a flood of circleの新作『花降る空に不滅の歌を』に見る、佐々木亮介&アオキテツの洗練されたロック・ギター哲学 a flood of circleの新作『花降る空に不滅の歌を』に見る、佐々木亮介&アオキテツの洗練されたロック・ギター哲学

a flood of circleの新作『花降る空に不滅の歌を』に見る、
佐々木亮介&アオキテツの洗練されたロック・ギター哲学

2006年の結成以来、無骨でストレートに響くロック・サウンドを武器に、精力的な活動を続ける実力派ロック・バンド、a flood of circle(AFOC)。彼らが最新アルバム『花降る空に不滅の歌を』を完成させた。フロントマンである佐々木亮介(vo,g)が、“歌っている人の唾が飛んできそうな生々しい作品にしたかった”と語るように、バンドマンとして死ぬまで音楽をやり続けていくという決意が込められた歌詞の世界観を、表情豊かなロック・サウンドで彩った快作に仕上がっている。注目の最新作について、佐々木とアオキテツ(g)に制作をふり返ってもらった。

取材・文:尾藤雅哉(ソウ・スウィート・パブリッシング)

ギターを持っている時間よりも、妄想している時間のほうが長かったかもしれない──アオキテツ

アオキテツ(g)
アオキテツ(g)

アルバム『花降る空に不滅の歌を』の制作には、いつ頃から取りかかっていたのですか?

佐々木 2022年の7月に前回のアルバム(『伝説の夜を君と』/2021年)のツアー・ファイナルをLINE CUBE SHIBUYAでやったんですけど、その時に新曲として「花火を見に行こう」を作ったんです。そのあとの10月に、代々木公園でやったフリー・ライブ(“I’M FREE 2022”)のために「Party Monster Bop」を作り、そこから年明けまでの3ヵ月くらいの間に残りの曲を一気に作りあげました。

どのような作品にしたいと考えていましたか?

佐々木 最新のAFOCを表現したかったので、過去に作ったデモは使わずに、今の自分にできることを全部出して。“これ以上できない”っていうところまで突き詰めていこうという決意で制作に取りかかりました。

 (アオキ)テツが2018年にバンドに入ってから、これまでに3枚のアルバムを作り、お互いの信頼関係もかなり深まってきたと感じていたので、メンバーから僕に対しての“君はこういうことがしたいんだよね”という暗黙の了解的な部分に甘えさせてもらいつつ、今回は“佐々木亮介の歌”という面をより強く打ち出していこうと思っていましたね。

 特に歌詞に関しては、自分自身の内面を全部さらけ出して表現したいと考えていて。自分のストロング・ポイントからショボいところまで全部書こうと思っていました。中途半端にカッコつけたりしないで、素直に自分をさらけ出した内容にしたほうがいいかなって。

 例えるなら、歌っている人の唾が飛んできそうな生々しい作品にしたかったし、歌もバンド・サウンドも、“今、AFOCはこういう感じで生きてます”ってことを提示するような内容にしたいと考えていましたね。

なるほど。アオキさんはいかがですか?

アオキ デモを聴いた時に、佐々木くんの”ここはこうしてほしい”って意図を感じられたので、僕自身はレコーディングで悩むということはありませんでした。曲が呼んでくるフレーズを入れていったら、自然と完成していったという感じがします。

「月夜の道を俺が行く」や「本気で生きているのなら」などは、1人の人間として、またバンドマンとして前を向いて生きていくことへの強い決意が込められたナンバーですね。

佐々木 そうですね。特に「本気で生きているのなら」は、自分でも“ちょっと歌うのが辛いな”って感じてしまうほど赤裸々な内容の歌詞なんですけど……。そういう表現をやらせてくれるメンバーにすごく感謝しています。

 今のAFOCは、“うっとおしい佐々木亮介”と、それを“カッコよく演奏してくれる3人”というフォーメーションになっているような気がしますね。それが今の俺たちのチャーム・ポイントなんじゃないかな。

 あとはやっぱり……自分が音楽をやる上で一番大事なのは、“面白いかどうか”だと思うんです。俺たちが革ジャンを着てロックをやっているのって、すごくステレオ・タイプだと思うし、自分たちにもその自覚はあるんですよ。ただ、そこに対してほかの人はやらないであろう要素を少しずつ足していくことが大事というか。

 なので、バンド・サウンドの作り方だったり、歌詞で使う言葉の選び方といった細かいところにこだわっていって……そういったひとつひとつの武器をサボることなく磨き上げていった先の未来に、もっと凄いAFOCが待ってるような気がしているんです。そういうことは、今回の曲の歌詞を書いてる時に強く思いました。

 なので今は、改めて自分達の表現をとことんアップデートして“死ぬまで音楽をやる!”という覚悟を決めた感じですね。

アオキさんはAFOCに加入してから5年が経ちましたが、自身のプレイで変化を感じるところはありますか?

アオキ バンドに加入してからの1~2枚くらいは、かなり背伸びしていたなって感じます。というのも、最近は“フレーズをあまり弾かないようにしよう”ってモードに入っているんですよ。以前の自分に比べてフレーズがシンプルになってきた気がします。

 あと、右手のタッチの強弱でダイナミクスをつけることで、バンドの音像を目立たせたいってことはよく考えるようになりましたね。

佐々木 以前のテツは、送ったデモを聴き込んで、事前に練り込んだフレーズを一発でキメるって感じだったんですよ。でも今は、プレイヤーとしての器がデカくなったことで、レコーディング現場で出てきた突発的なアイディアにも柔軟に対応してくれていて。

アオキ たしかに今回は、事前に準備してきたものをパッケージするような作り方ではなかったですね。レコーディングの時点で歌詞も決まっていなかったことが多かったので、俺としては“こういうことが起きうるだろうな”ってことを想像しながら、デモや練習した時の音源と向き合っていました。たぶんギターを持っている時間よりも、妄想している時間のほうが長かったかもしれないです。

「くたばれマイダーリン」のハモリのギター・ソロは、周りで鳴っている音数がスッと少なくなることで、よりフレーズの存在感を際立たせているように感じました。

佐々木 展開ごとに主役となる楽器がわかるようにしたいと思っていたので、バンド全体のメリハリやダイナミクスの強弱に関しては、凄く意識して作りました。そういうアプローチが老獪ろうかいさにつながってしまわないように気をつけていましたけど、アレンジを作りながら“俺はもう中堅だな”ってことを思いましたね(笑)。

様々な経験を積んできたことで、様々なテクニックが身についたと。

佐々木 そうそう。もちろん初期衝動も大事なんですけどね。

アオキさんは、先ほど話に出たダイナミクスに関してどのようなことを意識していましたか?

アオキ 今回は、みんなでスタジオに入って、一緒に音を鳴らしながら曲を作り込んでいったので、音の足し・引きに関してはバンド全体の空気を読みながら考えていましたね。

佐々木 ツアーのリハーサルに入っているんですけど、ダイナミクスの話はメンバーともよく話しています。過去の曲も、俺たちの最新の演奏スタイルにカスタムしたりして。

アオキ たしかにここ数年やってこなかった昔の曲をバンドで合わせた時に、単純に“うまくなったな”って感じますね。

佐々木 そうそう。以前に比べてバンドの表現力は上がっていると感じます。みんなオトナになったのかな(笑)? 人間として成長を感じています。今のAFOCは、相当良い状態だと思いますよ。

「カメラソング」は軽快なビートに乗せたポップ・ナンバーです。メロディアスなベース・ラインも印象的ですが、ベースとの絡みで意識していることは?

佐々木 2番のAメロでギターとベースが絡んでいるんですけど、なんとなく俺が思い描いたイメージをテツと姐さん(HISAYO/b)に細かく詰めてもらうってやり方でした。ランニング・ベースも、定番のラインではなく、歌メロのようなフレーズにすることでフックをつけたり……そういうちょっとしたアップデートを意識して作りました。

今のAFOCは、どんな相手と対バンしても絶対に負けないという自信があります──佐々木亮介

佐々木亮介(vo,g)
佐々木亮介(vo,g)

アルバムのタイトル曲の「花降る空に不滅の歌を」は、ドラマチックな展開が印象的なロック・ナンバーです。

佐々木 自分ではシンプルに作ったつもりだったけど、聴いた人からは“色んな要素が入ってますね”って言われて……そこで展開が多いことに気づきました(笑)。

 実は、少し前に、LiSAちゃんに「シャンプーソング」(2022年)という曲を提供したんですけど、その手応えが物凄く良かったんです。その勢いのまま、同じ手法で作ったのが「花降る空に不滅の歌を」という曲です。

 誰かに楽曲提供をする時って、“ちょっと派手に見せよう”という良い意味での“欲張り”な部分が出てくることがあって、今回はそういった派手さをAFOCにも取り入れたいなってところからアレンジを作っていきました。そういう考え方でアプローチしていったことが、“展開の多さ”につながっていったのかもしれません。

「花降る空に不滅の歌を」で聴けるスライド・ギターのソロも耳に残りました。

佐々木 テツが弾いてくれたギター・ソロに対して、あとから俺がスライド・パートを足しました。「花降る空に不滅の歌を」というタイトルだったので、真っ青な空からキラキラしたものがスローモーションで降ってくるようなイメージが自分の中にあったんです。そういう場面をギターで表現したかったので、滑らかに糸を引くようなスライドのソロを入れてみました。

ちなみにギター・ソロを弾く際に、意識していることは?

アオキ この曲に限らずですけど、ギター・ソロに関しては、曲がカッコよくなるのであれば弾くという感じですね。どうしてもソロが弾きたいって欲求はあまりないですね。

佐々木 たしかに、ギター・ソロに関しては“要る・要らない”という観点ではあまり考えていないですね。曲を作っていく中で、“ここで欲しいな”と思うと自然に入るという感じかな。

アルバムで使用した機材について教えて下さい。ギターは何を使いましたか?

佐々木 メインは、グレッチのBlack FalconとWhite Falconで、ほかにはフェンダーのスクリーマデリカ・ストラト(Screamadelica 30th Anniversary Stratocaster)を使いました。このストラトは、かわいいギターが欲しくなって手に入れたんですけど、ほぼ全曲で何かしらのフレーズを弾いています。

 ストラトを使っている人からしたら当たり前の話なんですけど、“使えるピックアップの組み合わせが5つもあるの?”ってところにも驚きました(笑)。俺、演奏中にピックアップを切り替えて弾くのが好きなんですよ。自分がライブで弾いていて気持ち良い音って、爆音で耳が疲れてきたり、その時の精神状態に左右されたりするので、毎回変わるんです。そういう時に、ピックアップ・セレクターで使うポジションを変えたり、本体のボリュームやトーンをいじったりすることが多いんですけど、ストラトは5つのポジションを手元で切り替えられるので、弾いていて楽しかったです(笑)。

 ギターの録音に関しては、ライブで鳴らしてるような“生々しい音”で録りたいと思っていました。クリックに合わせるのではなく、バンドに合わせることが重要というか。やっぱり新しい楽器を触るのって大事ですね。前作ではピアノに挑戦したんですけど、弾いたことのない楽器を手にすると色んなアイディアが思いつくので良い刺激になりますね。

なるほど。では、アオキさんは?

アオキ 俺は、ずっとメインで使っているギブソンのLes Paul CustomとES-335、L’s TRUSTで作ってもらったTLタイプの3本です。リード・パートやオブリなどは、ほとんどレス・ポール・カスタムで録りました。長年愛用してきたギターなので安心感がありますね。

アンプは何を使いましたか?

佐々木 いつも使っているバッドキャット(Hot Cat 30R)です。あとは、ロジックで作り込んだデモのサウンドを、そのまま使う場面もありました。アンプが7割、プラグインが3割くらいですね。

アオキ 俺はマーシャルのJMP2203と1959の2台です。あと「バードヘッドブルース」のバッキングで、ギブソンに貸してもらったメサ・ブギーのMark Vを使いました。

アンプのEQのセッティングは?

アオキ ベースが6~7、ミッドも6~7、トレブルが2~3くらいです。

佐々木 俺はとにかくミッドをゼロにするのが絶対条件なんです。というのも、自分がつい出してしまう“無意識の声”っていうのがいつも決まっていて。その帯域を空けておかないと、歌とギターが被ってしまうんですよ。自分の歌声に関してはあまり変えようがないので、とりあえずミッドは絶対にゼロにして、スタジオやライブハウスの音響などに合わせてトレブルとベースを微調整していく感じですね。

エフェクターは何を使いましたか?

佐々木 俺は、ライブもレコーディングも、基本的にエフェクターは1つも使っていません。

アオキ ライブのペダル・ボードと同じなんですけど、イデア・サウンド・プロダクツ(Idea Sound Product)のIDEA-TBXとIDEA-TSXという歪みペダルと、BOSSのアナログ・ディレイDM-2、Cry Babyのワウですね。「くたばれマイダーリン」だけ、Fuzz Face系のペダルを使いました。

アオキさんの中で、歪んだギター・サウンドに対するこだわりは?

アオキ アンプはめちゃくちゃ歪んでいる状態なんですけど、ギター本体のボリュームをちょっと絞ったり、ペダルを使って歪みを落としています。IDEA-TBXは歪みをカットできるブースターなので、このペダルを踏むことでクリーン~クランチ気味の音にしているんですよ。

全国ツアーも始まりましたが、ライブを楽しみにしているギター・キッズへメッセージをお願いします。

佐々木 最近のAFOCに関して言えば、バンド全体で作り出すダイナミクスや独創性などは、どんどんパワーアップしているという実感があります。ギターの鳴りや迫力なんかは、若者にも負けていないし、逆に熟練の人には出せない力強さがあると思うので、今、どんな相手と対バンしても絶対に負けないという自信がありますね。ぜひ、今のAFOCを会場で味わってもらえたら嬉しいです。

アオキ さっき話したように、最近バンドの演奏が凄くカッコ良くなっているので、ぜひ観に来てほしいです。個人的には、自分のInstagramアカウント(@tetsuaoki_afoc)にライブのサウンド・チェックの様子をあげているので、それも合わせて楽しみにしてもらえたら嬉しいですね。

最後に、今回のアルバム制作を振り返って一言お願いします。

アオキ 良いアルバムを作ることができましたね。今までのAFOCとは、またちょっと違う雰囲気を持った新しい作品を作ることができて楽しかったです。

佐々木 “これが俺なんだよな”ってところを突き詰めて完成させた作品なので、ライブでもちゃんと正直な自分で一生懸命演奏したいと思っています。キャリアを重ねて、作品を作れば作るほどロック・バンドのおもしろさと難しさが見えてきたりもするけど、これからも新しくてカッコいいギターを発見していきたいと思っています。

Tour 花降る空に不滅の歌を』公演情報

  • 2023年3月28日(火)/神戸太陽と虎
  • 2023年3月30日(木)/岐阜ants
  • 2023年4月1日(土)/金沢vanvanV4
  • 2023年4月2日(日)/長野J
  • 2023年4月7日(金)/高松DIME
  • 2023年4月9日(日)/大阪堺FANDANGO
  • 2023年4月14日(金)/札幌PENNY LANE24
  • 2023年4月15日(土)/旭川CASINO DRIVE
  • 2023年4月22日(土)/郡山HIPSHOT JAPAN
  • 2023年4月23日(日)/新潟CLUB RIVERST
  • 2023年5月18日(木)/水戸LIGHT HOUSE
  • 2023年5月20日(土)/盛岡CLUB CHANGE WAVE
  • 2023年5月21日(日)/仙台CLUB JUNK BOX
  • 2023年5月25日(木)/大分Club SPOT
  • 2023年5月27日(土)/鹿児島SR HALL
  • 2023年5月28日(日)/福岡CB
  • 2023年5月30日(火)/広島SECOND CRUTCH
  • 2023年6月1日(木)/名古屋CLUB QUATTRO
  • 2023年6月2日(金)/大阪umeda TRAD
  • 2023年6月16日(金)/東京Zepp Shinjuku

【チケットファンクラブ先行:2022/10/20(木)21:00〜2022/10/30(日)23:59】
URL: http://sp.arena.emtg.jp/afloodofcircle/ (スマートフォンのみ対応)

<a flood of circle information>
公式サイト http://www.afloodofcircle.com/

※情報は記事公開時のものです。最新のチケット情報や公演詳細はa flood of circleの公式HPをチェック!

作品データ

a flood of circle『花降る空に不滅の歌を』ジャケット

花降る空に不滅の歌を
a flood of circle

テイチク/TECI-1794/2023年2月15日リリース

―Track List―

  1. 月夜の道を俺が行く
  2. バードヘッドブルース
  3. くたばれマイダーリン
  4. 如何様師のバラード
  5. 本気で生きているのなら
  6. カメラソング
  7. 花降る空に不滅の歌を
  8. GOOD LUCK MY FRIEND
  9. Party Monster Bop
  10. 花火を見に行こう

―Guitarists―

佐々木亮介、アオキテツ