DIR EN GREY、L’Arc~en~Ciel、MUCCなど、長いキャリアを持つバンドのメンバーが集い、新たな表現を追求するプロジェクト=Petit Brabancon(プチ・ブラバンソン)。彼らの新EP『Seven Garbage Born of Hatred』が2024年8月7日にリリースされた。本記事では、ギタリストのミヤに制作の様子を語ってもらった。
取材・文=村上孝之 写真=Victor Nomoto (METACRAFT)、青木カズロー、尾形隆夫 (尾形隆夫写真事務所)、河本悠貴
空気感が変わるので、激しくいくところは
開放弦の音を多く入れています
『Seven Garbage Born of Hatred』の制作に入る前は、どんなことを考えていましたか?
メンバーと話をする中で、“次は激しくいきたい”という意見が出てきて、コンセプトをもう少し絞っていこうとなりました。俺はもともと色んなタイプの曲を作っていて、その中でもうちょっと激しい方向に寄りたいと。特に京さん(vo)とyukihiroさん(d)がそういう感じでしたね。EPを出したあとのツアーがライヴハウス・ベースになるというのがあったし、Petit Brabanconが始まった時期のライヴはコロナ禍の影響でスタンディングではなかったりして、ちょっとチグハグな部分があったんですよ。だから激しくいくなら、それはそれでいいんじゃないかなと思いましたね。
今回のEPでは「BATMAN」、「眼光」、「Vendetta」の3曲をミヤさんが書いています。それぞれの制作についても教えて下さい。
まず「BATMAN」は、『Automata』(2023年6月)が完成したあとのライヴで新曲として演奏していたんです。その時は新曲を披露するツアーだったんですけど、さらに新曲として演奏するという。そういうテーマのもとに閃いた曲だったので、「BATMAN」は衝動的なインスピレーションに溢れていて、それが今回の『Seven Garbage Born of Hatred』に合っているんじゃないかなと思います。
今作の楽曲はギター・リフが核になっているものが揃っていますが、「BATMAN」はリフから作っていったんですか?
ハッキリ覚えていないけど、リフやドラムからではないのは確かですね。頭の中で曲が完成していて、それをスケッチして、そのままライヴでやりたいと思ったような気がします。
リフ主体の曲なのに、リフから作り始めていないのは珍しい気がします。
俺はそういうことが多いですね。特にこの曲はイメージがハッキリしていました。90年代のデジタル・ハードコアがモチーフだったので、ハモリとかをキレイにするのではなく、気持ち悪いツイン・ギターというか、“これシラフじゃないよね?”みたいな、あの時代の良い感じをイメージしていたんですよ。だからこの曲には別にギター・ソロはいらないけど、あえて入れたんです。当時のハードコアのバンドは、“これいらないだろう”みたいなメタルっぽいギター・ソロが入っている曲が多いんですよ。それが好きなんですよね。
「BATMAN」のマシンガン・サウンドを織り交ぜたトリッキーなギター・ソロが印象的でした。
このソロは、言ってみれば適当です(笑)。昔はギターにキル・スイッチを付けて“ババババッ”と音を切る人が多かったじゃないですか? 俺はそれをエフェクターでやっているだけです。そういう手法も昔っぽくていいなと思ったんですよ。というのも、こういう曲でマジメなソロを弾いたら、もっとクサくなってしまうから、遊んでいる感じにしたかったんですよね。
続いて、「眼光」での制作について教えて下さい。
Petit Brabanconは隙間がある曲があまりないので、隙間があるミクスチャーを作りたいなと思って作りました。それと今回のEPの中では、最初からサビが広がってるクリーン・ボイスの曲はこれだけだったんです。7曲入りの作品であれば、1曲くらいはこういうアプローチの曲が欲しいということをメンバーに伝えた気がしますね。
ラウドな楽曲の中、クリーン・トーンのカッティングで洒落た雰囲気を醸し出すあたりがミヤさんらしいなと思います。
Petit Brabanconはリフものの曲がめっちゃ多いので、Aメロのくり返しに変化をつけることが多いんですね。これは1st(『Fetish』/2022年)の頃からやっているアプローチです。2回目のAメロのくり返しはちょっと方向性を変えるというのが、わりと定番化しているかな。
フレーズの変化のさせ方はセンスが問われますよね。
これはツイン・ギターだからできることなんですよね。この曲は頭にニルヴァーナの「Smells Like Teen Spirit」(1991年)をオマージュしたリフが入っていて、そのリフをそのままantzさんがずっと弾いてくれているので、俺がほかのところにいけるんです。だからMUCCだとこうはならない。このバンドは自由度が高い部分があって、そこを活かした感じですね。
antzさんから聞いたのですが、この曲は一聴するとずっと同じリフを弾いているようで、実は微妙に違う2パターンを使い分けているそうですね。
使い分けているというか、開放弦が入るか入らないかでちょっと空気感が変わるので、激しくいくところは開放音を多く入れています。そういう違いなので、凄く細かいところなんですよ。それは、高松(浩史/b)君が解析してくれて助かったというエピソードがあります(笑)。俺はそれに気づいていなかったんですよ。
えっ、そうなんですか?
俺はどこのフレットを弾いているかとかはあまり意識していないんです。それで高松君が解析した結果、平歌は開放弦が少なくて、イントロとかの激しい部分は開放弦が多いかったらしいんですね。俺は性格的に細かく決め込むタイプではないので、デモで弾いたフレーズが自分でもまったくわからないことがよくあるんです(笑)。
そういう時は、どうやってレコーディングしていくのでしょう?
デモのテイクをそのまま使うこともありますけど、リフは絶対に本チャンで録り直すんですよ。レコーディングでは高松君がいてくれるので、良い感じにバランスが保てています。高松君が後輩で良かったな(笑)。
今回のようなラウド・ミュージックを作る時、そこに意表を突く展開を入れたり、もっとエモさを入れたいと思ったりするんですか?
「眼光」のサビもそうですし、俺の中ではそういうものになっていますね。もともと自分のルーツの一部にハードコアが強くあるので、今回みたいなコンセプトであれば、それはそれで楽しめるんですよ。メロディが少ないから楽しめないとか、そういう感覚はあまりないんです。激しさを押し出すというコンセプトに対して、“じゃあこういう曲はどうですか?”と最後に作ったのが「Vendetta」でした。
たしかに「Vendetta」は振り切った印象を受けました。それは最後に作ったからなんですね。
“今回は激しくしたい”という意見は、選曲を決める打ち合わせまではそこまで強くなかったんです。だから俺はいつもどおり曲作りをしていたんですね。でも、“そういうコンセプトに寄せたほうがいい”となった時、“そうくるんだったらこういう曲調を作りたくなるかも”と閃いたのがこの曲でした。
ドラムのビート・チェンジを活かして、ストレートな楽曲を起伏に富ませているところも印象的です。
そう言われれば、たしかに。
そこは意図していたわけではないんですか?
うん。本当に曲全体のイメージからできあがっていったので。この曲はひと言で言えば、90年代の日本のハードコアのオマージュなんですよ。ビート・チェンジを活かそうという意識はなかったです。
今作は激しさや暗さを押し出していますが、決して陰鬱ではなく、爽快感が生まれています。その辺りについては、いかがでしょう?
俺もめっちゃそう思うし、たぶんその要因というのは、京さんがマイナスなメッセージを歌っていても、それを小バカにして楽しんでいるようなところがあるんですよね。ちょっとあざ笑っているというか。ダークでヘヴィだけど、メッセージ的には“どうでもいいよ”みたいな。“それ面白いじゃん”みたいな空気感があるから、爽快な感じを受けるんだと思う。で、そういう京さんの在り方が曲調と凄くマッチしているんです。曲のタイトルもそうですしね。
(後編へ続く)
LIVE INFORMATION
Petit Brabancon Tour 2024 「BURST CITY」
【スケジュール】
2024年9月5日(木)@東京・Spotify O-EAST
2024年9月6日(金)@東京・Spotify O-EAST
2024年9月12日(木)@広島・CLUB QUATTRO
2024年9月13日(金)@福岡・BEAT STATION
2024年9月15日(日)@大阪・GORILLA HALL
2024年9月20日(金)@神奈川・CLUB CITTA’ KAWASAKI
2024年9月21日(土)@愛知・DIAMOND HALL NAGOYA
【チケット情報】
スタンディング : ¥6,500(税込)
ツアーの詳細は公式HPまで
https://www.petitbrabancon.jp/
作品データ
『Seven Garbage Born of Hatred』
Petit Brabancon
MAVERICK DC
DCCA-130
2024年6月14日リリース
―Track List―
- move
- dub driving
- BATMAN
- 眼光
- a humble border
- Mickey
- Vendetta
―Guitarists―
ミヤ、antz