オーストリア出身のジャズ・ギタリスト、ウォルフガング・ムースピール(Wolfgang Muthspiel)。クラシック・ギターの基礎をジャズに活かした独特のスタイルを持つ彼が、2024年10月半ばに楽譜とあわせてアコースティック・ギターによるエチュード集『Etudes / Quietudes』をリリースする。今年10月にはスコット・コリー(b)、ブライアン・ブレイド(d)とのトリオで来日公演も予定。ここでは『Jazz Guitar Magazine Vol.13』(2024年11月13日発売予定)に掲載予定のフル・インタビューのダイジェスト版をお届けしよう。
取材・文=坂本信 協力=フリー・フライング・プロダクションズ Photo by Laura Pleifer , Sarah Chaksad
ブラームスのピアノ音楽を意識して書いたんだ。
彼のピアノ曲が大好きだからね。

ソロ・ギターのためのエチュードを中心としたアルバム、『Etudes / Quietudes』を作ろうと思ったきっかけは?
エチュードを書き始めたのは何年も前のことで、一番古い「Etude Nr.1 」(註:Nr.はドイツ語のNummerの略で、英語のNumber、No.の意味)は、たぶん15年前くらいに書いたと思う。それからずいぶん経ち、2年ほど前に“エチュード”というコンセプトを再発見したのがきっかけで残りの曲を書いたんだ。エチュードの楽譜集も今年の10月半ばくらいに発売する予定だよ。
例えば「Etude Nr.4」は、ペダルのハーモニーの練習が目的ですか?
あの曲は1小節目のオフ・ビートで鳴っているD音の上下に音を加えたコードを気に入り、そのD音が1曲を通して鳴るような曲にしようと思ったんだ。D音の存在感が、その周りのコード音に比べて少し弱くなるようにして弾く……つまり、2層に分かれたダイナミクスをキープするのが肝心なんだよ。すべての練習曲が必ずしも特定のテクニックの練習に特化しているわけじゃないけれどね。
「Triplet Droplet」と「Etude Nr.6」はタイトルどおり3連符の練習、“Chords”という副題の「Etude Nr.5」は『Jazz Guitar Magazine』の解説用に楽譜を提供していただいています(詳しくは11月発売のVol.13を参照)。「Etude Nr.7」には“Brahms Minor”という副題が付いていますが、この曲とブラームスとの関係は何でしょう?
ブラームスのピアノ音楽を意識して書いたんだ。僕はブラームスのバラードやラプソディ、インテルメッツィといったピアノ曲が大好きだからね。彼の特定の曲を模倣しようとしたわけじゃないけれど、開放のG弦を鳴らしながらメロディが展開する中間部以外は、ブラームスのハーモニーの語法を取り入れたつもりだよ。
ちなみに、録音した時の気候の関係で、チューニングを半音下げたほうがギターのサウンドが良かったから、すべての曲でチューニングを半音下げて録音している。この曲も譜面上のキーはFmだけど、アルバムの演奏はそれより半音低いから、キーを明示せずに“Brahms Minor”という副題にしたんだ。ソロで弾く限り、チューニングは好きなように決めてもらってかまわない。
ビル・エヴァンスの
インプロヴァイズを引用しているよ。

「Etude Nr.9」の副題になっている“Schildlehen”の意味は?
これはオーストリアの地名、シルトレーエンだよ。僕は毎年冬にそこへクロスカントリーのスキーをしに行っていて、この曲はそこで書いたから副題にしたんだ。これ以外にも、曲を書いた場所の名前をタイトルにした曲がいくつかあるね。
どの曲もコンサートでの演奏にも堪える楽曲に仕上がっていますね。
すでにコンサートでも演奏しているよ。全曲演奏すると40分くらいになるはずで、それだけでもコンサートとして成立するし、どれか1曲をインプロヴィゼーションと組み合わせて演奏することもある。
楽譜集はすでに完結しているんですか?
とりあえず『第1巻』は完結して印刷もされているけれど、『第2巻』も作るかもしれないな。『第1巻』はアルバムに収録した「Etude Nr.1」から「Etude Nr.13」までで全部だよ。「Nr.2」と「Nr.3」はもともとないから、11曲ということになる。
アルバムには、ほかにもバッハの「Sarabande」や、ポール・モチアン(d)のテーマをもとにした「Abacus」、そしてオリジナルの「For Bill Evans」も収録されています。
バッハの「Sarabande」はクラシック・ギターを勉強している頃によく弾いたし、今でも大好きで、アルバムの中間部にインプロヴィゼーションを挟む形で取り上げたんだ。「Abacus」はポールのバンドや自分のトリオでも演奏してきた曲だよ。クラシック・ギターのクリーンなサウンドで演奏するエチュードとはまた違った、ちょっと粗削りな部分を加える意図もあって収録したんだ。「For Bill Evans」の最初の1小節半くらいの部分は、ビル・エヴァンスがとあるスタンダード曲でインプロヴァイズした演奏を引用しているよ。
聴きどころ満載のアルバムですね。10月のトリオでの来日公演も楽しみにしています。

Jazz Guitar Magazine Vol.13
2024年11月13日発売
来日公演情報
WOLFGANG MUTHSPIEL TRIO with BRIAN BLADE & SCOTT COLLEY
21世紀のECMを代表するギタリストの1人
ウォルフガング・ムースピールが昨年に続きトリオで来日!
【日程】
2024年10月4日(金)、5日(土) 、6日(日)
【場所】
COTTON CLUB
【詳細】
https://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/wolfgang-muthspiel/