時代を描くフォーク・オーケストラ=ROTH BART BARONが、約1年ぶりとなるニュー・アルバム『HOWL』を完成させた。“吠える”、“遠吠え”を意味するタイトルには、“音楽に身体性を宿していきたい”という想いが込められているという。バンドの中心人物である三船雅也(vo、g)と、今やRBBのアンサンブルに欠かすことのできないギタリストである岡田拓郎(g)の2人に、作品制作を振り返ってもらった。
取材・文:尾藤雅哉(ソウ・スウィート・パブリッシング)
色んな人から“一緒にやろうよ”って声をかけてもらう機会も増えて──三船雅也
アルバム制作は、どのように進めていきましたか?
三船雅也 曲を作り始めたのは、前作(『無限のHAKU』)のツアーが始まった2022年の初頭くらいですね。最初は年始の静かな東京でポツポツと曲を作り始めて、3~4月頃には西池(達也/k)さんや工藤(明/d)君とかと一緒に合宿しながら曲決めしていって、だいぶ固まってきた頃、岡田君たちにもシェアしていきました。
岡田拓郎 アルバムのレコーディングは5~6月くらいだったんですけど、一緒にツアーを回っている2~3月頃の段階で、リハーサルの合間に新しい曲にトライしていました。
三船 そうそう。というのも、ありがたいことにJR東日本のCMのために書き下ろした「KAZE」や、つくばみらい市のシティ・プロジェクトのテーマ曲である「MIRAI」のように、色んな人から“一緒にやろうよ”って声をかけてもらう機会も増えて。前作『無限のHAKU』のツアーと今回の作品制作が併走していた感じでした。
この時期は、完成した音源をステージで表現していく作業と、新しい音楽を作っていくという、ベクトルの異なるクリエイティブを同時にやっていたので、それがちょっと大変ではありましたけど……凄く楽しかったですね。
岡田さんが新曲のデモを聴いた時の印象は?
岡田 『無限のHAKU』は、“パンデミックで誰もいない東京”のように静かなムードが漂うアルバムだったけど、新曲は“もっと開かれた”感じがしました。ちょうど世の中も自粛から次の段階へ動き出しつつありましたし、徐々にライブもできるようになってきたタイミングだったので、生まれてくる音楽も自然とそういうムードになっていたのかなと感じましたね。
やっぱり、いつでも心にジョージ・ハリスンです(笑)──岡田拓郎
どのような作品にしたいとイメージしていましたか?
三船 “吠える”とか“遠吠え”がテーマでした。コロナ禍で色んなものがリモートになってしまった中、もう一度、音楽に身体性を宿していきたいと思っていて。2022年の5月にカート劇場(KAAT 神奈川芸術劇場)で“HOWL SESSION”というライブをやったんですけど、それはこれまでライフワーク的にやってきた色んなセッションの集大成みたいな感じだったんです。
ステージの上で起こる瞬間の反応の連続によって作り上げていった音のように、動物的な勘と嗅覚を使って、本能と体で音楽を作ってみようと考えていました。
話に出た「MIRAI」は、独特な音階のリフが耳に残りました。フレーズはどのように作っていったのですか?
岡田 一応、ペンタトニック・スケールなんですよ。音の飛び方を変えるとアブストラクトっぽく聴こえるというか。
三船 “つくばみらい市(茨城県)をプロモーションするための音楽を作ってほしい”というお話をいただいて。それを受けて僕からは、“学校の外側をまだ知らない若い世代の子たちと一緒に音楽を作りたい”とお願いしたところ、地元の中高生の吹奏楽部の皆さんと一緒にやることが実現したんです。
その吹奏楽のサウンドをサンプリングして、ビートメイクのようにフレーズをチョップしながら作っていったら、あの幾何学的なリフが生まれました。
それを譜面に起こして、管楽器とギターでなぞって作り上げていく感じでしたね。まったく違う視点からギターのフレーズが生まれていったのが、自分の中でも面白い発見でした。
「MIRAI」では、歌うようなスライド・ギターのソロも印象的です。
岡田 やっぱり、いつでも心にジョージ・ハリスンです(笑)。
三船 凄く勢いのある素敵なテイクが録れましたね。フレーズが耳に残るし、ちゃんと歌える。“歌えるソロ”って、本当に良いなと思います。
岡田 このソロは指で弾きました。使ったのは古いリージェント製のギターです。
ほかの楽曲のギターのフレーズはどのように作り込んでいったのですか?
岡田 いつもはベーシック録音の時にギターもまとめて録るんですけど、今回はセッションをしながら作っていって、ある程度アンサンブルを組み上げてからギターを録る感じだったので……けっこう悩みました。
僕は『HEX』の時から5つの作品に参加させてもらっているんですけど、三船君の音楽は、サウンド・プロダクションの面でも常に新しいトライをし続けているから、今回のようにセッションを中心にやっていくと、パッといいアイディアが出てこない感じがしたので……ベーシック録音の途中で、一度帰ったんです。これは一度、頭を落ち着けたほうがいいなって思って(笑)。
「HOWL」、「月に吠える」、「糸の惑星」、「場所たち」などは、管楽器やストリングスとの絡み方を考えながらプレイしたかったんですよね。
三船 そうだね。セッションで録ってみて良いのもあったけど、“作り込むところは作り込みたいから、持ち帰って家のスタジオで作らせて下さい”ってことがありましたね。
「KAZE」で聴けるアコースティック・ギターは、金物の打楽器的なアプローチで鳴らされているようにも感じました。
三船 このパートは、いつも使っているギブソンのJ-200ではなく、古いパーラー・ギターを使って、ちょっと金属的な鳴りを加えてみました。
アコギの使い方に関しては、色んな手法にトライしましたね。ブリッジに板状のゴムを挟んで消音させたり、マイキングに関しても、シュアーのSM57をサウンド・ホールの中に直接入れて録ってみたり。個人的な趣味かもしれませんが、色んなことをやりましたね。
三船君のギター・ソロは凄く好きなので、どんどん弾いてほしいです──岡田拓郎
今回の作品制作におけるハイライトは?
岡田 三船君がデモで弾いているギター・ソロがとても素晴らしいんですよ。「Ghost Hunt (Tunnel)」や「赤と青」のソロが特に好きで、間(マ)の取り方が上手いんです。本当に曲にマッチしていました。三船君のギター・ソロは凄く好きなので、どんどん弾いてほしいです。
三船 頑張ります(笑)。「赤と青」の間奏は、僕が雰囲気を探りながら弾いたアイディアの1つなんですけど、みんなの印象に残っていたみたいで……。自分としては採用する気はまったくなかったんですけど、凄くみんなが褒めてくれたんです。そうやって気づかせてもらうことも多かったですね。
逆に、三船さんから見た岡田さんのギター・プレイのハイライトは?
三船 「MIRAI」の突き抜けるようなスライド・ギターは凄く好きですね。ほかには「糸の惑星」での“次は何の音が鳴るんだろう?”っていうヒリヒリ感は、何度聴いてもドキッとさせられます。
あと「髑髏と花(дети)」の、ランダムにトレモロがかかったダークなフレーズは、アメリカの中西部に建てられた埃っぽい平屋の家から聴こえてくる質感があって……こういうムードを音で表現できるのって本当に素晴らしいなって思いました。
ミックスで改めて聴き直した時にも、また感動できる音って……ギターと向き合ってきた時間が凄くかけがえのないものだったんだな、岡田君はこういうふうに生きてきたんだなってことを感じられて、凄く嬉しくなるんです。今回のアルバムには、そういうキラキラした宝石がたくさん入っていますね。
作品制作に使用した機材について教えて下さい。ギターは?
三船 僕は“三船スペシャル”と呼んでいるんですが、アメリカのBILT GUITARSにオーダー・メイドしてもらったたオリジナル・ギターをメインで使いました。
ジャズマスターのような形なんですけど、温かみのある音が欲しかったのでホロウ・ボディにして、さらにイギリスのピックアップ・ブランドが出しているハムバッカー仕様のゴールド・フォイルを取り付けたギターです。自分にとって理想的なエレクトリック・ギターを作ってみました。
岡田 アイディアがなかなか出てこない時はギターを替えて弾いたりしていたので、自宅にあるギターはだいたい使った気がします。ゴールド・フォイルを載せたストラトやギブソンのメロディメーカーなんかはよく使いましたね。意外と活躍したのが、なんの改造もしていないストラト。よくできた楽器だなって思いました。
ギター以外で活躍した機材は?
岡田 Chase BlissのMOOD(グラニュラー/マイクロルーパー/ディレイ)は、リバーブやディレイ、ワーミーと組み合わせて使ったりしましたね。ほかにも、Chase BlissのGravitasというトレモロは、エクスプレッション・ペダルでリアルタイムにRateを変えながら弾いたりもしています。
制作を振り返って、それぞれ一言お願いします。
岡田 “今までの作品の中で一番完成されたアルバムだな”と感じています。 これまでロットでやってきたメンバーの良いところが出た作品になったと思いますね。
三船 個人的には、ギターをたくさん弾くことができたので楽しかったです。もう子供みたいな感想ですけど(笑)。ここまで世界観が大きく広がるような楽曲をギターで作ることができて嬉しかった。
自分がポロンと弦を弾かなかったら生まれてこなかった曲たちですからね。そうやって楽器に導かれて生まれてきた楽曲が『HOWL』という作品を彩ってくれたと感じています。曲ができたあとに心がドキドキする感覚や、6本の弦で表現できることの楽しさを余計に感じましたね。
ライブが楽しみですね。
三船 最近はライブが凄く楽しくて。残りのツアーも、“ギターと共に駆け抜けていきたいな”と思っています。ぜひ僕と岡田君のギター・アンサンブルを、身体全体で聴きに来てもらえたら嬉しいですね。
LIVE INFORMATION
ROTH BART BARON『HOWL』Tour 2022-2023
- 2023年2月12日(日)/愛知・名古屋 THE BOTTOM LINE
- 2023年2月18日(土)/京都 磔磔
- 2023年2月19日(日)/大阪 心斎橋 BIGCAT
- 2023年2月23日(木)/宮城 仙台 darwin
- 2023年2月25日(土)/北海道 札幌 モエレ沼公園 ガラスのピラミッド
- 2023年2月26日(日)/北海道 札幌 PENNYLANE24
- 2023年3月3日(金)/福岡 BEAT STATION
- 2023年3月4日(土)/広島 CLUB QUATTRO
- 2023年3月10日(金)/東京 昭和女子大学 “人見記念講堂”
※2月12日〜3月4日公演まではバンド編成、3月10日公演はフル編成での演奏を予定。
チケット:https://linktr.ee/rothbartbaron
※情報は記事公開時のものです。最新のチケット情報や公演詳細はROTH BART BARONの公式HPをチェック!
ROTH BART BARON公式HP
https://www.rothbartbaron.com/
作品データ
『HOWL』
ROTH BART BARON
SPACE SHOWER MUSIC/PECF-1194/2022年11月9日リリース
―Track List―
- 月に吠える
- KAZE
- 糸の惑星
- 赤と青
- HOWL
- ONI
- Ghost Hunt(Tunnel)
- 場所たち
- 陽炎 | HAZE
- MIRAI
- 髑髏と花(дети)
―Guitarists―
三船雅也、岡田拓郎