Petit BrabanconのEP『Automata』のギター・アプローチと最新機材をミヤが語る Petit BrabanconのEP『Automata』のギター・アプローチと最新機材をミヤが語る

Petit BrabanconのEP『Automata』のギター・アプローチと最新機材をミヤが語る

2023年6月に最新EP『Automata』をリリースしたPetit Brabancon(プチ・ブラバンソン)。今作も、ミヤ(MUCC)とantz(Tokyo Shoegazer)のツイン・ギターが織りなす、圧倒的ヘヴィネスが味わえる1枚に仕上がっている。今回はミヤに、本作におけるフレーズのこだわりやサウンド・メイクについて詳しく話を聞いた。それに加え、新たに導入した最新機材も紹介しよう!

なお、同年7月に行なわれたツアー「INDENTED BITE MARK」のファイナル公演は残念ながら中止となったが、2024年1月には東阪でのライヴが決定。今回のツアーを経てどんな進化を見せるのかが楽しみだ。

取材/文=村上孝之 ライヴ写真=尾形隆夫 (尾形隆夫写真事務所) 機材写真=本人提供

普通じゃないアプローチができるのが、このバンドの強みだと思いますね

ミヤ(g)
ミヤ(g)

『Automata』の制作に入る前は、どんなことを考えていましたか?

 今回は1stアルバム(『Fetish』2022年8月)よりも、もうちょっと幅を広げてみようというアイディアがあったんです。それで、自分なりに“こういうアプローチ、こういう楽曲、こういうメロディはどうですか?”という感じで曲を出していきました。

たしかに、より曲調の幅が広がっています。ミヤさんが作曲した「孤動」と「Miserable」は、どんなふうに書いたのでしょう?

 まず「孤動」は、一番最後の段階で出した曲です。それまでにも何回か曲出しをしていたのですが、“今までの流れもありつつ、もう少し新しい感じのものが欲しいよね”という話になって、そこで書いてみたいと思ったのが「孤動」のような曲調だったんです。

 ちょっとニューウェイブの匂いがする曲をやりたいと思って、それを自分なりに解釈して、あとは90年代の音楽へのオマージュみたいなものも採り入れたいなと。それに、京さんのボーカルは上から下まで凄く声域が広いけど、1stアルバムでは真ん中のレンジ感をあまり出していなかったんですよ。なので、そこをピックアップしたいイメージもありました。

独自のものに昇華したニューウェイブ感や、京さんの歌声やメロディは魅力的です。歌のメロディもミヤさんが作ったのですか?

 この曲はほとんどが自分のメロディです。サビの最後で聴ける盛り上がりのところだけ、京さんがアレンジして変えました。

ミヤさんのメロディ・センスの良さに加えて、京さんのメロディがドラマチックさに拍車をかけているんですね。もう1つ、この曲のAメロでコンガのような音が鳴っていませんか?

 それはyukihiro(d/L’Arc~en~Ciel)さんのロート・タムです。

えっ、そうなんですか?

 はい。たしかに、コンガと言われると、それっぽく聴こえるかもしれない。あれはyukihiroさんのアイディアで、凄くいいフックになっていますよね。

洗練感のあるサウンドの中で、ちょっとネイティブな雰囲気の音が鳴っているのが絶妙です。ロート・タムは、あとからダビングされたのでしょうか?

 いえ、普通にドラムを叩きながら入れています。だから、ライヴでもあのまま再現できる。

えええっ! それは凄いですね!

 yukihiroさんの千手観音的な側面は、L’Arc~en~Cielではちょっと鳴りを潜めている印象があるんですよ。それをPetit Brabanconで出してくれたと思って、凄く嬉しかった。それにロート・タムというのが、90年代っぽさがあっていいし。とにかく、これはyukihiroさんじゃないとできないアプローチですよね。

リズム面では、この曲は間奏が変拍子になっていることも印象的です。

 1番のサビに入る時に、まず変拍子が1回あるんです。それは意識したわけではなくて、曲に呼ばれてそうなった。そこから自然と間奏も変拍子になりました。

違和感がないのは、それが理由なんですね。もう1曲の「Miserable」についても話してもらえますか?

 「Miserable」は1stアルバムの頃からあった曲なんです。だから、前のツアーでも演奏していました。最初期の頃にあった曲でアルバムには入らなかったけど、ライヴで演奏していてわりと人気曲なので、今回音源化することになりました。

 この曲は俺の中ではわりと“Petit Brabanconの王道”というようなイメージがあるんですよ。今回のEPでは最後に入っているじゃないですか。バランス的に1曲目の「孤動」というちょっと今までの流れとは違う曲があって、色々な顔を見せたあとに最後を締めくくる曲として「Miserable」は最適なので、1stに入れなくてよかったなと思います。

それは同感ですが、こんなにいい曲がありながら1stアルバムには入れなかったのですね……。「Miserable」はドラマチックなナンバーで、特に京さんのハイトーンを活かしたサビは強く心に響きます。

 この曲のサビは俺のメロディだったと思います。やっぱり、初期の曲のほうがハイトーンを使ったものが多いというのはあって。自分も最初の頃は京さんのレンジの広さを活かしたいと思っていて、「Miserable」もこういうメロディになりました。ただ、Aメロとかは元々は違っていたような気がするし、Bメロも最初は(普通の)メロディだったんですよ。

 それが、ライヴをやっていくうちにどんどん変わっていって、Bメロはシャウトになって、よりメリハリがつきましたね。

ライヴで育っていったということも含めて、一番良いタイミングで音源化されたことを感じます。「Miserable」はリズム・アレンジやベースの在り方などもいいですよね。個人的には、特に2番のAメロのベースが凄くカッコいいなと思っています。

 高松(浩史/b)くんのこのバンドでのアプローチは、“裏メロを弾くことと隙間を縫うことの職人”という感じですね。歌モノになると、よりそれが顕著になってくるというか。「Miserable」のサビのベースとかは、めちゃくちゃ動いている。メロディが立っているところではあえてギターをシンプルにして、ベースで隙間を埋めてもらうというアプローチがわりとPetit Brabanconの王道な形になりつつあるのかな。

ツイン・ギターのロック・バンドの場合、ベースはボトムに徹することも多いですが、Petit Brabanconは違っているんですね。

 Petit Brabanconは普通のラウド・バンドではないですからね。ドラムの個性が強いし、ボーカルの個性も強い。もう、それでPetit Brabanconという音楽になっている感じがするんですよ。「Miserable」を普通のアプローチでやったら、ありきたりな曲になると思う。そうではないアプローチを採れるというのは、このバンドの強みだと思いますね。

 あとこの曲の2番に関しては、高松くんに“ここはちょっと崩した感じにしてほしい”とお願いして、ああいうベースになったような記憶がある。いつもはそれほど要望を出さないんですけどね。2番のギターはシンプルなアルペジオだけで成立させたかったんです。1番のAメロはベースが薄くてギターのカッティングで進んでいくので、2番はそれぞれの役割を逆転させたかったんだと思います。

ギター2人が同じタイム感で弾いていても面白くないし、ケミストリーが生まれない

さらにギターについて詳しく聞かせて下さい。今作を録るにあたって、ギターの面で大事にしたことは?

 けっこう攻めた部分として、ローランドのJC-160を使ったんです。うちの社長がD’ERLANGERをやっていた頃に買ったものを譲り受けたんですよ。

 今回それを使ったのは、ジャズコーラスじゃないと出ない雰囲気の音を求められたからで。「孤動」のど頭でいきなり鳴るギターの音にしても、2回目のAメロのクリーン・トーンにしても、普通のラウドな真空管アンプではあの雰囲気にならないんですよ。

ミヤのRoland/JC-160。
ミヤのRoland/JC-160。

 なので、ジャズコーラスとBOSSのSE70(マルチ・エフェクター)という、それこそあの時代の定番みたいな組み合わせでいきました。それが凄くはまって、今回はそういう音がけっこう多くなっています。

個人的に、“ジャズコーラス+モジュレーション・エフェクター”という音はミヤさんらしさを感じる音色の1つで、それがPetit Brabanconで鳴っているのが凄くいいなと思いました。

 そういうアプローチが懐古趣味にならずに、新しいものとして使えるバンドだな、ということは思いますね。

同感です。前作はギターをantzさんと“せーの!”で一発録りしたと言っていましたが、今作は?

 今回も、そうしました。Petit Brabanconはレコーディングがすべてリモートなんですよ。デモに乗せた歌のOKテイクが最初にあって、そこからドラムを録って、ギターを録って、最後にベースのリアンプをするという流れなんです。それぞれバラバラに録るから、ギターは2人で一発録りしてライヴ感を出したいんですよね。

それに加えて、ミヤさんはツイン・ギターらしさを増幅するために、普段とは違うタイム感で弾かれているんですよね?

 変えています。2人ギタリストがいるし、しかもドラマーがyukihiroさんなので、“Petit Brabanconのタイム感”というイメージで弾いている。yukiihiroさんのビートは点が凄くはっきりしているので、点を説明するパートはyukiihiroさんで完結しているんですよ。そこに対して遊びを加えることでよりいい感じなるので、Petit Brabanconではあえて少しルーズに弾いています。

 あとは、ギターが2人いるのに両方とも同じタイム感で弾いていても面白くないというか、ケミストリーが生まれませんよね。ちょっとした揺れとか人間味を感じさせる部分がリフの中にあることによって、より重く聴こえたり、激しく聴こえる、広がって聴こえるといった良い効果がたくさんある。俺は、そこは活かしたいと思っているんです。

“せーの!”で合わせながら、相手と違う、そしていつもの自分とも違うタイム感で弾けるというのは難しいのでは?

 そうなのかな? 1人ずつ録っていったら、また違うものになってしまうと思うんですよ。それに、antzさんは俺からするとカッチリしているんです。だから、寄り添いやすいというか、お互いがお互いに寄り添っている感じです。

 あと、リフだと2人で同じことを弾くことも多いけど、それ以外のところはけっこう真逆のことをしていたりするんですよ。そこも楽しんでもらえるんじゃないかなと思います。

この曲のソロは鬼の変拍子なんですよ

曲によって、お二人の役割が変わることも楽しめました。続いて、ギター・ソロについて話しましょう。まず、「孤動」はミヤさんの曲ですが、ギター・ソロはantzさんが弾いていますよね?

 そう。ああいうギター・ソロだから、antzさんのほうがいいだろうという判断です。ちょっとシューゲイザーっぽいというか、ポストロックっぽい感じのフレーズを俺がデモに入れていて、ここはお願いしますと言いました。

トレモロ・ピッキングを活かしたソロで、ミヤさんも得意としている印象がありますが?

 でもね、俺はなんとなく“こういうのもありじゃん“という感じで取り入れているけど、それを自分の音色としてやっている人は説得力が違う。それに、ソロをantzさんに任せて自分は変拍子のバッキングを弾いているけど、そのバッキングを弾く気持ちよさのほうが俺は好きなんです。

では、「Loser」のギター・ソロは?

 「Loser」は交互にソロを弾いていて、最初が俺で、後半はantzさん。後半はボーカルも入っていますね。この曲のソロは俺が得意な、適当なソロ(笑)。なんかね、曲調が曲調じゃないですか。だから、そこでカッコつけるんじゃなくて、もっとダサくしたかったんです。

えっ! ダサくはないです(笑)。スリリングな雰囲気がカッコいいですよ。

 俺的には“ダサい”という表現になってしまうんですけど、なんかこう……“場違いなギタリストがきちゃったな”みたいなイメージ(笑)。俺の中で「Loser」は、80年代後半のヘヴィネス系とか、初期のスーサイダル・テンデンシーズみたいなイメージだったので、“クサさ”がほしかったんです。

 ただ、王道のクサさだと王道にイナたくなるので、音色的な面でのイナたさが欲しくて、これもマルチ・エフェクター直で録ったような気がする。ライヴでは、もっとダサい音になると思います(笑)。

 このソロの部分は鬼の変拍子なんですよ。で、鬼の変拍子というのがちょっと隠れるくらいのダサいソロがあるという(笑)。だから、けっこうカオスですよね(笑)。

それが最高です(笑)。さて、『Automata』は世界観の濃さが光る楽曲や“おっ!”と思うギターが詰め込まれた好盤に仕上がりました。同作のリリースに加えて、7月12日から始まるツアーも楽しみです(編注:取材は「INDENTED BITE MARK」ツアー開始直後に実施)。

Petit Brabancon。左からantz(g)、yukihiro(d)、京(vo)、ミヤ(g)、高松浩史(b)。
Petit Brabancon。左からantz(g)、yukihiro(d)、京(vo)、ミヤ(g)、高松浩史(b)。

 これまでのライヴはコロナ禍で、スタンディングではあるけど声が出せないという状態でやっていたんです。声出し解禁はこの間の“KNOTFEST JAPAN 2023”(4月1日・2日)になってしまったけど、その前にやった豊洲PITのワンマン“Petit Brabancon EXPLODE -01-”(1月28日)の時に、声出しになったらお客さんは爆発するだろうなという雰囲気をヒシヒシと感じたんですよ。

 だから、今度のツアーはタガがはずれた感じというのを、フロアにも凄く期待しています。そもそも制限がある状況でライヴをやることになると思って結成していないので、次のツアーがまたリスタートというか、本領発揮かなというのはある。色んな制限がある中でもだいぶ盛り上がってはいて、これがどうなるかというのは楽しみなところではありますね。

ツアーが一層待ち遠しくなりました。もう1つ、ツアーに向けて2本のギターと新しいエフェクターを導入されたそうですね。

 ムーンのREGGAE MASTERと、フェンダーのテレキャスターです。今のところムーンがメインで、フェンダーはサブ・ギター。それを使う曲はyukihiroさんの曲なんですけど、音圧のある曲ではなくて。なので、より“パキッ”としたアプローチにどっちが合うかを考えて、ムーンをメインにした感じかな。

Fender/Gold Foil Telecaster
Fender/Gold Foil Telecaster

 フェンダーは最近出たゴールド・フォイルというラインで、PUがミニ・ハムバッカーになっている(Gold Foil Telecaster)。この間のMUCCのツアーでも使ったけど、ちょうどいい感じですね。ハムバッカーほど重くなく、シングルコイルほど“パキッ”としていないというか。そこが気に入っています。

2本ともにミヤさんらしいチョイスといえますね。エフェクターは?

 新規で入れたエフェクターはBOSSのSDE-3000 EVH(ディレイ)と、ミニストリー・ペダルズ(Ministry Pedals)のMindという名前のプリアンプ/オーバードライブです。antzさんも俺も入れていて、「Loser」と新曲で使っています。ミニストリーはミニストリーみたいな音が出るという、それに限る(笑)。めっちゃドンシャリで、ハイゲインで、“悪い音”がするというか(笑)。

BOSS/SDE-3000 EVH(ディレイ)
BOSS/SDE-3000 EVH(ディレイ)
Ministry Pedals/Mind(プリアンプ/オーバードライブ)
Ministry Pedals/Mind(プリアンプ/オーバードライブ)

 BOSS SDE-3000 EVHはMUCCで使おうと思って買ったんですけど、Petit Brabanconでも使うことにしました。リードの音にちょっと掛けるという使い方をしています。Roland SDE-3000という往年のラックの名機があって、それの復刻ペダルなんですよね。SDE-3000はヴァン・ヘイレンが使っていたことでも有名で、ヴァン・ヘイレンのプリセットが入っているのが俺が使っているモデルです。

LIVE INFORMATION

Petit Brabancon EXPLODE -02-

【スケジュール】
Petit Brabancon EXPLODE -02- Gushing Blood
2024年1月2日(火)@東京・LINE CUBE SHIBUYA
Petit Brabancon EXPLODE -02- Neglected Human
2024年1月3日(水)@東京・LINE CUBE SHIBUYA
Petit Brabancon EXPLODE -02- 暴獣
2024年1月7日(日)@大阪・なんばHatch
Guest : ROTTENGRAFFTY
Petit Brabancon EXPLODE -02- SRBM
2024年1月8日(祝)大阪・なんばHatch

【チケット情報:1月2日(火)、1月3日(水)】
SS席(前方エリア・オリジナル特典付き): ¥25,000(税込)
S席 : ¥6,900(税込)
A席 : ¥5,500(税込)

【チケット情報:1月7日(日)、1月8日(月・祝)】
1階スタンディング : ¥6,500(税込・整理番号付・ドリンク代別)
1階S席 : ¥6,500(税込・ドリンク代別)
1階A席 : ¥5,500(税込・ドリンク代別)
2階席 : ¥6,500(税込・ドリンク代別)

ツアーの詳細は公式HPまで
https://www.petitbrabancon.jp/

作品データ

『Automata』
Petit Brabancon

MAVERICK DC/DCCA-118/2023年6月14日リリース

―Track List―

  1. mind-blow
  2. 孤動
  3. Loser
  4. surely
  5. Common destiny
  6. Miserable

―Guitarists―

ミヤ、antz