toeの美濃隆章と山㟢廣和に聞いた、新作『NOW I SEE THE LIGHT』のギター・アレンジと録音環境 toeの美濃隆章と山㟢廣和に聞いた、新作『NOW I SEE THE LIGHT』のギター・アレンジと録音環境

toeの美濃隆章と山㟢廣和に聞いた、新作『NOW I SEE THE LIGHT』のギター・アレンジと録音環境

9年ぶりのフル・アルバム『NOW I SEE THE LIGHT』をリリースしたtoe。今回は山㟢廣和(g)と、今作のレコーディング・エンジニアも務めた美濃隆章(g)の2人にインタビュー。アレンジの手法や使用機材について、詳しく話を聞かせてもらった。

取材・文=伊藤雅景 ライブ写真=Yoshiharu Ota

素の音はちゃんと録っておかないと、
リアンプした時に音作りの選択肢が狭まっちゃうんです。
──美濃隆章

美濃隆章

今回の『NOW I SEE THE LIGHT』は9年ぶりのフル・アルバムですが、本格的な制作はいつ頃から始まったんですか?

美濃隆章 去年だよね?

山㟢廣和 ずっと集中して作っていたっていうよりは、毎週集まってちょこちょこ進めたっていう感じすね。それを始めたのが去年くらいで。

シングル「Mother(feat. ILL-BOSSTINO & 5lack)」(2023年7月リリース)が出たあたりですか?

山㟢 そうですね。そのくらいの時期には色々進んでいたと思います。

toeの楽曲制作やギター・アレンジは、山嵜さんが録り溜めたボイスメモのアイディアがもとになっていることが多いそうですが、今作はどのように作っていきましたか?

山㟢  “ギター1本でこう始まって、こう終わります”っていうのを先に決めてから、2本目や上モノを入れていく感じですね。なので、ギターの絡みから増幅させるっていうよりは、ある程度ギター1本での流れができあがってから2本目のギター・フレーズを考えるみたいな。

今作はアコギが軸になっている楽曲も多いです。

山㟢 エレキと半々くらいですね。家でギターを弾く時はアコギが多いので、アコギが軸になる曲も多いです。どっちを使うかはあとから決める感じですね。曲の流れや構成を先に決めたいので、楽器の音色は最後に決めていくという考え方です。

音色は今作もクリーン・サウンドでシンプルに作られていますね。クリーンの音色は、ギターやアンプを色々と試して曲のイメージに近づけていくんですか?

山㟢 そうですね。でも、“どクリーン”ではなくて、少しだけ歪ませています。どクリーンのポソポソ、ポロポロ、ポソポソっとした感じはあまり好きじゃないんですよね。

 例えば、ジャズのギター・ソロみたいにミドルがグンと出てきて、凄い芯があるような……。そういう音で自分が演奏するのが苦手なので、ちょこっと歪ませているんです。どちらかといえばドンシャリのほうが好きですね。いわゆるパンクっぽい歪みまではいかないんですけど、ある程度ゲインを上げたセッティングで録ってます。

アンプ選びが重要になってきますね。

山㟢 実は、今回はアコギ以外のエレキに関しては全部ラインで録って、それをリアンプしているんですよ。なので録音の段階ではそこまで音色にこだわっていないんです。自分が弾いていて気持ち悪くない音をアンプ・シミュレーターで作って、それをモニターしながら弾いていますね。そのあとの最終ミックスの前に、美濃君と“どれが一番良いかね?”って感じでアンプを選びました。

ラインの音を録る段階で、必ずかけていた機材はありましたか?

美濃 ラインの素の音はちゃんと録っておかないと、リアンプした時に音作りの選択肢がどんどん狭まっちゃうんですよね。なので、素のギターの音は全部Umbrella CompanyのSIGNALFORM ORGANIZER(DI、リバースDI、レベル・コンバーター)を使って録りました。

なぜそのDIを選んだんですか?

美濃 極力色付けをせずに、キレイなラインを録っておきたかったんです。そこに気を使っておけば、本番テイクのトラックだけじゃなくデモで録ったテイクもリアンプして使えるし、混在できるんです。

なるほど。『Hear You』(2015年)までのギター・サウンドはミドルがカラッとしていましたが、今作はよりウェットな音色になった印象でした。そういった狙いもありましたか?

山㟢 狙ってはないけど、たまたま美濃君の流行りがそういう音だったっていうことでしょ?

美濃 そうだと思う(笑)。“今、気持ちいいな”って思う音が、たまたまそうだっただけだと思います。

山㟢 “このアルバムのためにこういう音にしよう”っていう考え方はしていないんです。まずは美濃君が考えるミックスを作ってもらって、そこから俺が“ここはこうしたい”、“ここはちょっと違う”とかを話しながら音色を修正していくので、基本的には美濃君好みのミックスになっているんですよね。“今はこういう感じがいいんじゃない?”っていう美濃君の感覚です。それにしても、今までよりベースがめっちゃデカいよね? 最近はベースをデカくしたくなるタイミングなんだろうね、多分。

美濃 かもしれない(笑)。次は凄い小さくするかもしれないし(笑)。

美濃君が弾く曲も、
俺が全部弾く曲もある。
──山㟢廣和

山㟢廣和

ギター・フレーズについても深掘りさせて下さい。「風と記憶」は、ギターが4拍子でドラムが3拍子というポリリズミックな構成で、こういった絡みは“まさにtoe”という感じがします。

山㟢 頭で考えて……というより、いつも感覚で作ってるんですが、曲の中でドラム、ベース、ギターが全員1、2、3、4、2、2、3、4……と揃っているのがあまり好きじゃなくて。誰か1人ポリっぽい人がいたりとか、跨いでいるリズムの人がいたりとかは、常にやりたくなっちゃいますね。

感覚で構築していくイメージですか?

山㟢 よくあるのは、メイン・リフを流しながらずっと録音し続けて、色んなフレーズを弾いていくやり方ですね。で、同じことを何回も弾けないから、そのテイクの中から上手く噛み合ったフレーズを取り出してループさせていたり。色々ありますね。

美濃さんと一緒にセッション形式で作っていくことはありますか?

美濃 今回の作品ではそういうのはないですね。僕はコンピュータ上で山嵜君のトラックの“ここ、カッコ良いね”っていうフレーズを切り貼りする作業をひたすらやるというか。

山㟢  昔は美濃君と弾きながら考えたりもしていましたけど、もうあまりやらないですね。なので、最近はライブで演奏するとなった段階で初めてギターの振り分けを考えるくらいで。考えるのが面倒臭くなると、“美濃君、弾いて”って任せたりとか。

レコーディングでのギター録音は分担しているんですか?

山㟢 曲によります。たまに美濃君が弾いている時もあるし、全部俺が弾いてる曲もあるし。その時のコンディションもありますね。 “俺もう弾くの疲れちゃったから、さっきのやつ美濃君弾いて”とか、わりとそういう感じです。

開放弦が混ざっていたり、複雑なボイシングも多いので、お互いに認識を合わせるのが難しそうですね……。

山嵜 そうそう。俺と美濃君ではまたノリが変わってくるんで、そこを上手く話しながらやるのがライブの時の課題でもありますけどね。

美濃 そうなんだよね。タッチとかね。そういうニュアンスが全然違う。

そのノリはバンドで演奏しながらだんだんと合わせていくんですね。

山㟢 そうですね。少しずつわかってくる感じです。

基本的には、
ちょっとノイズが乗っていたりするほうが好きですね(笑)。
──美濃隆章

美濃隆章

「LONELINESS WILL SHINE」はアコギのリフが冒頭に入りますが、「MADNESS SUMMER」などで聴ける音色とはまた質感が違いますよね。何本かのアコギを使い分けているんですか?

山㟢 色々試したんですけど、結局いつもライブで使っているギブソンのやつで録りました。やっぱそれがしっくりくるなっていう。

モデル名は?

山㟢 LG-0です。今、高いんですね。俺が買った時は10万円くらいだったのに……。

美濃 山ちゃんのLG-0は古いもんね。60年代とかだっけ?

山㟢 69年とかそのくらいかな。

「TODO Y NADA」ではガット・ギターが登場しますね。

山㟢 メインはガットですね。

アコギとガットの音作りのこだわりも聞かせて下さい。

美濃 今作はオン・マイクにNeumannのU87、ルーム・マイクにはColesの4038っていう組み合わせで録っていて。コンプはアウトボードでかけ録りしちゃっています。EQ処理は、不要な成分や部屋鳴りの変なところだけをカットするくらいですね。音色は録音の段階でほぼできあがっているイメージです。

山㟢さんから美濃さんへコンプのかけ具合やEQの処理を注文することはありますか?

山㟢 僕はそこまで言わないかもしれないです。“良い感じにして”ってくらいですね。曲のイメージだったりは色々と注文があるんですけど、それぞれの楽器の音の良し悪しとかは任せています。美濃君と俺が考えている音が全然違う場合は言いますけど、基本的に美濃君が“良い音だな”と思うところでやってくれているなら、それで良いんじゃないって思っていますね。

美濃 そう。もうザックリというかね。ギターをキレイに整えすぎちゃったら、“もうちょっと暴れていても良かったんじゃないの?”となることもありますが。

整えるというのは、EQ的な話でしょうか?

美濃 そうそう。不要な倍音とかを取りすぎると、“聴きやすいけど、さっきくらいのほうが面白かったね”みたいになることもあります。

似たような話で言うと、ブレイクで残るホワイト・ノイズを切る、切らないなどもありますよね。

山㟢 そうですね。

美濃 わざとブレイクにしたいアレンジであれば切ると思うんですけど、基本的には、僕はちょっとノイズが乗っていたりするほうが好きですね(笑)。

今作は「LONELINESS WILL SHINE」の冒頭ではL側にボーカルがいたり、「街のどこかで」では、ドラムがR側にいたりと、パンの振り分けも凄く面白いです。

美濃 ベースが片チャンネルだったりとかね。

山㟢 ギターに関わらず、楽器が全体的に良い感じにまとまっている音源よりも、色んなものが飛び出てくるようなもののほうが好きなんですよね。

 全部の楽器を良い状態で、良い音で出したいというよりは、ちょっとした違和感というか、変な曲にしたいっていう気持ちが俺の中にはあって。で、いつも美濃君に嫌がられるっていう。“それだと変だよ?”みたいに言われて、“いや、変でいいんだけど”みたいな感じのやり取りは毎回ありますね。

美濃 でも、毎回やって良かったなと思いますよ(笑)。

そういった特徴的なアイディアは山嵜さんからの発信が多いんですね。

山㟢 右と左で全然違う音が出ている音楽を子どもの頃に聴いていたのが印象に残っていて。ジミヘンとかはドラムとギターが片チャンずつの曲もあるじゃないですか。

 そういうを聴いて、その“ステレオ感”に感動したりとか。今考えると変なミックスだけど“あの時のあれ、面白かったな”と思うこともあって。そういう“何でこの人、こんなミックスしたんだろう?”みたいな曲とかが昔から好きだったから、その余韻があるのかもしれないですね。

今作はリアンプ中心ということでしたが、リアンプで使ったアンプも教えて下さい。

美濃  61年くらいのBassmanのヘッドと、VOX AC30とか。あとDeluxe Reverbも、もしかしたら1曲くらいは使ったかもしれないですけど、そのくらいですね。

ヘッドからつなぐスタック用のキャビネットはなにを使いましたか?

美濃 その時はOrangeのPPC212を使っていました。スピーカーはJBLのD120と、CelestionのVintage 30のメイド・イン・イングランドの時代のやつを1発ずつ入れていて。どっちを使うかは曲ごとに変えていました。

使用ギターはどうでしょう。

山㟢 いつもライブで使っているTLタイプですね。クルーズ(Crews Maniac Sound)で作ってもらったギターです。

美濃さんはいつもの62年製ジャズマスターですか?

美濃 そうですね。

エレキは、ほぼその2本?

美濃 そうです。

山㟢 あんまりギターの使い分けにこだわりはないですね。どっちかというとアンプでの変化のほうがデカいかもしれない。

時期は未定ですが、
来年はツアーをやると思います。
──山㟢廣和

山㟢廣和

それでは、エフェクター・ボードについても聞かせて下さい。以前(2023年)、美濃さんのボードは取材させていただきましたが、山㟢さんのボードにはどういった変化がありましたか?

山㟢 ペダルが少なくなりましたね。ライブで踏み間違えるのが嫌なので、できるだけ少ないほうがいいんですよ。なので今は発振専用のディレイとBOSSのMT-2、TR-2くらいですね。あとチューナー。

美濃 昔はブースターみたいなのも使っていたけど、それもなくなったもんね。

山㟢 もう全然使ってない。

ブーストはMT-2が一手に引き受けている感じですね。

山㟢 最初は頑張ってほかのブースターも使っていたんですけど、結局オフにすることを忘れたりとか、そういうトラブルがけっこうあったんですよね。それならもう入れないほうがいいやと思って。

昔からMT-2は「エソテリック」専用機でしたね。

山㟢 そうです、そうです。

美濃さんもボードの内容も近年は変わりありませんか?

美濃 多分変わっていないですね。曲に応じて必要なペダルが増えたことはありましたけど、基本は前回の取材の時の内容です。

今作は約9年ぶりのアルバムでしたが、今後の制作は決まっていますか?

山㟢 未定ですね。しばらく作りたくないな。

美濃 僕はそろそろ作りたくなってきているけど(笑)。アルバムを一気に作ると大変だから、1、2曲くらいを気が向いた時にちょっとずつ録りためていきたいですね。

山㟢 あとは、リリース済みの音源をもう1回ミックスし直したりもしたいですね。“もうちょっとこういう音を入れたいな”とか。それ、やりたいわ。

美濃 なるほどね。面白い。いいんじゃない(笑)?

山㟢 締切が決まっていたから “もうこれで終わり!”って感じで制作を終えちゃったんですけど、“ここはもっとボーカルが大きいほうが良い”とか“もうちょっとキーボードを入れていたら良いのに”とか……。ない?

美濃 ……ないかな。あんまり(笑)。これはこれ。ライブでやりゃいい(笑)。

山㟢 でもBOØWYがさ、「NO. NEW YORK」(『MORAL』/1982年収録)を何年かしてもう1回録音し直したりとかしてたじゃん。

※85年にシングル「BAD FEELING」のカップリングとして「NO. NEW YORK」を再レコーディング

美濃 あった。凄く良い音になってたよね(笑)。そうしたら、1stとか(『the book about my idle plot on a vague anxiety』/2005年)古いのもやりたいかもね。ライブでやっている曲とか。

山㟢 あれはあれで、俺的にはもう古すぎてどっちでもよくて。

美濃 あらそう(笑)。

山㟢 どっちかっていうと、近々の音源を直したいみたいな。シレッとデジタルだけ入れ替えていくみたいなね。

美濃 勝手に変えちゃうのね、ダマで(笑)。

今のところライブはあまり発表されていないですが、また観に行けることを楽しみにしています!

美濃 今年はしばらくなさそうなので、また来年ですね。

山㟢 時期は未定ですが、来年はツアーをやると思います。アルバムが出てから1年くらいは空いちゃいますが。その時はまたよろしくお願いします。

作品データ

『NOW I SEE THE LIGHT』
toe

Machu Picchu Industrias
MAC-080
2024年7月10日リリース

―Track List―

  1. 風と記憶
  2. LONELINESS WILL SHINE
  3. TODO Y NADA
  4. 街のどこかで
  5. WHO KNOWS?
  6. CLOSE TO YOU
  7. キアロスクーロ
  8. サニーボーイ・ラプソディ
  9. MADNESS SUMMER
  10. NOW I SEE THE LIGHT

―Guitarists―

美濃隆章、山㟢廣和