2024年に結成20周年を迎えた打首獄門同好会が、新年早々にアルバム『ぼちぼちベテラン』を発表した。ヘヴィ・ロックを軸にしつつも、様々なジャンルの要素を散りばめた、バラエティ豊かな楽曲が並んでいる。
今回は、ギター・ボーカルを務める大澤敦史に、20年でのギタリストとしての変化や新作のギター・アレンジ、そして本サイトの読者であれば黙っちゃいられない「少年よ、君に伝えたい事がある」の歌詞について話を聞いた。
インタビュー=福崎敬太
俺たちが聴かせたいのは曲であり、音楽は伝わらないと意味がない
『ぼちぼちベテラン』は結成20周年を記念するアルバムです。この20年でギターはどう変化してきましたか?
20年を経て、考え方がだんだんと渋くなってきていると思います。派手でカッコ良いフレーズを、みたいなギター・キッズ的な思考から、かなりリズムを重視するようになっていって。それにサウンドもアンチ・ドンシャリになってきているんです。ミドル主義というか。
それは凄く感じます。高音域が抜けてくるというより、ギターの美味しいところを主張するような。
“ドンシャリは悪だ!”くらい思っています(笑)。ライブを重ねるうちに、音程感というのをどんどん重視するようになっていったんですよね。
高域のジャっていう圧や低域のズンっていう圧は、ライブハウスの客席でワッと感じるんですけど、それが音楽的かっていうところに疑問を持つようになったんです。
ただデカい音で凄い、ズンと響くから凄いとか、子供騙しな演出で“凄かった”という印象に持っていくのは簡単かもしれない。でも俺たちが聴かせたいのは曲であり、音楽は伝わらないと意味がない。そう考えて、高域や低域の迫力に頼らず、ミドルでしっかりと芯を作って、そのうえで圧を出すということをだんだん重視するようになってきたんです。
それは徐々に変化していったのですか?
経験を通してでしょうね。なんかしっくりこない、よくわからない、伝わらないっていうことが、自他ともに、ほかのバンドを観ても感じることがあったりもして。
曲を伝えるためにアレンジのメリハリをしっかりして、そのうえで凄いって思わせるライブをやらないと、自分たちが選ばれる理由がなくなるなって思ったんですよ。
効果音のようなところで満足させるようなバンドは、いくらでも代えがきいちゃう。だから、音楽性を勝負の土台として重視するようにしよう、という思考に変わっていきましたね。
なるほど。
それでプレイ的にも派手なものがどんどん抜けていって、リズムを重視するっていう意識が物凄く強くなったんです。なので、リズムの解像度が初期と比べて上がったと思いますよ。
音符的には同じだけど、ドラムのキックに対してギターが前にいった、うしろにいったとか。それによってどう感じるかっていう分析を年々突き詰めていって。キックに対してベースはこうで、ギターはもう少しこっち、ギターとベースの関係はこう──“これが一番気持ち良い!”っていう価値観が自分の中で固まってきて、それを目指すようになったんです。
アレンジがややこしいと、それを弾くのに精一杯になってリズムがうまくいかない。それが気に入らなくなって、シンプルなフレーズが増えてきましたね。
打首ってけっこう散らかってる曲が多いじゃないですか?
『ぼちぼちベテラン』でギター的なテーマはありましたか?
最近EverTuneブリッジを導入したんですね。ここ何年も悩みだったんですけど、特にライブで和音の濁りみたいなものがあって、ボーカルのピッチを見失いがちだったんです。
5弦ベースと7弦ギターの弱点は、低い弦をバンって鳴らしちゃうと、ピッチが一瞬上がってから、然るべきピッチに落ち着くっていう、ブレが大きいところで。それでズクズクやっていると、そのズレたところが主体になっちゃって、バッキングのピッチが全体的に上がっている状態なんですよね。
で、EverTuneは前から知っていたんですけど、ビブラートやチョーキングが殺される、ニュアンスが殺されるという弱点があるので、躊躇していたんです。でも優先度はそっちじゃないかと、意を決して導入したんですよ。そしたら、ま〜〜あ、コードが気持ち良い。
なので、収録曲は2021年の録音からあるんですけど、ギターは全部録り直しました。
え!? 新しいギターで?
この音で録り直したいと思って、ギターだけは全部最新テイクで。弾きまくりな日が続いたので、整骨院の先生に呆れられるほど身体が歪みました(笑)。
ボディ材も前のギターとは違っていて、サウンド面に関しても自分の中で気に入っています。
「カンガルーはどこに行ったのか」や「なぜ今日天気が悪い」、「もののわすれ」など、1曲の中でリズムが変わりますが、リズム・アレンジやそれに対するギターのアプローチはどのように考えているのですか?
「もののわすれ」はかなり拍子が入り乱れていますね。3もあれば5もあって、4に戻って。……打首ってけっこう散らかってる曲が多いじゃないですか?
は、はい(笑)。
(笑)。これは歳とともに普通の曲に飽きてきまして(笑)。1曲ずっと8ビート、退屈だなぁ〜って。そこは捻くれてしまいました(笑)。で、やっぱりそういう曲がこのバンドにも増えてきたということで、いきなり全部シンプルにすると凄い退屈になっちゃうから、またそういうのを作りたいなぁって、ちょっとカオスめな進行にしたりとか。そうすると、おっいいね!ってなるわけですよ。
ジャンルの混ぜ方についてもそうで、まぁ今作も、我ながら散らかっちゃったわけじゃないですか。
は、はい(笑)。
メタルもあれば、16分のファンク/フュージョン的なフレーズもあり、変拍子を入れたプログレちっくなアプローチもあり。サンバ楽器が参加しちゃっているのが一番カオスなんですけどね。そういう色んな音楽的アプローチでイタズラをするのは、お客さんに楽しんでもらいたいというところもあるんですけど、自己満足的なところも大きくありまして。このほうが自分が弾いていて楽しいっていう。
“サンバ、ミクスチャー〜レゲエを添えて〜”とか言ってました
以前ほかのインタビューで、ギター・ソロは音像が薄くなるから避けているということを言っていました。今作は「クッチャネ」でジャジィなソロが聴けますね。
自分でもどうかと思うんですよ。このアルバムで唯一のギター・ソロがクリーン・トーンって(笑)。本当にこの20年ずっと悩んで困っているんですけど、ギター・ソロを弾き始めたらうしろがスカッとしちゃう。うわぁ〜、寂しいぃ〜!って。
メロディ・ラインは盛り上がっているのに。
2020年のミニ・アルバム『2020』までは速弾きのギター・ソロをたまには入れようと思っていたんですけど、ライブを録音して聴き返してみたら寂しすぎて。ツイン・ギターの別プロジェクトじゃないと弾けないんじゃないかって諦めが芽生えていて、結果がこれです。クリーン・トーンだったら大丈夫。
抑えたバックが前提ならOKだと(笑)。
ギターが静かに弾いていて、うしろもドラムとベースが16ビートでうねりを出している。これは3ピースでも成り立つと。もう、消去法です。苦肉の策です(笑)。
このジャジィなアプローチはどのように考えていったんですか?
手探りも良いところですよ。“ここ半音で移動したらそれっぽくなるかな”くらいの感覚でやっています。適当に弾きながら、“お、今のを拾おう”ってそれをつなぎ合わせて完成させる、というやり方でしたね。
だから考え方が本当に、凄い短絡的というか。本当にこのジャンルをやっている人が見たら、鼻で笑われるような。“半音で移動したらそれっぽい”とか“ここでスケールアウトしたらそれっぽくなるんじゃないか”みたいな(笑)。我ながら子供騙しすぎるんですよ(笑)。
(笑)。1曲の中でジャンルもヘヴィ、ファンキー、ジャジィと入り乱れますが、異なる音楽スタイルをミックスしていく中で考えていることはありますか?
毎度手探りですね。例えば「地味な生活 -SAMBA MAX EDITION-」はサビがサンバ、Aメロが16ビート寄りのロック。
最初はミクスチャーな展開にしようと思ったんですけど、“つなぎをどうしよう”と悩んで。“つながらないなぁ……”って考えた時に、接着剤として持ってきたのが、唐突なレゲエという(笑)。
この曲の説明は難しかったですよ。“サンバ、ミクスチャー〜レゲエを添えて〜”とか言ってましたから。
ギターをやってモテているやつは、ギターを弾いていなくてもモテる
ちょっと趣向が変わりますが、「少年よ、君に伝えたい事がある」の歌詞の内容は看過できないな、と。
あはは(笑)。ねぇ?
ギターを弾けるとモテるかモテないか、という。これは徹底討論ですよ。……正直おっしゃるとおりなんですけど(笑)。
こういう道にいった人にとっては議論のネタになるじゃないですか。20年やったから今もう言って良いだろう、ということで“20年やってきました、結果をお知らせします!”っていう気持ちです(笑)。
結果発表ですか(笑)。
いいですか? 検証しました。人生を賭けて検証した結果、武道館をソールドしても変わりません(笑)!
根拠が強い……(笑)。
証拠は出ました! どうですか? まだ反論できますか? くらいの気持ちで満を持して出しましたね。
実は島村楽器が楽器を弾けるとモテるかっていうアンケート調査を行なったんです。
おやおやおや。
で、モテるだろうというのが、54.8%。
ほぉ、勝利しましたか。
楽器別で言うと、ギターが1位なんですよ。
あら、昔の価値観と変わっていない。でもね、この歌が言っているとおりですよ。仮にギターをやっていてモテているやつは、ギターを弾いていなくてもモテる。
“モテるならどのくらい練習したら?”という質問があって、1年以上、3年以上、というのが両方で40%超という結果もありました。
いや、年数じゃないと思うんですよね。練習する対象だと思うんですよ。今流行っている音楽を練習している人は、半年でモテます。で、イングヴェイ・マルムスティーンを練習している人は、5年後に男からモテます。“すげぇなお前!”と(笑)。女性がイングヴェイを弾けるようになったら、男から凄くモテます。
間違いないですね(笑)。
大丈夫ですか(笑)? 若者の夢を潰す内容で。
事実ですので(笑)。では、『ぼちぼちベテラン』のレコーディングで使用した機材についても聞かせて下さい。ギターは?
SAITO製の一番新しいEverTune搭載モデル。厳密に言うと、試作1号ボディの段階で全部録りました。ボディ材は同じアルダーですけど、エルボー・カットの具合を色々と調整したんです。それ以外はすべて現状のものですね。で、クリーンなどの“音色が違うな”っていう時は、ヘッドレスのS-HL7。
アンプやペダルのセッティングは?
ライブ用のセットをそのまま使っています。これまではレコーディングだとキャビネットを使ってマイクで録っていたんですけど、今回は実験的に“シミュレーターの音でレコーディングまでいけるんじゃ?”ってエンジニアと話をして。
シミュレーターの中でマイク2本分をシミュレートできるので、リアンプの要領でマイクを色々と試してみたり。それが思いのほか良くて。なので今回は初めてすべてがラインで仕上がっています。ライブに来たら同じ音だなって感じると思いますよ。
では最後に本作の注目ポイントを聞かせて下さい。
さっきの話と被るんですけど、20年やっているとこだわるところが渋くなってきて、コードのピッチ感やリズムっていうところに関心が向かっている。そういう派手さのないところに凄く力を注いだ、というのを感じ取ってもらえたら嬉しいですね。
打首獄門同好会 20!+39!=59! TOUR
日程/会場
- 2024年4月5日(金)/長野 JUNK BOX
- 2024年4月6日(土)/新潟 LOTS
- 2024年4月9日(火)/北海道 小樽 GOLDSTONE
- 2024年4月11日(木)/北海道 函館club COCOA
- 2024年4月13日(土)/青森 Quarter
- 2024年4月14日(日)/秋田 Club SWINDLE
- 2024年5月14日(火)/滋賀 U☆STONE
- 2024年5月15日(水)/岐阜 club-G
- 2024年6月9日(日)/山口 周南RISING HALL
- 2024年6月11日(火)/佐賀 GEILS
- 2024年6月12日(水)/鹿児島 CAPARVO HALL
- 2024年6月21日(金)/大阪 Zepp Osaka Bayside
- 2024年6月29日(土)/福島 郡山HIPSHOT JAPAN
- 2024年6月30日(日)/千葉 柏PALOOZA
※各地対バンあり
チケット代 5,900円(ドリンク代別)
※情報は記事公開時のものです。最新のチケット情報や公演詳細は打首獄門同好会公式HPをチェック!
打首獄門同好会公式HP https://www.uchikubi.com/schedule.html
作品データ
『ぼちぼちベテラン』
打首獄門同好会
LD&K Records/403-LDKCD/2024年1月3日リリース
―Track List―
- 20!+39!=59!
- フワフワプカプカ
- 少年よ、君に伝えたい事がある
- カンガルーはどこに行ったのか
- 死亡フラグを立てないで
- なぜ今日天気が悪い
- クッチャネ
- 部長ぷっちょどう?
- シュフノミチ
- もののわすれ
- 地味な生活 -SAMBA MAX EDITION-
- KOMEKOMEN
―Guitarist―
大澤敦史