小沼ようすけがキャリア初となる渾身のソロ・ギター・アルバム『Your Smile』を語る 小沼ようすけがキャリア初となる渾身のソロ・ギター・アルバム『Your Smile』を語る

小沼ようすけがキャリア初となる渾身のソロ・ギター・アルバム『Your Smile』を語る

日本を代表するジャズ・ギタリスト小沼ようすけが、キャリア初となるソロ・ギター・アルバム『Your Smile』をリリースした。ギター1本による情感豊かなプレイは、リズムやハーモニー、メロディのどれもが絶妙なバランスで共存し、聴き手に美しい情景を想起させる。今回は、ジャズ・ギター・マガジンが行なった本作についてのインタビューを、ギタマガWEB用の特別構成版でお届けしよう。本記事とは別構成のフル・インタビューは、2023年11月8日(水)発売の『Jazz Guitar Magazine Vol.11』でチェックしてほしい。

取材・文=坂本信 写真=Yasuma Miura

10年越しのソロ・ギター・アルバム

新作『Your Smile』は初めての全編ソロ・ギター・アルバムですが、何か特別な思いはありましたか?

 どこかで聴いたことのあるようなものじゃなく、楽曲や音のニュアンスなど、自分にしか表現できないような作品にしたいと思っていました。

 もともとは10年前に、アコギを1本持ってアジアなどを3ヵ月間旅をして、感じたインスピレーションをもとに作った曲をまとめてソロ・アルバムにしようとしたことがあったんです。でも、最初に行ったスリランカの滞在3日目で足を骨折してしまい……。全治3ヵ月で、療養のために予定期間を使い切ってしまったという(苦笑)。

サーフィン中の骨折だったそうですね。

 ええ。最初はスリランカで入院しましたが、幸い個室でギターが弾けたので、その時に作ったのが2曲目の「Searching For The Mind」です。

 帰国してからも療養期間中はほかにすることがないから、自分がデビューした時に買ったまま弾きこなせずにいたエイブ・リヴェラのベイビー・バップというギターを弾きこなせるようになろうと毎日弾いていました。アルバムでも、エイブ・リヴェラをメインで使っています。

小沼ようすけ
小沼が手にしているのが、エイブ・リヴェラのBaby Bop。

ジャケットに描かれた、ベッドに横たわってギターを弾く猫は、その時の小沼さんの投影でしょうか。

 あれはまったくの偶然で、デザイナーさんに何パターンか作ってもらったものから選んだのが、たまたまあれだったんですよ。

色濃く反映されたカリブのミュージシャンたちとの共演

「Serching For The Mind」というタイトルには、これまでの思いが込められている感じですね。

 この曲は、録音する時までタイトルをつけずにいたんです。で、レコーディングの時に楽曲の背景をふり返ったら、例えばフレンチ・カリブのミュージシャンたちと『Jam Ka』を作った経験やそのグルーヴ、当時追い求めていたブラジルやキューバの民族音楽のエッセンスなどが全部入っていたので、ぴったりのタイトルだなあと思いましたね。

本拠地を東京から湘南に移したことも、カリブの感覚を維持するのに役立っていると思いますか?

 湘南に引っ越した2006〜07年ぐらいの頃は、東京の住人が観光でリゾート地に来たような感覚があったんです。でも時が経つにつれて、海のもっと向こう側に思いを馳せる気持ちだとか、荒れて色んなものを破壊するような恐ろしさとか、海との関係の様々な側面が自然な形で作品に反映されるようになったと思います。そういう生活とつながったところでカリブの音楽に出会ったということは、言えるかもしれませんね。

ブラジル音楽については、具体的にどんな人の音楽に影響を受けていますか。

  トニーニョ・オルタやバーデン・パウエルなどの、ジャズ・ファンにも愛されているブラジル系ギタリストたちの研究を、その頃はよくしましたね。ほかにも、ブラジル人ではないですが、20代前半の頃、サンディエゴ出身のギタリスト、ピーター・スプレイグにハマっていました。ジャズとブラジル、エレキとナイロンをバランス良く演奏するセンスが大好きで、よく研究していました。

 それが自分の中で、Jam Kaのメンバーと一緒に演奏した時のグルーヴ感とつながって、自分なりの表現として出てきているんだと思います。

 また、グアドループやマルティニークのハーモニーやメロディ、リズムの感覚は、実際に現地の空気に触れ、そこにルーツを持つミュージシャンたちとレコーディングやライブで何度も一緒に演奏して身についたので、それが自分のほかの音楽的な経験とうまく融合しているような気がします。

スタジオでじっくりと音を作った会心作

収録曲のタイトルは、「Picture Book」や「Kite」、「Jelly Fish」など、ビジュアルなモチーフになっているようなものが多い印象ですね。

 「Picture~」はもともと、同じコード進行でメロディが日記みたいに変わっていくというコンセプトで作っていたんですが、その日記が三日坊主みたいになっちゃって(笑)。残りが白紙のまま何年も放置してあったのを、録音を前にしてようやく仕上げたんです。

 「Kite」と「Jelly Fish」は、最初はスティール弦のアコギで録音していましたが、アルバム・ジャケットの仕上がりを見て、録音最終日にエレキに変更してレコーディングしたんです。エピフォンの60年代のアンプを使用し、とても温かいサウンドで録れましたね。

 ラスト曲の「Jerry Fish」 はアンプ直で、録り音が本当に良く、ミックスでもまったく手を加えてないありのままのサウンドなんです。色々な意味で、究極にシンプルなテイクですね。あと、この2曲はコンセプトがあって、タイトルをイメージしながらの即興なんです。なのでライブでは、その日その日で演奏が変わります。

「Sacred Place」と「Jasmine」は、楽曲としてかなり作り込んだ印象です。

 その2曲は弾くことが完全に決まってましたね。「Sacred~」は竹富島なんかのパワー・スポットで体感した風の渦巻きというか、不思議な感覚を表現しました。「Jasmine」は生まれたばかりの子供に捧げた曲です。ソロ・ツアーの途中から、即興セクションをその日の気分で作って演奏するようになりました。

コロナ禍が完全には収まらない中で発表されたソロ・アルバムだったので、1人なら自主隔離の状態でも作れるなあと思っていましたが、録音はスタジオでしっかりとやったんですね。

 最初はコロナ禍の間に宅録で作ろうと思っていたんですよ。ただ、100%自分で作ったというのは、それはそれで美しいと思いますが、録音は素人ですから。それで悩んでいた頃に、指弾きのニュアンスや感情表現を遅れがなくサウンド化してくれる素晴らしいギター・ケーブルと出会いました。作った方は、自宅スタジオを持つレコーディング・エンジニアのモリタセイジさん(vanilla House Sound Lab)で。その出会いからソロ・アルバムの制作を決意したんです。

アルバムの曲で、ギターの生音をマイクで拾ったような音が入っているものがあったと思うのですが。

 それは「Keisho~継承」じゃないかな。リヴェラの生音をマイクで拾った音を多めにミックスしていると思います。

 あの曲は古い歴史のある旅館で作ったんです。そこのロビーにはアート作品が飾ってあって、空間の響きが良いんですよ。で、“そこでエレキを弾いていて生音も響いている”というイメージの音を作ってほしいとエンジニアさんにお願いした結果、ああいう音になりました。ただ、ほかの曲を録音している時にもずっと生音をマイクで拾っていたので、どの曲にも多少なりとも生音がミックスされているはずです。

「Gradation Part 5:Time Perception」のアコギはG-200 ECですか? ちょっとクラシック・ギターっぽく聴こえる瞬間もあるようですが。

 そうです。クラシックっぽく聴こえたのは、弦がシルク&スチールだからじゃないかな。自分のスタイルに寄せるためにこの弦にしたら、しっくりときたんですよ。

そこまで細かくこだわったのなら、スタジオで録音したのは正解でしたね。

 ええ。スタジオだと、一発でテイクを決めようとして集中力も高まるし。あと、今回は現場でアレンジを変更したり何かを加えたりする必要が生じた時にも、自分の作業が終わるまで待ってもらえたんですよ。それだけじっくり時間をかけることができて良かったと思います。

今はソロ・ツアーの真っ最中ですね。

 20本ほど終えて、これから後半です。アルバムの曲も各地で育ててもらっています。その会場の雰囲気に合ったサウンド作り、楽曲の変化や即興、アルバムで作り上げたものの再現……これらのバランスをとりながら演奏することはとてもやりがいがあり、毎回たくさんのことを学んでいます。

Jazz Guitar Magazine Vol.11

本記事はジャズ・ギター・マガジンが行なったインタビューを、ギター・マガジンWEB用に構成したものです。『ジャズ・ギター・マガジンVol.11』には、本記事とは別構成のフル・インタビューを掲載。特集は「ジャズに脈打つアメリカーナ」で、表紙はジュリアン・ラージ。ぜひチェックを!

小沼ようすけライブ情報
http://www.yosukeonuma.com/Live.html

作品データ

『Your Smile』
小沼ようすけ

FLYWAY LABEL/MOCLD-1098/2023年9月20日リリース

―Track List―

  1. Kite
  2. Searching For The Mind
  3. Your Smile
  4. Picture Book
  5. You Will
  6. Interlude
  7. Gradation Part 5:Time Perception
  8. Keisho〜継承
  9. Sacred Place
  10. Jasmine
  11. Jerry Fish

―Guitarist―

小沼ようすけ