ネルス・クライン(ウィルコ)が語る“テレヴィジョンから受け継ぐギター・プレイの遺伝子” ネルス・クライン(ウィルコ)が語る“テレヴィジョンから受け継ぐギター・プレイの遺伝子”

ネルス・クライン(ウィルコ)が語る“テレヴィジョンから受け継ぐギター・プレイの遺伝子”

後進のミュージシャンに大きなインスピレーションを与え、音楽のあり方にまで多大な影響をもたらしたトム・ヴァーレイン。ウィルコのギタリストとして活躍するネルス・クラインもまた、彼に魅入られたギタリストの1人だ。ギター・マガジン2023年5月号のトム・ヴァーレイン特集でも彼からの影響について語っているが、WEBではそのアウトテイクを特別にお届け。テレヴィジョン、その後のソロ活動におけるトムのギター・プレイから、いかに影響を受けているかについて話してくれた。

取材:錦織文子 通訳:トミー・モリー 写真:Getty Images

「Impossible Germany」のソロは
トムのギター・プレイに触発された。

以前よりトム・ヴァーレインからの影響を公言していますが、2013年のソリッド・サウンド・フェスティバルでは、ウィルコで「Marquee Moon」をカバーしていましたよね。

 僕とジェフ(トゥイーディ/vo, g)は昔からテレヴィジョンが大好きだったから、単純にライブでカバーしてみようという話になったんだ。あの時、僕はトム・ヴァーレインとリチャード・ロイドの両方のパートを組み合わせて演奏したね。大きな会場でのライブだったから盛り上がったし、彼らの代表曲をやるのも楽しかったよ。

 実はそのずっと前に僕はマイク・ワットのアルバム『Contemplating the Engine Room』(97年)のツアーで「Friction」や「Little Johnny Jewel」をカバーしたこともあったんだ。

そうでしたか! なかなかマニアックな選曲ですね。

 マイク・ワットも僕と同様にテレヴィジョンが大好きだったからね。“「Little Johnny Jewel」って、テレヴィジョンがOrkレーベルから出した最初のシングルだよね?”と気づいた人があの場にどれだけいたのかはわからないけど(笑)。

 でも、テレヴィジョンの中でもマイナーなこれらの曲を演奏することになんとなく快感のようなものがあったりもしたんだ。それを聴いて初めて曲の存在自体を知ったり、魅力に気づいた人が少しでもいたらいいなと思ってね。だから、純粋に愛とリスペクトを持って演奏したよ。

バンドで曲作りをする際に、トムのギター・プレイを参考にすることはありますか?

 それこそ、ウィルコの「Impossible Germany」のアウトロのインスト・セクションは、トムのギター・プレイに触発されたところがあるよ。この曲はパット(サンソン/g, key)と話し合いながらギター・フレーズを作っていって、僕が弾くソロについてはただ美しいコードに載せて直感的に演奏したいと思っていたんだ。

 その時になんとなく頭にあったのがテレヴィジョンの「The Dream’s Dream」(『Adventure』収録/78年)だった。あのソロのハーモニーをイメージして、思いついた細切れのメロディを1つのフレーズとして構築していったよ。

確かに、「The Dream’s Dream」の中盤で聴けるソロには通ずるハーモニーがあります。

 ウィルコのライブでは原曲と異なるプレイをするのが僕のモットーなんだけど、この「Impossible Germany」については例外でね。この曲のソロは僕自身も好きなんだけど、ジェフにも深く響くものがあったようでかなり気に入ってくれていて、今でも元のバージョンのままソロを演奏するようにしているんだ。

あなたとジェフのルーツにあるテレヴィジョンからの影響が、ウィルコの名演に落とし込まれているというのは非常に興味深いです。

 今でもたくさんのミュージシャンたちがトムに影響を受けているし、その音楽性やギター・プレイは分析され続けているよね。NYパンクとかオルタナティブ・ロックの先駆けとか色んな解釈があるけど、僕にとってトムの音楽は、ただ純粋に美しい“ロックンロール”であるということに変わりないんだ。

 例えるなら、バッファロー・スプリングフィールドやザ・バーズなどのいわゆるクラシックなロック・バンドと同じような存在だね。ギター・サウンドは飾り気がなくクリアで、ソロ活動に至ってもそこまで歪ませることはなかったけど、どこかガレージ・ロックのようなフィーリングを感じられずにいられないんだ。

『Dreamtime』は僕のDNAに
刻み込まれている作品だよ。

トムのソロ名義の作品は、80年代に精力的に活動していたこともあって、ニューウェイブの影響が感じられるものもありますよね?

 たしかにね。特にドラム・マシンやシンセサイザーのサウンドが目立っていた『Cover』(84年)で顕著だったかもしれない。とはいえ、当時のメインストリームのようなニューロマンティックっぽさはなくて、そういう音楽とは明らかに一線を画していたよ。

 それこそ、『Flash Light』(87年)はロックなエネルギーをまとったギターがたっぷりと詰まっている。特に、時にディストーションで歪み、時に切れ味の良いトーンを聴かせたり、様々な音色のギターが飛び交う「Bomb」は最高だよ。あそこまでリバーブが効いてなかったらと思うけどね(笑)。時代性はもちろん反映されていたけど、長年聴いてきた今になっても彼の作品はどのカテゴリーにも当てはめられないんだ。

彼のソロ作品の中でも、あなたのイチオシは?

 トムのソロ作品は、テレヴィジョンの時期のもの以上に聴いてきたから、1つに絞るのは難しいな(笑)。でも、『Dreamtime』は僕のDNAに刻み込まれている作品だよ。ギター・サウンドには強烈なロック的なものを感じて、思わず拳を突き上げたくなってしまうね。中でも「A Future in Noise」はドラマチックなプレイが聴けるよ。

 「Mary Marie」や「The Scientist Writes a Letter」、「One Time at Sundown」は文学作品のような雰囲気にも惹かれるし、長年聴いてきた今になっていっそう強く自分に響いてくるんだ。このアルバムにはたくさんのハーモニックなフレーバーや美しい倍音が詰まっていて、ソロなんてすべて僕は歌えるくらい直感的に覚えてしまうものばかりなんだよ。

ギター・マガジン2023年5月号表紙

ギター・マガジン2023年5月号
『追悼 鮎川誠』
2023年4月13日(木)発売

2023年4月13日発売のギター・マガジン5月号のトム・ヴァーレイン追悼特集では、ネルス・クラインのインタビューの本編を掲載! トム・ヴァーレインとの交流や機材に関する考察について語っています。