山岸竜之介に聞く、ギター・インストのアレンジ 『THE GUITAR』で魅せた音楽スタイルの幅広さ 山岸竜之介に聞く、ギター・インストのアレンジ 『THE GUITAR』で魅せた音楽スタイルの幅広さ

山岸竜之介に聞く、ギター・インストのアレンジ 『THE GUITAR』で魅せた音楽スタイルの幅広さ

山岸竜之介がソロ名義で初のギター・インスト作品『THE GUITAR』をリリース。幼少期から培われてきたブルースやロックのエッセンスはもちろん、近年のソロ活動やサポート・ワークで育んだネオソウルやポップス、現代プログレッシブ的なアプローチまで、様々なスタイルの楽曲が詰め込まれている。彼の音楽的なカバー範囲の広さを示す“ポートフォリオ”のような本作について、たっぷりと語ってもらおう。

インタビュー=福崎敬太 写真=小杉歩

ギターだと3弦の14フレットより上は“裏声”みたいなイメージ

これまで歌モノのロック/ポップスでソロ活動を続けてきましたが、このタイミングで『THE GUITAR』というインスト作品をリリースしたのには、何かきっかけがあったのでしょうか?

 これまではギターの仕事をメインにしていた分、自分のソロではそれと違うことをやりたいと思っていて。LIFE IS GROOVEのようなブルース・ロックやファンクみたいなジャンルでもなく、そこではやっていないポップスや“日本人らしい音”に重きを置いていたところがあったんです。

 で、この3年間コロナ禍もあって、自分の仕事の内容が凄く変わっていったんですよね。これまでがライブ8割、制作2割だったのが、制作8割、ライブ2割になって。それでアレンジやプロデュース・ワークに力を入れたいと思って、どんどん自宅作業が増えていったんです。

 あとは、例えば変態紳士クラブのサポートでMステに出たり、武道館を経験させてもらったり、ギタリストとしての仕事の規模が大きくなってきた。

 そうやって僕の技術を買ってくれる人が出てきたので、今までは“やっていないことをやろう”だったけど、今回はそれを1つ越えて“本当に自分が痺れるものをやろう”ってなったんです。

より自由になれた?

 そうですね。天邪鬼じゃない部分を出せるようになったというか。“作る”ということに対しての向き合い方が変わった感じがあります。色んな人と歌モノをやることが増えてきて、改めて“自分にしかできないこと”を考えた時に、やっぱり“ギターを弾いて生きてきたな”って思って。それを活かすという点でも、ギター・インストに挑戦してみようと思ったんです。

今作の楽曲はそれぞれジャンルが違う、多彩なスタイルが詰め込まれた1枚です。どんな作品にしようと考えていましたか?

 その時ハマっているものと小さい頃から影響を受けてきたものを混ぜることが、今まで自分がやってきたことで。それをギター・インストに落とし込んだらこういう作品になった、という感じですね。統一感を目指したというより、ジャンルレスで1曲ごとにギタリストが変わるようなイメージかな。

 でも、自分のフィルターをとおしたものにしたいっていう考えはありました。ネオソウルでも“クリーンでオシャレに弾く”ということではなく、“自分が感じたネオソウル”という感じに。それは自分が影響を受けてきた音楽も同じで、“今の自分”が咀嚼して噛み砕いた音を出したかった。

歌モノの作曲とは違うと思うのですが、今作はどのように曲を作っていきましたか?

 僕はギターを弾いている時が一番脳と直結しているので、アドリブの延長にあることが多かったですね。Recボタンを押してから出てきたフレーズが色んな曲にあります。

 例えば「I AM GUITAR HERO」はドラム・トラックをフル尺で作って、その打ち込んだドラマーとセッションしていくような感じで作っていきました。

 ギターを先にボイスメモのように入れてから、それとセッションするようにドラムやベースを入れて、最後にギターを差し替える、みたいな作り方もしましたね。

歌だと声の音域がありますが、ギターの場合はかなり自由が高いと思います。メロディの音域や楽曲のキーはどのように考ましたか?

 僕は歌で一番高く出せる音がハイAで、ギターだと3弦の14フレットより上は“裏声”みたいなイメージがあるんです。なので、4〜5弦を織り交ぜたAメロとかは、“ラップのような低い声のフレーズ”みたいに考えているところがありますね。逆にソロはほとんど裏声で、ボーカルで言う“フェイク”のような気持ち良い感じで弾いているというか。

 で、キーは響きで決めます。例えばテレキャスターでGを弾いた時とSGでGを弾いた時って、ジャンルが違う音楽に聴こえるんですよ。テレキャスターのGはカントリーに聴こえるけど、SGで弾くとブルース・ロックに聴こえたり。それでギターを変えることもありますし、作曲する時に持ったギターによって、キーやサウンドが決まることもあります。

山岸竜之介

心からギターを楽しんでいる瞬間をパッケージしました

「I AM GUITAR HERO」は凄いストレートなタイトルですね。

 “現代のギター・ヒーローは?”ってなった時、デレク・トラックスとかが出てくると思うんですけど、“僕より何個上やねん”っていう人なんですよね。僕と一番年齢が近くてギター・ヒーローとして認知されているMIYAVIさんでも、僕より10個以上は歳が上で。じゃあ、この2023年にわかりやすく宣言するようなタイトルにしようと。

楽曲としてはどのようなものにしようと考えていましたか?

 “こういう画を撮りたい”っていうMVのイメージがあったんです。色んな服に着替えて、色んなギターを持ち替えて、ビンテージ・ギターを弾いたりワーミーを踏んだり、っていう。それで、速い曲で1コーラスくらいで終わる、MVで映える曲にしようと考えていましたね。

ワーミーを使ったフレーズは「I AM GUITAR HERO」以外にも色んな曲で出てきますよね? あのサウンド・アプローチはどのようなイメージで使っているんですか?

 最初はあまり詰めずに弾いて、いきなりグワァ〜って詰めるようなフレーズの作り方が好きで。でも、テッペンにいったあとって、盛り下がるしかないじゃないですか。そこで、さらにもう一段階盛り上げるにはどうすれば良いだろうって考えて、ワーミーを踏んだら単純に面白いかなって思ったんです。70%から始めて100%に届いたあとに、さらに120%にいかせるようなイメージですね。

竜之介さんのシグネチャー・アプローチになりつつあると感じるのですが、これはいつ頃からやり始めたんですか?

 1年前くらいですね。“あ、この音って竜之介がやってたな”っていうエフェクティブなアプローチを作りたかったんですよ。

以前から使っているデジテックのBass Whammyで作った音ですか?

 いや、レコーディングはニューラルDSPのQuad Cortex(ギター・プロセッサー)ですね。音程の変化はエクスプレッション・ペダルでコントロールしています。

 僕は“ギター・ビーム”って呼んでいるんですけど、その設定を全部組んであるんですよ。オクターバーも3つくらい乗っていて、8個くらいエフェクトを組み合わせて、初めてあの音になります。で、あれはモノラルみたいに処理しているだけでステレオなんですけど、そうじゃないとあの音は出ないんですよね。

「Polyphonic」は発音の良いプレイやビートに、ポリフィアのような現代的なエッセンスを感じました。

 これは、もう……ポリフィアですね(笑)。この曲はエフェクティブなギターの音を使いたくて、ボコーダーをギターに掛けていたりしています。ギターだけどシンセサイザー的な扱いをしてみたかった。

 あと、あえて途中で生バンドみたいな演奏を入れているんですけど、あそこはレッチリのイメージで。ガレージでマイク1本で演奏した、お風呂場のモワモワなリバーブが掛かっているような、一発録り感を演出したんです。

「Pray」はエレキのソロ・ギターです。これはどのように作っていきましたか?

 「Pray」なので“祈り”というテーマで、気持ちがポジティブになれるようなサウンドをイメージしていました。なので、キーはメジャーだけど底抜けに明るい曲ではなく、テンポはゆっくりしたもの。それだけ決めてRecボタンを押したら、こういう楽曲になったという感じですね。家で弾いているギターの延長で、曲の長さも考えずに、心からギターを楽しんでいる瞬間をパッケージしました。

 仕事じゃなくて家で1人でギターを弾いている瞬間が好きで、レス・ポールを買って無我夢中に弾いている瞬間とか、そういうものの延長にある。だから一番自然体な曲かもしれないですね。

山岸竜之介

自分が一番カッコ良いと思えるかどうかを、これからも大事にしていきたい

「Wave funk feat.Tatzma the joyful」は変態紳士クラブでも弾いているギタリストのTatzma the joyfulとの共作ですね。制作はどのように進みましたか?

 シンセとドラムの打ち込みだけのループにイントロのフレーズを加えて、そこにTatzmaさんがソロやユニゾンのフレーズなどを入れてくれて。それに対して僕もソロを足したり、Tatzmaさんのプレイをサンプリング的に使わせてもらったりして仕上げていきましたね。トラック先行でTatzmaさんが引っ張っていってくれたところに、僕がセッション的に乗っかっているようなイメージです。

 楽曲としては、80年代や90年代のアーハ(a-ha)だったりディーヴォの“打ち込みらしい”シンセウェイヴのサウンドが出発点で。そこにギターを入れたディスコ・ファンクのような曲ですね。

「Chill Guitar」はネオソウル的な感じで、1テーマで引っ張っていく流れですが、どういう風に曲展開を考えていきましたか?

 僕のオンライン・サロン(ギター道場)で毎月動画を公開しているんですけど、この曲はその企画で作ったものなんですよ。“Chill Guitarというテーマで1曲を完成させよう”っていう企画で、自分がゼロから組み立てているところを見せるっていう趣旨だったんです。で、初心者から上級者までが観ているので、両方の人たちが面白く観ることができるように、わかりやすくシンプルな作業にしようと思って。だからアンプのセッティングとかも含めて、わかりやすくシンプルに作った曲ですね。

ラストを飾る「No 1」はリフで引っ張っていく、映画のテーマ曲のような印象を受けました。

 エンドロールが流れているイメージですよね。「Monochrome(Guitar inst ver)」でアルバムが終わって、最後に「No 1」が始まる。それまでに色んなメロディを弾きまくってあとなので、メロディよりはリフで引っ張っていく曲が欲しかったんです。あと、ギターをやっている人がこの曲をバッキング・トラックにして遊んでみる、っていうことができたら面白いなって思って、そこまで色んなフレーズを入れないようにしました。

竜之介さんの初のギター・インスト作品を作り終えた感想を、改めて聞かせて下さい。

 ギター・インストもこれが最後ではなく、また違う形で作っていきたいですね。今回は打ち込みで作りましたけど、次はドラマーと一緒にやってみるのも良いし。どういう形でも、自分の心が動いた瞬間や歌モノ以外の自分を見せたい時には、またチャレンジしたいと思っています。

 あと、ギター以外についてもそうですけど、やっぱり自分が一番カッコ良いと思えるかどうかを、これからも大事にしていきたいですね。

作品データ

山岸竜之介『THE GUITAR』

『THE GUITAR』
山岸竜之介

Ryunosuke Ymagishi/2023年8月20日リリース

―Track List―

  1. 序章 〜Intro〜
  2. I AM GUITAR HERO
  3. Break
  4. A_C
  5. Polyphonic
  6. Chill Guitar
  7. Pray
  8. Wave funk feat.Tatzma the joyful
  9. Monochrome (Guitar inst ver)
  10. No 1

―Guitarists―

山岸竜之介、Tatzma the Joyful