現代のアメリカを代表するロック・バンド、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ(以下、QOTSA)が2023年6月に6年ぶりとなる新作『In Times New Roman…』をリリースし、それに伴うジャパン・ツアーを2024年2月に行なった。今回、東京公演の当日にトロイ・ヴァン・リューウェン(g)とディーン・フェルティタ(g,k)の2人にインタビューを実施。ドゥーム/ストーナー・ロックを展開するQOTSAにおいて、ギターはどのような役割なのだろうか?
取材:村田善行 通訳:トミー・モリー 人物撮影:古溪一道
オレたちはレコーディングでもライブと同じようなサウンドにしたいと思っている──トロイ
新作『In Times New Roman…』は、これまでのアルバムに比べてよりクリアで大きな音像に仕上がっています。何か思い切って変化した部分があったんですか?
ディーン 削ぎ落した、原点に戻ったようなギター・サウンドを求めたよ。だからサウンド・プロダクションについて、オレたちはかなり関与しているんだ。3人もギタリストがいるからこそ、ギターのレイヤーを重ね過ぎないようにしたし、すべてのサウンドのために余白を作っておく必要もあった。リズム・パートはダブルで鳴らしているところもあるけど、そういうのは全体的に見れば多くはない。
ジョシュ(オム/vo,g)のサウンドはハッキリとわかるように常に鳴っていて、オレたちはその隙間を狙ってアンビエンスなものや、色づけするようなフレーズを弾いている。動きのあるパートもあるんだけど、ぶつかり合うことがないように意識したよ。そういうところはお互いあえて言葉にするまでもなく、最初から共有していた気がするね。
ライブでは3本のギター、楽曲によっては1人がシンセサイザーを弾くという編成ですが、レコーディングの時点でそこは意識しているんですか?
トロイ それはあるだろうね。さっきの質問の続きになってしまうかもしれないが、オレたちはレコーディングでもライブと同じようなサウンドにしたいと思っている。そういう意識があるから、ライブで再現不可能なことはレコーディングしないんだ。ライブ中にオケでトラックを流すことはしないからね。あくまでも3人でできることをやりたいと思っているよ。
ディーン こういうアプローチでやってきたからこそ、自分のフレーズにキャラクターが加わり、ひいては音楽全体を見据えた作り方につながっているんだと思う。どの音にも目的があって、そこに着地しているんだ。
ギターのレコーディング時にデジタル・プロセッサーを用いることもあるのでしょうか?
トロイ オレは普通に使うね。デジタルの世界に足を踏み込むことを恐れてないよ。コンソールに直接ギターをつなぐこともあるし、リアンプすることだってある。その時に応じて、いくらでもやりようがあるんだ。今回のレコーディングでも、突発的にアイディアが思い浮かんだ時はコンソールに直接ギターをつないでプレイしたしね。それがそのまま最終OKが出たんだよ。
ディーン それはオレもけっこう考えていたポイントかな。サウンドを追求して何度もアンプやペダルの組み合わせを試しても、ベストな結果から遠ざかってしまうことだって起こるよね? だから時には最初に試したものがベストなわけで、それがコンソールにつないだだけのシンプルな音でもかまわないと思うんだ。
ライブでは楽曲の新旧に応じて機材を使い分けることも?
トロイ 少しはあるね。オレたちは使ってきた機材に変遷や歴史があって、今のサウンドにたどり着いている。オレがこのバンドに入ったばかりの頃はジョシュとまったく同じ機材を使っていて、それまでバンドが作り上げてきたサウンドを踏襲していたんだ。でも、それからバンドは進化して新たなメンバーが加わり、キーボードも導入して実験をするようになり、変化した。だから今では自分が気に入った新しい機材を使っているよ。
それと昔のアルバムの中にはチューニングが違う曲があって、例えばCまで落としたチューニングだ(CFA♯D♯GC)。だから世界各地に機材を持って行くとなると、長年のサウンドをカバーできるように濃縮させたラインナップになる。で、今ロードに出る時は何本だ? ……25本くらいのギターとベースを持ち運んでいるよ(笑)。
ディーン もし今までレコーディングで使ってきたすべてのアンプを置いてライブをするとなると、ステージ上に自分たちが立つ場所もなくなってしまうだろうね。
トロイ 今オレが使っているアンプは友人と一緒にデザインしたもので、基本的に何でもできてしまうんだ。クリーンなサウンドも出せるし、ペダルを上手く組み合わせれば1stアルバム(『Queens Of The Stone Age』/98年)のような音も作れるよ。
つまり、ライブではこうやって新しいものと古いものを少しずつ一緒に使っているんだ。デジタル・エフェクトも使っているけど、それは単に足下に7台もアナログ・ディレイを並べたくないし、巨大なスプリング・リバーブ・ユニットをステージに置きたくないからだね。以前はスプリング・リバーブを置いていたこともあったけど、アレはオススメできない(笑)。特にラウドなステージともなるとね。
QOTSAの音楽において、リバーブはかなり重要だと思います。ライブで使っているリバーブ・ペダルは何ですか?
トロイ オレは何を使っているのかを明かすのが全然怖くないから教えてあげよう! それはEventideのH9で、おもにスプリング・リバーブとブラックホールをプリセットしている。BOSSのRE-20もお気に入りで、ディーンとジョシュもけっこう使っているんだ。
ディーン Electro-HarmonixのHoliest Grailはレコーディングで使っているけど、ライブだとちょっと難しいところがあってね。
トロイ そうだね。今挙げたのはほんの一部にすぎないけど、H9はたくさんのことをやってのけてくれるよ。
アナログ機材のほうが合うのかなと思いましたが、H9ならば問題ないですね。
トロイ H9はEventideの製品だからね。 Eventideがどれだけしっかりしたペダルを世の中に送り出しているか、ミュージシャンなら誰もが知っているだろう。Eventideっていうだけで快適に使えているよ。リリースされてから10数年近くずっと使い続けていても、初めて手に入れた個体はまだ壊れていないんだ。
最終的にビッグなサウンドを作るうえで意識するべきことは、各楽器が作り出す“音の総和”だ──ディーン
日本のリスナーやミュージシャンたちは、あなたたちのギター・サウンドは歪んでいるものだと考えがちです。しかし実際はクリーン気味で、それをにじませるためリバーブを使っているのではと察します。
トロイ 歪みに関して話すと、オレたちはディストーションを使うことはないんだ。オーバードライブ程度のゲイン感でアンプをプッシュするのが基本的なサウンドだね。だからミスが許されないくらいタッチがモロに出ちゃうトーンで、そこまでサチュレーションもあるわけじゃない。基本的にアンプを歪ませているか、もしくはファズで歪ませているかという感じで、スピーカーで空気を揺らす感覚を大切にしているんだ。
ディーン 3本のギターが鳴っているバンドでディストーションまで歪ませると、サウンドが小さくなってしまいがちなんだ。
トロイ あぁ。小さなサウンドになっちゃうよね。
ディーン だからオレたちは歪みを減らして、クリーン気味にするように意識している。最終的にビッグなサウンドを作るうえで意識するべきことは、各楽器が作り出す“音の総和”だ。それが重要で、それぞれがどんなに大きな音を出しても、必ずしも全体でビッグなサウンドになるとは限らない。
弦のゲージやブランド、ピックの形状や硬さなどにこだわりは?
ディーン オレはフェンダーのミディアム・ゲージをずっと使い続けているけど、レギュラー・チューニングなら.010や.011から始まるものであれば問題ないよ。もちろんCまで落としたドロップ・チューニングの場合はもっとヘヴィなゲージを使うけどね。
トロイ オレはJim Dunlopのカスタム弦を使っていて、.011〜.052のゲージをレギュラー・チューニングのギターに張っている。ちょっとだけヘヴィな感覚だね。ピックは実物を見せてあげるよ。
ディーン (トロイがディーンのJim DunlopのTortexを取り出す)これがオレのピックで、ティアドロップの最も尖った部分を使っているよ。
トロイ オレのも見つけた! これだ(Jim DunlopのHerco Flex 75)!
ジミー・ペイジと同じピックですね。
トロイ そうなんだよ。でもラベルを見てくれ。
バンド名(QOTSA)がラベリングされていますね。
トロイ クールだろ? オレも尖った先端でプレイしているよ。もう20年以上使ってるんじゃないかな。
2人はどうやって機材の情報を得ているんですか?
トロイ 常にそういう情報を探しまくっているミュージシャンに囲まれているよ。というか、オレたちもそういう連中の一員だね。最新のものや、面白くなりそうなものを常に探しているんだ。
ディーン 自分をほかの人たちとは違った存在にさせてくれる機材も求めてしまうよね。
トロイ でも結局、“自分のトーンを作っているのは指だ”という結論にたどり着く。新しいエフェクトや機材は、“自分の中に新たな閃きをもたらしてくれるもの”で、ワクワクしながらトライしているよ。オレたちよりも機材に憑りつかれてしまった友達もかなりいるよね。
ディーン そいつらの栄誉のために、“彼らは知識が豊富なんだ”って言ってあげたほうがいいのかな(笑)?
トロイ そう。あいつらは博識なんだよ。
ディーン オレたちは、例えば数台の中からアンプを選ぶ時、“曲の雰囲気にマッチしたルックス”っていうだけで決めるような連中なんだ(笑)。
ギタリストは誰しもパーソナリティーに直結したサウンドを持っていると思うんだ──トロイ
私が初めてあなたたちを知ったのは20年ほど昔、イギリスのファズ・メーカーのD.A.M.のWEBサイトで、ファズを手にしたトロイの写真を見たのがきっかけでした。“このファズを使っている人って誰なんだろう?”と思ったところから、あなたたちの音楽にたどり着いたんです。私と同様に、日本人の中には機材を追いかけてQOTSAを知った人もけっこういると思うんです。
トロイ それはグレイトなことじゃないか! 最高な形だよ。かなり昔だったけど、あの時のことを覚えているよ。オレたちは幸運なことに、ギターやアンプ、ペダルを製作する友人に恵まれている。例えばWay Hugeっていうブランドがあるだろう? ジョージ・トリップスも友人で、彼は常に実験を重ねまくっているような男だ。一度QOTSAのリハーサル・スペースに“Drunk Monkey”というペダルを持ってきたことがあったんだよね。
ディーン ほかにも、ジョージ・トリップスの見習いが作った試作品を持ってきたこともあったよね。
トロイ ジョージはオレたちが興味を持つと思って、いつもペダルを持ってきてくれるんだ。中には1、2台作っただけでパーツがなくなってしまうものもあるけどね(笑)。それとDr.No Effectsもそういう類の人だった。Echopark Instrumentsのガブリエル・カリーはファズやオーバードライブも作っていて、かなりの本物だね。オレとディーンが使っているアンプは彼と一緒にデザインしたものなんだ。
ディーン オレたちが使っているギターのうち、その半分は彼がデザインしたものだよ。
トロイ フェンダーもギブソンも持っているけど、Echoparkのデザインやクラフトマンシップは何ひとつ劣るものじゃない。それにガブリエルは、ギターがどうやって作られてきたのか、その歴史をしっかりと知っているんだ。なんてったって、G&L時代にレオ・フェンダーのもとで働いていたんだからね。
ディーン それに彼らはオレたちの歴史や性格、そしてQOTSAがどうやって機能しているのかもわかってくれている。だから、それらを抑えたうえで楽器をデザインしてくれているというのが心強いんだ。
ライブの際、ディーンはギターとキーボードをそれぞれ別のアンプにつないでいるのでしょうか?
ディーン そう。それぞれ別のアンプにつないでいるよ。キーボードもモノによってはアンプとの相性や組み合わせによって、何かが生まれるものがあるからね。オレはキーボードをレコーディングする時、ほとんどギタリストのように考えるんだ。ペダルを通してアンプにつなぐ。それが基本的な考え方だね。
トロイ でも、MoogのSub PhattyをVOX AC15につなぐのだけはオススメしないかな。それで過去に何台もAC15を壊しちゃったからね(笑)。
トロイがライブで使っているアンプは?
トロイ けっこう変わったやり方なんだけど、3台のヘッドを2台のキャビネットと組み合わせているんだ。3台のヘッドはそれぞれドライ用、ウェット用、リード用。そのうちドライ用は常に鳴らしっぱなしで、そこにウェット用とリード用のどちらか1台が加わる形だね。だから常にヘッドを2台同時に鳴らした音が出ているんだ。
そしてウェット/リードの切り替えについてだけど、単にウェットとリードを切り替えるだけじゃなくて、ボリュームをブーストさせたい時にも切り替えることがあるよ。
3台のヘッドで2台のキャビネットを鳴らしているとのことですが、どのように接続しているのでしょうか?
トロイ 2台のキャビネットのうち、1台はドライ専用だね。もう1台には12インチのスピーカーが3発入っていて、1発はウェット用、残りの2発がリード用となっているんだ。だから実質、片方のキャビネットには2台のヘッドがつながっているということだね。リバーブの音はウェット用のキャビネットからしか出てこないから、例えば大きな会場でリバーブを控えめにしたい時は、PAエンジニアのほうでシグナル量を減らすことができるんだ。
ドライ・サウンドを重視しているセッティングなんですね。つまり、自分の指から生まれるサウンドを大事にしていると。
トロイ ギタリストは誰しもパーソナリティーに直結したサウンドを持っていると思うんだ。たとえジョシュがオレのアンプを使ったってジョシュの音になるだろうし、ディーンがジョシュのアンプにつないだってディーンの音になるってことだ。
読者に向ける言葉としては“ちゃんとギターを弾け!”ということですね?
トロイ そのとおりだよ。オレよりも先に最高のアドバイスを君たちが言ってくれちゃったじゃないか(笑)!
オレたちのセットアップには共通しているものがあるよね──ディーン
今日のライブ(2024年2月7日@東京ドーム・シティ・ホール)で使うペダルやギターについても教えて下さい。
トロイ オレはシグネチャー・モデルのジャズマスターをメインで使うだろうね。そしてEchoparkの Clarenceというモデルも使っている。テレキャスターをちょっと大きくした感じで、テレキャスター・デラックスっぽい感じかな。
これは実はレオ・フェンダーがデザインしたギターでね。その形をテンプレートとして残したものがあって、それをEchoparkのガブリエルがレオの奥さんから譲り受け、そのテンプレートから作られたものなんだ。レオの奥さんが屋根裏でテンプレートを見つけたのがきっかけだったらしい。あとは新品のギターだけど、グレッチのブロードキャスターもかなり気に入っているよ。
ディーン 12弦ギターも忘れずに教えてあげないとね。
トロイ オレたちは3本の12弦ギターをロードに持って行っていて、1本目はフェンダーカスタムショップ製の12弦テレキャスター、2本目はけっこう使っているBurnsのDouble Six、そして3本目はフェンダーカスタムショップ製のダブル・ネックだね。これはElectric Ⅻとジャズマスターを組み合わせたようなギターなんだけど、13ポンド近い重量があって、重過ぎはしないけど一晩プレイするのはキツイ(笑)。
ディーン オレのアンプはEchoparkのガブリエルと一緒に設計したものなんだけど、実際にはGMIという新しい会社によって作られているんだ。ガブリエルはアンプの仕組みや作り方をよく理解していて、フェンダーやマーシャルらしいサウンドを作り出すためには何が必要なのかをわかっている。オレたちはそのハイブリッド回路をデザインして、そのあとは友人のショーン・ローミンという男がカリフォルニアのエルモンテで作ってくれてたんだ。Echoparkの最新のアンプはショーンによって作られているっていうことだね。
トロイ こういう話ならいくらでも続けられるよ(笑)。で、ステージ上にはH9が2台あって……(笑)。
のちほど機材取材に行きますので、その際に確認します(笑)!
トロイ 思う存分見てきてよ!
ディーン オレのメイン・ギターもEchoparkだね。ほかにはトロイのシグネチャー・モデルも使っている。オレたちは似たような機材を使っているんだ。
トロイ 12弦ギターはシェアしているからね。
ディーン オレたちのセットアップには共通しているものがあるよね。あと今回のツアーで特に気に入っているのが、Spontaneous Audio Devices のSon of KongっていうEQペダル。知ってるかな?
トロイ このペダルはなかなかよくできたものだよ。
最後に、もし今日のライブを3台のペダルだけでやらなければならないとなった場合、“これだけはないと困る!”というものを教えて下さい。
ディーン Electro-HarmonixのPOGは入れるかな。替えがきかないからね。
トロイ たくさんのことができてしまうから、絶対にH9ははずせないね。Jim DunlopのQ Zoneは欲しい周波帯を狙っていじれるフィルターだから選ぶかな。そしてFuzzrociusという、夫婦だけでやっているニュージャージーのブランドがあって、彼らがオレのために作ってくれたOh See Demonという歪みを使えば丸ごとライブができてしまうだろう。でも、もしもう一個だけチートで加えられるならElectro-HarmonixのSuperegoも使わせてくれ。
ディーン たしかに、それはよくわかる!
トロイ Superegoはたった1つのことしかできないけど、ほかのペダルではできないことをやってくれるんだ。“これを入れるためにどれか諦めろ”と言われると困るね(笑)。
本日はありがとうございました。QOTSAとクイーンが同時に日本にいるのが不思議な感じですね。
トロイ オレたちは大阪でロジャー・テイラーに遭遇したんだよ!
本当ですか?
ディーン そうなんだよ。
トロイ “ROCKROCK”っていうバーに行ったら、彼とアダム・ランバートがいてね。あれはクールだったよ。
作品データ
『In Times New Roman…』
クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ
BEAT RECORDS/Matador/OLE1947CDJP/2023年6月16日リリース
―Track List―
- Obscenery
- Paper Machete
- Negative Space
- Time & Place
- Made to Parade
- Carnavoyeur
- What The Peephole Say
- Sicily
- Emotion Sickness
- Straight Jacket Fitting
―Guitarists―
ジョシュ・オム、トロイ・ヴァン・リューウェン、ディーン・フェルティタ