コヴェットの新作『catharsis』では、イヴェット・ヤングの代名詞である“変則チューニング×タッピング”によるテクニカルなプレイが全篇で堪能できる。また、リード曲「firebird」で聴ける、メロディアスなフレージングも彼女が持つ魅力の1つだろう。今回は本作の楽曲がどのようにして生まれたのか、そしてギター・フレーズをどのように作りあげたのかを聞いてみた。
インタビュー/翻訳=川原真理子 質問作成=伊藤雅景 写真=Chris Valley
『catharsis』のコンセプトを一言で表わすなら、“ファンタジー”ね
新作『catharsis』は、前作『technicolor』から約2年10ヵ月ぶりのフル・アルバムです。制作はいつ頃から始まったのでしょうか?
パンデミックが始まった頃ね。凄く怖い時期だったけど、私はちょっとだけエキサイティングな気持ちになっていたのよ。常に家で制作の時間が確保できるし、頻繁にライブに出かけなくてよかったから。ツアー中だと曲を作る暇なんてないでしょ? だから今回は、曲作りに丸々1年かけることができたわ。
あと、今回はDTMでのレコーディングや、新しいデジタルな作曲方法も色々試せたの。時間があったから、すべての曲のデモを作ることができたし、ギター以外のアレンジにも挑戦できたのよ。そしてそれをバンド・メンバーに送って、オンラインで制作していったわ。
でも、以前は新しいものを学ぶのが怖かったのよね。テクノロジーって時として怖いものじゃない。ただ、そういったものにトライしたことによって、人生が変わった気がしているわ。
2022年の10月には新しいバンド・メンバーが加入しましたね。
新しいメンバーのジェシカ・バルドー(d)とブランドン・ダウ(b)は、今作の制作が始まったあとに参加してもらったから、レコーディングは別の人にやってもらったの。ベースはジョン・バトン。彼はザ・フーでもプレイしているビッグなプレイヤーで、とても経験豊富なのよ。一緒に作業するのはとても楽しかったし、彼のプレイに凄く満足しているわ。
ドラム・パートは前のメンバーが叩いているんだけど、「coronal」のドラム・パートだけは新しいドラマーのジェシカに叩いてもらったの。彼女の独特なセンスとアイディアがこの曲には合うと思ったから。
サウンドは前作と比べて、さらにクリアで壮大になったように感じます。作品のコンセプトなどはありましたか?
一言で表わすなら、“ファンタジー”ね。今作の曲にはそれぞれの物語があって、それぞれに登場人物までいるわ。例えば、「coronal」の凄くヘヴィでダークなサウンドは、“ありとあらゆる問題が起こっている世界”を思い描いて書いている。そうやって、現実の世界からは一度離れて、ファンタジーの世界に逃避できるような作品を目指したわ。
音楽を作る時は、頭の中に映像や光景を思い浮かべることが多いのですか?
100%そうね。頭の中で映画を作っているようなものよ。その映画に登場する人物のテーマ音楽として考えているわ。
「firebird」では、タッピング、アーミングや、美しいメロディ・ラインなど“これぞイヴェット!”とも言えるギターが聴けますね。
ありがとう! 私はいつだってメロディを最初に考えるから、ギター・フレーズが前に出てくるのかも。
とても楽しげなMVも印象的でした。
そうね。凄く楽しかったわ! この曲の「firebird」というタイトルは、母親がアメリカに移住して初めて手に入れた車の名前(編注:ポンティアックのファイヤーバード)から取ったの。新しい国に来て、元気いっぱいで、色んな可能性に満ち溢れている気持ちを表わしたくて、凄く開放的で明るい曲にしたかったのよ。
あと、MVのアイディアを思いついたのは私。80年代の古い映画みたいな雰囲気が大好きだから、髪を風になびかせながらオープンカーを走らせている感じの、愉快な瞬間をたくさん撮りたかったのよ。走っているオープンカーのシートでプレイするのは大変だったけど、楽しかったわ(笑)。
目標はいつだって、頭の中にある音楽をアウトプットすることよ
あなたは変則チューニングを多用しますが、今作ではどんなチューニングを使いましたか?
ほとんどの曲はF-A-C-G-C-Eなの。「smolder」だけD-A-C#-F#-A-Eよ。
「smolder」だけ違うチューニングなんですね。この曲は特にアウトロの凶悪なファズ・サウンドが印象的でした。
その音は確かモアランド・マグネティックス(Moreland Magnetics)のファズを使ったと思う。そこに、メリスのMERCURY 7を組み合わせているわ。
MERCURY 7にはピッチ・ベクター(ピッチ・シフター)が搭載されていて、リバーブのピッチを超低音まで下げることができるの。これとファズを組み合わせると、とてもクレイジーで、足下で世界が崩れていくような感じになるのよ。これを作っている時は、巨大な彗星や小惑星が浮かんでいる宇宙をイメージしていたわね。
曲を作る時、映像が思い浮かぶと話してくれましたが、音楽に色が見えるという人もいると聞いたことがあります。あなたの場合はどうでしょうか?
色は見えないけど、思い浮かぶ風景や、自分にどういった感情が湧き起こっているかを感じながら作っているわ。「merlin」のフレーズを弾いた時は森の風景をイメージできたし、「vanquish」は3連符のリズムから、馬が疾走する光景を思い描いた。時代は中世で、誰かが馬に乗って、村を救いに行くようなね。
そんな風に、私の中ではかなり明確な物語が作られているの。リスナーが同じイメージを持てるかはわからないけど、私はそういった部分に凄く重きを置きたいのよ。
「merlin」はディレイを主体にしたフレーズですが、こういったエフェクティブなフレーズは、弾きながら考えていますか? それとも頭の中のインスピレーションを形にしているのでしょうか?
こういった音色は、ペダルのサウンドからインスピレーションを得て作っているわ。だから弾きながら考えているわね。この曲は空間系のエフェクターを終始オンにして弾いているんだけど、それがとっても気に入っているの。
私は美術の先生をやっていて、絵も描いているんだけど、エフェクターを使う作業はそれに少し似ているかもしれないわ。ペダルの音色は絵具の色みたいなもので、その色によってメロディ・ライン、描き方が変わっていくの。そういった色、テクスチャー、トーンが、私のメロディに欠かせないものになっていると思うわ。
「vanquish」でも幻想的な空間系エフェクトが印象的でした。これもペダルを使った音色ですか?
そうね。名前は忘れちゃったけど、ペダル・タイプのディレイを使っていたわ。でも、空間系はあとから残響感をコントロールしたいと思う時もあるから、その時々によるけどプラグインを使って作ることもある。「vanquish」ではペダル、プラグインの両方を試したわね。
ディレイの使い方で面白かったのは、「bronco」の要所要所で挟まる強烈なホールド・サウンドでした。この音色はどのように作っているのですか?
感電したようなフリーズ・サウンドのことよね。これにはボスのDD-3を使っているわ。私が持っているものは80年代に作られたビンテージの個体なの。このペダルのサウンドが特別に気に入っているのよ。ライブでもDD-3を使って再現しているんだけど、ペダルを完璧なタイミングで踏まないといけないからとっても難しいわ(笑)。
今作でギターが一番難しい曲はどの曲ですか?
さっき話題に出た「merlin」ね。実は一番練習していない曲なの……。いまだにビビりながら弾いているわ(笑)。
ありがとうございます。それでは、今作を作り終えて一言お願いします。
目標はいつだって、頭の中にある音楽をアウトプットすることよ。それが今回は上手くできた。あと、すでに次のアルバムのことも考えているんだけど、次作はエレクトロニックでポップな要素が多い作品になると思うわ。どんなアーティストだって、常に何か新しいことをやりたがるものだしね。
私は今までテクニカルなマスロックを研究していたし、プログレッシブ・メタルにハマった時期もあったけど、次は何か違うものをやりたいと思っているの。
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作品データ
『catharsis』
コヴェット
P-VINE RECORDS/PCD-25364/2023年4月21日リリース
―Track List―
- coronal
- firebird
- bronco
- vanquish
- interlude
- smolder
- merlin
- lovespell
―Guitarist―
イヴェット・ヤング