夜の本気ダンスの新作『dip』でのギター・アレンジを、西田一紀&米田貴紀が語る 夜の本気ダンスの新作『dip』でのギター・アレンジを、西田一紀&米田貴紀が語る

夜の本気ダンスの新作『dip』でのギター・アレンジを、西田一紀&米田貴紀が語る

夜の本気ダンスがメジャー4thアルバム『dip』をリリース。様々な種類のサウンドが入り乱れ、多様なジャンルの要素を内包しながらも、米田貴紀のジャキジャキのテレ・サウンドと西田一紀によるアグレッシブなリフやオブリが、それぞれの楽曲を“夜ダン”たらしめている。そんな新作のギター・アレンジやサウンド・メイクについて、西田と米田の2人に話を聞いた。

インタビュー=福崎敬太 写真=shoko ishizaki

“曲を作りたい”気持ちが自分の中で大きかったんです──米田貴紀

ギタマガ初登場ということで、まずはギターを始めた経緯から聞かせて下さい。

西田 僕は小中高とずっと野球をやっていたんですけど、高校2年生の時にヒジを痛めてボールを投げられなくなって、部活を辞めたんですよ。それで急にやることがなくなってしまい、“何かやりたいけど、どないしよう……”って思って。家に祖父の家から持ってきたギターがあったから始めたんです。当時ギターを弾いていた友達に弦を張ってもらって、そいつらに教えてもらったりしながら。

バンドをやるようになった流れは?

西田 大学生になった時に、トリオでバンドをやっていた小学校の同級生から、“ギター弾かへん?”って言われたので、“やる!”って言って始めた感じですね。

米田さんはどうですか?

米田 僕がギターを始めたのは中3の頃で、高校に入学するまでの間に何か新しいことをやりたい気持ちがあったんです。それまでは音楽を聴くこと自体にも興味を持っていなかったんですけど、ASIAN KUNG-FU GENERATIONを聴いて、バンド・サウンドやギターのカッコ良さに触れて。

 それと同じくらいの時期に漫画の『BECK』(著:ハロルド作石/連載は1999〜2008年)を読み始めて、その影響もあって“自分でもバンドを組みたい、ギターを弾いてみたい”という衝動が生まれて、ギターを買いましたね。

そのきっかけとなったアジカンのアルバムは何だったんですか?

米田 『崩壊アンプリファー』(2003年)でした。CDショップでイチオシとしてプッシュされていて、“今の最先端のロックはこれなのかな”って思ってとりあえず買ってみたんです。

  それまで流行りのポップスくらいしか聴いていなかったで、正直、最初は“うるさいな”っていう感想だったんです(笑)。でも、それがどんどん馴染んでいって、カッコ良いなって思うようになったんですよね。

最初からギター・ボーカルでしたか?

米田 最初に組んだバンドではリード・ギターでした。ただ、作曲はしていて。“曲を作りたい”気持ちが自分の中で大きかったんです。

それぞれ影響を受けたギタリストを教えて下さい。

西田 ネットで調べたら“レッド・ツェッペリンっていう凄いバンドがあるらしい”っていうのを知って、一番最初はレッド・ツェッペリンを聴き始めたんです。始めは“退屈やな”って思っていたんですけど、ずっと聴いていたらある時“これ、めちゃめちゃカッコ良いやん”っていう瞬間がきて。

 そこからレッド・ツェッペリン、AC/DC、ジミ・ヘンドリックスみたいな、“ザ・ギター”っていう感じのロックを聴いていく中で、ブルースに入っていくんです。

 で、大学生の頃に色々と聴いて、最終的に“スティーヴィー・レイ・ヴォーンが一番カッコ良い!”ってなりましたね。“ブルースでこんな弾き方、ありなんや!”って。

米田 僕は“ギタリストでこの人”というのは、なかなかいないんです。ただ、岡村靖幸さんのギターの使い方、リズムをバリバリ際立たせる感じは、凄く“良い使い方やな”って思って、尊敬しています。

米田貴紀
米田貴紀(vo,g)

『dip』はギターに重きを置いて作った1枚──西田一紀

最新作『dip』のギターは、どのようなものに仕上がったと感じていますか?

米田 バンドの4人の音じゃない、シンセなどの音が入ってきたことで、ギターだけで上モノとかを引っ張らなくて良くなったんです。リズムに関しても、ギターが無理に引っ張らなくちゃいけないっていうのがなくなった分、より自由にギターを配置できるようになったのかな、とは思いましたね。

西田 『Fetish』(2019年)まではスタジオで曲を作っていて、曲を作る米田がギタリストなので、サウンド的にもギター主導で曲を作っていくことが多くて。

 で、『PHYSICAL』(2021年)や『armadillo』(2022年)あたりからパソコン(DTM)でも曲を作るようになって、リズム・セクションをもっと強固にしたい、グルーヴを追求したいってなっていったんです。そこではギターが主役にならんでもいいというか、アレンジをする時にもベースとドラムのアレンジにフォーカスしていて。

 その2枚を経て、今作『dip』を作る時、“もう一度ギターで色々やりたいな”ってことになったんですよね。それに、ケンモチヒデフミさんやビッケブランカさんたちの音を入れた、バンドっぽくないベーシックの中で、どうやって自分たちらしさを出せば良いかを考えた時に、やっぱりバンドには絶対に必要なギターっていう楽器で色々やっていった感じで。

 なので『dip』はギターに重きを置いて作った1枚という感じはあります。

それこそ「ピラミッドダンス feat. ケンモチヒデフミ」のギターは、リフの存在感もあって、自由に動き回るオブリも耳を引く印象があります。アレンジはどのように進めていったのですか?

西田 まずケンモチさんがエレキ・ギター以外が仕上がった状態のデモを送って下さって。それだけで聴けるくらいの完成度だったんですが、それだけだとバンドっぽさはない状態。

 でもよく聴いていったら、“ここに何か放り込んでこいよ”みたいな間がある気がして。会話で“こうしてくれ”というのはあまりなかったんですけど、隠された要求を察知してやっていきました(笑)。

 無機質で良いところはそこに沿わせて、オブリなどで人間が演奏している有機的な感じを。その押し引きをうまいこと曲の中でできたら良いなっていうイメージで作っていきましたね。

「GOOD LUCK」だと低音弦のリフとコード・リフが入りますが、これらのパート分けやフレーズ・メイクは同時に進んでいくんですか?

米田 「GOOD LUCK」はたしか同時でしたね。元ネタがイギリスのマキシモ・パークっていうバンドで、ギターとシンセサイザーが上で鳴っているんです。だから「GOOD LUCK」の上のパートはちょっとシンセっぽいイメージもありつつ、それをギターで弾いた感じですね。

西田一紀
西田一紀(g)

遅いBPMでも疾走感は生み出すことができる──米田貴紀

2人でギター・パートについて話し合う時は、どういう会話があるんですか?

米田 僕からニシカズ(西田)に言うことで一番多いのは、“音はこれくらいで切って”、“もうちょっとキレ良く”とか、リズムのニュアンスについて。

 言葉でも表現しづらいくらいの微妙な音符の長さが、自分の中ではけっこう大事やったりするんですよ。そういうことはレコーディングの前に話したりしていますね。

ギターのリズムやグルーヴについて、何か意識しているポイントなどはありますか?

西田 一度ちょっと体を動かしてみて、そこからギターのフレーズを考える、というのは今回やっていましたね。

 というのも僕は、家のスピーカーで大きい音で音楽を流しながら、1人でフラフラ踊っていたり、友達と酒を飲んで踊ったりしていて。そういう変な踊りをしていたら、“このリズムはこういう体の動きとフィットするな”って感じる時があるんです。

 そういう感覚で、ベーシックを作る時にもその音を流しながら変な動きをして。“あ、この動きが引っかかるから、こういうギターのアプローチにしようかな”みたいな。

自然体から生まれるグルーヴという感じですね。米田さんはどうですか?

米田 やはり緩急が一番大事ですね。演奏する時もそうですし、フレーズを考える時にも言えるんですが、遅いところは遅く、速いところはより速く聴こえるように意識することで、その波がつながっていくと思うんです。

 BPMが速いからといって疾走感が生まれるというわけではなく、遅いBPMでも疾走感は生み出すことができる。そういうところは緩急で生み出すものかなと。

「ABRAKADABRA」はアヴァンギャルドな感じのソロですが、どんなイメージでアプローチを考えていきましたか?

西田 今作にはシンセとか色んなサウンド感がある中で、これはバンド・サウンドだけで最後まで押し切る曲だったので、ギター・ソロは椅子に座って頭で考えて弾くやつじゃないな、と。それで、家でバーっと酒を飲んで何テイクも弾いて、“よし、この感じでいこう”って。そうやって絞り出したソロですね。

ギター・ソロを作る時、どういう流れで作ることが多いですか?

西田 曲に沿わせたい時は、コード感や曲が絡んでいるリズムだったりそういうものに対して考えながら塗っていく感じで考えますし、この「ABRAKADABRA」であったり、曲のバランスを壊したほうが良い時は、ちょっと酔っ払ってから考えたり(笑)。

 シラフやとどうしても、“そこはちょっと音がはずれてるんじゃない?”みたいに細かなことを考えてしまう真面目な自分が出てくる。なので、もっとおおざっぱに考えたい時はそういう感じで作ります。

米田さんがギターのメロやリフを作る時はどういう流れが多いですか?

米田 僕はひたすら数を量産していって、というのが多いです。でも、無意識に何も考えずにフレーズを考えていって、“良いのができたな”って感じた時は、自然と歌のメロディを拾っていたりしますね。

 それは歌でも言えることなんですけど、自然と歌とギターがリンクする時は、けっこう良いフレーズだったりするのかな、って思います。でもそれを意識してやると変になっちゃったり。そこはちょっと難しいですよね。

米田貴紀

「ABRAKADABRA」のギターも弾いてみてほしいな──西田一紀

今作はthe telephonesの石毛輝さんが編曲に加わっている楽曲もあります。石毛さんとギターのフレーズやサウンドについて話したことで何か印象に残っていることはありますか?

米田 「パセティックガール」の時にリズムについて言ってもらったことですね。自分の中では“今のでOKかな”っていうテイクが録れた時に、石毛さんが優しく“もうひと頑張りいこう”って言ってくれたり。

 “もうちょっと勢いを”みたいに言われるところは、“たしかになぁ〜”って(笑)。そう思えるからこそやれる。そういう場面はちょいちょいあって、凄く助かりました。

西田さんはどうですか?

西田 パソコン上で良いギターの音ができてしまうと、レコーディングの時にそれを再現するのに凄く困るんです。例えば「GOLD」はデモの段階で“絶対にこれ!”っていう音があって、“どうしたら再現できますか?”って相談したら、石毛さんが持っている機材を使えば再現できると教えてくれて。

 プラグインでTONEXを使っていたんですけど、それを実機で鳴らせるやつ(TONEX Pedal)を持っていて、“あぁ〜21世紀ですね〜”と(笑)。

 しかも、デモでは“これ!”って思っていたけど、そこにパンチ力も加えて下さって。あれは凄くありがたいなって思いました。

さて、2人それぞれ、お互いをどのようなギタリストだと感じているか聞かせてもらえますか?

西田 “スーパー・ダウン・ピッキング・マシーン”。

米田 ははは(笑)。

西田 僕だったらオルタネイトで弾くやろなっていう「Crazy Dancer」みたいな速い曲でも、全部バババババってダウン・ピッキングで弾いていたりするので、男らしいなって(笑)。でも、テレキャスターで弾くその音が、このバンドのサウンドの要になっている。

米田 たしかにダウンが好きですね。クラッシュのジョー・ストラマーとかのダウン・ピッキングの感じが昔好きだったんですよ。

 それにダウンのほうがラクで、オルタネイトのほうが苦手(笑)。

“スーパー・ダウン・ピッキング・マシーン”ですね……(笑)。米田さんから見た西田さんは?

米田 しっかりトラディショナルなものを吸収している人が弾く音、っていうのは思いますね。決してトラディショナルなフレーズを弾いたからそう、っていうわけではなくて、今っぽいフレーズを弾いていても、ちゃんとバックボーンが見える。説得力のある音を出しているギタリストだと思います。

西田 ありがとうございます。

米田 (笑)。

では最後に、ギタリストたちに聴いてほしい本作のポイントをそれぞれ聞かせて下さい。

米田 ニシカズが弾く「DYWD?」のテーマ・フレーズは一度コピーしてみてほしいですね。めちゃめちゃしんどいフレーズで、かなりスパルタな体育会系のフレーズなんですよ。

西田 それで言ったら、「ABRAKADABRA」のギターも弾いてみてほしいな。あれも基本的にずっと同じリフがループしているんですけど、ほぼ16分で刻み続けている。米田が持ってきたんですけど、その米田もデモの時点でそんなに弾けていないっていう(笑)。

米田 (笑)。

西田 こっちのほうがストイックで、最初は腕がちぎれるかと思いました(笑)。これは何回もやっていたら、オルタネイトが綺麗になってくるんじゃないかな(笑)。だからチョネ君もこの曲を練習したらオルタネイトが弾ける。

米田 ははは(笑)。たしかにダウンじゃ弾けないな。オルタネイトの良い教材になる。

西田一紀

夜の本気ダンス “blue spring 18 dip” TOUR

日程/会場

  • 2024年5月6日(月・祝)/栃木・HEAVEN’S ROCK 宇都宮 VJ-2
    17:30開場/18:00開演
  • 2024年5月7日(火)/神奈川・F.A.D YOKOHAMA
    18:30開場/19:00開演
  • 2024年5月10日(金)/岡山・CRAZY MAMA 2nd Room
    18:30開場/19:00開演
  • 2024年5月11日(土)/愛媛・松⼭サロンキティ
    17:30開場/18:00開演
  • 2024年5月21日(火)/兵庫・Music Zoo KOBE 太陽と⻁
    18:30開場/19:00開演
  • 2024年5月29日(水)/北海道・札幌 Sound lab mole
    18:30開場/19:00開演
  • 2024年5月31日(金)/新潟・CLUB RIVERST
    18:30開場/19:00開演
  • 2024年6月16日(日)/福岡・LIVE HOUSE CB
    17:30開場/18:00開演
  • 2024年6月21日(金)/大阪・梅⽥CLUB QUATTRO
    18:00開場/19:00開演
  • 2024年6月26日(水)/愛知・名古屋CLUB QUATTRO
    18:00開場/19:00開演
  • 2024年7月2日(火)/東京・渋⾕CLUB QUATTRO
    18:00開場/19:00開演

チケット

  • ⼀般前売:5,000円(税込/ドリンク代別途必要)
  • 学割前売:3,900円(税込/ドリンク代別途必要)

※情報は記事公開時のものです。最新のチケット情報や公演詳細は夜の本気ダンス公式HPをチェック!

夜の本気ダンス公式HP
https://fan.pia.jp/honkidance/

作品データ

夜の本気ダンス『dip』ジャケ写

『dip』 夜の本気ダンス

ビクター/VICL-65916/2024年1月24日リリース

―Track List―

  1. ピラミッドダンス feat. ケンモチヒデフミ
  2. DYWD?
  3. Vivid Beat
  4. GOOD LUCK
  5. Gold
  6. ABRAKADABRA
  7. パセティックガール
  8. Crush me

―Guitarists―

西田一紀、米田貴紀