フェンダーが1960年代末に生み出した、ファズの名機=Blender。そして、それを一時期愛用していたマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズ。この両者の邂逅によって誕生したのが、Fender Shields Blender Limited Editionだ。このシグネチャー・ペダルに込めたこだわりについて、なんとケヴィン本人に話を聞くことができた。
インタビュー/翻訳=トミー・モリー 質問作成=山本諒
Fender Shields Blender Limited Edition
ケヴィン・シールズが所有するオリジナルのBlenderのサウンドをもとに、彼のアイディアを盛り込んで生まれたShields Blender Limited Edition。1オクターブ下の音も加えられるうえ、入力信号に応じてエフェクトの掛かりが変わるサグ・コントロールなど、オリジナルの機能が加えられている。また、限定版アートボックス、コレクターズ・ブックレット、ケヴィンのサイン入りプレートが付属する。
昔から僕とBlenderにはつながりがあった
今回はあなたのシグネチャー・ファズであるフェンダーのShields Blender Limited Editionについて聞かせて下さい。まずはあなたのBlenderとの出会いから教えてもらえますか?
ツアー中に立ち寄ったアメリカの楽器店で発見して、1989年に購入したんだ。それまで見たことも聞いたこともなかったけど、“ファズだ”という理由だけでね。使ってみたらすぐに気に入って、ツアーの残りのショウでずっと使い続けたよ。
今回のプロジェクトはどのような経緯で始まったんですか?
2006年頃にフェンダーがBlenderをリイシューした時、僕が80年代から90年代にかけて使っていたということも多くの人が思い出すこととなった。そして2018年に僕はフェンダーのオフィスに行ったことがあって、その時に“何か作ってみたいものはある? ペダルでも構わないよ”って言われたんだ。それで、“実はこういうのをやってみたいんだ……”とアイディアを伝えると、“へぇ、そうなんだ”くらいでその場は終わり特に何も言われもしなかった。
それから少し経って、パンデミックが本格化する直前に、“Blenderをリイシューするんだけど、君が昔言っていたアイディアを取り入れて一緒にやってみない?”って連絡がきて、“もちろん、ぜひやりたい!”と答えたんだ。
“何をやってもいい”と言われたから、好き放題にやらせてもらったね(笑)。特にこだわったのはサグ回路で、これはほかのどんなペダルにもない独特なものだと僕は思っている。この回路の設計については明確なビジョンがあって、1年ほどやり取りを続けてできあがったんだ。
そうなると完全なオリジナル・モデルとして発表しても良かったと思いますが、あくまでもBlenderの要素を残したのは、それほど思い出深いペダルだから?
80年代に使っていたっていうのは理由の一部にあるかな。あの頃スマッシング・パンプキンズのビリー・コーガンも使っていて、どうやら僕を見て使い始めたらしい。僕らがシカゴでプレイした時にステージで見たんだって(笑)。
それに2006年のリイシュー時にはフェンダーの公式リリースでも“ビリー・コーガンとケヴィン・シールズが使っている”なんて書かれていた。昔から僕とBlenderにはつながりがあったってことなんだ。
オリジナルのBlenderを89年に購入してツアーでも使われたということですが、その後90年代以降にもツアーやレコーディングで活用したことはあるんですか?
時々使っていたよ。でも、ほかの似たようなペダルで実験を重ねるようになったから、頻繁に使うようなことはなかったな。それにオールドのペダルだからツアーに持っていくのが難しくもあったし、絶えず新たなペダルを買っていたしね。
でも、Blenderのサウンドは高いクオリティで、使われているファズの回路もかなりグッドなものだよ。ブーストみたいなことがフットスイッチで操作できたのも特殊で、それもユニークだった。僕のお気に入りのペダルだったことには間違いないよ。
最もこだわったサグ・コントロール
今回のShields Blenderには、オリジナルのBlenderにはないノブとスイッチが多く追加されました。それらの機能やサウンドについて具体的に教えて下さい。
まずは、最もこだわったサグ・コントロールについて。これはかなり特殊な機能だね。右手のタッチに対して、かなりセンシティブな設定ができる。ソフトからミディアムなタッチでプレイするとエフェクトがほぼかからないのに、ハードにプレイした時にだけエフェクトが加わるセッティングも可能だよ。プレイの仕方に対して高い反応性を持っているから、自然と自分の弾き方を意識するようになるだろうね。
右手の表現力が向上しそうですね。
ブレイクアップ寸前の、クリーンとしてギリギリな状態のアンプにギターをつないでプレイすると、強弱に応じて“ブワン!”っていうサウンドが得られるだろう? ギタリストなら誰もが経験的に知っているアレと似た感覚でプレイできるんだ。
そしてオリジナルのBlenderと同様に、オクターブ・サウンドも得られる。で、ここでもう1つやりたいと思っていたのが、ファズの回路を生かしたまま、このオクターブの効果をオフにさせることだった。このペダルには2つのファズ回路が存在していて、オクターブをオフにしたままそれらを駆動させることができるんだ。
サグ・コントロールを使う際には普通のファズとして使いたくなることもあるから、これはかなり実践的な機能だね。右端の2つのノブの間に小さな白いボタンがあって、それを押すことでオクターブだけをオフにできるんだ。
ファズの回路はオリジナルと同じなのでしょうか?
そうだね。オリジナルとまったく同じ回路を使っているよ。
初めてアイディアを提供した2018年から完成まで4年もかかりましたが、その中でも最も開発時に苦労したことは?
やはりサグ・コントロールについてかなり話し合ったね。オクターブ下の音を出す機能はすぐにできたし、オクターブの機能をオフにさせるのも簡単だった。でもサグに関してだけは1年半くらいはかかったね。僕が求めた効果がしっかりと得られるようになるまで、何度も実験を重ねたんだ。
そして最後の段階になって、僕が所有する数台のBlenderの中からベストなサウンドのものを送ったんだ。というのも、トーンをブーストする部分で、どういうわけか最初に作ってくれたプロトタイプのサウンドが、僕の持っていたBlenderとは異なっていた。それで、僕の所有機を送ったら回路が異なっていたみたいで、そっちをマスターとしてコピーしてもらったんだよ。
さて、シグネチャー・エフェクター第2弾があるとすれば、次はどんなモデルを作りたいですか? 個人的にはリバース・リバーブであってほしいと願っています。
リバース・リバーブについてのアイディアは持っているよ! 今市場に出回っているリバース・リバーブは、どれもシックリこないんだよね。
僕が好きなリバース・リバーブは、無音から徐々に音量がラウドになっていく、小さなサンプルがくり返される構造だから、音を鳴らしてから断続的に積み重なることでノイズが生まれるんだ。このおかげでスムーズなリバーブには聴こえないんだよね。でも、このノイズはある意味リズムにもつながっていて、プレイする際のダイナミクスにも直結している大切な要素なんだ。これによって瞬時にダイナミックな変化を生むことができる。
このアイディアについて誰か一緒に開発してくれる人がいたら、ぜひやってみたいと僕は思うね。そのうえで、リバース・リバーブではあるのだけど、面白い何かを持ったものにさせたいな。
Fender Shields Blender Limited Edition
【スペック】
Material: Brushed Aluminum
Power Require- ments:9-Volt Battery or 9VDC Center Negative AC Adapter (not included)
Power Consumption: 80mA
Input Impedance: 100kΩ
Output Impedance:15kΩ
【価格】
77,000円(税込)
【問い合わせ】
フェンダーミュージック TEL:0120-1946-60 http://fender.co.jp