2026年でデビュー20周年を迎えたシンガーソングライターの大柴広己が、アルバム『JUNK HOPE』をリリースした。近年のバンド・マスターとしての現場の増加や、演歌までカバーする幅広いジャンルでのプロデュース/アレンジ・ワーク、自宅スタジオの完成など様々な要因が重なったことにより、この1年で“ギター・プレイヤーとしての個性”が確立されたという。そんな彼が弾く多彩なギター・サウンドが散りばめられた最新作について、たっぷりと語ってもらおう。
取材/文=編集部 撮影=大谷鼓太郎 ※本記事はギター・マガジン2026年6月号にも掲載されています。
“ジャンクさを演出する”ことがひとつの大きなテーマ
──以前のインタビューで“ギタリストとしての自覚が出てきた”と言っていましたが、今作『JUNK HOPE』ではそれが加速した感覚がありました。
ここ1年でテレビ関係や歌謡歌手のバンド・マスターを務めることが多くなって、ギタリストとしてバックに徹する機会が増えたんです。前作『LOOP 8』(2023年)のインタビューでは“だんだんギタリストになってきた”っていう感じで話しましたが、今作はむちゃくちゃギタリストですよね(笑)。
“シンガーソングライター大柴広己”だけだったところから、ボーカリスト、ソングライター、ギタリスト、プロデューサーっていう4つぐらいに住み分けができるようになったのが、ここ1年ぐらいの革命的な出来事でしたね。
──自宅スタジオの完成も今作の大きなトピックだと思います。ギター面で寄与したことはありますか?

かなり大きいですね。プライベート・スタジオとしてちゃんと施工してもらったんですが、部屋の鳴りが消えちゃうのが嫌だったので、わざとデッドにはしなかったんですよ。
で、録音で気をつけたのは“楽器の鳴りとマイクの距離感を合わせる”っていうことでした。特に今回はアコギを大事に録ったんですけど、どこで鳴っているかを自分で理解したうえで、そこに対してマイクをどう合わせるか。ダイナミクスがすごく大事な要素で、そこが損なわれないマイキングを楽器によって変えていったんです。それを時間を気にせず追い込めたのが大きいし、楽しかったポイントですね。
──今作『JUNK HOPE』は“希望への渇望”がテーマですが、音の方向性として考えていたことはありますか?
“ジャンクさを演出する”っていうのが1つの大きなテーマでした。例えば今回はギターの弦をわざと新品に張り替えていなかったり。というのも、今まではスタジオに入ってまず最初にやることが弦を新品に張り替えることで、元気な歌で“よしやるぞ!”って始めることがほとんどだったんです。でも自宅レコーディングだとそれをしなくて良いなって思えて、逆に新しくない弦の音で録ったら、ちゃんとしすぎていない“ジャンク感”につながったんです。偶然の産物でもあるし、弦交換しないとダメだって思っていたものが、録音してみると意外と音のギラつきが抜けて良く聴こえたりして、新しい発見につながったんです。

“違和感を作る”役割をビンテージ楽器に託している
──今作はバンド・アレンジの中で鳴るアコギの存在感が特徴的だと感じました。
生のバンド・サウンドの中にアコギを入れるアプローチはこれまでもあったんです。で、昨今、演歌や歌謡曲の仕事もしながら、STPR(すとぷり)関係のようなネット音楽のプロデュースも同時にやっていて。その両方をやっているからこそマッシュアップできる感覚があるんです。逆にシーケンスだけのトラックだと“聴いたことがあるから違和感が欲しい”と思ってしまうんですよね。
その時にデジタルなトラックに対して一番違和感があるのって、生楽器の音なんです。しかもそこがビンテージ楽器なのも重要で、新しい楽器に差し替えたりもしましたけど、こうはならない。デジタル・トラックの低音ともシーケンスの高音とも被らない、ちょうどアコギの帯域で鳴ってくれていて、これが面白いなって思えたんです。
──まさに「ええぇぇぇぇああぁい」や「YOMOSUE feat.憂現歌」のアコギは、リッチすぎないレンジ感で帯域がしっかりと分けられている感じがあります。
それも、たぶん新しいギターや新品の弦で弾いてしまうと、どうしても上に抜けて被ってくるんですよ。ちゃんと全体に馴染んでいるのには、そういうところもあるんだと思います。「YOMOSUE feat.憂現歌」もアコギがなかったら、普通のシーケンスのトラックなんですよね。
で、今はAIが進歩して誰でもクオリティの高い音楽が作れる時代で、“違和感を作る”っていうのが自分が弾いていく中で鍵になってくる。その中の“アナログでやることによる違和感”を、自分はビンテージのギターに託しているところがありますね。
──プレイ面で言うと、「ええぇぇぇぇああぁい」はワウのエレキが細かく刻んでいますが、アコギが音価を長めにとっていることで、途中でハーフ・テンポになる切り替わりがスムーズだなと思いました。
自然ですよね。ただ、アコギはロングで弾いていますが、グルーヴ的にはめちゃくちゃ細かく感じているんです。これまでだったら普通に細かく刻んじゃっていたと思うんですけど、ギタリストとしての側面がそうさせている感じなんですよね。音をどこまで鳴らすか、鳴らさないかっていうことに関しては、今回は本当にこだわりました。
あとは、違和感をどれだけ作れるかっていう意味で、できる限り“楽曲から一番遠い音”を装飾音としてプラスしているんですけど、そこでアコギが聴こえすぎてしまうと、せっかくの面白い装飾音が消えちゃう。今回は“ジャンク”っていうコンセプトで、いろんな音がガチャガチャしながら映えるようにしたかったので、そのバランスを考えながらギターのフレーズを作っていきましたね。
──ワウのエレキとアコギのカッティングのアンサンブルはどういう風に考えていくんですか?
役割が被らないように意識しています。ワウ・ギターが一番細かく刻めるので、そこはエレキに任せて。ただ、長い音のアコギをグルーヴとして細かく感じていることで、アンサンブルの中に絡み合って、そのうえでフレーズを弾いているエレキ・ギターという感覚ですね。
──ワウの音色は近年大柴さんのシグネチャー・サウンドになりつつあると思うのですが、大柴さんの音楽におけるワウ・サウンドの役割はどういったところにありますか?
普通に刻むときれいになっちゃうところを、ワウが全部ダーティにしてくれるなっていう感じですね。僕の中でのワウ・ギターって、シティポップに代表されるような爽やかな感じではなく、混沌を与えてくれるものなんです。
それでいてあえて定期的な刻みにしない、型にハマらないっていうところを意識していて。自分がカッティングする時ってどうしても正確に弾いてしまうところがあるので、そこから脱却させるためのアプローチとして、ワウ・ギターはありますね。
──「ええぇぇぇぇああぁい」は規則的なリズムですけど、「YOMOSUE feat.憂現歌」は徐々に開いていく、混沌な感じですよね。
そう、リズムの中で“こういったらこう来るだろう”を裏切るようにして、正中線に乗せないようにしていますね。だからこそ、テイクを重ねないようにしています。テイクを重ねれば重ねるほどうまくなっちゃうんですよ。そうなると普通に聴き流せちゃうというか、違和感がなくなる。何回か録っていても、結局はテイク2あたりがOKテイクになっていますね。ここに関しては、スタジオ・ミュージシャンの仕事っぽくなるのが嫌だったんです。

プロデューサー的視点を自分の中に持つことが大事
──逆に「希望の鐘」の弾きすぎないリード・ギターはスタジオ・ギタリストのような職人仕事を感じます。
あれはメロディやコーラスから、フレーズまでバチっと決めて作ったんです。自分で音楽ゼミをやっているんですけど、そのゼミ生がベースやドラムを担当してくれていて。自分よりも20個ぐらい年下の人とやるから、自分が知っているようなアプローチにはならないかもしれないと思って、フレーズを決めていったんです。だけど、彼らの音が入っているからこそ、今回の“希望”っていうテーマが見えてきたというか。
まだ何者でもなかった人間が、大柴という人間に出会って人生をねじ曲げられて(笑)、それでミュージシャンになっていくっていう、1つのストーリーを見ている感覚があったんです。ドラムのハヤシミヲ、ベースの松山竜真は、何者でもない頃から知っているから、この楽曲でその物語を見た気がして感動したというか。この曲はそういう意味でも大きい曲で、自分が知っている音だけでやると、こうはなっていないんですよね。
──書き譜のような作り方も大きいと思いますが、歌を生かすためのリード・ギターという感覚があります。コードやアルペジオのようなバッキングではない、歌を生かすリードのメロディ・ラインはどのように考えていますか?
やっぱり歌メロとまったく違うものを出しちゃうと、マッチしないんですよ。なので、全然違うものを足すというよりは、歌メロを1割だけ残して9割違うものにするみたいに、比率を変えていく感じですかね。最初の1音や1フレーズ、終わりの音などは決めておいて、あとは歌に寄り添わないようにする。自分の場合は頭を決めるのが大事で、それがズレちゃうとたぶん全然違うものになっちゃうんですよ。
──ギタリストにとっても宅録が身近になってきて、歌物のバッキングやアンサンブルを自分で考える人も増えてきたと感じています。アレンジのコツなどはありますか?
家で1人でやっているとどこまでもできちゃうので、どうしても足し算の考えになってしまうんですよね。止めてくれる人がいたら“これでいいよ”って言ってくれるのが、宅録だとどこまでもできちゃう。なので、“今回はこういう風にやるんだ”って決めてくれる、プロデューサー的なマインドを自分の中に持つことが大事。
ギタリストとして客観的に見る感覚を持たないと、どんどん突き詰めてギターの音しか聴こえなくなってくるんですよ。でもメインは歌なので、“歌のためのギター”としての完成形を自分の中で持てているかどうかが、めちゃくちゃ大きいと思いますね。

人がギターを始めるそのきっかけになりたい
──今作の収録楽曲の中で“ギター・アンサンブルが見事にハマった1曲”を強いて挙げるとすると?
「笑ってくれよ」ですかね。ストラトキャスター、ジャズマスター、ES-330という全然タイプの違うギターが3本共存して、しかもES-330がライン録りでほかがアンプからの音っていう、全然違う質感で広げているのが自分の中では斬新だったんです。
それでいて、ちゃんと目を凝らして聴けば全部が聴こえてくるけど、それが歌には干渉していない。ちゃんとそこがきれいに絡み合っているのが、自分の中では面白いなって思ったんですよね。ここまで散々“違和感を作る”って言っていたんですけど、この曲に関しては違和感がないんです。
──では20周年を迎えて改めて感じる、ギターの魅力を一言お願いします。
自分の可能性を広げてくれるものだなと、最近は特に感じています。キャリアが長くなると自分の中での正解やテンプレートが出てきたりするんですよ。だけど、それだと自分が感動しない。そこで、今日何度も登場した“違和感”をギターがどれだけ作れるかが、クリエイター的な目線で大事だと思うようになったんですよね。
ほかの楽器よりもギターのほうが表現方法が広いことに気がついて、自分の中にあった感覚を壊していって、新しい感性を取り入れていくのが、改めて面白いなって思っていることです。
──最後にギタリストとしての展望を聞かせてください。
ギターって楽しいんだよ、人生が変わるんだよっていうことを、いろんな人に知ってほしいと思うようになったんです。面白い音楽や“なんだこれ?”って気になるようなものを作って、いろんな人がギターを始めるきっかけになりたいんですよ。それでこの業界がもっと面白くなってほしいし、自分もそういう役割になっていけたらと思っています。
人を育てるなんていうおこがましいことを言うつもりはないんですけど、興味を持っている人間が観ても恥じないようなミュージシャンでいたいとは常に思っていますね。

ギター・マガジン2026年6月号
本記事はギター・マガジン2026年6月号にも掲載されています。愛するビンテージ・ギターとともに写った撮り下ろし写真は、本記事とは別カットを掲載!
作品データ

『JUNK HOPE』
⼤柴広⼰
ZOOLOCATION
ZLCT-1008
2026年4月28日リリース
―Track List―
- ええぇぇぇぇああぁい
- 希望の鐘
- UN HAPPY WORST DAY
- 僕とギターと星空と
- 世の中さん
- よくばり
- キクチくん
- YOMOSUE feat.憂現歌
- 笑ってくれよ
- JUNK HOPE
―Guitarists―
大柴広己
