スティーヴ・ルカサーが“TOTOスタイル”で作った最新ソロ・アルバム『Bridges』を語る スティーヴ・ルカサーが“TOTOスタイル”で作った最新ソロ・アルバム『Bridges』を語る

スティーヴ・ルカサーが“TOTOスタイル”で作った最新ソロ・アルバム『Bridges』を語る

TOTOのスティーヴ・ルカサーが最新ソロ・アルバム『Bridges』をリリース。クリックを使わずに自然体で作った前作から一転、キャッチーでソリッドな“TOTOスタイル”が味わえる1枚だ。TOTOでの来日公演も2023年7月に控えるルカサーに、息子トレヴァーも参加した最新作のことや現在の状況などを語ってもらった。

インタビュー/翻訳=トミー・モリー 質問作成=福崎敬太 Photo by Andreas Rentz/Getty Images for ZFF

俺は世界中の女子ギタリストたちのチアリーダーなんだ(笑)

前作『I Found The Sun Again』から2年ぶりとなる新作『Bridges』がリリースされますね。

 声を大にして言いたいわけじゃないけど、『I Found The Sun Again』は自己満足のために作ったアルバムだったんだ。ライブ録音でエディットも一切なく、ダビングはボーカルぐらいしかやらなかった。レコード会社も好きにやってくれて構わないって言っていたし、あのアルバムは自分のために作ったようなものだね。

 今作はTOTOが新しいバージョンで集まり、ロードに出るまでに数ヵ月の余裕があったからできたと言えるよ。

制作の経緯はどのようなものでしたか?

 パンデミックを経験して、家でゴロゴロして待つのはもう二度とイヤだと思っていた。それに、デイヴ(デヴィッド・ペイチ/vo,k)やジョー(ジョセフ・ウィリアムズ/vo)と音楽を作ることが恋しかったから、彼らに電話して“一緒にアルバムを作ろうぜ!”と誘ったんだ。

当初からTOTOスタイルで作ろうと考えていたんですか?

 別に“TOTOのアルバムを作ろうぜ!”なんて話したわけではなかったね。デイヴと一緒にちょっとしたサウンドを作っていったら、いつの間にか曲ができていたんだ。純粋に俺たちの中から湧き出たような感じだったんだよ。作業が進んでいくうちに“サイモン(フィリップス/d)に叩いてもらおうぜ!”って流れになって、彼と再びプレイできて楽しかったね。

今作のギターはどういうものに仕上がったと感じていますか?

 恥知らずなまでに80年代な音楽だけど、俺はスローダウンして落ち着いた感じでプレイしている。それでも自分でも驚いてしまうようなグレイトなテクニックのギターが弾けているよ。

 あと1つ意図したことがあるとすれば、速いプレイを抑えたことかな。もちろんいくつかそういったリックがあるのは認めるけど、今のキッズたちがやっていることに比べたら大したことじゃない。

以前もインタビューで“速弾きは若者の特権”と言っていましたね。

 もう誰もが速弾きしているような時代だろ? しかもみんな上手い。だから、もちろん俺だってライブじゃクレイジーに弾きまくるけど、もうそういうのはやらなくていいかなと思ったんだ。

ポップ・ミュージックにギターの速弾きが求められる時代ではなくなっていますしね。

 でも一方で、今じゃ7歳の子供がメチャクチャな速さでパーフェクトにプレイする動画を目にするようになった。そういうのを見ると“それは俺に任せろ! 俺に弾かせろ!”って火を点けられるようなところもある(笑)。そうやって若い人たちが音楽に興味を持って、俺たちがやっていたような音楽を奏でているのを見ると、笑みがこぼれてしまうんだ。

 俺が若い頃なんて周りの誰も音楽に興味なんて持っていなくて、自分よりも遥かに年上の連中とばかりプレイしていた。8歳の頃の俺はフリーキーなガキだと思われていただろうね。

 それが今となっては、女の子だって男どもに負けないグッドなプレイをしていている。素晴らしいことだよ。俺は世界中の女子ギタリストたちのチアリーダーなんだ(笑)。

スティーヴ・ルカサー
スティーヴ・ルカサーの最新アーティスト写真。

息子はスーパースターになれる器を持っているよ

先行リリースの「When I See You Again」も、キャッチーなメロディとコーラス・ワーク、サウンド・メイク、シンプルだけど力強いリフはまさにTOTOスタイルだと感じました。

 “恥知らずなまでに80年代な音楽”ってことだし、まさしくそういったプロデュースをしていったんだ。アルバムの形が見えてきた頃、みんなで笑いながら“まぁ俺たちが作ると自然とこんなサウンドになっちゃうよな”って話していたよ。

 ほかの誰とも違うやり方で作っているし、80年代っぽい音楽をやれと言われたら“それは俺たちに任せろ!”ってなる。その中で新しい音楽が作れたらいいなと思うんだ。

この曲のギター・ソロはコンパクトで、目の前が開けるような爽快感のあるメロディです。また、あなたのシグネチャー・プレイの1つであるアーミングが聴けますね。

 そんなことを言われても、自分でもよくわかっちゃいないよ(笑)。“今からこんなプレイをするぞ!”なんて意図的に考えて手を動かすなんてことはほぼないんだ。長年ギターを扱ってきたが、結局自然と手が動いているだけだ。

 ただ、このアルバムはトーンやメロディをもっと感じるようなものにさせたくて、長々とジャムるのは違うと思ったんだ。クタクタになるまで弾きまくるよりも、これくらいのほうが何度も聴きたくなるだろ?

冒頭の「Far From Over」は息子であるトレヴァーとの共作です。これはどのように作っていったのですか?

 アイツが曲を持ってきてくれて、ジョーと俺で完成させたんだ。最初からほぼでき上がったようなものだったよ。この曲は基本的にアイツのものだし、楽しみながら録音できたね。

 ただ、“親父、もう1回頼むよ。もっと良いのが弾けるはずだろ?”って、やり直させられたりもした(笑)。“息子にそんなこと言われるなんて……”とも思ったけど、それもクールだろ? しかもその決断は正しかったんだ。彼は優れたレコード・プロデューサーでもあるんだよ。

あなたが思う彼のミュージシャンとしての魅力は?

 トレヴァーは日々ギターが上手くなっている。様々なトリックやリックをプレイする連中っていうのはいくらでもいるが、“大切なのはグレイトなソングライター、リズム・プレイヤー、アレンジャーそしてプロデューサーの耳を持つことだ”と教えてきたんだ。

 テクニックがあっても曲が作れないヤツらなんて世の中にたくさんいる。グレイトなアイディアを持ったテクニシャンがそれらをポップやポップ・ロックのヒットソングの中に盛り込むことこそ、俺たちが昔やろうとしていたことだ。

 それにトレヴァーは自分の家にスタジオを持っていて、作業のすべてに迷いがないんだ。あとはヒット・レコードさえあれば、息子はスーパースターになれる器を持っているよ。

昔みたいに山ほどの機材は使わずにシンプルにやったね

本作で使用した機材についても教えて下さい。

 このアルバムは全編で緑の(ミュージックマン)Luke IIIだけをプレイしている。あと、もうすぐLukeの30周年記念でリリースになる、L4(編注:NAMMショウ2023で発表となった最新シグネチャー・モデル)も使ったね。今年はこの2本を徹底的に弾きまくるつもりだよ。

 アンプだってボグナーのHelios 100しか使っていなくて、昔みたいに山ほどの機材は使わずにシンプルにやったね。

あなたは常にギターの練習を欠かさず、世界トップ・レベルのギター・プレイヤーとして君臨し続けてきましたが、今でも練習はしていますか?

 もうそんなことに興味はないね。俺はそういった競争には身を置いていない。“最高のギタリストは誰だ?”みたいなのは子供のやることだ。年を重ねるに連れてそんなのに顔を挟むことに意味を感じなくなり、俺はあくまでも俺でいればいいんだ。

では今あなたが求めていることは?

 俺はずっと、ただ長いキャリアを歩みたいと望んできた。ヒット・レコードを1枚だけ作ったら世の中から消えるなんていうのは最悪な気分だろうね。もう世の中に戻って来られないなんて考えたらゾッとしちゃうよ。

 長年やってきたことのすべてで成功を収めてこれて、50年もこんな生活が続けられるなんて夢みたいな話だ。セッション・プレイヤーとしてもアーティストとしても成功できたし、リンゴ・スターともプレイし、ラリー・カールトンとやったプロジェクトだって大成功だった。

 レジェンドと呼ばれる人たちと一緒に楽しみながらやってこられたんだ。時には自分の頬を叩いて“本当に俺ってこんなことやってきたのか?”って確認しているくらいさ。

そんなあなたも“レジェンド”の1人ですよ! 以前、“テクニックよりも、心に残るリフを作ることが大事”と言っていましたが、最後にレジェンドの“リフ・メイクの極意”を教えて下さい。

 俺は楽器をよく理解することで、どんなコードが生まれてくるのかをつかめていた。それによって幸運にも二次的なメロディが常に聴こえてきたんだ。

 用意されたメロディに対して、セッション・プレイヤーとして“こういうのを付け加えたらどうだろう?”って感じで小さなパートをどんどん生み出してきた。俺はそういうのはけっこう得意だったんだ。これってある意味アレンジャーとしての耳を持って接してきたのと同じことだね。

 つまり、何か大きな印象を残そうとか考えるのではなく、音楽を作ることを考えるんだ。そうすれば自然と正しい音を選ぶようになるはずさ。

TOTO JAPAN TOUR
公演情報

日程/会場

  • 2023年7月10日(月)/福岡県・福岡サンパレス ホテル&ホール
  • 2023年7月12日(水)/石川県・本多の森ホール
  • 2023年7月14日(金)/愛知県・名古屋国際会議場 センチュリーホール
  • 2023年7月15日(土)/大阪府・丸善インテックアリーナ大阪(大阪市中央体育館)
  • 2023年7月17日(月)/広島県・JMS アステールプラザ 大ホール
  • 2023年7月19日(水)/宮城県・仙台サンプラザホール
  • 2023年7月20日(木)/岩手県・岩手県民会館
  • 2023年7月21日(金)/東京都・日本武道館

チケット

S席  ¥17,000 (税込)
A席  ¥16,000 (税込)

※情報は記事公開時のものです。最新のチケット情報や公演詳細はウドー音楽事務所HPをチェック!

ウドー音楽事務所公式HP
https://udo.jp/concert/TOTO2023

作品データ

『Bridges』
スティーヴ・ルカサー

ソニー/SICX-30178/2023年6月21日リリース

―Track List―

  1. FAR FROM OVER
  2. NOT MY KIND OF PEOPLE
  3. SOMEONE
  4. ALL FOREVERS MUST END
  5. WHEN I SEE YOU AGAIN
  6. TAKE MY LOVE
  7. BURNING BRIDGES
  8. I’LL NEVER KNOW

―Guitarists―

スティーヴ・ルカサー、トレヴァー・ルカサー