)
⑦ハンドメイド・2chスイッチャー(スイッチャー)
⑧Hughes & Kettner/Tube Rotosphere(ロータリー・シミュレーター)
⑨strymon/El Capistan(ディレイ)
⑩BOSS/TR-2(トレモロ)
⑪BOSS/GE-7(イコライザー)
⑫Keeley/1962x(オーバードライブ)
⑬Death By Audio/Echo Dream 2(ディレイ)
⑭EarthQuaker Devices/Levitation(リバーブ)⑮Durham Electronics/Sex Drive(オーバードライブ)
ジェイクのペダルボードは接続されていないものもいくつかあり、どうやら組み替え中の状態。セイモア・ダンカンのShape ShifterやモズライトのFuzzriteは“もしも3台でボードを組むなら?”の質問で選んでくれたが、写真ではペダル外に配置されている。“自分の足で操作しやすい配置にしていて、接続順は右から左に順になっているわけではないことがほとんど”とのことだが、ここでは取材内容をもとにした編集部の推測で、ある程度の接続順に沿って紹介していく。
ギターから①〜⑥へと進み、⑦スイッチャーへ。⑦の右チャンネル“LESLIE”は⑧Tube Rotosphereを、左チャンネル“ECHO”は⑨El Capistanを接続。⑦のアウトからは⑩〜⑮へ。②Ghost Echoは、“最初に持ってくることでギター・サウンド全体がスーパー・ワイルドになることに最近気づいたんだ”という理由で①TU-2の次に配置。その後は“ほとんどのファズを通って、ディレイ、リバーブ、最後にSex Driveという順番が基本”という証言をもとに、最後は⑬〜⑮の接続順とする。
③Acid Fuzzer MKIはクリスチャンのイチオシのファズ・ペダル。今回はジェイクのボードに組み込まれていた。友人のブティック・ブランドが製作した⑥Muffin’ ManはBig Muffのクローン・ペダル。トーン・コントロールが豊かである点が実用的で、長年愛用している。また、ジェイクが“ボ・ディドリー的”と独特な表現をした、マグナトーンのトレモロを再現した⑤Maggieはクリスチャンも愛用しているペダルで、バンドにとってキーとなるサウンドと言えそうだ。
イコライザーの⑪GE-7(イコライザー)は、ES-335とジャズマスターを持ち換える際にアンプ側のボリュームを変えなくて済むように調整用として使用。音量を上げるよりも特定の周波帯を持ち上げることで音が抜けるようにしているそうだ。
ディレイ、ファズを組み合わせたペダル⑬Echo Dream 2は、ファズというよりもワイルドなディレイとして使っていると言い、接続順によってサウンドもガラッと変わるという。最後には、地元オースティンのブティック・ブランド、Durham Electronicsの⑮Sex Drive。フェンダーのブラックフェイス期のアンプ・シミュレータで、ボリューム/トーン/ゲインを操作できる仕様となっている。常に踏みっぱなしの状態にしており、ほぼプリアンプ的に使用しているそうだ。
ファズの帯域をフルで出すには
セレッションのLead 80が必要。
──クリスチャン・ブランド
アンプは何を愛用していますか?
CB 俺ら2人共、65年製のTwin Reverbのリイシュー・モデルを使っているよ。スプリングを増設して、かなり深めにリバーブがかかるように改造している。基本的にVIBRATOチャンネルしか使っていなくて、トレモロを使う時はツマミをフルにしているよ。
JG それからマーキュリー・マグネティックス(Mercury Magnetics)のリバーブ・トランスフォーマー(註:アンプの信号を変換してリバーブ・スプリングをドライブするパーツ)も使っているんだ。僕はリバーブとトーンに関するツマミはすべて5にして、ボリュームは3くらいにしているね。スピーカーはセレッションのLead 80をクリスチャンに薦められて以来ずっと使っているよ。
CB Big Muffみたいなファズを使い続けていたら、デフォルトで搭載されているJensenのスピーカーをダメにしてしまっていたんだよね。ファズ・サウンドの帯域をフルに出すためには、セレッションのLead 80のパワーが必要なんだ。
JG やっぱりヘッドルームがないとファズをしっかりと出すのには厳しくて、ツアーで毎晩ハードに使って壊しちゃってたんだ(笑)。ほかにも、レスリーのキャビネットや、ジミー・ペイジが初期のレッド・ツェッペリンのレコーディングで使用したSuproのThunderboltをけっこう使ったね。