魚頭圭に聞く、新バンドCONGRATULATIONS〜ギター・サウンドへの飽くなき探究心 魚頭圭に聞く、新バンドCONGRATULATIONS〜ギター・サウンドへの飽くなき探究心

魚頭圭に聞く、新バンドCONGRATULATIONS
〜ギター・サウンドへの飽くなき探究心

国内ハードコアの伝説的バンドであるThere Is A Light That Never Goes Outのギタリストとして活躍、その後に結成したZ、AS MEIAS、OSRUMなどのバンドを経て、現在はFIXEDで活動する魚頭圭(g)。彼が、FLUIDの貝本菜穂(vo、b)、POWERやXALUで活動する根本歩(d)と新バンド、CONGRATULATIONSを結成し、記念すべき1st EP『CONGRATULATIONS』を完成させた。

辻友貴(cinema staff)が主宰するLIKE A FOOL RECORDSから10インチのアナログ盤でリリースされた1枚で、ギターはアルペジオを軸にメランコリックでダークな世界観を描き出している。バンドの中心人物である魚頭に作品制作について話を聞いた。

取材:尾藤雅哉(ソウ・スウィート・パブリッシング) 撮影=星野俊

熱過ぎず、冷た過ぎず、エモ過ぎず
演奏者の“人となり”が出ていればそれでいい

まずは、新バンドを結成するに至った経緯から教えて下さい。

 FIXEDではかなり激しめの音楽をやっているんですけど、その一方で“メランコリックでメロディアスなギター・ロックをやりたい”という思いもあって。そんな話をナホ(貝本菜穂)に相談したら、彼女も乗り気になってくれて、一緒にやることになりました。コロナ禍で活動が止まってしまってもおかしくない時期だったけど、曲を作ってライブや音源の準備をしていましたね。

 ナホとは、もともとバンド界隈の顔見知りって感じだったんですよ。彼女は京都でFLUIDというバンドのギター・ボーカルをやっていて。僕が彼女の使っているギターをメンテ(※編注:魚頭は様々なアーティストの機材の調整やメインテナンスなどを手がけている)した時に色んな話をしたんですけど、そのやりとり中でUnwoundやBlonde Redheadなど、好きなバンドが一緒だというのがわかって意気投合したんです。

貝本さんは、どのような魅力を持ったミュージシャンですか?

 自分が表現したい歌の世界観を持っているし、カッコいい立ち姿にも惹かれますね。CONGRATULATIONSでは、FLUIDでやっているような尖った音楽表現だけでなく、彼女が心の内に秘めている色んな感情を曲に落とし込んだら良いものができるんじゃないかな、と思っていましたね。

ドラムは、Zで一緒に活動していた根本歩さんです。

 Zで歩は途中でバンドを抜けてしまったんですけど、辞めたあとも友達として付き合いが続いていて。バンド仲間として“また一緒にやれたらいいな”って思いが少なからずあったし、以前、“いつか女性ボーカルのバンドをやってみたい”という話もしていたので声をかけました。僕やナホと好きな音楽の趣味も似ていましたしね。

歩さんは、どのようなドラマーですか?

 とにかく真面目で、悩みながらも真摯に音楽と向き合うタイプですね。ただライブになると急にスイッチが入って、ステージで破綻していく感じが面白い。たまに信じられないくらい怖い顔をしながらドラムを叩いている時がありますから(笑)。

 あとナホも歩も良いと思うことを素直に伝えてくれるから曲を作る側としてはありがたいです。なんも反応がないよりやる気が出ます(笑)。

魚頭圭(g)

今回の作品『CONGRATULATIONS』は、4曲入りの10インチ・アナログ盤でのリリースです。このような形になった理由は?

 このバンドで最初に作ったのが「BOYS BE」と「25」なんですけど、この2曲のアレンジができあがった頃に、なんとなく“EPで音源を出したい”と思うようになって。

 ただ、お互いに住んでいる場所が離れていることもあって、音を出しながら一緒に曲を作れる機会が少ない。その分、とにかく早く完成した音源を形にして、ライブをやりながらバンドを動かしていこうと思ったんです。アルバムが完成するまで待っていたら、いつまで経っても活動できないんじゃないかなって。

貝本さんの活動拠点は京都ですが、曲はどのように作り込んでいったのですか?

 ナホに東京まで来てもらったり、僕が京都へ行って一緒にスタジオに入ったりしながら作りました。歌メロはナホに任せて、僕はオケを作るような感じで。それらをスタジオでまとめていくような作業でしたね。

 データのやりとりで作れたらいいなとは思うけど、まったくやる気にならない(笑)。やれたら良いだろうなとは思うんだけど……バンドでスタジオに入って、一緒に音を出して曲を作っていくようなやり方に慣れているだけかもしれないですね。

どんな作品にしようと考えていましたか?

 コンセプトがあるとしたら……熱過ぎず、冷た過ぎず、エモ過ぎず……演奏している人間の“人となり”が楽曲に出ていればそれでいいと思っていました。

 ぶっきら棒にやりたいわけでも、無機質なものを目指してるわけでもないんだけど、3人それぞれ物事を真っ直ぐに受け取らないで斜に構えてしまうような性格なので、そういう感じが音にも出ているように思います。明るい曲や暗い曲を無理やり作ろうとは思っていなかったので、自然とこうなっていった感じですね。

これまでのバンドでは独自の変則チューニングやドロップ・チューニングを多用していましたが、今回はレギュラー・チューニングを採用していますね。

 普段はギター・ボーカルのナホが、このバンドではベースを弾きながら歌うことになったことが一番大きな理由ですね。ベースに関しては初心者だから、彼女がやりやすいようにレギュラー・チューニングで曲を作っていきました。

ギターは、全体的に軽く歪んだクランチ気味のサウンドで、右手のタッチの強弱でサウンドにグラデーションをつけているような印象を受けました。

 そうですね。このバンドでは、“ナホが歌える音量で弾く”ことが前提だったので、“ギターを爆音で鳴らさない”というところは、作曲に影響していると思います。なのでレコーディングの時は音量を抑えつつ、全体的にアルペジオを多めにしたり、歌のバックでは少し弱く弾いたり……そういう強弱のダイナミクスやアンサンブルの中の隙間の作り方などは意識していました。

なるほど。「BOYS BE」は、そのこだわりが顕著に表われた楽曲だと思います。

 たしかにそうですね。最初は、クランチとクリーンの音をペダルで切り替えてみたりもしたんですけど、自分が思い描く音のグラデーションがなかなかうまく作れなかったので、キレイにアルペジオが鳴るパートと、音が潰れてほしい箇所を、それぞれ手元のタッチの強弱で表現しています。

この曲では、開放弦を生かしたアルペジオのフレーズもアクセントになっています。

 フレーズの中に開放弦の残響音を取り入れるパターンは多用していますね。開放弦は昔から好きなんですよ。鳴らした音が空気の中に残ってくれるというのは、凄く大事な要素なんです。

あとは、効果的なアーミングも耳に残りました。

 感覚でやってる感じなんだけど、ビグスビーやJazzmasterのアームのように“少し遅れてくる”タイプのほうが、自分の気持ちを表現しやすいのかな、と思っています。

ちなみに、魚頭さんが演奏する時にガイドにしている音はなんですか?

 ドラムは当然ですが、歌も常に聴いてます。このバンドはBPMがそんなに速くないので、ほかの楽器をちゃんと聴いておかないとアンサンブルがズレて気持ち悪くなってしまう。

 表現としては歌う人がBPMどおりにやる人なのか、それとも自分の中にあるグルーヴを軸にする人なのかでアプローチは変わるんだけど、ナホは自分の中にノリがある人だから、そこにリフやフレーズが寄り添うように心がけていますね。

魚頭圭(g)

これからも自分のギターをできるだけ発信し続けていきたい

ギターの音作りでこだわったポイントは?

 さっき話したように、このバンドでは“爆音じゃない状態で良い音を作りたい”と思っていて。わりとデカい音を出すイメージがあると思うけど、“小さな音でも良い音出せますよ”みたいな(笑)。

 やっぱりナホの歌があるので、そこに対してギターが出せる音量って、ある程度決まってくるじゃないですか。なので、その中でどこまでギターの音に“張り”を持たせられるか?という部分にはこだわりましたね。その際、市販のペダルだとどうしても表現できない部分が出てきてしまうので、自分で作った物を使っています。

 ブースター、ロー・ゲイン、ハイ・ゲインの3モデルがあるんですけど、それらを曲によって使い分けていて。今回だと「25」の最後に出てくるフレーズでハイ・ゲイン・タイプを使いました。FET(トランジスタ)の動作が真空管アンプに似ているので、ゲインの音が作りやすいんですよね。

なるほど。レコーディングで使用した機材について教えて下さい。ギターは何を使いましたか?

 ギターは、Gibson SG、Firebird、P-90の載ったLes Paul Custom、Epiphone Rivieraかな。自分のギター・サウンドの基準になっているのがSGなんですよ。SGの音を基準に、Les Paul Custom(P-90)やFB(ミニハム)を曲ごとに使い分けるような感覚がありますね。

アンプやエフェクターは?

 アンプはMarshallのBluesbreakerを基本にしつつ、JTM45やSELMERといった出力が50W以下のモデルを中心に使いました。エフェクターは基本的にかけ録りで、歪みに関してはさっき話した自作のオーバードライブやParkの青いファズ(Fuzz Sound)などですね。空間形でキモになったのは、StrymonのFLINT(トレモロ&リバーブ)、MXRのANALOG DELAYですね。あとBinsonのECHORECは「25」や「BOYS BE」で使用しました。

魚頭がCONGRATULATIONSの際に使用するペダル類。
魚頭がCONGRATULATIONSのライブで使用するペダル類。接続順は番号順で、①UOZ 3SD1(ハイ・ゲイン)、②UOZ BOD01(ロー・ゲイン)、③UOZ BB01(ブースター)、④自作チャンネル・セレクター、⑤strymon FLINT(トレモロ&リバーブ)、⑥MXR analog delay(ディレイ)。④のセレクターで出力先を振り分けている。
BinsonのECHOREC 2°(エコー)
『CONGRATULATIONS』のレコーディングでも使用した、BinsonのECHOREC 2°(エコー)。

今作で、魚頭さんがチャレンジしたのはどんなことですか?

 距離の離れたメンバーと一緒に新しいバンドをやることも、ここまで中音が小さいバンドをやることも初めてで。振り返ると、すべてがチャレンジだったように思います。特に“音が小さくても心地いい音楽を表現したい”という気持ちは強かったですね。

改めて、CONGRATULATIONSの今後について聞かせて下さい。

 今回のEPのツアーが来年3月に終わったら、新曲をレコーディングをしようと思っています。2023年の夏までに4~5曲録音して、来年のうちにリリースができたらいいかな。

 そのあとに半年くらいかけて、ツアーで全国を周っていく。やっぱりライブをたくさんやりたいんです。結局、自分が一番やりたいことはライブなんですよね。なので、そのサイクルで活動できれば、自分の人生はずっと幸せなんじゃないかな(笑)。

ギタリストや表現者として、魚頭さんが目指す将来像は?

 自分と同じような音を出すギタリストはあまりいない気がするんですよね。なので、これからも自分のギターをできるだけ発信し続けていきたいと思っています。ライブでも作品でもSNSでも、形は何でもいいんだけど、“こんなギターの音がある”というのを、とにかくたくさん残したいなと。

 あとは、自分が一番やりたいことでもあるバンド活動を、熱意のある限りこれからも続けていきたい。いろんなギターやアンプを買って、良い音を出して、ツアーもやる。これからも好きなことを追求していきたいと思っています。

LIVE INFORMATION

Schedule

2022年11月26日(土)/名古屋HUCK FINN
2023年1月14日(土)/郡山PEAK ACTION
2023年3月18日(土)/札幌SOUND CRUE

Information

Total Info:uozukei@gmail.com
Twitter::@uozukei
Instagram:@keiuozu

作品データ

CONGRATULATIONS
CONGRATULATIONS

LIKE A FOOL RECORDS/LFR-021(10inch)/2022年8月3日リリース

―Track List―

01. 25
02. End of the other world
03. 時代
04. BOYS BE

―Guitarist―

魚頭圭