SPiCYSOLのAKUNが語る、プラグインを使用したサウンド・メイクの可能性 SPiCYSOLのAKUNが語る、プラグインを使用したサウンド・メイクの可能性

SPiCYSOLのAKUNが語る、プラグインを使用した
サウンド・メイクの可能性

新作『SEASONS』をリリースしたSPiCYSOL。ギターの音数が最小限に抑えられているが、アンサンブルの中での存在感はこれまでよりも増しており、決してギターに対する“物足りなさ”を感じさせない1枚に仕上がっている。また本作は、ギタリストのAKUNによるDTMでの作業が大きな役割を担ったそうだ。そのサウンド・メイクの秘密や、今作に込められた想いをAKUNに聞かせてもらった。

取材/文=伊藤雅景 本人写真=きるけ。 機材写真=星野俊

“輪郭のある”ギター・サウンドを作れたんじゃないかな

AKUN(g)
AKUN(g)

前作『From the C』(2021年)と比べて、1つ1つのギター・フレーズの存在感が増しているような印象を受けました。何か意識したポイントはありましたか?

 前作よりも“ほかの楽器とのバランス”を考えながらギターの音色を作りました。今作は僕自身で、打ち込みのソフト音源を使ったシンセやベースを入れていることが多くて、ギターのフレーズを考えるのは最後になることが多かったんです。でも、そういった作り方をすることによって“ギター・サウンドで埋めていく”というよりも、“オケの隙間にギター・フレーズを差し込む”というスタイルで作曲を進めることができるようになりました。 

 逆に前作は、生の楽器で録音していたパートが多く、自分自身もほかの楽器のアレンジはあまり触らずに“ギター・フレーズを作って弾くだけ”の役割だった曲が多かったんです。そうすると、“もうちょっとギターの音を聴かせたかったのに、ほかの楽器の音色に被ってしまう”ようなパターンや、“ギターと歌と音域が被っていて、どちらかに帯域を譲らなきゃ”みたいな壁に当たることがあって……。

 なので、今回はギター・アレンジだけじゃなく、“なるべく自分でオケも作っていこう”となって。その結果、より曲が求めるフレーズを作れたし、前作よりも“輪郭のある”ギター・サウンドを作れたんじゃないかなと思います。

AKUN(g)
AKUN(g)

AKUNさんが主導してアレンジを作っていったんですね。

 自分1人で全体のオケを作った曲も、プロデューサーと一緒に考えた曲も、どちらもあるって感じですね。

そういった作り方の中で発見した新しいテクニックはありましたか?

 ローファイ・チックに聴かせるために、「Natural」のイントロの単音フレーズは、別録りしたオクターブ下のギター・フレーズを足してあるんですけど、それによって生まれた“普通じゃない感じ”はけっこう気に入っています。それは新しいチャレンジだったかも。

 あと、実は今作のエレキ・ギターの音色は、ほとんどLogicに入っていたプラグインだけで作っているんです。アンプで録ったのは「Bell」くらいかも。

 理由としては、ギターだけで良い感じに聴こえる音よりも、バンドに混ざった時に“ハマる”ギター・サウンドを目指したかったっていうのが大きいです。そこに一番近づきやすいやり方が、プラグインでサウンド・メイクを完結させるっていうことだったんです。

 プラグインだと、そのあたりの調整が凄く直感的にできるんですよね……。アンプで録っちゃうと、あとから“ここの帯域要らないな”ってなっちゃった時に、なかなか修正が難しいじゃないですか。それに、結局“良い音で録っても帯域削ったり手間が掛かるなら意味ないじゃん”って気持ちもあって。

 あと、スタジオでボーカルを録ったあとにラフミックスを家に持ち帰って、音源用に録ったボーカルに合わせてギターのアレンジや音色を再考できたりとか。そういった、アンプ・サウンドでは手が届かなかった部分の“詰め”がたくさんできたおかげで、どんな環境で聴かれても、オケや歌を邪魔しないのにギターが抜けてくる“埋もれないギター・サウンド”が作れたんだと思います。

プラグインでもアンプでも、聴いて気持ち良ければOK

今作のギター・サウンドの大部分がプラグインで作られていたというのは驚きです。

 そうですよね(笑)。シンセやベース用の有料プラグインは何個か持っているんですけど、ギターのプラグインはほとんど持っていなくて(笑)。それにインターフェースも携帯用のモデルを使っています。音源に収録されている音色もこれで録りましたよ!

AKUNが愛用するAPOGEE/Duet for iPad & Mac。
AKUNが愛用するAPOGEE/Duet for iPad & Mac。

まさに弘法筆を選ばずですね。

 DAW周りの機材にこだわりがなさ過ぎて、ギタマガ的にはあれかもしれないですね(笑)。

 でも、もちろんスタジオでアンプから出る音を良いマイクで録って……っていうのも大好きですよ。例えば、バンド・サウンドが全部生音で、シンセもちょっと鳴っている程度のバンド編成だったら、ちゃんとスタジオで録ったほうが良い物ができると思います。でも僕らはどちらかというと打ち込みやシンセを多用するので、その限りじゃないんですよね。

ちなみに、活躍したプラグインを教えてもらえますか?

 これですね。これは「Lens」のプロジェクトで、プリセット“Heavy Clean”をもとに作っていたものです(下画像参照)。

SPiCYSOL「Lens」のプロジェクト画面。
SPiCYSOL「Lens」のプロジェクト画面。

 基本的には、EQで変化をつけたり、マイクやキャビネットの組み合わせを変えてみたりっていうやり方で色々いじってました。でも、マイキングや機材の専門的な分野はあまり詳しくないですし、あくまで聴感上で良い感じになる音を探すっていう向き合い方をしていたので、かなりオリジナリティのある設定になっていると思います。

何かその手法に行き着いたキッカケがあったんですか?

 チャーリー・プースっていうシンガー・ソング・ライターがいるんですけど、彼は生活音を効果的に使ったり、コーヒー豆をシェイカー代わりにしたり、色んなアイディアを音楽にしているらしくて。海外の一流アーティストがそういった“何でもあり”なスタイルで楽曲を作っているんだから、僕も、お金をたくさんかけて良いスタジオで録るってことだけが正解じゃないなって結論に行き着いたんです。プラグインでもアンプでも、聴いて気持ち良ければOKっていう。

 それに、PCとインターフェースがあればどんな環境でも録音できるじゃないですか。1曲目の「Treasure」のメイン・リフとかは、知り合いのキャンピングカーにPCを持ち込んで録ったものなんですよ(笑)。

いずれキャンプ先でレコーディングをするなんてこともあるかもしれないですね(笑)。

 全然できちゃいますね(笑)。それこそ「Skyscraper」って曲は、長野のペンションに遊びに行ってる時に作った曲ですし。もちろん自分のスタジオに1日中籠って作曲をするっていうスタイルも憧れだし、カッコいいなと思います。例えば、半年くらい制作だけしてれば良いっていう期間がもらえて、いくらでも予算を掛けられる環境があれば、そういったスタジオ・ワークも試してみたいですけどね(笑)。

 でもSPiCYSOLの曲は、どちらかというと開放的な空間や、友達と遊んでる時とかに聴いてほしいと思っているので、作る側の環境も開放的になっていたほうが楽しげなフィーリングを出せるんじゃないかなと思っていて。今回はそっちのほうをさらにこだわったというか。そういった、どこででも作曲できるスタイルで制作できたのは凄く良い経験でした。

そういった情景やテンション感が楽曲からも伝わってきます。

 特に「LOUDER」のギター・ソロとかは、楽曲のテンション感をしっかり表現できたなって思います。この曲は“雨”がテーマなんですけど、たまたまレコーディングしてる時も天気が悪くてどんよりとした日だったんですよね。“ちょうどいいし録ってみるか”っていうくらいの気持ちでラフにプレイしたら、見事に曲にハマったという。このソロは“ライブ感覚”で伸び伸び弾けました。

僕にとってライブは“アナログなもの”だと思っています

サウンド・メイクについてもう少し聞かせて下さい。「Playback」、「CHASE」などで聴けるクランチのカッティング・サウンドは特に気持ち良いですね。

 これは家にあるナッシュ・ギターズ製のモデルを使い分けて録りました。僕はフロント・ピックアップが好きで、どのギターでもほとんどフロントの音しか使わないんです。挙げてくれた2曲は両方ともフロント・ピックアップのサウンドですね。

 あとは、ピッキングのニュアンスを変えてサウンドに表情をつけています。「CHASE」は、左手のミュート具合でモチモチ感を出したり、「Playback」ではナイル・ロジャースみたいなディスコ風のカッティングを意識して、パキパキと弾いてみたり。

 「Lens」とかは、エレキとアコギが同じプレイをしている瞬間が多いんですけど、ミックスで音域をしっかり分けているんです。同じフレーズを弾いていても、帯域を工夫すると立体感が生まれるんですよね。

 また、アコギもパーカッシブな要素を際立たせるために五円玉でピッキングをしていたり(笑)。それによって“ワルさ”や、ジャリっとする部分がちゃんと目立つようになって。金属っぽい音というか……。まあ、そんなの誰も気づかないと思うんですけど(笑)。でも、そういうちょっとした工夫をするだけで、かなりの立体感が生まれたなと思います。

独創的な音作りのアイデアがいたるところに盛り込まれていますね。

 そうですね。ただ、ギター的な視点で作っていきつつも、“その曲に合った音色”を作れるように意識しています。最終的にはドライのトラックと、僕がプラグインで作った音を書き出したウェットのトラックの両方をエンジニアさんに送って、“好きなほうを選んで下さい”みたいな感じでやりとりして作ったり。そういったコミュニケーションが取れたおかげで、理想のサウンドに近づけたっていう部分もありますね。

AKUN(g)
AKUN(g)

今月から新作『SEASONS』のツアーが始まります。最後にツアーへの意気込みを聞かせて下さい!

 今作は楽曲制作を自由気ままやってしまったので、メンバーと“この曲、どうやって再現する?”みたいに苦労してる最中です(笑)。でも、リハーサルやライブを重ねるにつれて答えが見えてくると思うし、ライブじゃないと聴けないアレンジやサウンドを聴けるのを楽しみにしててほしいです。

 僕にとってライブは“アナログなもの”だと思っているので、音源との差が楽しみというか。なので、僕らが“こんな風に生まれ変わったんだ”っていうところを聴かせられたらいいなと思ってますね。

LIVE INFORMATION

SPiCYSOL Tour 2022 “SEASONS”

【日時】
2022年11月12日(土)
・福岡スカラエスパシオ

2022年11月22日(火)
・愛知 名古屋CLUB QUATTRO

2022年12月09日(金)
・大阪バナナホール

2022年12月17日(土)
・北海道 札幌ペニーレーン24

2022年12月25日(日)
・神奈川 KT Zepp Yokohama

【チケット情報】
福岡/愛知/大阪/北海道公演:前売り ¥5,000 (ドリンク代別)
神奈川公演:前売り ¥5,500 (ドリンク代別)

※情報は記事公開時のものです。最新のチケット情報や公演詳細はSPiCYSOLの公式HPをチェック!

SPiCYSOL公式HP
https://spicysol.com/

作品データ

『SEASONS』
SPiCYSOL

『SEASONS』
SPiCYSOL

ワーナー/WPZL-32016~7/2022年10月26日リリース

―Track List―

01.Treasure
02.Skyscraper
03.Playback
04.LOUDER
05.CHASE
06.Natural
07.Lens
08.Bell
09.Holy Night
10.Far Away

―Guitarist―

AKUN