佐藤タイジが語るComplianSの音楽 KenKenとの超強力ファンク・グルーヴの真髄に迫る 佐藤タイジが語るComplianSの音楽 KenKenとの超強力ファンク・グルーヴの真髄に迫る

佐藤タイジが語るComplianSの音楽 
KenKenとの超強力ファンク・グルーヴの真髄に迫る

日本を代表するロック・ミュージシャンの佐藤タイジと、ベース・ヒーローであるKenKenによって結成された注目のバンド、ComplianS(読み:コンプライアンス)。彼らが記念すべき1stアルバム『GLOBAL COMPLIANCE』を完成させた。作品には、聴き手の心も体も踊らせるグルーヴィなナンバーを多数収録。アコースティック・ギターをファズで歪ませるなど、自由な発想で楽曲を躍動させる佐藤タイジに作品制作を振り返ってもらった。

取材:尾藤雅哉(ソウ・スウィート・パブリッシング) 写真:chyori

J-200で鳴らすファズ・サウンドはちょっと衝撃でしょ?
自分でも気に入ってるんです

まずはバンド結成に至る経緯から教えて下さい。

 KenKenとはもう長い付き合いなんだけど、2019年にリリースした自分のソロ・アルバム『My Hero』を作る時に、ベースとドラムをお願いしたのがバンド結成の大きなきっかけだったかな。そのレコーディングが終わったあと、あいつがお縄になって、それまでやっていたバンドもなくなったりして。それでスケジュールがポッカリと空いてしまっていたので、俺のソロ・ツアーに誘ったんですよ。

 で、一緒にライブをやってみたら非常に調子が良いもんだから“これバンドにしちゃおうぜ”って感じになり、“俺たち2人のユニットだったら、名前は“コンプライアンス”だよね(笑)”みたいな流れで決まりました。色んな意味で、我々が“ComplianS”って名前で活動するのは、とても気に入ってるんです。ジョークや伝えたいメッセージ性などを含めて、聴き手に色んな余地を感じてもらえるので。

ComplianS。佐藤タイジ(左/vo,g)、KenKen(vo,b,perc)
ComplianS。佐藤タイジ(左/vo,g)、KenKen(vo,b,perc)

改めて、相棒であるKenKenさんの魅力について聞かせて下さい。

 本当に素晴らしいミュージシャン。リズムに対して誰よりも正確にプレイできるので、あえて突っ込んだりタメたりして、グルーヴをコントロールできるんです。一緒にライブをやっていると、そういう“凄み”を感じる場面はとても多いですね。

 演奏に対する経験値が桁違いに高いから、音楽に対する理解度が本当に深いんです。加えてKenKenも俺も、楽器と人間が完全に一体化しているようなタイプのプレイヤーなので、演奏自体が会話になっているんですよね。人間同士のグルーヴも合っているから、一緒に演奏するのが物凄く楽しいんですよ。

YouTubeではライブの模様を観ることもできますが、デュオという最小編成のバンドとは思えないほど表情豊かなアンサンブルも魅力です。

 ライブでは、KenKenがHandSonicというデジタル・パーカッションを使ってビートを作り、しかもベースも弾くというスタイルでやっているんですけど、おそらく目を閉じて音だけ聴いていたら大所帯のバンドが演奏しているように感じると思います。それくらい2人だけでいろんなことをやっていますね。

 ツアーも、俺とKenKenとスタッフの3人だけでまわっているんだけど、このフットワークの軽さもComplianSの魅力だと思うんだよね。このバンドだったら、世界中のどこへでも気軽に行ける可能性を感じていて。俺たちが鳴らすファンクやロックが好きな人って、海外にもたくさんいると思うので、とにかく今は日本人が誰も行ったことのないような遠くの街で演奏してみたいです。

記念すべき1stアルバムですが、どんな作品にしようとイメージしていましたか?

 “KenKenとタイジでファンクをやる”っていうのがテーマの1つでした。そのうえで聴いた人が楽しく踊れる音楽というイメージを持っていましたね。

 自分が思い描く発想やアイディアをマックスぶち込んで作ったので、ライブでの再現性に関しては何も考えてなくて。曲が完成したあとになって“さて、どう表現しようか?”って感じだったんですけど、最近のライブでは毎回どの会場でもみんな笑顔で踊ってくれるんですよ。そういう意味では、僕らの意図が正しく伝わっていると感じますし、これはもう大成功だなって思っています。

「Funky Compliance」では、アコースティック・ギターのギブソンJ-200をファズで歪ませるなど、自由奔放なギター・プレイがカッコ良かったです。

 俺としては“アコースティックだから、ファズ踏んじゃいけない”って風に考えていないんですよ(笑)。常に自分の表現に対して制約をしないで、自由にやっていこうと思っています。にしても、J-200で鳴らすファズ・サウンドはちょっと衝撃でしょ? 自分でも気に入ってるんです(笑)。

 アコギにファズをかました音って凄く独特で……アコギにDIをつないでラインで出力した音にファズをかけているんですけど、ちょっと管楽器みたいな雰囲気が出るんですよね。いわゆるザ・ローリング・ストーンズの「(I Can’t Get No) Satisfaction」のリフみたいな感じ。他では得られないサウンドなんですよね。

 実は、アコースティック・ギターを歪ませるきっかけになったのがベン・ハーパーなんですよ。たしか2000年くらいに彼のライブを観たんですけど、ワイゼンボーンをもの凄い歪ませて弾いていて……それが無茶苦茶カッコ良かったんです。それと同時に、もの凄く悔しかった。“あれは俺がやっているはずだったのに! やられた!”って気持ちでしたね。その悔しさのリベンジみたいな感じでもあるのかな。

佐藤タイジ
佐藤タイジ

ビートの中の“1”を共有することが
グルーヴの基本だと思う

アルバムを制作していて、手応えを感じた曲は?

 「Funky Messiah」ができた時は、“うぉしゃー、これカッコ良い!”みたいな感じで盛り上がったのを覚えてますね。

様々な楽器が入り乱れてグルーヴするファンク・ナンバーですが、どのように作り込んでいったんですか?

 ほかの曲も同じなんですが、まずは自宅でMPCを使ってベーシック・トラックを作り、それをもとにKenKenと“ああでもねえ”、“こうでもねえ”って意見交換をしながら作り込んでいく感じですね。その中で“やっぱりホーン・セクションとか入れちゃう?”みたいなアイディアが出てきたり。

頭の中で鳴っちゃってる音をどんどん入れていく感じなんですね。

 そうそう。例えば、今回だとボコーダー・ボイスをわりと多く使っているんですけど、入っているとファンキーに聴こえる感覚があって。なので曲を作る時に“やっとかなきゃ!”って感じで入れてみたりしましたね。

思いついたアイディアをどんどん加えていく姿勢が、良い方向に働いているんですね。

 そうですね。そもそもComplianSには、ブレーキを踏むっていう概念がない(笑)。思う存分、やりたいことをやっている感じですね。

なるほど。バンドにおいて何か決まり事はあるんですか?

 KenKenと俺の共通認識で一番デカいのが……いわゆる“1”です。“ワン!”、トゥー、スリー、フォー、“ワン!”……これですね。この“1”を強く意識しないとダメなんですよ。そうやってビートの中の“1”を共有することがグルーヴの基本だと思います。そこを曖昧にすると、誰も踊れなくなるんですよね。

 ジェームス・ジェマーソン(b)も“演奏している全員の1がバシッと決まると、黒人のお姉ちゃんの大きなお尻がブリンブリンと踊り出す”って言っているじゃないですか。あれですよ。KenKenとは19歳も年が離れているけど、お互いに同じ熱量で“1”を認識しているから、グルーヴに対する足並みの揃い方はバッチリだと思います。

アルバムには、「I Would Die 4 U」(プリンス)と「Behind The Mask」(YMO)というカバー・ナンバーも収録されています。

 ライブでは、もっとたくさんレパートリーがあって。例えば、「In Time」(スライ&ザ・ファミリーストーン)や「Every Little Step」(ボビー・ブラウン)、ビル・ウィザースとか。かまやつひろしさんの「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」は、もうKenKenの定番曲になりましたね。なので、そういうカバーを集めたアルバムだったらすぐにでも出せそうですね。

数あるレパートリーから、プリンスとYMOを選んだ理由は?

 知ってる人が多い有名な曲なので、僕らのことを知ってもらう入り口としてはいいのかなって。あとはライブで何度もやってきた曲だから、演奏の精度がかなり高かったんですよ。なので、ほとんどワンテイクで録れちゃいました。

 特に「I Would Die 4 U」で聴けるフィードバックが凄く気に入っていて。ギターの角度を調整しながらフィードバックのピッチをコントロールしつつ、そこにディレイを加えて作ったんですけど、アンプ・シミュレーターでは絶対に出せない音なんですよね。

レコーディングで使用した機材について教えて下さい。

 アコースティック・ギターは、ライブでもメインで使っているギブソンのJ-200で、エレキはいつも使っているレス・ポールですね。「Party People」や「Sun Is There」では、ヤイリのガット・ギターを使いました。アンプは、ブギーです。メサってついてない時代のモデル。ファズは、ハンドメイドの“ト音ベンダー”(※ローディの一杉康次氏が自作したペダル)を使いました。アコギにかけてもそこまでハウリングしないので、とてもコントロールしやすいんですよ。ディレイに関しては、ボスのDD-5が多かったかな。

ComplianSでの今後の表現の可能性について教えて下さい。

 最初にも言いましたけど、デュオという最小のバンド編成でここまで表情豊かな表現ができるってことが実証されたので、俺としては早く海外でライブがやりたいですね。アメリカやヨーロッパだけでなく、南米やアフリカ、アジアとか……日本人の音楽なんか聴いたことないよって人のところへ行って、最高の音楽を鳴らして一緒に踊りたい。ComplianSは、それができるバンドだと思う。

 もちろん大都会で何万人もの観客の前でドカーン!とやってみたいけど……今の俺としては最少人数で凄い遠いところまでライブをやりに行けることのほうがおもしろそうだなって思っちゃう。見たことない景色の場所で、初めて出会った奴を相手にウワーッて盛り上がるほうが楽しそうじゃない?(笑) ComplianSをやっていると色んな部分が刺激されるので、これからもワクワクしたいですね。

最後に、アルバム制作を振り返って一言お願いします。

 最初に思い描いていたのが“KenKenとファンクをやりたい”ってことだったんですけど、ちゃんとイメージしたとおり“KenKenとタイジがファンクをやるとこうなるよね”っていう作品が作れたと思う。そういう意味では、ComplianSの名刺代わりの1枚としてパーフェクトな作品ですね。ぜひライブを観にきてもらって、みんなで踊ってほしいです。

 俺としては、ComplianSの表現には、凄い伸び代があると思うので、もっともっと面白くしたいんですよ。マジで日本人の枠を超えたところで音楽をやっているから、音楽好きだけじゃなくて、いろんな人に俺らのやっていることを見てほしいですね。

作品データ

『GLOBAL COMPLIANCE』
ComplianS

The One Recordings/ZRCS-01/2022年9月23日リリース

―Track List―

  1. Funky Messiah
  2. Tomplians
  3. Funky Compliance
  4. I Would Die 4 U
  5. コテンパンのバラード
  6. Zomeke
  7. Here We Are
  8. Behind The Mask
  9. Sun Is There
  10. Party People

―Guitarist―

佐藤タイジ