ギター・マガジンWEBのオープニング特集『シティ・ポップ偉人伝。山下達郎を支えた名ギタリスト達。』の好評を受け、続編として、特集内でピックアップした3人の名手による名演を譜例とともに紹介。今回は「SOLID SLIDER」で名ソロを奏でた大村憲司(紹介記事はコチラ)のフレーズをお届けしましょう。
文=井川恭一 譜例作成/解説=石沢功治
楽曲に必要不可欠なメロディと化した
大村憲司の天才的ソロ・プレイ
「SOLID SLIDER」での憲司のソロは、テレキャスのソリッドなサウンドがタイトルに絶妙にマッチしつつ、ジャズ・フレーバーを纏ったブルージィなフレージングが光る憲司の真骨頂とも言える名演。
テレキャスではMXRのフェイズ90やディストーション+などのエフェクターを使うことも多かった憲司だが、ここではフェンダー・アンプ直のクリーンな音が際立っている。そしてこのソロ、なんとワンテイクで録られたという。出だしのオクターブ奏法を用いたフレーズの直後に若干意図しない音が混ざるが、それをものともせずに楽曲イメージどおりのソロを憲司が弾き終えるや、コントロール・ルームから喝采とともにOKがでた光景が目に浮かぶ。
また、もうひとつ達郎作品における憲司の名ソロが聴けるのが『POCKET MUSIC』(86年)収録の「THE WAR SONG」。
こちらはストラトを使用、歌に絡みながら入ってくるのは憲司ならでは。気合が込められたチョーキングのひとつひとつに圧倒される。
達郎のコーラスを背景にして、曲想にふさわしいやるせない叫びのようなフレイジングと、言葉をしっかりと言い切るような、音の区切りの力強さが素晴らしい。“ここは憲司しかいない”──達郎の直観に憲司は見事に応えた。彼の生涯における名演のひとつだ。