クラシック・モダンな独自のデザインで注目を集める北欧デンマークのギター・ブランド、バウム・ギターズ。創設者であるモーテン・バウは、アート・ディレクターとして長年活躍してきた傍ら、30年のギター製作経験を持つベテラン・ビルダー、という異色の経歴の持ち主だ。そんな彼に、バウム・ギターズのデザイン・コンセプトやブランドの歴史、サウンドのこだわりなどをたっぷりと語ってもらった。
インタビュー=福崎敬太 翻訳=トミー・モリー 協力=神田商会
デンマークのデザインは常に普遍性を持っているのです
バウム・ギターズのコンセプトを教えて下さい。
50〜60年代の時代を超越するクラシックなデザインに対する私の愛から、バウム・ギターズは生まれました。特にこの時期のエレクトリック・ギターやビンテージ・カーが大好きなんです。そこに、私が育ったデンマークのデザイン・スタイルを組み合わせています。
デンマークのデザイン・スタイルには、どのような特徴があるのでしょうか?
アメリカ製の自動車やギターに見られる大胆なデザインに比べて、デンマークではよりクリーンでミニマリストなアプローチにのっとっています。シンプルさと洗練さのバランスをどう保つのか、という考えがデンマークのデザインの根幹にあるのです。
さらに、高品質な素材を使うこと、時代を超越するデザインであることも特徴で、デンマークの製品はトレンドにとらわれることなく何年も使われ続けています。つまり、その時代のトレンドに対して、常に普遍性を持っているのです。
例えばバウムのWingmanは、クラシック・カーのウィングの形状にインスパイアされたオフセット・スタイルを取り入れつつも、シンプルかつ特徴的な線を加えてアイコニックなルックスを作り上げています。60年代にデザインできていたかもしれないシェイプでありながらも、今日でも普遍的なものである好例と言えるでしょう。
様々な好みが多様化する現代において、個性的なギターの需要が日本では高まっていますが、バウム・ギターズのユニークなデザインはそういった人に刺さるものだと思います。デザインに関するこだわりを教えて下さい。
これまでのギター・コミュニティはとても保守的でしたが、ここ数年で大きく変わってきた印象がありますね。ユニークなキャラクターを持った楽器を求めるその傾向は、世界規模でも感じています。
私たちのデザイン哲学は、シンプルに留めながらも新しくかつ馴染みのあるものにすることなんです。トラディショナルから離れつつも、認識しやすさのあるものを目指しています。クラシックなデザインの中にデンマークのシンプルさとミニマリズムを込めているのです。
それゆえに、楽器店でバウムのギターを手に取った時、ほかと異なるものを感じると同時に馴染み深さのようなものも感じると思います。
ボディ・フィニッシュには落ち着いたカラーが多いですが、カラーリングについてのこだわりを教えて下さい。
目を惹くキャッチーさとエレガントさを重要視しています。そのうえで、私たちのギターのデザインと同様に、独自のカラーも定義したいと考えています。Deep Forest、Moon Dust、Inca Goldといった新たなカラーはすべて、バウムが製作する楽器のために選んだものです。
時折ビビッドなカラーを使うこともありますが、私たちのカラースキーム(色彩計画)は深みのある色で考えていきます。
“みんなのためのデザイン(Design for the people)”と呼んでいます
ブランドを立ち上げてから今までで、思い出に残っているエピソードは何かありますか?
大きな転機となったのは、アレックス・ヴァーガス(デンマークのシンガーソングライター/プロデューサー)が(2017年の)スムックフェストという音楽フェスで、2万人を前に私が初めて作ったConquer 59をプレイしたことでした。これによってバウム・ギターズは、すでに地位を確立したブランドたちと同じステージに並んだのだと確信したんです。
デンマーク国外へと知名度を高めていくターニング・ポイントはありましたか?
私たちは約10年にわたってビジネスを展開してきましたが、その中でターニング・ポイントとなったのは、オリジナル・シリーズを立ち上げた時でした。最初の100本のギターを数日間で販売したのです。
我々バウム・ギターズが生み出したデンマーク流の新たなデザインが、カスタムショップ並みの予算を投じなくても多くのプレイヤーに提供できることを示す、最初の一歩となりました。
ハイレベルなデザインであり全体的なクオリティにおいて妥協をすることもなく求めやすい価格を実現させたことから、“みんなのためのデザイン(Design for the people)”と呼んでいます。
日本でも入手可能なオリジナル・シリーズですが、海外工場での生産でコストを抑えながらも、一度バウム・ギターズの工房に戻して最終調整を行なってから世界へ輸出しているのですよね?
はい、そのとおりです。デンマーク製のギターを大きなスケールで再現することを目指しているんです。そのために、すべての楽器は品質管理とセットアップのためにデンマークに戻していますね。バウムのギターを我々以上に知り尽くしている人はいないですから。このステップはとても重要で、最終セットアップを我々が行なうことで、プレイヤーが受け取る価値を最大限にしているんです。
コストを抑えることと、クオリティを保つことの両立で苦労したポイントは?
適切な製品を作るための適切な製造元を見つけることです。バウムが求めるクオリティを常に維持する必要がありますからね。結果的に私たちは、適切な製造元を見つけたと確信しています。
これを実現できたのは、デザインや作業に用いるファイル、3Dのモデルなど、製造元にとって必要なものをすべて私たち自身で準備しているからなんです。この準備作業によって我々自身も、どのようにしてバウム・ギターが作られているのか、それを製造元が忠実に再現するために何が重要なのかをより深く知ることにつながりました。
ピックアップはオリジナルのものを搭載していますが、そのこだわりについても聞かせて下さい。
ゴールドサウンド(Goldsound)ピックアップは、まずビジュアル面でバウム・ギターとマッチしたカスタム製のカバーを採用しています。
さらに、トランスペアレントでダイナミックなサウンドにデザインしています。これにより各プレイヤーの個性を反映させると同時に、楽器の声をさらに引き出すことになります。
このように、ビジュアル、サウンドの両面から追及して生まれたものなんです。ギター本体の独特なルックスだけでなく、“バウムらしいサウンド”を有することも重要なポイントでした。
これまで早いペースで新たなデザインのモデルをリリースしてきましたが、開発はどのように行なっているのでしょうか?
私たちは開発の段階からプロ・ミュージシャンたちと作業をしていて、彼らの正直で実践的なフィードバックに耳を傾けてきました。2万人ものオーディエンスを前にしてプレイする、音にこだわりのあるミュージシャンが納得するものとなれば、それは一般的なミュージシャンたちにも受け入れられるものとなるはずですからね。
また、私たちは実はオンライン上のコミュニティ=バウム・ファミリーと一緒にデザインを行なっていて、定期的にカラーや構成について議論しています。そのため、新たなモデルが製造に移る段階で、すでにユーザーたちの好みに基づいたものになっているのです。
大きなブランドになる野望はないんです
あなたが理想とするギターとはどういったものでしょうか?
それはまさにバウムのギターです。私の理想に基いて、ルックスとプレイアビリティの両者においてデザインしていますからね。
ただ、“理想のギター”というのは、プレイする音楽や欲しいサウンドによって変わりますし、私たちのコレクションの中から1つを選ぶというのは難しいことです。時にはWingmanを選ぶこともありますが、Leaper Toneを選ぶ日もあります。
現在私はアコースティック・ギターのLeaper Stageにハマっていて、そのシンプルさとグレイトなサウンドを気に入っています。
バウム・ギターズのギター・ブランドとしての展望を聞かせて下さい。
私たちが次のステップとして考えているのは世界中の新たなプレイヤーを取り込んでゆっくりとバウム・ファミリーを増やしていくことです。ただその一方で、小回りの利くデンマークのチームであり続けたいので、大きなブランドになる野望はないんです。
小さなブランドであることは、私たちがユーザーたちに寄り添った存在であることを意味しています。私たちは日々ユーザーたちと対話をしていて、彼らも自分たちがプレイしているブランドから直接のレスポンスが得られていることを評価してくれているようです。
そのおかげで、ブランドをフレッシュに保つ新しいモデルやスタイルの可能性が見えてきて、量よりも質を重視にする活動を実現できているんです。
それでは最後に、日本のギター・プレイヤーたちにメッセージをお願いします!
私たちデンマークのブランドを応援してくれて感謝しています。アリガトウゴザイマス! 日本からのサポートは私たちにとって、とても大きな意味を持っています。
将来的に日本のプレイヤーたちの手に、より多くのデンマーク製ギターが渡ることを楽しみにしています。そしていつの日か日本に足を運び、ギターについて皆さんと直接話をしたいですね。
デンマークのバウム・チーム及び私より、あなたに幸がありますように。