go!go!vanillasの牧達弥&柳沢進太郎が、新作『FLOWERS』で新たに取り入れた音楽的要素を明かす! go!go!vanillasの牧達弥&柳沢進太郎が、新作『FLOWERS』で新たに取り入れた音楽的要素を明かす!

go!go!vanillasの牧達弥&柳沢進太郎が、
新作『FLOWERS』で新たに取り入れた音楽的要素を明かす!

華やかなロックンロール・サウンドで全国各地に熱狂を巻き起こしているgo!go!vanillasが、6枚目となるアルバム『FLOWERS』を完成させた。手島宏夢(fiddle)、ファンファン(tp)、井上惇志(k)という3人のゲスト・プレイヤーを迎えて制作された1枚で、カントリーやアイリッシュ音楽の要素を大胆に取り入れた、表情豊かな楽曲が並ぶ作品に仕上げられている。バンドのフロントマンである牧達弥(vo,g)と、ギタリストの柳沢進太郎(g)に、アルバム制作をふり返ってもらった。

インタビュー=尾藤雅哉 写真=渡邉一生、西槇太一

自分の中で“カントリー・ギターを弾いてみたい!”って気持ちがどんどん大きくなっていった
──柳沢進太郎

柳沢進太郎(写真=渡邉一生)
柳沢進太郎(写真=渡邉一生)

6枚目となるアルバムですが、作品制作はどのように進められたんですか?

 今回のアルバムのギターは、ほとんどラインで録りました。VOXのAC50やハイワット、SHINOSなどのアンプを(ユニバーサル・オーディオ製)OXにつないで鳴らしたんですけど、単純に音が良かったんですよ。

 エンジニアさんと一緒に音を作り込んでいく際に、OXでエミュレートされたマイクやキャビネットの組み合わせを色々と試せるので、思いついたアイディアを形にするまでのスピード感は大事だなって思いましたね。

柳沢 そういえば……僕が買ってきたAC50が原因で、異臭騒ぎになってしまったんですよね(苦笑)。

 あれはヤバかったね。何が原因かわからないんですけど、アンプからあきらかに有毒な匂いが出ていて……それがスタジオ中に充満しちゃって。

柳沢 みんなが“死ぬ!”って大騒ぎしているのに、僕はコロナ罹患後で嗅覚がなくなっていたから、全然匂いがわからなかったんですよ。“たしかにちょっと臭い気もしますけど……大丈夫じゃないですか?”って気にしてなくて(笑)。

 進太郎以外の全員が吐き気を催すほど気持ち悪くなっちゃって……。“とりあえず作業を中止して、すべての窓を開けよう!”みたいな。

そんなことがあったんですね(笑)。さて、今作では基本となる4人の演奏に対して、鍵盤、フィドル、トランペットなど、ゲスト・プレイヤーの演奏が華を添えたゴージャスな音像に仕上がっていますね。

 色んな楽器の音をたくさん重ねて作りました。特に「HIGHER」はヤバいですね。テーマ部分は存在感の強いリフだったので、より強調させるために同じ音階やオクターブ違いのフレーズを何回も重ねて作りました。

 あと今回は、デモで弾いたギターを含めて、曲が必要としている音は絶対に入れようと思っていて。例えば「The Marking Song」のド頭のフレーズは、デモで録った音をそのまま使ったりしています。

サイケデリックな雰囲気が漂う「The Marking Song」は、艶やかなファズ・サウンドが存在感を放っています。ここで使ったのはオクターブ・ファズですか?

 カタリンブレッド製のファズライトです。オクターブ・ファズっぽく聞こえますけど、ここはオクターブ違いのフレーズを重ねて弾きました。ファズライトを使ったのは初めてでしたが、めちゃめちゃ良かったですね。音が潰れ過ぎず、ディストーションに近い感覚で鳴らせました。

柳沢 色んなペダルを試してみたんですけど、ファズライトの歪みの質感が一番しっくりきましたね。

「The Marking Song」は、目まぐるしく展開する楽曲構成になっていますが、パートごとにフレーズやリズム・パターンなどを変化させていますね。

柳沢 実はこの曲、色んなバージョンが存在するんですよ(笑)。

 そうなんです。細かい部分までこだわった分、アレンジが異なるバージョンがたくさんできちゃって。

柳沢 フレーズや展開を変えたパターンもあれば、歌のくり返し方だけを変えたバージョンもあったりして……もしライブで完成版と違うアレンジの記憶が引っ張り出されてしまった場合、ステージ上に地獄が発生してしまうという(笑)。

 ヤバい、ヤバい(笑)。

柳沢 そういうアレンジになってしまったのは、おそらく歌に対してフレーズを当てていく感じで作り込んでいったからだと思います。この曲では、メロディのバックで“コードを弾かない”というアプローチに初めて挑戦したんですけど、歌に対して“ギターのフレーズをどのように絡めるか?”ってことは、本当に色んなパターンを試しましたね。

 そうそう。ベースもギターもバッキング的な演奏をしていないので、どちらかというと“歌のメロディがコード進行のガイドになっているパターン”ですね。

「I Don’t Wanna Be You」は、現代的にアップデートさせたロックンロール・ナンバーだと感じました。どのように作り込んでいったんですか?

柳沢 制作の後半に作ったんですけど、今回のアルバムはミドル・ナンバーが多かったので、ちょっとアッパーな曲を入れたいなと思っていて。前作の『PANDORA』(2021年)で作った「クライベイビー」の“2ndシーズン”というイメージで作りました。ギターに関しては、2人で弾いたギターが1本に聴こえるようなイメージで作り込んでいきましたね。

アコースティック・ギターをフィーチャーした「RUN RUN RUN RUN」は、レッド・ツェッペリンの「ゴーイング・トゥ・カリフォルニア」を彷彿させるケルティック・フォークな雰囲気の楽曲です。

 この曲はDADGADチューニングで弾きました。今回のアルバムを作る時、コンセプトの1つとして“ケルト音楽やカントリーといったルーツ・ミュージックに根づいた表現”ということを考えていたんです。

 そういうジャンルの曲はオープン・チューニングが多用されていることもあって、2人でオープンDやDADGADで弾いているうちに、「RUN RUN RUN RUN」のメイン・テーマとなるフレーズが出てきたんですよ。そこからは早くて、たしか1日で完成したよね。

柳沢 そうそう。牧さんの家で一緒にギター弾きながら作っていきました。最初はギター2本だけで作った曲が、ピアノやフィドル、トランペットの音が足されていくうちに、だんだんゴージャスになっていって。

 曲が完成に向かうにつれ、 “こんなにも曲の世界観が広がるんだ!”と感動しました。今回のアルバムを作っていて、一番驚いた曲かもしれないです。

「ペンペン」ではカントリー・リックを取り入れた速弾きフレーズを披露していますが、どのように作り込んでいったんですか?

柳沢 ほかの曲でレコーディングに参加していただいた、手島(宏夢)さんが演奏するフィドルからインスピレーションをもらって作りました。もともとカントリー・リックに対して“難しい”って印象があったし、軽い気持ちで手を出してはいけないような敷居の高さも感じていたんですけど、その道のプロフェッショナルによる素晴らしい演奏を目の当たりにしたことで、自分の中で“カントリー・ギターを弾いてみたい!”って気持ちがどんどん大きくなっていったんですよね。

 その影響もあって、最近、僕もフィドルをやり始めたんですよ。フィドルを練習するようになってからは、カントリー・リックの音の使い方に関しても理解が深まる部分が凄くたくさんあって、自分の中から出てくるフレーズの幅が広がった感じがします。今回のアルバムの「ペンペン」や「Two of Us feat. 林萌々子」のソロが作れたのは、本当に手島さんのおかげです。

「Two of Us feat. 林萌々子」では、チキン・ピッキングを交えたテクニカルなギター・ソロも耳に残りました。

柳沢 このソロは、あっちゃん(井上惇志/p)のプライベート・スタジオで、みんなでアルバート・リーのプレイを観ながら作りました。チキン・ピッキングに関しては、フレデリックの(赤頭)隆児さんに教えてもらったんですよ。バニラズの曲って速いフレーズが多いんですけど、隆児さんが“(ピックを持つ人差指と親指だけでなく)ほかの指も使って弾いたらええんやで”って教えてくれたんです。

 フレデリックではチキン・ピッキングを使ってるのかな?

柳沢 たまに中指でパチンと弾いている場面もあるんですけど、あれは隆児さんの手癖みたいですね。それをちょっと拝借させてもらいました(笑)。

なるほど。ほかにもカントリー・リックは、チョーキング・ダウンのタイミングも重要ですよね。

柳沢 たしかにキモになる部分ですよね。僕もカントリーらしさってチョーク・ダウンに宿っているのかなってことに気づいてからは、フレーズの中に取り入れるのが面白くて、色んな場面で多用しちゃっています。それまでチョーキングは、ロックやブルースの泣きのギターみたいに“弦を持ち上げてナンボ”みたいな感じで考えていましたから。

 チョーキングって簡単なテクニックだからこそ、弾き手の個性が浮き彫りになりますよね。そういう部分で言うと、今回のアルバムに収録されている「Dirty Pretty Things」は、チョーキングのベンドの滑らかさに、人の“泣き”の部分が宿るようなところを意識して作った曲ですね。

柳沢 めちゃめちゃ簡単なフレーズだけど、簡単じゃなく聴こえるような楽曲を作れたというところには、自分たちの成長を感じますね。フレーズに弾き手の人間味を宿せたというか。

カジノと出会ったことで、僕の“ギター探しの旅”は終わりました
──牧達弥

牧達弥(写真=渡邉一生)
牧達弥(写真=渡邉一生)

アルバムで使った機材について教えて下さい。ギターは何を使いましたか?

 1966年製のギブソンES-335や1965製のギブソンSG、1965年製のエピフォン・コロネットがメインでした。ほかには「Dirty Pretty Things」で1967年製のカスタム・テレキャスターを使っています。

柳沢  僕は1964年製のSGがメインでしたね。あと「Two of Us feat. 林萌々子」はヴルフペックのコリー・ウォンを意識していたので、MJTのボディに昔のアメビンのネックを組み合わせたSTタイプを使いました。自分のギターはそれくらいで、牧さんのカスタム・テレキャスターやES-335を借りたりもしましたね。

 アコギはテイラーとギルドと……「RUN RUN RUN RUN」でギブソンのLG-3を使いました。

2023年は記念すべきバンドのデビュー10周年イヤーですが、活動を続けてきた中でギターとの向き合い方に変化はありましたか?

柳沢 バンド・アンサンブルの中での輝き方を、以前よりも意識できるようになってきたので、手にしたいモデルもまた変わってきたんですよ。最近、メイン・ギターをSGから335に変えたんですけど、ここにきて“自分の好きな音が確立されてきたな”という手応えを感じています。

 あと、牧さんのメイン・ギターがビンテージのエピフォン・カジノになったこともあって、今はその軸となる音に対して、僕のギターで幅広さを出していこうと考えていますね。

 ちょっと前に1962年製のエピフォン・カジノを買ったんですけど……これが素晴らしく良いんですよ。妖刀みたいな感じというか……ネックが手に吸い付くんですよね。初めて抱えてみた瞬間に、“あ、探していたのはこれだったのか”という感覚になりました。

 どんなギターにも、どこか1つくらいは気になるところがあるんですけど、このカジノに関してはすべてがパーフェクト。というのも、これまでにバニラズで作ってきた曲をカジノで演奏してみたらもの凄く良くなって……カジノで弾くことによって“曲が完成したな”っていう手応えがあったんです。

 もう僕の中で“ギター探しの旅”は終わりましたね。ついに生涯を共にする嫁と結婚したって感じがします(笑)。

そのカジノはライブでも使うんですか?

 もちろん使う予定です。

最後に、作品制作を終えて一言お願いします。

柳沢 これまでの作品は、ガチで難しいフレーズも多かったですが、今回は“俺にも弾けるかも”と感じてもらえるようなギターがたくさん鳴っていると思います。と言うのも最近、ファンの方が“バニラズのギター・ソロを弾いてみました!”って動画を送ってくれるんですよ。そうやって“弾いてみたい!”と思ってもらえるような曲を届けることができたのは、凄く嬉しい。

 シンプルにカッコいいアルバムができたので、ライブを観に来た人に感動してもらえるパフォーマンスをしたいと思っています。

 僕にとってギターは、常に歌に寄り添ってくれる一番身近な存在。自分を表現するのに一番合っている楽器だと思っています。今回、新しく手に入れたビンテージ・カジノの音を聴くだけでも貴重だと思うので……ぜひ日本中のギター・キッズたちにライブを観に来てほしいですね。

go!go!vanillas(写真=西槇太一)
go!go!vanillas(写真=西槇太一)

「FLOWERS」TOUR 2023が開催中!
特設ページ:https://gogovanillas.com/feature/flowers#tourAnc

作品データ

FLOWERS
go!go!vanillas

Getting Better/VICL-65748/2022年12月14日リリース

―Track List―

  1. HIGHER
  2. The Marking Song
  3. ペンペン
  4. I Don’t Wanna Be You
  5. 青いの。
  6. Two of Us feat. 林萌々子
  7. Dirty Pretty Things
  8. My Favorite Things
  9. 硝子
  10. RUN RUN RUN RUN
  11. LIFE IS BEAUTIFUL
  12. きみとぼく

―Guitarists―

牧達弥、柳沢進太郎