代わりの利かない大村憲司のギター・ソロ 代わりの利かない大村憲司のギター・ソロ

代わりの利かない
大村憲司のギター・ソロ

ギター・マガジンWEBのオープニング特集『シティ・ポップ偉人伝。山下達郎を支えた名ギタリスト達。』の好評を受け、続編として、特集内でピックアップした3人の名手による名演を譜例とともに紹介。今回は「SOLID SLIDER」で名ソロを奏でた大村憲司(紹介記事はコチラ)のフレーズをお届けしましょう。 

文=井川恭一 譜例作成/解説=石沢功治


楽曲に必要不可欠なメロディと化した
大村憲司の天才的ソロ・プレイ

「SOLID SLIDER」での憲司のソロは、テレキャスのソリッドなサウンドがタイトルに絶妙にマッチしつつ、ジャズ・フレーバーを纏ったブルージィなフレージングが光る憲司の真骨頂とも言える名演。

テレキャスではMXRのフェイズ90やディストーション+などのエフェクターを使うことも多かった憲司だが、ここではフェンダー・アンプ直のクリーンな音が際立っている。そしてこのソロ、なんとワンテイクで録られたという。出だしのオクターブ奏法を用いたフレーズの直後に若干意図しない音が混ざるが、それをものともせずに楽曲イメージどおりのソロを憲司が弾き終えるや、コントロール・ルームから喝采とともにOKがでた光景が目に浮かぶ。

ワン・テイクで録られた大村の名ソロ

 2nd作『SPACY』ラストに収録されている「SOLID SLIDER」に登場するツー・コード・バンプでの大村憲司のソロを下地に模してみた(参考CDタイム1:20〜1:58)。基本的にDm7&G7の前半8小節はAマイナー・ペンタトニック、後半Em7&A7はBマイナー・ペンタトニックによる音使い。また、出だしをオクターブ奏法で、場面展開が図られる冒頭9小節もオクターブ奏法からの弾き始めになっていて、これによってソロ全体の構成がぐっと締まっている。

「SOLID SLIDER」収録作品

『SPACY』 山下達郎

RCA/BVCR-17014

また、もうひとつ達郎作品における憲司の名ソロが聴けるのが『POCKET MUSIC』(86年)収録の「THE WAR SONG」。

こちらはストラトを使用、歌に絡みながら入ってくるのは憲司ならでは。気合が込められたチョーキングのひとつひとつに圧倒される。

達郎のコーラスを背景にして、曲想にふさわしいやるせない叫びのようなフレイジングと、言葉をしっかりと言い切るような、音の区切りの力強さが素晴らしい。“ここは憲司しかいない”──達郎の直観に憲司は見事に応えた。彼の生涯における名演のひとつだ。