君島大空が語る、『花落知多少』での独自和声の追求と、共鳴するギター演奏。 君島大空が語る、『花落知多少』での独自和声の追求と、共鳴するギター演奏。

君島大空が語る、『花落知多少』での独自和声の追求と、共鳴するギター演奏。

ギター・マガジン2026年9月号では、君島大空の新作『花落知多少』について、録音からアプローチにいたる制作背景やその演奏哲学をたっぷりと聞いた。ここではそのWEB拡大版として、本作における独創的な和声アプローチの根底にある、彼が深く共鳴するギタリストたちの存在に焦点を当てた番外編インタビューをお届けする。君島を象徴するピアノを思わせる美麗な響きを追求するうえで、ギターという楽器が持つ制約に真摯に向き合う執念とも言える思考、そして彼のギター演奏を触発し続けてきた名手たちの哲学と、自身の揺るぎないアイデンティティが共鳴する地平に迫る。

取材・文=錦織文子 写真=濵本奏

“パズルよりも柔軟な考え方でいい”と
ジュリアンの考え方に心から共感した。

新作『花落知多少』の制作直前には、『BRUTUS』でジュリアン・ラージと対談されていましたよね。そこでの対話が制作に影響を及ぼしたことはありましたか?

ジュリアンについては、彼の演奏を初めて見聴きした頃から勝手にシンパシーを感じていて。僕は彼みたいには弾けないんですけど、バンドでもソロでも、今その瞬間にその音やアプローチを選び取る意味にすごくよくわかるなと常々思っていたんです。1つのお題に対して、それをどう調理したら自分が楽しいのか。そうやってイマジネーションを膨らませなければ、新鮮なものって出てこないと思うんですよ。

独自性がありつつ、聴き手も共感できるアプローチをその都度瞬時に選べるというのは彼のギター演奏の魅力ですよね

そうですね。ジュリアンが話していたことで強く頷いたのは、ソロ・ギターでメロディ、コード、リズムを刻みながら歌う時に、必ずしも高音弦にメロディがなくてもいいし、ベースが低音弦でなくてもいいんだと。多くの選択肢からパズルのようにぴったりとハマるピースを探すのではなくて、むしろパズルよりももっと柔軟な考え方でいいという話に、本当に恐縮ですけど心から共感したんです。あの会話が1つのきっかけになって、自分の演奏の考え方により自信を持てたし、もっと頑張ろうという気持ちにはなりました。

その話で言えば、君島さんの新作の1曲目「Q」のコードや展開などには、ギターで弾いているにも関わらずピアノ的に聴こえる和声に新鮮さを感じつつも、そのボイシングを選び取る点にある種の必然性すら感じさせられます。ああいった独自のボイシングがどういう考え方から出来上がっているのか教えてください

押さえ方は簡単だけど、コード譜を書いてみるとわりとオン・コードが多かったり、トップを変えないで和音だけ変わっていったり。そういうギターの弾き方はずっと好きで追い求めていますね。

そういうギターらしからぬボイシングで言えば、なぜそれを選び取るのかを突き詰めていった時に……アホみたいですけど、今年の初めからずっと、めちゃくちゃギターを練習するマイブームが続いていて。

何か題材があったんですか?

今からめちゃくちゃエコノミーとかスウィープを極めたるわ、みたいな気持ちでドリーム・シアターを本気でコピーするとか、MR. BIGの「Take Cover」の延々と続くリフを4分間弾き続けるとか。そういうことをやっていましたね(笑)。

なんと(笑)。技巧を極めたい時期だったんですか?

いや、そういうメンタルはいつもあるんですけど、改めてやってみると、ずっとああいう演奏を続けられる人って本当にヤバいなって。(西田)修大ともそういう話をしたことがあって、彼はマシーンみたいに同じ力で弾き続けるのもめっちゃ得意なんですよ。自分はそれがかなり苦手なので、年始にちょっとそういう時間を作って取り組んでみたんです。

やっぱり自分のギターの好きなところって、ギターっぽくない和声にあるんだなと思って。でもそれって、普通にギターが上手くないとちゃんと弾けないよなと思ったりしたんですよね。そんなことを考えていて、最近ギターを弾き込むのがめっちゃ楽しいですね。

6つ弦の中から何をどう選び取るかを
考えたり構築することに奥深さがある。

ところで、そうした練習モードへ至るまでに、何かきっかけがあったんですか?

話せば長くなるんですけど、なぜこういうボイシングが好きなんだろうと思い返していた時に、テッド・グリーンの『Solo Guitar』(1977年)のことを思い出したんですよね。テレキャスター1本のクリーン・トーンで、星空を見てるような情景が浮かび上がったり、鍵盤的で豊かな和声が本当に美しくて。

彼の話を、友達の梅井美咲(p)としていた時のことなんですけど、“ピアノは最大10ポリでレンジがすごく広い楽器だけど、ギターはせいぜい6ポリ。だからこそ、どんなボイシングを選び取るかによって奏者のセンスがすごく表出しやすいし、ギターって良いですよね”みたいな話を彼女がしてくれて。確かにそう思うし、そこにもっと気を遣ったらもっと何か向上できるんじゃないかなと思ったんですよね。

なるほど。

あと、高校生の時から好きなんですけど、シルヴァン・リュックというギタリスト。数年前に亡くなってしまったんですけど、ビレリ・ラグレーンとのデュオでアルバム(『Duet』/1999年)を出していて、その中で「Isn’t She Lovely?」をやっているんです。特に相手がソロを取っている時の彼のバッキングは、キックとスネアの役割を1人でやっているようでもあり、低音とミッドとハイを使い分けたりしているんですよ。そういう演奏の仕方は彼からインスピレーションを受けて、僕も心がけています。

演奏全体の中での立ち回り方に触発されてきたと。

そうですね。シルヴァンがすごいのは、6弦のEを5弦のAまで落として、5~6弦で12弦のような状態を用意して、その2つの弦だけでソロを取るんですよ。で、バッキングに回ってもそのアプローチで上手く貫く。そもそもフィジカル面も強いし、すごく自由な発想でギターを弾くんですよね。「Isn’t She Lovely?」のライブ版でタッピング・ハーモニクスだけでソロを弾くんですけど、その自由さが成り立つ発想力と技術は本当に憧れます。

でも、相互的に補完するような演奏の仕方は、君島さんのギター・プレイの構築の仕方にも感じます。

誰かと演奏する時にも、自分1人でソロを弾く時にも、そういう構造の中に自分はどう立ち回るのかを考えるのは好きなんです。例えば、歌とギターだけでやる時に、言ってしまえばリハモナイズし放題なわけじゃないですか。でも、コードで景色を変えようとする時に、その引き出しや瞬発力が試される。僕はそういうことで聴く人を驚かせたりしていたいんですよね。そういうワン・アイディアを常にチョイスすることを考えた時に、ジュリアン・ラージやシルヴァン・リュックが思い浮かぶというか。

ギターってやっぱり雑なカッコ良さもある楽器じゃないですか。歪ませてカッコ良い楽器って、わけわからないと思うんですよ(笑)。一方で、6つ弦の中から何を選び取るのかを考えたり構築することにギターの奥深さを感じざるを得ないし、そういう世界の見せ方もギターにはある気がするんです。そこに僕のアイデンティティがあるなと近頃は思っていて、このアルバムを作っている時にもそうしたことを考えていましたね。

作品データ

花落知多少
君島大空

APOLLO SOUNDS
2026年6月17日リリース

―Track List―

01. Q
02. Drowsy
03. 星玻璃
04. #1
05. Afterending
06. 琥珀の遠景
07. forevilsectgate
08. 夕映の坂から
09. Anechoic

―Guitarist―

君島大空

表紙

ギター・マガジン2026年9月号
教養としてのテレキャス学

2026年8月12日(水)発売

君島大空『花落知多少』のインタビュー本編は、ギター・マガジン本誌2026年9Love」のに掲載中!