プリニが語る、新作『Mirage』の聴きどころと、ギタリストとしての現在地 プリニが語る、新作『Mirage』の聴きどころと、ギタリストとしての現在地

プリニが語る、新作『Mirage』の聴きどころと、ギタリストとしての現在地

オーストラリア出身の新世代テクニカル・ギタリスト、プリニが、新作『Mirage』を引っさげたジャパン・ツアーを2024年3月に開催。今回はその東京公演の直前に実現したインタビューをお届けしよう。曰く“チャレンジングな作品だった”と語る新作の聴きどころや、ライブ機材の話はもちろん、自身のバックグラウンドについても詳しく語ってくれた。

インタビュー/翻訳=トミー・モリー

上達の助けになったのは、ギターをメトロノームに合わせて録音することだった

ギター・マガジン初登場ということで、あなたのバックグラウンドやプロフィールについて教えて下さい。

 僕が最初に始めた楽器はドラムだったんだけど、あまり上手くなくてね(笑)。それに、僕はアパートで育ったから家でドラムを叩くのは現実的ではなくて、次第にウクレレをプレイするようになったんだ。そのウクレレはかなり弾きまくっていたから、すぐにボロボロになっちゃったよ。

 それで、9歳の時に両親と一緒にウクレレを修理に持って行ったんだ。その時にギターを目にして、ウクレレではなくギターを弾きたいって思ったんだよね。その日にハーフ・サイズのクラシック・ギターを買ってもらってから、僕のギターのキャリアが始まったんだ。

エレクトリック・ギターはいつ頃から始めましたか?

 11歳頃だね。グリーン・デイやブリンク182などのポップ・パンクを聴いて、ギターにどんどんのめり込んでいったよ。次第にギター・ワールドやメタル・ハマーといった雑誌を手にしていったんだ。そこでスティーヴ・ヴァイ、ジョー・サトリアーニ、ジョン・ペトルーシ、ドリーム・シアター、イングヴェイ・マルムスティーンといった伝説的なギタリストたちを知ったよ。自分の音楽を作り始めるようになったのはそこからだね。

Plini

ポップ・パンクがエレキを弾き始めるきっかけだったんですね。

 ラジオで流れていた曲をよく聴くようになっていったんだ。だからグリーン・デイやブリンク182たちが大ブレイクした90年代よりも、彼らのキャリア中盤の曲をよく聴いていたと思うね。

 ちなみに、僕の両親はレッド・ツェッペリンやエリック・クラプトン、ビートルズといったクラシック・ロックだったり、ジャズをよく聴いていたよ。でも、僕はジャズに興味を持つことはなかった。もっと速くてラウドなメタルが好きだったんだ。もちろん、ジャズも年齢を重ねていくうちに好きになっていったけどね。

ギターの技術はどのように学んでいったのでしょうか?

 本格的にギターを学び始めた頃は雑誌に載っているタブ譜をよくトライしていたよ。でも、僕は難しい曲をしっかりと学ぶ忍耐強さがなかった。例えばドリーム・シアターの曲だと“それっぽく弾ける”止まりだったから、コピーでは上手くならなかったね(笑)。

 上達するうえで最大の助けになったのは、自分のギターをメトロノームに合わせて録音することだった。プレイできないと、何度もくり返して弾くことになるからね。

ドリーム・シアターのお気に入りアルバムを挙げるとすると?

 僕がファンになったきっかけの『Octavarium』(2005年)を選ばせてもらうかな。僕が店に行って買った最初のCDだから特別な1枚なんだ。でも彼らの作品ならほとんどが好きだよ。

今までのアルバムと比べてチャレンジングな作品になった

それでは、2023年末にリリースした新作『Mirage』について、聴きどころを教えて下さい。

 『Mirage』は5曲入りのEPで、パンデミックによるロックダウン中のオーストラリアで、2020年後半から2021年の頭にかけて書いた曲を収録しているんだ。かなり興味深いギター・サウンドになったし、僕が今までにやってきたプロダクションの中でも、ズバ抜けたものになったよ。

 4/4拍子でプレイしている曲は1曲しかないし、ハーモニーもかなり変なことをしているから、複雑な曲ばかりだね。今までのアルバムと比べてチャレンジングな作品になったけど、かなり楽しめる内容になったと思うよ。

「Still Life」はトシン・アバシがゲストで参加していますが、このコラボレーションはどういった経緯で実現したのでしょう?

 この曲を書いていた時、誰かにギター・ソロを入れてもらえるスペースがあることに気づいたんだ。そこでトシン・アバシが思い浮かんだんだよね。彼とは昔一緒にツアーを回ったり、10年近い付き合いになるけど、今まで一緒に曲を作ったこともなければ、プレイしたこともなくてさ。

 僕からは“君の好きなとおりにプレイしてもらいたい”というメッセージと、彼のパートを空けた状態の曲を送ったんだ。結果、超クールなギター・ソロを入れてくれたね。

今後コラボレーションをしてみたいギター・プレイヤーはいますか?

 ぜひスティーヴ・ヴァイと作曲をしてみたいな。実現したらとても面白いものになると思うよ。

スティーヴ・ヴァイはあなたを発掘した人の1人だと思います。彼とステージで共演したことはありますか?

 彼とは何度か会う機会があったけど、共演したのは2019年に彼が開催したヴァイ・アカデミー(スティーヴ・ヴァイが開催するギター・キャンプ)にゲストとして招いてもらった時だね。参加者たちにギターを教えるイベントなんだけど、そこで僕らは一緒に授業を行なったんだ。またいつか参加できたらいいな。

あなたと同世代のギタリストで注目している人はいますか?

 現在一緒にツアーをしてくれているヤカブ・ジテクキは僕のフェイバリットなプレイヤーの1人で、彼のプレイは聴いていて飽きることがないね。

 そして日本にはIchika Nitoというアメイジングなギタリストがいるじゃないか! 前回日本に来た時に一緒にプレイしたけど、彼の音楽はあんなにデリケートなのに、まったくノイズがなく、一切ミスをしないんだ。クレイジーに感じざるを得ないよ。彼のギターは本当にアメイジングだね。

ライブ・ステージの足下は、Neural DSPのQuad Cortex(ギター・プロセッサー)のみというシンプルなセッティングです。どういったプリセットを使っているか教えてくれますか?

 僕の設定はけっこうシンプルだよ。クリーンとロー・ゲインなクランチはフリードマンのHBE100、ハイゲインな音色はEVHの5150 IIIのモデリングで、必要に応じてTube Screamerをモチーフにしたエフェクトを加えるっていう感じだね。キャビネット・シミュレーターは、412 Zila Cust V30 ’12 V2を使い続けている。あとはディレイ、リバーブ、コーラスくらいだね。

アンプ・モデリングの歪みを重視しているんですね。

 そうだね。でも、僕は一度もしっかりとしたアンプを所有したことがないんだ(笑)。昔に初心者用の小さなアンプを買ったことはあったけど……。でも、トシン・アバシやミーシャ・マンソー(ペリフェリー)といった敬愛するギタリストが使う機材に注目するようになってから、彼らが使うギアのモデリングを使うようになっていったよ。

Quad Cortexを使い始める前はどのような機材を使っていましたか?

 無料のプラグインやNative InstrumentsのGuitar Rigを使っていたよ。それからお金を貯めてFractal AudioのAxe FXを購入したりしてから、ほかのソフトも使うようになったね。現在では本物のアンプやQuad Cortexなど、色んな機材を使っているよ。オーディオ・インターフェイスはUniversal AudioのApolloだね。

新しく導入する予定の機材はありますか?

 現在はツアーに出ることが多いから、可能な限り少ない機材の量でとどめておこうと思うし、何本もギターを所有するスペースがそもそもないから、ケアすることもできないんだ。今後、もっと落ち着いた生活を送るようになれば、自分のためにビンテージ・ギターを買ったりするかもね。

Plini

作品データ

『Mirage』
Plini

2023年12月1日リリース

―Track List―

  1. The Red Fox
  2. Five Days of Rain
  3. Still Life
  4. Aqua Vista
  5. Ember

―Guitarists―

プリニ、トシン・アバシ