yonigeが3年8ヵ月ぶりのフル・アルバム『Empire』をリリース。壁のような力強いディストーションのコード・ワーク、ハイ・ゲインで鳴らすメタル的なリフ、透明感のあるクランチのアルペジオなど、歪んだギターの魅力をとことん詰め込んだ1枚だ。今回はバンドのギター・ボーカルを務める牛丸ありさと、ギター・アレンジのキーマンであるサポート・ギタリストの土器大洋に、今作のサウンド・メイクやギターで重視したポイントを聞かせてもらった。
取材/文:伊藤雅景
“yonigeにプラスアルファするなら?”という部分を意識してます──土器大洋
今作『Empire』のギター・アレンジはどのように進めていきましたか?
牛丸ありさ まずは土器さんにアレンジを全部投げて、返ってきたものを私が気に入ったらそのまま使って、“ここはもうちょっとこうしたほうがいい”みたいな部分はあとから指示をした感じですね。
土器大洋 僕の家にメンバーで集まって、PCの前で適当にコードを弾きながら“こんなのどう?”みたいな感じで聞いたりしつつ進めていく感じです。曲にもよるんですが、“こんなリズムをやりたい”ってアイディアから始まることもあれば、最初にコードしかない曲もありますし。
基本的には、その時にアイディアを持っている人が曲のアレンジの主導権を握るって感じですかね。例えば「walk walk」だったら、ベースのごっきんが持ってきたリズムをもとに固めていったり。
牛丸 昔は私がコードやメロディを考えてメンバーに投げてたんですけど、自分が作るコード進行に飽きちゃって。「三千世界」(2021年)ぐらいからは、土器さんが持ってきたコードに対してメロディをつけることが多くなりましたね。ただ、「愛しあって」、「スクールカースト」、「神様と僕」は、私が大昔に作った曲をリアレンジしたので、もともとは私が作った進行なんですけど。
土器さんがコードを考えた曲は?
牛丸 「Super Express」とか?
土器 そうだね。でもこれは『健全な社会』(2020年)の時にはデモを着手してたよね。
牛丸 「DRIVE」も。
土器 「DRIVE」に関しては、とにかくドロップD・チューニングを使いたくて。最初から、牛丸のデイヴ・ムステイン・モデルが似合うような曲を作りたいっていうイメージがあったんですよ。“じゃあドロップDっしょ!”みたいなところからリフ作りが始まりました
関係してると思いました(笑)。
土器 半分くらいはそうですね(笑)。
牛丸 「デウス・エクス・マキナ」も土器さんのコード進行から作ったよね。
土器 これはたぶん、スタジオでメンバーが談笑している時に自分が弾いた適当なコードをみんなが気に入ってくれて採用したよね。
土器さんが持ってくるコード進行はどんな印象ですか?
牛丸 私が使うコードは決まりきってるんで、“このコードの次、そこいくのアリなんだ”みたいに感じますね。あまり自分が使わないコードも持ってきてくれるんで、yonigeの曲に幅が広がりました。
土器 でも、“とにかくyonigeにないものを!”というよりは、“yonige”にプラスアルファするなら?”という部分を意識するようにしてますね。あと、牛丸がライブで弾けるかどうかとか(笑)。バレー・コードとかはあまり得意じゃないもんね。
牛丸 そうそう(笑)。
今までのyonigeにない一面を見せられたなと思います──牛丸ありさ
次はギターのサウンド・メイクについて聞かせて下さい。
土器 実は、今回はライン録りが多くて、実機のアンプを使った曲が少なかったんです。例えば「DRIVE」は、最初はアンプを鳴らして録ったんですけど、エンジニアと“現代の音楽のレンジ感を目指すには、ちょっと荒すぎる”という話になったんです。そんな感じで、ラインの音を使うことも多くて。
今作のギター・サウンドには“現代の音楽のレンジ感を目指す”という1つの目標があったと。
土器 そうですね。なんていうか“泥臭いんだけど音だけは端正”みたいなところを目指しましたね。「DRIVE」や「スクールカースト」のような初期衝動的な雰囲気がある曲でも、音だけは凄く端正で。
そこは牛丸さんも意識していた部分なんですか?
牛丸 いま初めて知りました(笑)。
土器 (笑)。今回は2人のエンジニアさん(土岐彩香/采原史明)と相談をしながら作っていく時間が多かったので、アンプやプラグインは色々試せましたね。
エンジニアとは、データでのやりとりで試行錯誤していったんですか?
土器 自宅だとノイズの問題や、ミックスを考えた微調整も難しいので、レコーディング・スタジオで色んなプラグインを試しながら作っていきました。Quad Cortex(Neural DSP/ギター・プロセッサー)を使ったりもしましたね。あと、同じくNeural DSPのトム・モレロのシミュレーター(Archetype: Tom Morello)がかなり活躍しました。
マーシャル・タイプのモデリングですよね。
土器 そうです。特にバッキング・ギターで多用しました。「DRIVE」、「スクールカースト」は間違いなくトム・モレロのシミュレーターです。ディストーションもクリーンも、万能に使えるんですよね。
あと、「True Romance」のバリトン・ギターはAmpliTube 5を使った気がしますね。エンジニアさんにおまかせな部分もあったので細かくは覚えてないんですけど。「walk walk」や「DRIVE」のソロは、Quad Cortexのマーシャル系のプラグインで録りました。でも、牛丸のアンプ(ディバイデッド・バイ・サーティーン/CCC9/15)を使った曲もあったような。
牛丸 「seed(re-recordingver.)」かな?
土器 そうかもしれない。バッキングで空気感が必要なものだけアンプを使おうみたいな感じになって。
「seed(re-recordingver.)」は、以前にレーベルのコンピレーションCD(『FAM』2020年)に収録されていましたね。
牛丸 ちょっとだけリアレンジしていて。
当時も土器さんと一緒に制作したのですか?
土器 一緒に作りましたね。当時のギター・レコーディングは自分が宅録したんですけど、ライブでいっぱい演奏してきた曲だったので、この曲のバッキング・ギターは牛丸が録ったんです。数少ない、牛丸がギターをレコーディングした曲ですね。
牛丸 このバッキングだけ(笑)。
土器 やっぱり、タッチとかに牛丸の感じが出てると思います。
土器さんと制作するようになって、制作のスピードは変わりましたか?
牛丸 結局、あんまり変わってない(笑)。スピードは変わってないけど、私は前より楽になりました。ギター弾くのが苦手なので、そういう大変さからは解放されてるかな(笑)。
その分、作曲にパワーを使えるようになったということですね。
牛丸 そう言うと聞こえがいい感じがします(笑)。
土器 “ギターはとにかく俺が弾くから、脳みそは作詞作曲のために取っておいて”みたいな(笑)。だから自分は“このフレーズは牛丸っぽく弾けたらいいな”みたいに考えて弾くこともありますね。なんか、あんまりギターでニュアンスをつけすぎてもyonigeっぽくならないし、オシャレにしすぎると逆に違う……みたいなところがあるので、そういうバランスを考えて弾いてますね。
牛丸さんのプレイを言葉にすると?
土器 真っすぐ。
牛丸 (笑)。余裕がない感じ?
土器 そうは思ってないけど(笑)。めっちゃ素直で真っすぐ。それも自分の引き出しの1つとして持っておいて、“ここは牛丸系プレイ、これはギター少年系”みたいに曲によって使い分けるようにしてますね。
牛丸さんから見た土器さんのギターの印象は?
牛丸 土器さんはめっちゃバカテクなギタリストってわけではないけど、いっぱい引き出しがあって、その時に必要なものを持ってきてくれる。寄り添うのが上手いですね。あと、ギター・モノマネが得意なんですよ。「Club Night」で、“エロいおっさんみたいなギター弾いて”って伝えたら、それっぽいギターを入れてくれたり(笑)。
土器 “エロいおっさん”のギター、最初はエロくしすぎて、ちょっとそれはやり過ぎだろみたいな感じになったよね(笑)。エロじゃなくて狂気的な。
ロー・ファイな音色のソロですよね。
土器 最初はもっとリズムにまったく合わせない感じのソロで。それを提出したら、“ちょっと難しすぎる”と(笑)。
最後に、今作のギターで、一番の聴きどころを教えて下さい。
牛丸 私は「DRIVE」と「Club Night」ですね。今までのyonigeにない一面を見せられたなと思います。
土器 難しいな……。録り音は「True Romance」が気に入っていますね。アコギとバリトン・ギターがメインなんですが、ベースの低音も鳴りつつ、バリトンのロー感も出ているのが凄く良いです。プレイ的には、僕も「DRIVE」と「Club Night」ですね。自分ぽい感じが出せたなと思っています。
作品データ
『Empire』
yonige
配信&オフィシャルサイトでの通販限定/YONG-0001/2024年1月10日リリース
―Track List―
- Super Express
- 愛しあって
- walk walk
- DRIVE
- Club Night
- 神様と僕
- スクールカースト
- Exorcist
- seed(re-recordingver.)
- デウス・エクス・マキナ
- True Romance
- a familiar empire
―Guitarists―
牛丸ありさ、土器大洋