MUCCの新作『Timless』についてミヤが語ったインタビューの後編をお届けしよう。今回はツアー第4弾“「Timeless」〜カルマ・シャングリラ〜”時に発表された楽曲の話、アルバム用に書き下ろされた表題曲、そしてアルバムで使用したギターなどがテーマだ。また、2023年12月28日に行なわれる“Timeless”ツアーのグランド・フィナーレにかける思いも語ってくれた。
取材/文=村上孝之 写真=冨田味我
80年代のああいう系統のバンドの匂いを音色で表現したかった
アルバム再現ツアーの第4弾となった“「Timeless」~カルマ・シャングリラ~”時には「サイレン」と「under the moonlight」がリリースされました。
『カルマ』(2010年10月)と『シャングリラ』(2012年11月)には、実は裏テーマがあったんです。メディアなどでは当時、4つ打ちで、ダンス・ミュージックで、エレクトロで……みたいに書かれることが多かったんですけど、蓋を開けてみるとそうでもないんですよ。そういった表面的な情報だけを切り取って書くライターさんが多くて。
『カルマ』はダンス・ミュージックを目指したわけではなくて、お客さんのノリ方の重きを、踊ることに置きたいというテーマだったんです。なので、今のタイミングで当時をイメージして曲を作ると、また違った解釈のディスコ・サウンドのものができた。
「サイレン」は、俺の中ではジャック・ホワイトとマネスキンのミックスみたいな感じです。ロック・サウンドで、踊れて、どこかしら陰があって……という。
もう1曲の「under the moonlight」は、俺の中ではBOØWYです(笑)。ただ、BOØWYだけではなくて、80年代のああいう系統のバンドの匂いを音色で表現したかったという感じかな。
なぜ、こういう曲をやろうという気持ちになったんですか?
今やったらカッコいいかなと思ったんですよ。あと、自分のギタリストとしてのルーツはBOØWYが6割を占めていて。6割がBOØWY、3割がリンプ・ビズキットやコーンで、あと1割がX JAPANみたいな(笑)。
だけど、俺の中にあるBOØWYを今まであまり表に出してきていなかったんですよね。でも、今開ける必要性が出てきたなという感じがあったんです。
『シャングリラ』(2012年11月)からの再録曲「G.G.」についても聞かせて下さい。
「G.G.」は超定番曲なんですよね。でも、『シャングリラ』は2012年のアルバムで、今聴くとオケが古くて。それがストレスになっていたので、作り変えちゃおうと思ったんです。打ち込みを全部作り直すところから始めて、レトロ・ディスコ感もありながらシンセ感もある、という感じに持っていって。結果的に、最新のものにアップデートできましたね。
「Timeless」は69年製のレス・ポール・カスタムを使いました
過去曲の再録はファンの不興を買ってしまうこともありますが、今作のリテイク・トラックは“オリジナルも新録も両方良いな”と感じさせてくれますね。もう1曲、アルバムに向けて作られた「Timeless」についても聞かせて下さい。
シンプルなラブソングですけど、逹瑯がMCで“「Timeless」というツアーを終えられることに対して、関わってくれた人たちへの感謝の気持ちを歌っている”と言っていたんです。だから、個人に宛てたラブソングというよりは、Timelessツアーを作ってくれたみんなに対してのラブソングという、今までにない感情も入っていて。
この曲は大人数のコーラスを録るために、バンドマンの先輩から後輩まで、20人くらい集まってもらいました。ドキュメントを観てもらえば誰が居るのかがわかりますけど、凄く力がある曲になりましたね(編注:朱ゥノ吐+会員限定、数量限定の特別特装版には、制作ドキュメンタリー映像を収めたBlu-rayが付属)。
『Timeless』のギターで大事にしたポイントをあげるとしたら?
再録となると、当時の機材を使おうという意識が絶対に出てしまうけど、そこはまったくこだわらなかったんです。「路地裏 僕と君へ」とかは、最初に当時使っていたブライアン・ムーアで録ってみたんですけど、当時には近づいても、今の俺とイコールじゃないなと思って。そこはやっぱり今のメイン・ギターでもあるハパスにしちゃいましたね。ただ、キャビネットとかは当時から使っているゲンツ・ベンツを使いました。
個人的には、今作はそれぞれの楽曲に合わせて、より細やかにギターの音色を変えている印象を受けました。たとえば、「リブラ -Timeless Ver.-」や「路地裏 僕と君へ -Timeless Ver.-」はややロー・ゲインなドライブ・トーン、「サイレン」はファズ・サウンド、「Timeless」はザクザクした音など、ゲインや質感を使い分けていますよね。
ギターで言うと、「Timeless」は69年製のレス・ポール・カスタムを使いました。インディーズの頃に1度借りて、全然良く感じなくて使っていなかったんですけど、今改めて弾いたら凄く良くて(笑)。当時の自分にとっては枯れ過ぎていたんでしょうね。
あと、昔の俺はレス・ポールを全然弾いたことがなくて、その良さを知らなかったんです。当時は“イメージより全然チャチいな”と思ってしまって。25年経った今は、そういうギターの良さもわかるようになりました(笑)。
アンプに関しては、「路地裏 僕と君へ -Timeless Ver.-」や「想 -so-」、「耀 -yo-」あたりまではメサ・ブギーのTriple Rectifierがメインで、「99」以降はRoad King2に変わっています。Road Kingはギターらしい帯域が“ギュッ”と濃縮されている感じで、ホール・ツアーに合うなと思って導入したんです。今はもうTriple Rectifierに戻れないですね。
Triple Rectifierは凄く良いアンプなんですけど、ベースのEQを上げると“ここまで上がってこなくていいのに”というくらいローが上がってしまうんですよ。Road Kingはそれがない。Petit Brabanconのantz(g)さんがそのセットを使っていて凄く好印象で。それで自分も買ってみたら、俺にもMUCCにも合ったんですよね。
色んな思いが折り重なったライヴになると思うので、ぜひ体感しにきてほしい
良い出会いがありましたね。そして今作は、ギター・ソロが多いことも魅力です。
今回、ソロはオールドのマーシャルしか使わないというコンセプトを徹底していて。ビンテージのマーシャルを大きい音で鳴らした時にしか得られない幸福感があるんですよね。決して、音が凄く速かったりするわけではないんですけど、その音にしかない説得力がある。
あとは、Ken(L’Arc~en~Ciel)さんのストラトキャスター(Limited Ken Stratocaster Experiment #1)が本当に良くて、今作のリードはほとんどそれで録っています。Kenさんのストラトキャスターとオールドのマーシャルがまた合うんですよ。
今作のソロは、よりニュアンスを大事にしていた印象を受けました。
Kenさんのストラトキャスターを弾くようになってから、ニュアンスとかがさらに気になるようになりました。ほかのギターではわからないニュアンスがわかるんですよ。“ここをもっと表現しないと間が持たないな”というようなことをギターに言われている感じで、ビブラートなども前よりしっかり表現するようになりました。
あと、クォーターや半音のチョーキングでのピッチのズレがほかのギターよりも気になるんです。シビアだけど、凄く良い楽器だなと思いますね。
『Timeless』は良質な楽曲とプレイが詰め込まれた必聴の一作になりました。そして、本作のリリースを経て、2023年12月28日の東京国際フォーラムでMUCCの25周年を締めくくるライヴが行なわれます。
2021年11月に出したシングル「WORLD」は、コロナ禍が収束する頃にみんなで歌えるといいなという目標を掲げて書いたんです。それが、“コロナは終わらないんじゃないか?”という感じになってきてしまった。でも、その中でもがきながらも活動を続けていたら、徐々に霧が晴れてきて、声出しができるようになって、モッシュもダイブも戻ってきた。12月のライヴは、その過程を一緒に過ごしたお客さんとバンドとの、コロナからの卒業式でもあるんですよね。
あと、「WORLD」ではみんなの声をリモートで1人ずつ送ってもらって、何千ファイルという音声をCDに入れたんです。それは現在の技術があるからできたことで、それを最終的にライヴでみんなで合唱して終わるというのは、なんて美しいんだろうと。
止まらなくてよかった、諦めなくてよかった、ついてきてくれたファンは本当にありがとう。そういった色んな思いが折り重なったライヴになると思うので、ぜひ体感しにきてほしいです。
作品データ
『Timeless』
MUCC
朱/MSHN-181/2023年12月28日
―Track List―
01.サイレン
02.G.G. -Timeless Ver.-
03.under the moonlight
04.99
05.リブラ -Timeless Ver.-
06.想 -so-
07.ガーベラ -Timeless Ver.-
08.死の産声
09.耀 -yo-
10.路地裏 僕と君へ -Timeless Ver.-
11.Timeless
12.空 -ku- (JaQwa Remix)
―Guitarist―
ミヤ