ギタリストUKが語る、新作『MOROHA V』のフレーズ・メイクと唯一無二のフィンガーピッキング ギタリストUKが語る、新作『MOROHA V』のフレーズ・メイクと唯一無二のフィンガーピッキング

ギタリストUKが語る、新作『MOROHA V』のフレーズ・メイクと唯一無二のフィンガーピッキング

MCとアコースティック・ギターのみで構成された、ミニマルでストイックな音像を武器に活躍する2人組バンド=MOROHA。そんな彼らが2023年6月にニュー・アルバム『MOROHA V』をリリースした。今回はギタリストのUKに新作でのフレーズ・メイクについて話を聞いたほか、どのようにして現在のフィンガーピッキング・スタイルが生まれたのかを、バンド結成前まで遡って語ってもらった。

取材/文=伊藤雅景 写真=MAYUMI -kiss it bitter-

アコギは“言葉を伝える楽器”だと思っています

UKさんがギターを始めたきっかけから教えて下さい。

 俺が子供だった頃に、父がアコースティック・ギターを弾くのを見ていたのがギターとの出会いでした。自分が弾き始めたのは高校に入学するタイミングでしたね。兄がいるんですけど、それを見て“自分も弾きたいな”って思うようになって、エレキ・ギターを始めました。

 その時期はX JAPANのHIDEが大好きだったので、とにかくXのギター・パートをコピーしてましたね。あとはパンクやメロコアも好んで聴いていたので、その辺りのジャンルを弾くことも多かったです。

 なので、速弾きや速いリズムを刻むトレーニングばっかりやってました。とにかくギターを聴き込んで“速く弾けるように……速く弾けるように……”って、スピードを徹底的に追求していて(笑)。

UKさんのプレイ・スタイルは“アコギ×フィンガーピッキング”というイメージだったので、ちょっと意外です。

 最初はアコギ中心のプレイ・スタイルが全然好みじゃなかったので、アコースティックな曲は聴いてもなかったです。むしろ、ずっとピックを使ってましたね。“絶対指弾きなんかしてやるもんか”って思ってたくらいで(笑)。

どういったきっかけがあって、今のフィンガー・スタイルに変わっていったんですか?

 MCのアフロと出会ってから、たまに彼のラップと俺のエレキで遊び始めたのがきっかけですね。お互いに上京して、別々のグループで活動してたんですけど、2人とも東京で仲良い人があんまりいなくて。それで“何か一緒にやろうぜ”くらいの感じで遊びのセッションを始めたんです。

 最初は本当に超ノリでやってたんですけど、アフロのリリックに俺がエレキでアルペジオを当てるっていうスタイルがけっこう新鮮で面白くて。俺はXの「紅」くらいでしかアルペジオを弾いたことがなかったんで、知ってるコードを崩してポロポロ弾くっていう感じのことしかできませんでしたけど(笑)。でも今思い返すと、そこが今のプレイ・スタイルの母体になっていますね。

 そこからしばらくして、俺だったらバンド、彼だったら所属してるクルーが同じくらいのタイミングで解散だったり、ポシャったりして。それで残ってたものが、2人でノリでやってたセッションくらいしかなかったんですよ。お互いに音楽をやりたくて上京してきてたので、次までのつなぎじゃないですけど、“じゃあ、これやるか”つってちゃんと曲を作り始めて。

MOROHAの原点はラップとエレキのアルペジオだったんですね。

 そうですね。でも、俺らはライブハウスよりクラブ箱でやる機会が多かったんで、ビートがないと音の層が薄く感じて。その環境でもっとアフロの言葉を客席に届けるにはどうしたらいいかと考えた時に、“生楽器の鳴りが出るアコギを使ったほうが届きやすいんじゃないの?”っていう話をして。

 そこから“言葉を伝える楽器”っていう感覚でアコギを使い始めました。でも、アコギが主体のアーティストとかは全然聴いてこなかったんで、最初はフレーズの振り幅が少なくて。

そこからアコギでの奏法を研究していくと。

 研究していったというよりかは、もともとアコギが好きじゃない自分が“飽きずに弾き続けるにはどうしたらいいか?”っていうことを考えてました(笑)。それで行き着いたのが、アコギのソロ・ギターっぽい奏法を勉強するんじゃなくて、自分がもともと好きなバチバチに激しいエレキをアコギで表現するっていうプレイ・スタイルで。

 そこで真っ先にやり始めたのが、スラップ。MOROHAになってから初めて作った「俺のがヤバイ」っていう曲のスラップですね。“俺はこういうスタイルでいこう”って思えたきっかけの曲です。拍もアバウトな感じで、独特なグルーヴなんですが(笑)。

 当時は“アコギでスラップしたら面白い……俺の周りではやってる人いないな”とか思ったりしてて。いたんですけどね、多分。でも俺は聴いたことがなかったんで、めちゃくちゃワクワクしながら弾いていて。その気持ちは今でもずっと変わらないです。

なるほど。

 それに、MOROHAを始めてから15年間、誰かを参考にしたり、教則本を読んだりとかもしたことなくて。とにかく自分で開発してフレーズを落とし込んでるので、アコギの指使いのセオリーとか、奏法の名前とかまったくわかんないんですよ。完全に感覚で弾いています。なので、新しいフレーズを作り出すたびに“世紀の大発明だ!”って感動してる(笑)。

 でも、テクニックに走るんじゃなくて、あくまで“曲を届けるためのギター”を弾くっていうところは忘れないようにしていますね。MOROHAをやっている以上、テクニックに重きを置いちゃうとどうしても芯がブレちゃうというか。

ギター以外の楽器も“アコギ1本”に落とし込んでみる

UK
UK

ここからは新作『MOROHA V』のギターや、フレーズ・メイクについて聞かせて下さい。個人的に「命の不始末」で聴ける、ダークな響きのフレージングがとても印象的でした。

 この曲、めっちゃ気持ち悪い曲にしたかったんですよ(笑)。その不穏な感じの響きを出すために、この曲は1弦だけ開放(0フレット/E)にして、ほかの2弦から6弦は4フレットにカポをつけて弾いているんです。擬似的に変則チューニングにしてるような感じですね。

 サビ以外のフレーズは1弦の0〜3フレットを使ったアルペジオ・フレーズなんですが、サビでは1弦の開放を使ったコード・ストロークになるんです。この時に、1弦開放のE音と2弦4フレットのE♭が混ざると、半音ズレた不安定な響きになるんですよ。その感じがダークで気持ち悪くて。その雰囲気を出したくて、あえてそういうようなことをしましたね。

 あと「エリザベス」や「花向」、「ネクター」とかは、ハーモニクスを多めに使ってて。こんなに使う曲が多いのは今作が初めてかもしれない。

その3曲は暖かく優しい“泣きメロ”が特徴的です。

 そうですね。ハーモニクスをフレーズの中に入れるのはそういうスローやミドル・バラードに多かったです。メロディの通過点に組み込んでいる感じですね。

ハーモニクスを入れることを前提にフレーズを考えているんですか?

 意図的に“ピンポイントでここに入れよう”みたいな作り方はできないですね。よく、頭の中で鳴っているメロディをギターで形にする時に“このメロディ・ラインを弾きたいけどフレットが離れすぎて物理的に指が届かない”みたいなことがあるんですよ。そういう時にハーモニクスを使うと、簡単で綺麗に音が鳴ってくれるってだけっす(笑)。

 あとは、メロディを練習してる時にミスって偶然ハーモニクスが鳴っちゃった時に“こっちのほうがいいじゃん”ってなったりとか。

偶然生まれていたんですね。フレーズはギターを弾きながらではなく、頭の中で考えることが多いですか?

 弾きながらでも、頭の中で考えるのもどちらもやりますね。例えば、色んなアーティストの曲を聴いて“こういう世界観は、こういうコードを使うんだ”みたいにコード進行から考えることもありますし。

 あとは、歌メロやベース・ライン、リズムだったり、音なら何でもいいんですけど、ギター以外の楽器をヒントにすることもありますね。それを自分のプレイ・スタイルの“アコギ1本”に落とし込んだらどうなるのかっていうのをトライしてみる。

 そこからアイディアを膨らませていくうちに、メロディに自分の癖みたいなのが出てきて、オリジナルなフレーズになっていくという。

ほかのパートを参考にすることもあるんですね。そのリファレンス楽曲をアフロさんにも共有したり?

 イメージとして伝えはするんですけど、俺の“こういう感じで作りたいんだけどね”っていうのが、理解できないらしくって(笑)。何もピンときたことがない。“ほ~ん”みたいな感じで終わることが多いですね(笑)。

(笑)。アフロさんのリリックは、UKさんのギター・メロディが完成してから乗せていくんですか?

 曲の仕上げの段階ではそうですね。でも、最初に曲の種を作る時は一緒にやることが多いです。

 例えば、曲のテーマとして“恋の歌”みたいなものを最初に決めてから、俺が超大雑把なワン・ループのフレーズを作ってみるんです。それを色々弾きながら、2人が“いいじゃん”となったメロディを軸にして、フレーズを膨らませていくっていう。なので曲になるかどうかは、一緒に“せーの”でやってみないとわかんないんですよね。

 そこで生まれたギター・メロディをもとにアフロはリリックを書き直して、俺もちょっとずつマイナー・チェンジしていく。そうしてだんだんと最終形態に持っていく……みたいな感じですね。

レコーディングで特殊なことはまったくやってないです

サウンド・メイクについても聞かせて下さい。MOROHAは常にアコギ1本ですが、レコーディングの環境で工夫した点などはありますか?

 基本的にはエンジニアさんの好みですね。“このマイクを使って、こういう風に録ってほしい”とかいう指示出したことは、ほぼないです。

そこはお任せで。

 そうですね。でも、MOROHAの精神性みたいなものを“こういうもんだよね”ってわかってくれているっていうのが前提です。そのうえで“こういう風に録ったらいいよね”っていうのを提案してきてくれたり。ずっとそのやり方なので、特殊なことはまったくやってないです。9割9分、全部一緒っすね。

前作『MOROHA IV』(2019年)はミドルが“バキッ”と出ていて、ホワイト・ノイズも聴こえるような荒々しい音像でしたが、今作はさらにフルレンジ、かつクリアになっているような印象もありました。

 多分、機材が変わっていることが影響しているんだと思います。ライブの機材をレコーディングでもそのまま使っているんですが、確かに『MOROHA IV』と『MOROHA V』では使っているものが違うんですよ。大きい変化で言うと、プリアンプを新しくしました。

スタック製Marine Blenderを新たに導入したと聞きました。以前はトライアル製Dual Input Preampを使っていましたね。

 そうですね。Marine Blenderは解像度が本当に凄くて。めっちゃ良いです。

使用ギターは新しいシグネチャー・モデル(フォルヒ/FG01)が中心でしたか?

 いや、もう1本持っているフォルヒのG25-SCCTeもけっこう使いましたね。シグネチャー・モデルのFG01は「チャンプロード」、「0G」、「命の不始末」、「六文銭」で使いました。そのほかはG25-SCCTeで録りましたね。

偶然なのか、新しいシグネチャーを使った曲はマイナー調で、攻撃的な曲が多いですね。

 そこはちょっと狙ってましたね。FG01は弾きやすいし、気持ち良いところもちゃんと出てくれるんですけど、まだどうしても音が若いというか。なので現状、FG01は攻撃的で荒々しい曲が映えるギターっていうイメージですね。

バラードの“泣きメロ”のような、そういう味は前のギターのほうが出てくれるという。

 そうですね。G25-SCCTeは、どっちか言うとメロディのふくよかさがよく出てくれるギターなんですよね。この音がめっちゃ好きなんですよ……。それに、こっちは10年以上弾き込んでるんで、音に年の功が出てるんだと思います(笑)。

ありがとうございました! 最後に、今後の展望を聞かせて下さい。

 ギタリストとして言うならば、唯一無二を目指したいですね。俺にしか出せないサウンドを作り出したい。そして、俺がギターやめる時はMOROHAが解散する時と一緒。だから、今以上に替えがきかない存在になっていきたいです。

LIVE INFORMATION

MOROHA
「日程確定、開催確定TOUR」×「MOROHA V RELEASE TOUR」

日程

  • 2023年7月26日(水)北海道 KLUB COUNTER ACTION
  • 2023年8月1日(火)岡山県 CRAZYMAMA 2nd Room
  • 2023年8月3日(木)香川県 高松TOONICE
  • 2023年8月5日(土)徳島県 club GRINDHOUSE
  • 2023年8月7日(月)大阪府 FANDANGO
  • 2023年8月14日(月)愛知県 CLUB ROCK’N’ROLL
  • 2023年8月18日(金)鹿児島県 SR HALL
  • 2023年8月20日(日)大分県 T.O.P.S Bitts HALL
  • 2023年8月22日(火)福岡県 BEAT STATION
  • 2023年8月27日(日)神奈川県 F.A.D YOKOHAMA
  • 2023年8月29日(火)東京都 新代田FEVER
  • 2023年9月3日(日)福島県 clubSONICiwaki
  • 2023年9月7日(木)新潟県 CLUB RIVERST
  • 2023年9月9日(土)山形県 酒田hope
  • 2023年9月11日(月)青森県 LIVE HOUSE FOR ME
  • 2023年9月14日(木)東京都 下北沢ERA
  • 2023年9月20日(水)京都府 Live House nano
  • 2023年9月23日(土・祝)長野県 ALECX
  • 2023年9月30日(土)沖縄県 食工房まほろば
  • 2023年10月4日(水)東京都 新宿MARZ
  • 2024年1月13日(土)東京都 SHIBUYA LINE CUBE

※情報は記事公開時のものです。最新のチケット情報や公演詳細はMOROHA公式HPをチェック!

MOROHA公式HP
https://moroha.jp/

作品データ

『MOROHA V』
MOROHA

ユニバーサル/UMCK-1750/2023年6月7日リリース

―Track List―

01.チャンプロード
02.スコールアンドレスポンス
03.俺が俺で俺だ
04.エリザベス
05.0G
06.花向
07.命の不始末
08.ネクター
09.主題歌
10.六文銭

―Guitarist―

UK

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