ギタマガ編集部が迫る、Kz Guitar Worksの新境地! サウンドメッセ in OSAKA 2024レポート ギタマガ編集部が迫る、Kz Guitar Worksの新境地! サウンドメッセ in OSAKA 2024レポート

ギタマガ編集部が迫る、Kz Guitar Worksの新境地! 
サウンドメッセ in OSAKA 2024レポート

世界中から10,000本を超えるギター、ベース、ウクレレが集結するイベント、サウンドメッセ in OSAKA 2024が5月11日(土)・12日(日)に開催された。本稿は、サウンドメッセ会場内のRittor Musicステージで行なわれたトーク・イベント兼公開インタビュー【ギタマガ編集部が迫る、Kz Guitar Worksの新境地】を記事化したものだ。Kz Guitar Worksの代表・伊集院香崇尊氏とスタッフの吉松亮介氏を迎え、近年展開している幅広いラインナップについて語ってもらった。

文=西本勲 写真=小林 俊史 (EL CURI-NHO)

Kz Guitar Worksと言えば、何といってもクイーンのブライアン・メイが愛用したレッド・スペシャルの完全再現モデルが有名ですよね。

伊集院 レッド・スペシャルは、ブライアン・メイが16~17歳くらいのときに父親と製作したハンドメイド・ギターで、世界に1本しかありません。僕は十代の頃からクイーンが好きだったんですけど、レッド・スペシャルを弾きたいと思っても、コピー・モデルには満足できるものがなかった。それで16~17歳くらいのときに、自分でこのギターを作りたいなと思ったのがそもそものきっかけなんです。それから年月が経って、レッド・スペシャルを作るブランドとしてKz Guitar Worksを立ち上げたのが2001年。その後、2007年にはオフィシャルのレッド・スペシャル(BM Super)を製作することができて、ブランドの信頼度が一気に高まったと思います。

Kz Guitar Worksの代表・伊集院香崇尊氏。手にするのは同ブランドを象徴するモデル、レッド・スペシャル。

“ブライアン・メイのギターを作っている国産ギター工房”というのは、Kz Guitar Worksの強烈なアイデンティティですよね。

伊集院 そうですね。2015年以降にオリジナル・モデルを展開していくようになるまでは、レッド・スペシャルをメインで作っていましたし、今でもレッド・スペシャルを求めてくださる方は多いです。

そして現在は、より幅広い製品展開をされています。今日はそれらについて伺っていきますが、まずはKz Oneシリーズを紹介していただけますか?

伊集院 Kz OneはKz Guitar Worksのオリジナル・モデルで、その中でもレッド・スペシャルの遺伝子を色濃く受け継いでいるのが、このKz One Semi-Hollow Carved Top 3S11です。大きく違うのは、レッド・スペシャルがフラット・トップなのに対して、これはカーブド・トップでfホールがあるところですね。

吉松 中が空洞なので、“Semi-Hollow”という名前がついています。“3S11”は、3シングル・コイルでピックアップ・コンビネーションが11通り、という意味です。うちのモデル名はすべてそういうルールでつけているんですよ。

伊集院氏が手にするのがKz One Semi-Hollow Carved Top 3S11。右はKz Guitar Worksの吉松亮介氏。

伊集院 ピックアップはレッド・スペシャルの特徴的なPUを踏襲した自社製品(KGW T-S)ですが、シリーズ/パラレル・スイッチがついていて、複数のピックアップを直列で繋いだり並列で繋いだりして、ハムバッカー的な音とストラトのハーフ・トーンを切り替えられるようになっています。一般的に扱いやすくしたレッド・スペシャルという感じですね。形はレス・ポール・ジュニアのダブルカッタウェイなんかに近いかな。

吉松 ボディのくびれの感じとか、抱え心地はレス・ポールに近いですね。最初はレッド・スペシャルと同じフラット・トップでしたけど、昨年からはモデル・チェンジという形でカーブド・トップを導入し始めて、ようやく皆さんに見ていただける状態まで仕上がったということで、今回出展させていただきました。

伊集院 レッド・スペシャルってブライアン・メイが自分のために作ったギターなので、わりと突飛なスペックなんですよね。ネックが太かったり、スケールが短かったり、指板のアールがきつかったり、0フレットがあったり。そういうところを、より一般的なスペックに落とし込んだのがKz Oneです。最初のモデルはケーラーのブリッジが標準仕様でしたが、今はシンクロトレモロやチューン・O・マチックにも展開して、より一般的なスペックと融合したモデルを作り始めています。

オプションでトレブル・ブースターを内蔵できるのもひとつの大きな特徴ですよね。

吉松 今年の頭(2024年)のNAMM Showに出すタイミングで、エフェクター・ブランドのKarDiaNさんと一緒に内蔵トレブル・ブースターを開発しました。それまでは自社オリジナルのトレブル・ブースターを作っていましたが、それも非常に評判が良くて。

ペダル型のトレブル・ブースターでしたね。その後継機をギターに仕込んだと。

伊集院 ペダル型も良いんですけど、いろいろ試した結果、ボディに仕込んだ方がよりノイズが少なく、音の太さも全然違うので、トレブル・ブースターとしては内蔵型の方が良いんじゃないかと。もちろん、このモジュールをペダル型にすることもできます。

吉松 それはKarDiaNさんの方で、エフェクト・ボードに組み込みたいという方にもご提案できるものになると思います。

Kz One Semi-Hollow Carved Top 3S11のボディ・バック。伊集院氏が指差しているのが、オプション仕様の内蔵トレブル・ブースター。

操作系はどのようになっていますか?

伊集院 2つの小さいディップ・スイッチがあって、その組み合わせで3種類のモード(トレブル/ミッド/ロー)を切り替えるようになっています。あとはボリュームですね。頻繁にいじるというより、ギターの個体に合わせてセッティングする隠しスイッチみたいな感じです。基本的にオーダー時のオプションで選択していただく形ですが、後付けも可能ですよ。

吉松 Kzとしてはこのトレブル・ブースターが推したいポイントだったりもするので、ぜひこれを基本スペックとして採用できるように周知していければと思います。

そして、Kz Oneシリーズの中でさらに汎用性を高めたのが、2ハムバッカー/シンクロ・アーム仕様のモデルですね。

吉松 Kz One Solid Carved Top 2H5 Synchroです。一般的な2ハムバッカーのギターに寄せつつ、5wayのレバー・スイッチを搭載しています。Kz Guitar Worksのことを知らない方が手に取っても、フィーリングで演奏できることをコンセプトに開発しました。こちらもトレブル・ブースターを内蔵しています。このハムバッカーも自社製品(Kz Classic Humbucker)で、大変良い評価をいただいていますが、トレブル・ブースターとのマッチングもすごく良いです。トレブル・ブースターのオン/オフは手元で操作できるので、直感的に切り替えたり、常にオンにしておいて引っ込ませたいときはオフにするという使い方もアリですね。

こちらは新モデルのKz One Solid Carved Top 2H5 Synchro。オリジナルのKz Classic Humbuckerを2基搭載している。

見た目的にも、やっぱりレッド・スペシャルの遺伝子を感じます。

吉松 そうなんですよね。結構かけ離れた仕様ではあるんですけど、なんとなくパッと見た印象でそう思っていただけることがやっぱり多くて。

伊集院 24フレットが標準仕様なのもレッド・スペシャルを受け継いだところですね。22フレット仕様もあるんですけど、抱えたときのバランスは24の方が良いので、24を標準にしています。

さらに今回、CHALLENGER RECORDSの企画で製作したギターがありますね。

吉松 CHALLENGER RECORDSさんの15周年を記念し、国産ギターを盛り上げようという企画でお話をいただきました。土台はKz One Juniorで、P-90×2にバー・ブリッジという、ちょっとイナたいスペックになっています。カラーリングはCHALLENGER RECORDSさんのロゴの配色で、ネックの裏側も白く塗装したりと、あえてKzっぽくないイメージにしています。あと、ジョイントがちょっと特殊ですね。

CHALLENGER RECORDSの15周年を記念した、Kz One Juniorを土台とするカスタム・モデル。鮮やかなブルーがカッコいい!

伊集院 Kz One Juniorはセットネックが標準仕様ですが、これはデタッチャブルで、レッド・スペシャルからインスパイアされたジョイント方法を採用しています。KzではこれをRSジョイントと呼んでいて、後で説明するTradシリーズに取り入れたものを、Kz One Juniorにも組み込んで新たに展開していきます。

吉松 RSジョイントについては、この後に出てくるトラッド・モデルのところで詳しくご説明します。Kz One Juniorシリーズは、他社さんで“Junior”と名前がついているいろんなギターと同様に、ある程度簡素なスペックで、オプションの選択幅も多少狭めることによって価格をKz Oneより多少抑えることができています。

伊集院 価格はジュニアじゃないって言われるかもしれないけど(笑)。

吉松 いろいろな楽器店さんにオーダーしていただいて、同じKz One Juniorでもけっこう違ったスペックのギターが生まれています。

伊集院 基本、同じものはないですね。

吉松 そこがうちの会社らしいところですね。

シンプルで、ロックンロールな感じでカッコいいです。そしてやっぱりレッド・スペシャルの系譜ですよね。

吉松 ボディ外周のシェイプはKz Oneと同じですからね。伊集院がよく言うのですが、Kzのギターはスイッチの種類が多くて、その場その場で頭を使ってしっかりと構成を立てて音作りをするみたいなところがあると思うんです。でもKz One Juniorは、もうパッと見で何をしたいかがわかるギターに仕上がることが多いかなと。

伊集院 直感的に弾けるというか。

あと、ブリッジがちょっと独特というか、あまり見たことがないタイプですが。

伊集院 一応バー・ブリッジですけど、バー・ブリッジの中でもいろいろ選ぶことができます。今回作ったのはちょっとストレートな、あまり細かい調整をしなくても済むタイプです。

吉松 もう少し調整の幅が広いタイプも選べますね。

カラーリングも他の種類を選べますか?

吉松 もちろんです。うちは塗装もすべて自社で完結させていますので、カラー・サンプルを作ってお客様のオーダーに合わせていくスタイルをとっています。

そして一番気になるのが、Tradシリーズとして展開されるSTタイプとTLタイプです。これらのモデルはさらなる新境地!という感じがしますね。

伊集院 ギター・マガジンさんは古くからうちのことをいろいろ知っていただいているので、“これやるの?”っていう感じだと思うんですけど。

吉松 Kz ST Trad 22と、Kz TL Trad 22で、本当に名前の通りのモデルです。

Kz流のSTタイプ、Kz ST Trad 22。ピックアップは3シングルやSSHなど、自由に選択することが可能。
こちらはKz流のTLタイプ、Kz TL Trad 22。STもTLもマホガニー製という点が、一般的な同型モデルとは一線を画すポイントだ。

伊集院 基本的な枠組みとしてSTとTLがある中で、3シングルも可能ですし、SSHも2ハムもP-90も可能です。そしてやっぱり一番の特徴は、先ほど少し触れたRSジョイントです。

吉松 レッド・スペシャルのジョイントと同様に、まずボディのバック側から1本のボルトでネックが留まっていて、さらにトップ側から2本のビスで留まっている。言ってみれば3本留めのジョイントですね。Kzは数年前にメーカーとして20周年というタイミングがあったんですけど、そのときにもう一度、レッド・スペシャルらしい良さをもっと広く知ってもらうきっかけが必要かなと考えて、あえてトラディショナルなボディ・シェイプにそういうジョイントを落とし込むという挑戦をしたのがこのTradシリーズです。

伊集院 でも、やってみたら想像以上に反応が良くて。 当初予定していたよりもこっちの割合が多くなるんじゃないかっていう感じになってきて。

吉松 そうなんです。パーツ類も含めてオーダーの幅もすごく広く選べるので、“こういうのが欲しい”っていうオーダーのほとんどに対応できると思います。

さらに、ネック/ボディがマホガニー製というのもKz Guitar Worksらしさのひとつかなと。

吉松 潰しですけど、ボディもマホですね。(ステージにある)このKz Oneはボディの表にニューギニア・ローズウッドというちょっと珍しい木材を使っていますが、基本的なギターは全部マホガニーが標準になっているので、こういうトラディショナルなシェイプのギターもやっぱりマホガニーで作ってみようと。そこにRSジョイントが合わさることによって、本当にネックがしっかりしているという評価をいただくことがすごく多くて。実際、ネックが横に振れたり緩んだりみたいなことが非常に少なく、例えばメイプルとかアルダー系ではちょっと出づらい帯域とか音の太さみたいなものも確保できています。

伊集院 形はストラトやテレなんですけど、サウンドはやっぱり違います。

吉松 SGっぽいと言われることもありますね。

ちょっと甘くてふくよかな感じがします。マホガニー・ボディのSTやTLシェイプってなかなか弾く機会もないので、凄くオリジナルですよね。

吉松 そういうところは、特に意図していたわけではありませんが。

伊集院 そう言っていただいて初めて、改めて“ああ、マホガニーだったな”という感じ。そこもKzらしさなのかなと。

こちらのSTタイプについているスイッチはピックアップのセレクターですか?

吉松 これは開進堂(Blue Guitars)さんのオーダーで製作したモデルで、濃いオーシャンターコイズメタリックのカラーリング、2ハムにべっ甲のピックガードというのもすべて先方のオーダーです。そして、ハムの1個1個にタップ・スイッチがついています。Kzでは、ハムのギターにタップ・スイッチを1個つけてフロント/リアの両方が切り替わるというのが基本的なスペックなんですけど、このギターは1個1個切り替えることによって、ハーフ・ポジションの時にもハムとシングルみたいな使い方ができるように作られています。あと、うちはTUSQ(タスク)というナットが標準なのですが、これは牛骨だったりとか、そういうところでいろいろご提案いただいたものになります。

伊集院 今回、会場には全部で12本のTradシリーズがあるんですけど、スペックも仕様も、色も全部違います。割と大変でしたね(笑)。

吉松 作るのはね(笑)。1本1本違うと大変ですよね。本当に、お店のアイディアからじゃないと生まれないような仕様がたくさんあります。

そういうオーダーを取り入れて作った結果、ストレートにKz製らしいものが出来上がっている気がします。

吉松 そうですね。でも、完成するまでは“これでいいのかな?”っていう。

伊集院 “大丈夫?”みたいなことを言いながら組み込んでるんですけど、意外とカッコいいかなって。

吉松 そういう意味では、僕ら以上にお客様の方がKzらしさをわかってくれているのかもしれないですね。

では最後に、今後の展開についてお聞かせください。

伊集院 一昨年から去年にかけては、Tradシリーズが市場に広がったことによって、レッド・スペシャルとかクイーンのコアなファンだけではなく、 一般のお客様にもKz Guitar Worksのことを少しは知ってもらえるようになったのかなと思います。そこで今度は、Tradシリーズをやったことによって得られたもの、さっき言っていただいたようなKzらしさみたいなところを、もう一度オリジナル・モデルのKz Oneに落とし込んで再展開したいなと考えています。

最近はアーティスト・モデルもたくさん展開されていますね。

吉松 そうですね。西尾知矢さんの“真・木太郎”というシグネチャー・モデルを製作させていただいてるんですけど、先日はそちらの量産をやりました。

伊集院 もともとはKz Oneと同じオリジナル・モデルだったんですけど、西尾さんが気に入って使ってくださるうちに、もう西尾さんのモデルになってしまいました。

吉松 あとは、アニソン系の仕事で有名な福山芳樹さんにレコーディングでST Tradをお使いいただいていた流れで、本人名義のシグネチャー・モデルを作ることになりました。

伊集院 4月くらいから出荷が始まっていますが、ありがたいことにたくさんご予約いただいて、かなり先まで枠が埋まっている状態です。それも、このTradシリーズをやったことによって、予想もしなかったところに結びついている感じですね。

福山さんのモデルはかなり伝統的な、3シングルのストラトですね。

吉松 そうですね。もちろんジョイントはRSジョイントで。

伊集院 トレブル・ブースターも内蔵しています。

吉松 あと、ラージヘッド・タイプを福山さんのモデル専用で新しく作らせていただきました。本人が持っている70年代のストラトから持ち替えたときに、なるべく違和感がないようにということで。他の製品で選べるものとは違うスペックになっています。

Kz One Airも比較的新しい製品ですね。

伊集院 これは僕が個人的に、自宅で弾きたいギターというコンセプトで製作しました。Airという名前の通りボディが中空で、アコースティック的な響きも出せて、エレキの弦を張って自宅で生音でエレキの練習ができる。ピックアップがついているのでステージでも弾けるという。機能はごくシンプルで、気軽に家でパッと手に取って弾けるモデルです。

吉松 Kz One Airは3ロット目までそれぞれスペックを少しずつ変えていて、トップ材もスプルースなどいろいろなものを使ってきました。今回出展しているモデルはフレイムメイプルのトップを採用しています。

伊集院 4ロット目はたぶん今年の年末くらい……間に合うかな?という感じです(笑)。

吉松 あと、先ほどはST Tradについて触れましたが、TL Tradも今回のためにいろんなスペックで作りました。TLブリッジのモデルだったり、 ハムとシングルの構成だったり、バインディングを巻いたものだったり……。もし目にする機会があったら、ぜひ試していただきたいですね。

お問い合わせ/公式HP
Kz Guitar Works https://kzguitarworks.com/