2019年に主催した野外イベント“PARASITE DEJAVU〜2DAYS OPEN AIR SHOW〜”では2日間で4万人を動員した、注目度爆上がり中のロック・バンド=THE ORAL CIGARETTES。ダンサブルなナンバーでも骨太なロック・ギターを響かせる鈴木重伸は、ギター・マガジン本誌のアンケート特集『ニッポンの偉大なギタリスト100』(17年8月号)と、『ニッポンの偉大なギター名盤100』(20年7月号)の両方で、Charの名前を挙げていた。そのコメントを読んだ編集部は“かなりのChar好きなのでは?”と思い、インタビューをオファー。話を聞いていくと、“ニッポンの偉大なギタリスト”への深い尊敬の念と憧れがひしひしと伝わってきた。さっそく若手ロック・ギタリスト筆頭の鈴木から見たCharの魅力を探っていこう。
取材=福崎敬太 写真=ハタサトシ
僕の中でCharさんが
不動の1位なんです。
初めてCharさんのギターを聴いたのは?
僕が高校生の時に出た、布袋(寅泰)さんとの「Stereocaster」(Hotei vs Char/2006年)を友達が教えてくれて、そこで初めて知りました。で、何かのテレビでその曲を演奏していて、“あ、この間友達が教えてくれたやつだ”と思って観たのが、ギターを弾いているCharさんの姿を観た最初ですね。
テレビで観た時にどういう印象を抱いたかは覚えていますか?
僕はまだギターを弾き始めたくらいの頃だったので、Charさんのアームでの奏法とかを“これ、どうやって音がだんだん下がっていくんだろう?”みたいに考えながら観ていましたね。で、「Stereocaster」は布袋さんがけっこうエフェクティブなアプローチをしているんですけど、それに対してCharさんは本当に手元だけで多彩な音を出していて。“ギターってこういうことができるんだ”って思ったのが一番最初の印象でした。まだ僕に知識がなかったので、驚きが大きかったな。
2017年に行なったアンケート特集『ニッポンの偉大なギタリスト100』で、鈴木さんはCharさんを1位に挙げていましたね。改めてCharさんを挙げた理由を教えて下さい。
正直言うと、僕はCharさんを作品で聴いてきたわけではなくて、『Char meets ???? 〜TALKING GUITARS』(フジテレビ721/現在はフジテレビNEXTで放送)という対談番組のセッション動画をめちゃくちゃ観てたんですよ。それを観ていて、“ギタリストがあるべきところはここなんだろうな”って思ったんです。みんなギターを弾き続けて行き着く先はCharさんなんじゃないかと感じるくらい(笑)。ゴールじゃないですけど、ギターを弾きながら年齢を重ねてこうなれたらすごく幸せだろうなって。そういう点でもCharさんが僕の中で不動の1位なんです。
『Char meets〜』はいろんな方がゲストで出演されていますが、特にどの回が印象に残っていますか?
マーティー・フリードマンさんとMIYAVIさんは、当時インパクトが強かったですね。あとは、ロサンゼルスのスタジオまで行ってスティーヴ・ルカサーと対談やセッションをしていた回も、“ギター1本持って、海外でこんなことができるんだ”って学生ながらにすごく憧れを持ちましたね。
「闘牛士」をコピーして
ガラッと変わったんですよ。
作品よりも動画と言っていましたが、今年6月に行なった本誌企画『ニッポンの偉大なギター名盤100』では『CHARACTER』を1位に挙げていましたね。この作品との出会いは?
Charさんが弾いている姿を動画で観るのが大好きだったので、アルバムで聴くようになったのは本当に最近なんです。出会いは2年くらい前で、当時レコーディングについてくれたテックさんが、僕にできないことがあると“この人のこの曲をコピーしたら良いよ”とアドバイスをくれる方で。その時に“「闘牛士」のカッティングが、次に録る楽曲に求めるキレ味に役立つよ”って教えてくれたんです。で、それまでギターは上モノのフレーズばかり聴いていたので、“コード・バッキングってうしろで鳴っている音でしょ?”くらいの感覚だったんですけど、「闘牛士」をコピーしてガラッと変わったんです。Charさんが歌いながら普通に弾いているカッティングを聴いて、“あ、もっともっと奥深いところがあるんだ”って意識するようになったんです。それからCharさんのアルバムもまるっと聴くようになりましたね。
実際に「闘牛士」をコピーしてみてどう感じたんですか?
まず、カッティングだけでも、そこにハンマリングやプリングなどで表情をつけているんですよね。それは自分にはなかったところで、バカみたいな答えになっちゃうんですけど、“複数のことをこんなにも同時にやっているのか”と(笑)。聴いているだけじゃわからなかったんですけど、実際にコピーしてみたら、“左手を離す瞬間”、“右手のカッティングの速さ”、“コードの切り替わりのタイミング”、“プリングかハンマリングかピッキングか”とか、すごく難しくて。自分の中にはない未知数なところに対して、“まだまだこんなことができるんだよ”っていうことを教えてもらった感じがありましたね。
ちなみにCharさんとお会いしたことは?
遠目から見たことは(笑)。一番最初は2015年のSweet Love Showerで、同じ日だったんですよ。僕らの出番が終わって何組かあとがCharさんで、ずっと観てました。それが最初で、そのあとに日比谷の野音でのライブを観に行ったのが2回目……“会った”というより観に行っただけですけど(笑)。
実際に生のステージで観たCharさんはどうでしたか?
それまでは動画でしか観たことがなかったので、ライブは“みんなで音だして楽しもう”みたいな感じかなって勝手に想像していたんですけど、全然違って。Charさんもステージ最前に行ってお客さんをガンガン煽ったりとか、バンドとの遊びみたいな茶目っ気もあって、僕も普通に歓声あげてました(笑)。で、アコースティック・セットの曲をやった時、5弦か6弦が曲中に切れたんですよ。僕は最初それに全然気づかなくて。弾きながらテックさんに何か言っていて、“なんかあったんかな?”って思っていたら、たぶん本来なら4弦、5弦も弾くフレーズのところを、6弦1本でアドリブ。そこで僕も弦が切れていることに気づいたんですけど、そのトラブルさえも楽しんでいるように見えて。やっぱりアレは真似できないというか、肝の座り方みたいな部分にもすごく感動しましたね。
時間がどれだけ経とうが
変わらず愛される。
もしCharさんとセッションするならどういう曲をやりたいですか?
Charさんのセッション動画はずっと観てきたので、ああいうカッコ良さに憧れているんですけど、僕はステージ上では決まりきったことしか弾いてこなかった人間なわけで……。だから、自分のこの豆腐メンタルと何かしら準備がないと不安になってしまう性格を考えて……「Stereocaster」の布袋さんパートを僕が弾くっていうのが安心かと(笑)。一度、MIYAVIさんと一緒にやったことがあるんですけど、ガチガチになってしまって。やっぱり憧れの人と一緒に演奏するっていうだけでもすでに緊張するのに、フリーでのセッションだと真っ白になっちゃうんですよね。だから、一番最初に知った曲で…… “Charさんパートちゃうんかい!”ってなるけど(笑)。
逆にTHE ORAL CIGARETTESの曲に参加してもらうとしたら?
僕らもライブでは「気づけよBaby」とかで合間にセッションを挟んだりしているので、そういうフリー尺が作れる楽曲でCharさんの演奏を聴きたいですね。あと、最新作の『SUCK MY WORLD』に入っている「Hallelujah」では、ギターもブルース調のフレーズに初めて挑戦していて。その場に急に来たCharさんが弾いてもしっくりくる曲かなと思います。
『ニッポンの偉大なギター名盤100』では1976年リリースの『Char』が1位を獲得しましたが、Charさんの楽曲が今も支持を集め続けている理由はどういう点にあると思いますか?
難しいな(笑)。個人的には、Charさんが国境を超えていろんな人と一緒に演奏したり、音楽をとおしていろんな方と会話しているというのがすごく印象的なんですよ。それこそ海外に行ったとしても、ギタリスト同士で使っているギターの話をしたり、ひとつの共通点で国や年齢も関係なく平等に話をしている。そういう音楽に対しての向き合い方、無邪気に楽しんでいる姿っていうのは、時間がどれだけ経とうが変わらず愛される理由のひとつだと思うんですよね。
たしかに。人とセッションをしている時の楽しそうなCharさんを観ると、ギターを弾きたくなりますよね。
あと、何かのテレビ番組で印象に残っていることがあって。観覧席にいた高校生くらいの女の子に、Charさんが“ちょっと君弾いてみなよ”ってギターを持たせたんです。その子は“簡単なコードしか弾けません”って拒否するんですけど、“それに合わせて弾くから大丈夫だよ”って。で、その子は同じコードのくり返しをすごいガチガチになりながら弾いていたんですけど、Charさんがそれに合わせて展開とかをつけて演奏していたら、途中からその女の子も緊張がほぐれてすごく楽しそうになっていたんです。ギターという楽器は“初心者であろうが知識があろうがなかろうが、一緒に音を鳴らせば楽しめる”っていうことを、あんなにわかりやすく伝えてくれる人っているんだって衝撃を受けましたね。
では、THE ORAL CIGARETTESのファンに向けて、Charさんの音楽をオススメしてもらえますか?
いろんな動画を観てきて、Charさんは“文化としての音楽”を語り継いでいってる人だなと感じるんです。“何年代のアレはこうで”みたいな音楽の成り立ちというか、そういうことを大事に語ってくれていて。僕らが知らなかった“あぁ、そうだったんだ”ということを教えてくれる。この先少なからず何かを変えていく人間というのは、過去の変革もしっかりと知っておくべきだと思うので、Charさんの音楽はもちろん、Charさんが伝えようとしていることも知ってほしいなと思いますね。
最後に、Charさんに質問するとしたら何を聞きたいですか?
えぇ……こういうの考え込んじゃうタイプなんですよ(笑)。でもやっぱり、自分にはない部分について聞きたいかな。だから、“自分にとって未知のところへ踏み込む時に、何を考えていますか?”ですかね。僕だったら、まずは“怖い”っていうのが勝ってしまうんです。だから、経験のないことに対してのメンタル的なモチベーションがどこに向かっているのかを聞いてみたいですね。もしその答えを聞けたら、僕自身も発想が広がる気がします。
ありがとうございます。(Charさん、どこかでご回答を聞かせて下さい!)
>Special|令和時代も語り継ぎたい――平成生まれが語るCharのすごさ。
鈴木重伸
すずき・しげのぶ◎1990年生まれ、奈良県出身。THE ORAL CIGARETTESのギタリストとして2014年にメジャー・デビュー。相棒はレス・ポール・カスタムとマーシャルJVM210Hで、ヘヴィでグルーヴィな楽曲を彩るロックなギターが持ち味。
最新作
5th Album『SUCK MY WORLD』
THE ORAL CIGARETTES
A-Sketch/AZCS-1090/発売中