Gateballersが新体制となってから初のEP『Virtual Homecoming』を、2024年10月30日(水)にデジタル配信限定でリリースした。インタビュー後編では、EPの制作の裏側について、濱野夏椰(vo,g)と萩本あつし(g)に語ってもらった。
取材・文=小林弘昂 人物撮影=星野俊
“一番好きなことをやろう”となって、
やっぱりニルヴァーナとレッチリだなと思ったんですね。
──濱野夏椰
今回のEP『Virtual Homecoming』は、どういうイメージで制作に入ったんですか?
濱野 タイトルは5年前から決まっていて。どうして『Virtual Homecoming』なのかというと、『コングレス未来学会議』(2013年)っていう映画を観たからなんです。アリ・フォルマン監督の2作目なんですけど、近未来の話で、人々はVRで製薬会社が作ったアバターに没入できる、つまり仮想現実にフル・ダイブできる世の中が舞台なんですね。アバターでは自分がなりたい容姿になれるんですよ。整形もしなくていい。
なんでも思いどおりにできてしまうんですね。
濱野 でも、仮想現実の中では理想の姿になれているのに、現実ではみんなボロボロの服を着てホームレスみたいになっていて、一部の上層の人間だけが天空で生きているんですよ。“絶対にそうなるだろうな”と思ったとおりになるんです(笑)。
そうなりますよね(笑)。
濱野 それと去年、KISSがラスト・ライブを行なったじゃないですか? そのあとにポール・スタンレーが、“これからはKISSのアバターがライブをします”と言ったんですよ。“完全にきたな”と思って、このタイミングで『Virtual Homecoming』を出すことにしたんです。
構想自体は5年前からあったけど、色んなタイミングが合わさってリリースを決めたんですね。
濱野 そう。「プラネテス」も5年前にできていたんです。幸村誠さんの『プラネテス』っていう漫画を読んで作ったんですよ。それと“パラパラ”をやりたくて。
パラパラですか!?
濱野 はい。パラパラのグルーヴが好きで、カントリーのコードと合体させようと思ったんです。当時は『Infinity Mirror』(2019年)をリリースしたあとで頭がおかしくなっていて、“別にギターの音じゃなくてもいいかな”っていう状態で(笑)。でもそのあとにMatampのGT-100を買って、“アンプ直でもいいんだな”と思い直して、「プラネテス」のバッキングはマーシャルのJCM800直で録りました。もう1本のギターは当時サポートをしてくれていた(内村)イタルが弾いているんですけど、“小室哲哉さんみたいなギターを弾いてくれ”とお願いしたんですよ。
なるほど、それであのシンセみたいな音になったんですか。
濱野 そう。あれはイタルが全部ギターで弾いていて、ワウをかけたフィルターの音と、付点8部でWhammyを使っている音があって、凄く近未来なサウンドになっています。それと実は「Wake Up」も5年前から原型があって。
そうだったんですか。
濱野 お世話になっている美容院に弾き語り音源を寄贈したことがあって、それを改めてバンドでアレンジしたんです。「Wake Up」と「Universe」の僕のギターに関しては、エフェクターはDS-2とRATしか使ってないんですよ。ギターのハードルを下げたので、“一番好きなことをやろう”となって、やっぱりニルヴァーナとレッチリだなと思ったんですね。“じゃあDS-2じゃん!”ということで。
萩本 そんな感じだったよね(笑)。
濱野 “最大のスピードで刻むぜ!”みたいな(笑)。だからなるべくテンポも上げました。
「Wake Up」と「Universe」は夏椰さんが原型を作って、スタジオでみんなで仕上げていったんですか?
濱野 どっちもそうでした。「Wake Up」の原型は今と違っていて、シンセとアンビエント・ギターが入っていて、コーラスを重ねまくった全然Wake Upじゃない曲で(笑)。伊勢神宮の海の波の音もサンプリングして入れていましたね。
やっていますね(笑)。
濱野 あと、僕はメロコアがやりたくなったんです。“僕たちがメロコアをやってもまわりと同じようにはならない”と自信を持って言えるようになったので、奈良君に参考曲を送ったんですね。絶対に“何が参考になってるんだよ!”って突っ込まれると思いますけど(笑)、10-FEETの「第ゼロ感」(2022年)がかっこいいなと思ったんですよ。
10-FEETですか!?
濱野 3ピース・バンドで同期を入れているのが、めっちゃかっこいいなと思って。だから“恐れずに同期を入れてみようよ”と。それと井上陽水さんのトリビュート・アルバムが出たんですよ(『井上陽水トリビュート』/2019年)。槇原敬之さんが「夢の中へ」をカバーしているんですけど、それが本当にヤバくて(笑)。そういうのがやりたいなと思って、バンド・アレンジになるように構成を練り直したんです。
10-FEETと槇原敬之さんの影響だったとは……!
濱野 「Wake Up」の最初にポケモンの鳴き声みたいな音が入ってるじゃないですか? あれは欲しかったシンセを買って僕が入れたんです。CASIOのVL-1っていう84年のもので、ゴリラズやXTCも使っていたモデルなんですよ。で、「Universe」は子どもが生まれた時に作った曲なんです。3コードで、僕の中でDS-2がきていたのでAメロはクリーン・トーンでサビで歪ませていて。これも元ネタがあるんですけど、誰かが気づいてくれたら面白いので、ここでは隠しておきますね(笑)。
「Wake Up」と「Universe」を始めて聴いた時、萩本さんはどんなイメージを持ちましたか?
萩本 「Wake Up」は速くて全部ダウン・ピッキングという、今までまったくやってこなかった弾き方が必要だったので面白かったです(笑)。
濱野 全部ダウンなのに3拍目にアクセントがあるしね。
萩本 そうそう。個人的に「Universe」は……“Snoozer”っていう感じ。
濱野 そうなんだ! ちょっとオリエンタルなリフを考えてくれたじゃん? あれが良いよね。
萩本 マイナーのところで6度を入れるやつね。この曲を最初にスタジオで合わせた時、夏椰君の優しい部分と激しい部分がよく出ている曲だなっていう印象がありました。
2曲共ディストーションをガンガンにかけた曲ですけど、音作りは2人で相談したんですか?
濱野 相当やったよね?
萩本 “もっと歪ませてくれ!”って言われて(笑)。
濱野 僕はMatampにDS-2を突っ込んで、ギター・ソロの時にRATも重ねたんですけど、やっぱりあっくんが使っているZ.VexのBox of Rockだと歪みが足りないんですよね。それと僕がミッド野郎だから、ドンシャリにしてくれと頼みました。棲み分けをして厚みを出すみたいな。
萩本 Box of Rockのゲインをけっこう上げて、Mastotronでブーストして。それと手元で低音をコントロールして録りました。
夏椰君の面白い発想やぶっ飛んだアイディアと、
自分が持っているもので良くしていきたい。
──萩本あつし
「Universe」の歌裏のアルペジオにはモジュレーションがかかっていますよね。
萩本 あれは僕が弾いています。
濱野 12弦ギターで弾いたんだよね?
萩本 そう。今はもう売っちゃって持っていないリッケンバッカーの12弦でAメロを録ったんですよ(笑)。
濱野 しかも12弦じゃなくて9弦にしたんだよね(笑)。
萩本 そうだ! 4、5、6の巻き弦を全部抜いていて。
濱野 太い弦が2本ずつあると重たいんですよ。独特の感じにしたくて、ライブでもレコーディングでも9弦をけっこうやってもらっています。アルペジオの時だけモジュレーションみたいな効果が出るし、和音を弾いた時には分厚いし、良いとこ取りになるんですよね。チューニングも楽になるし(笑)。
萩本 そうね。
濱野 僕が持っているラップ・スティール(Framus Electro Universal)が8弦と6弦のダブル・ネックだから、そういう発想になりました。
萩本 今日まで持っておけばよかったな〜……(笑)。
濱野 楽器は売ってはいけないね(笑)。
「Universe」のイントロは、色んな音が色んな場所に配置されたサウンド・インスタレーションが面白かったです。あれはどんな楽器を使ったんですか?
濱野 よくぞ聞いてくれました(笑)! あそこは4〜6つくらいの楽器を使って同じフレーズを弾いているんですね。まずはシンセで波形が違う音を弾いて、ジャガーのクリーン・トーンを入れて、そしてAmerican Acoustasonic Jazzmasterを使ってエレアコの音、歪んだ音、エレキの音をセレクターでババババッと切り替えて、それらをミックスの時に切っているんです。
波形をぶつ切りにして、1つずつ色んな位置に置いたんですね。
濱野 そう。どの順番がいいかとかを考えて、ミックスのほうが時間がかかりました(笑)。全パターンを試さないと納得いかないんです。
スライドが軸になった「光でできた世界」はどうやって作ったんですか?
濱野 あっくんのスライド・ギターと僕のラップ・スティール、あとは由紀君がファゴットを吹いているんですよ。由紀君は東京芸大でファゴットを専攻していて、日本で1位だったんです。人数が少ないから(笑)。でも彼のファゴットは本当に最高で! 前作の『未来から来た人』(2023年)っていうEPの時に、“ファゴットは絶対にかっこいいから、ロング・トーンの4分音符とかで和音にして、ギターのエフェクターをかけてみよう”と言って色んな実験をしたんですね。そしたらフランジャーとの相性が良くて。木のアタック音だから痛くならないんですよ。その延長線上でSF感が出せるから、「光でできた世界」でテーマを吹いてもらいました。
スライドはファゴットに引っ張られて出てきたフレーズもあったり?
濱野 レコーディングしたのは同時くらいだったかな? たしか僕は最後に弾いた気がする。
萩本 そうだね。けっこうメランコリックな雰囲気の曲だったので、僕はそれに添えるような感じでスライドを弾きたいなと思っていました。サビのアルペジオもテンション・ノートを入れて考えてましたし。
濱野 まず、あっくんのスライドと由紀君のファゴットがあって、最後に僕がラップ・スティールを弾いたあと、これもミックスで切ったんですよ。ただ、レコーディングの最中に問題が生じたんです。スライドが2人いるから、出発地点のフレットから到着地点のフレットに行くまでに不協和音地帯が出てきたんですね。これをどうすれば解決できるのか、どのスピードでいけばぶつからないのかっていうことを考えながらラップ・スティールを弾きました。
最後に、新体制となったGateballersは今後どういう活動を行なっていきたいですか?
濱野 来年、フル・アルバムを出します。5年前に作ったもののまだ出していない曲もあったり、去年レコーディングした曲もあるので、それを入れたいですね。それとここ1年くらいDADF♯ADチューニングの曲を作っていて、それがけっこう面白いんですよ。あとは“ヒップホップmeetsフォーク”みたいなこともやりたいなと思っています。新しいことをやっていきたいですね。
萩本 夏椰君の面白い発想やぶっ飛んだアイディアと、自分が持っているものでGateballersを良くしていきたいと思います。僕がサポートを始めて2年くらいなので、頑張っていきます!
作品データ
『Virtual Homecoming』
Gateballers
FRIENDSHIP.
デジタル配信限定
2024年10月30日リリース
―Track List―
01.Wake Up
02.プラネテス
03.Universe
04.光でできた世界
―Guitarists―
濱野夏椰、萩本あつし、内村イタル(※「プラネテス」のみ)