メジャー・デビュー10周年を迎えたロック・バンド=クリープハイプが、新作EP『だからそれは真実』をリリース。今作はメンバーとスタジオで顔を合わせ作曲を進め、自然発生的なアレンジで組み上げられたバンド・アンサンブルが映える、“生感”が満載。また、“初期のクリープハイプ”を感じさせる楽曲も聴けたりと、原点に立ち返ったような側面も垣間見ることができる。そんな今作のギターに込められた想いや聴きどころを、リード・ギターの小川幸慈に語ってもらった。
取材/文=伊藤雅景
自分の頭の中で“勝手にイメージを広げていく”っていう感覚を大切にしています。
前作『夜にしがみついて、朝で溶かして』(2021年)は、打ち込みや実験的なサウンドの要素も取り入れた1枚でしたが、今作『だからそれは真実』の方向性はどのように決めていきましたか?
今作は“こういう方向性にするぞ”みたいなことはカッチリ決めずに、わりと自然と曲ができていったんですよ。前作はDTMでの作曲が多かったんですが、今作は尾崎(世界観/g,vo)が弾き語りで持ってきてくれた曲を、メンバーとスタジオでアレンジして……っていう昔からやっている流れでした。なので、結果的に仕上がった曲が“昔のクリープハイプらしいバンド・サウンド”に回帰したんですよね。
では、スタジオ・ワークがメインだったんですね。
ある程度曲のアレンジが完成するまではスタジオで作りましたね。ただ、冷静に曲を聴いてアレンジを考えるためにも、DTMでデモを作るっていう作業はやりました。昔はデモすら作らないで、スタジオで演奏したものをそのまま録音するていうことが多かったんですけど、それだと聴きづらかったり判断が難しかったりするので。
“昔のクリープハイプらしさ”で言うと、1曲目の「凛と」は、まさに『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』(2012年)の時期くらいの音像を感じます。
確かに。ギター・アプローチの面で言うと、クランチのアルペジオからハイ・ポジションの単音フレーズのイントロの感じとか。ああいうフレーズが、クリープハイプのギターのイメージを作ってきた“アイテム”だったりもするので、そういう要素は色々詰め込みましたね。「凛と」は、“とにかくストレートにいこう”みたいなことを話してました。
イントロのアルペジオは「ABCDC」(『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』収録)のオマージュだったり……?
そうそう(笑)! “あの感じでいこう”って話もしてたくらいです(笑)。まさに“ザ・クリープハイプ”って感じの曲になってくれましたね。
対して「愛のネタバレ」のギターは、近年のクリープハイプらしい複音フレーズが印象的でした。
この曲は単音のリフより、複音のアプローチのほうが馴染みも良かったんです。あと、ボーカルのメロディ・ラインに対して“ギターの裏メロで情景を作る”っていうテーマもありましたね。僕らの楽曲は、最後の最後に歌詞が書き上がることが多いので、ギター・フレーズを考える時はデモで尾崎が歌っているメロディや雰囲気を感じて、自分の頭の中で“勝手にイメージを広げていく”っていう感覚を大切にしています。
もちろん僕が作ったフレーズに対して、“ちょっと違うな”っていう意見が出ることもあるので、その度にアレンジは試行錯誤しています。
前回のインタビューでも“作曲時に「もっと強いものを」と言われる”という話がありましたね。
今回もありました。“もうちょっとなんかあるよねえ”みたいな(笑)。「愛のネタバレ」では、サビ終わりのギター・フレーズは何回もやりとりをしました。どういう風に尾崎のメロディを引き立たせていくかっていう部分で悩んで、音色的な部分も含めて色々試していたんですけど、なかなかしっくりこなくて。
その時に尾崎が“変なところにいる感じがいいかな”っていうキーワードを投げかけてきて。そのワードからイメージを膨らませて、今までの自分では弾かないような音の当て方やメロディ・ラインを試してみたんです。ファズにトレモロをかけるっていうアイディアが出てきたのもその時ですね。結果的に、曲の最後を盛り立てつつも、絶妙に哀愁を感じさせるフレーズになってくれました。
幅広いアレンジに対応できる自信がついた
ファズやトレモロというエフェクトの話が出ましたが、今作はワウやフィルター系のサウンドもたくさん散りばめていますよね。
そうですね。「本当なんてぶっ飛ばしてよ」のイントロで聴ける、ソース・オーディオのエンベロープ・フィルター(SPECTRUM ENVELOPE FILTER)の音色は前作からけっこう使っています。気持ち良いフィルター感でかかってくれるし、アプリで設定を弄れるっていう利便性もあって気に入ってます。
そのペダルに行き着くまで、色々な機種を試したんですか?
いや、そんなには試してないですね。「ナイトオンザプラネット」(『夜にしがみついて、朝で溶かして』収録/2021年)を録る時にフィルター系のペダルが必要になって、ネットで色々探してたら偶然見つけたのがこのペダルだったんです。そうしたら自分の中で大ヒットしちゃって……。
「本当なんてぶっ飛ばしてよ」のイントロは、エドズ・モッド・ショップ(ED’s MoD ShoP)のPookie Fuzzとソース・オーディオのSPECTRUM ENVELOPE FILTERを組み合わせて、ストラトキャスターのセンターとリアのハーフ・トーンで録った音なんですけど、それが絶妙にチープで気持ち良い音色で。
ゲート・ファズとエンベロープ・フィルターの組み合わせだったとは驚きです!
でも、最近使いすぎなので、今後はちょっと控えようかなと。尾崎からも“あれ使ってよ”って言われたりもするし(笑)。それに、最近は使ってる人が増えましたよね。トム・ミッシュがエンベロープ・フィルターを使い始めたあたりから、みんな“カマしてる”(笑)。
それでは、レコーディングで使用した機材を教えて下さい。ギターは?
今作は去年(2022年)に手に入れた、フェンダー・カスタムショップ製のストラトキャスターが活躍しました。「凛と」と「真実」(尾崎世界観の弾き語り楽曲)以外は全部使いましたね。「凛と」では、昔から使っている62年製のフェンダー・ジャズマスターを弾きました。
ストラトキャスターはレコーディングでは久しぶりに使ったんですが、長いサステインが欲しいフレーズで重宝しますね。ライブでも登場頻度が上がってきていますよ。ジャズマスターとは違った良さがあるので、今回のレコーディングでも“もう一回ストラトいくか……”みたいな感じで多用していました(笑)。
アンプは?
「凛と」はDr.ZのPrescription RX ES、「愛のネタバレ」と「朝にキス」はフェンダーのTwinolux、「本当なんてぶっ飛ばしてよ」はフェンダーの68年製Vibroluxです。
Dr.Zは、以前違うモデルを使っていましたよね?
前はスピーカーが1発のコンボ・タイプだったんですが、音が前に突き抜けすぎるというか、指向性が強すぎて“なんか音が広がらないな”って印象があったので、今回のスタック・タイプを購入しました。自分のフレーズにはフェンダー・アンプのサウンドが一番合うと思っているんですけど、もう少し硬くタイトな音や歪み感が欲しい時にこのDr.Zを使いますね。
今作を作り終えて、一言お願いします。
「凛と」のアルペジオ〜単音リフの流れは、昔の僕らの感じをブラッシュアップしつつ、今の雰囲気を入れることができたので気に入っていますね。“当時の曲の感じを今のクリープハイプで鳴らすなら”っていう感じというか。単音リフは「愛の標識」(『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』収録)を意識してたりもするんです。あの時はがむしゃらにやってましたけど、上手く弾けるようになったなと思いました。
あと、今作は全体的に音を“抜く”イメージがあった気がしますね。「凛と」のBメロではメロディをワウであとから追っかけるフレーズだったり、「愛のネタバレ」のAメロなんかも凄い抑えていますし。そういったボーカルを引き立たせるってことが自然とできたなって思います。ちょっと大人になったのかな(笑)。
今回は自然とシンプルなバンド・サウンドに寄った作品になりましたが、今後バンドの楽曲がどういった方向に向かっていくかはまったくわからないので、自分でも今後の作品が楽しみですね。
作品データ
『だからそれは真実』
クリープハイプ
ユニバーサル/UMCK-1742/2023年3月29日リリース
―Track List―
- 凛と
- 本当なんてぶっ飛ばしてよ
- 朝にキス
- 愛のネタバレ
- 真実
―Guitarists―
小川幸慈、尾崎世界観