2023年9月に渋谷クラブクアトロで行なわれたアーチ・エコーの来日公演にゲスト参加を果たした、フュージョン・インストゥルメンタル・プロジェクト、ジャック&オウェイン。マルチ奏者、オウェインへの取材は滞在スケジュールの関係で叶わなかったが、ギタリストであるジャック・ガーディナーへのインタビューが実現した。超絶技巧と優れたメロディ・センスで会場を沸かせたジャックに、ミュージシャンとしての歩みやオウェインとの制作手法、今後の展望などを聞いていこう。
質問作成/文=伊藤雅景 インタビュー/翻訳=トミー・モリー 写真=小沼高
憧れのギター・ヒーローたちと同じ音が出るまで、とにかくプレイしていたよ
まず、昨晩の来日公演を終えた感想を聞かせてもらえますか(取材は2023年9月20日/渋谷Club QUATTRO公演の翌日)?
最高だったよ! 昨晩会場に集まったオーディエンスは本当に凄かったし、驚かされたね。ほとんど人が来ないんじゃないかなと思っていたくらいなんだけど、たくさんの人が、僕らが “ベッドルーム・フュージョン”って呼んでいるヘンな音楽を楽しみにしていてくれたんだ。
素晴らしいライブでした。ジャックはギタマガ初登場ということで、ギターを始めたきっかけから聞かせて下さい。
9歳から学校でクラシック・ギターのレッスンを受けていたんだけど、エレクトリック・ギターをプレイし始めたのは11歳の時だった。
僕は常にエレキをプレイしたかったんだけど、ベース・プレイヤーの父から“お前はこういった音楽をプレイするべきじゃない”と言われて止められていたんだ。今思うと“もうちょっと年齢を重ねるまでエレキは弾くな”という意思表示だったんだと思う。
でも、僕はスティーヴ・ヴァイやジョー・サトリアーニといったアーティストに夢中になっていたから、15歳の時からトム・クァイルに師事してフュージョン・ミュージックに入っていくようになったんだ。
ほかに憧れたギタリストはいますか?
ポール・ギルバート、ガスリー・ゴーヴァン、ロン・“バンブルフット”・サール、イングヴェイ・マルムスティーンたちが僕の“ギター・ヒーロー”だった。もっとフュージョン寄りだと、フランク・ギャンバレやアラン・ホールズワース、エリック・ジョンソン、アレン・ハインズといった人たちも好きだよ。
ジャック&オウェインの楽曲のようなインストゥルメンタル・ミュージックの制作を始めたきっかけを教えて下さい。
やっぱり子供の頃から聴いてきた音楽が大きいと思うね。でも、自分の音楽をきちんと作り始めたのはパンデミックが起こってからで、それまではアーティストをサポートをするセッション・プレイヤーだったんだ。
でも、パンデミックをきっかけに“セッション・ミュージシャンとして弾くのはもう十分だ。何か新しいことをやらなきゃ!”と思ってさ。そこから自分のための音楽を作るようになったんだ。
スウィープやタッピングなどのテクニカルなプレイを得意としていますが、どういう練習をして会得しましたか?
憧れのギター・ヒーローたちと同じ音が出るまで、とにかくプレイしていたよ。若い頃には幸運にもYouTubeが当たり前にあったから、よく動画を観てコピーしていたんだ。ガスリー・ゴーヴァンやトム・クァイルのプレイを見つけたのもYouTubeだったね。
僕はいわゆる練習っていうのが全然得意な部類じゃなかったから、こうやって誰かのソロを学んだりするほうが性にあっていたんだ。
それに、僕はリヴァプールでファンクやソウル、ポップ、ラップなど様々なスタイルのバンドでギターを弾いていて、そこで身につけていったところもある。
家で勉強するよりも学びになった気がするし、もし練習ルーティーンみたいなことだけをやっていたら、僕はテクニックを身につけることができなかったかもしれない。
ホームページからはSkypeのレッスンを申し込めますが、どういったメニューを教えているんですか?
おっと、あれは昔の情報で今はやってないんだ。ごめんね(笑)。今提供している教則的なコンテンツは“マスター・クラス”と呼んでいるヤツで、教材は僕のウェブサイトからダウンロードできるよ。そこではハーモニー理論やテクニックをカバーしていて、そこに僕なりのアプローチを絡めているという感じだね。
あと、僕はインターバルや指板の視覚化について、トム・クァイルからかなり影響を受けているんだ。彼はそれらを変則チューニングでとらえているんだけど、僕はそれをスタンダード・チューニングに当てはめて指板をマッピングしている。
レッスンの多くはそういったところに焦点を当てているけど、フレージングやインプロヴィゼーションのアイディアなんかも展開しているよ。
日本のギター・プレイヤーにはいつも影響を受けているよ
ジャック&オウェイン名義では、今まで2枚のアルバムをリリースしていますが、制作はどのように進めましたか?
オウェインはノルウェーで、僕はスイスに住んでいるから、作業は基本的にリモートだね。最初に僕が60〜90秒くらいの曲をオウェインに送って、それに対して彼が“イエス or ノー”で答えてくれるのが、いつものプロセスなんだ。幸運なことに“ノー”と言われたのは1、2回ぐらいしかないから、上手くいってるってことだね。
そこからの曲の残りは彼が作って、プロダクションまでやってくれることが多い。僕はプロダクションに関しては全然ダメで、言葉で表わせないくらいひどいんだよ(笑)。
ギター・アレンジはどのように考えていきますか?
オウェインが提案してくれる“このコード進行でやってみないか?”とか“ここのパートを次に持ってこようよ”といった意見を取り入れながら、何テイクかインプロヴァイズしてみたり、数種類のメロディを考えている。
たいてい僕のインプロは、最初の3つくらいが良くて、それ以降は何回やっても大したものにならないんだよ。それらから部分的に切り取ったフレーズができることもあるけどね。
ただ、アレンジは本当に曲によりけりで、ポップ・ソングのようにヴァースとコーラスをくり返すような構造で作ることもあれば、ひたすら新しいセクションへ進んでいくような曲もある。そんな感じで、僕らが頭の中に思い描く全体像と完璧にマッチするまで、新しいものをトライしているんだ。
ドラムやビートは?
2枚のアルバムで聴けるビートは、オウェインとアイディアを送り合って作ったプログラミングなんだ。ただ、このやり方だと本当に長い時間が掛かってしまうんだよね。誰かにプレイしてもらうほうが簡単だと思うけど、プログラミングのほうが安く済むっていう理由もあるからさ。
次作の制作は始まっていますか?
来年中に出せればいいかなとは思っているよ。みんなが知っているようなゲスト・プレイヤーたちにソロを弾いてもらう曲もいくつかできそうだしね。でも、現時点(2023年9月)ではこれがコラボレーション作なのかソロ・レコードになるのかはまだわからない。
ただ、次回作は今回のライブについてきてくれたリカルド(オリバ/b)のベースをフィーチャーしたいと思っている。ほかにも、イタリア人のジアンルカ・パルミエリというドラマーともプレイしたいとも考えているよ。
最後に、日本のギタリストたちにメッセージをお願いします!
日本から帰国した時は、プレイに対するひらめきが必ず湧き出てくるよ。この国のギター・プレイヤーにはいつも影響を受けているし、ヤス・ノムラ(Yas Nomura)やオカ・サトシ(岡聡志)は僕のフェイバリットなプレイヤーたちで、彼らのビデオをコピーをしながら学んでいるよ。
それに、日本はいつも行きたいと思っている国で、歴史や文化もすべて含めて大好きなんだ。僕にインスピレーションを与えてくれてどうもありがとう。
作品データ
『ガーディアン・スピリッツ・オブ・ザ・クォンタム・マルチヴァース』
ジャック & オウェイン
VAG / VAA/ZLCP-0420/2022年7月20日リリース
―Track List―
- Action Boyz
- Glitter
- Swedish Coffee
- The Milkman
- Never Forever Together
- Cosmic Crypto Quadrillionaires Club
- Galactic Funk (Japan Bonus Track)
- A Very Promising Intro
- U.T.F.F. (feat Henrik Linder)
- Megadrive
- Intergalactic Drive-by
- The Forging of Jim’s Multigalaxy Sword of Flame and Death 9.0 (Beta)
- Mirage
- Shred is Dead (Live at Budokan)
―Guitarists―
Jack Gardiner、Owane