前回紹介した『Live In ’65』に収録されているオランダでのテレビ出演と同日、ラジオ局“VARA”でも演奏を披露したウェス。それがパッケージされたのが、『Straight, No Chaser』だ。トランペット奏者=クラーク・テリーのスウィンギーさと見事なマッチングを聴かせるウェスのプレイは必聴!
文/採譜=久保木靖
ここが演奏された場所!
VARA Radio Studio 7, Hilversum, Netherlands
いつになく牧歌的でリラックスしたウェス
オランダでのテレビ出演(前回紹介したDVD『Live In ’65』に収録)と同じ4月2日、ウェスは同じくヒルフェルスムにあるラジオ局にてクラーク・テリー(tp)とのスタジオ・ライブを行なった。テリーは、1940年代後半から1950年代にかけて、カウント・ベイシーやデューク・エリントンといった名門ビッグバンドで腕を鳴らしただけあって、テクニックはもちろん、歌心にも満ちたスウィング・フィーリングを大切にするプレイヤー。そんなテリーに引っ張られたのか、ここでのウェスはいつになく牧歌的でリラックスしたプレイをくり広げている。
本題に入る前に、CDのクレジットを正しておきたい。まず、ウェスとテリー以外の3人が、ハロルド・メイバーン(p)などウェスが連れてきたレギュラー・メンバーと記されてるが、正しくはピム・ヤコブス(p)、ルード・ヤコブス(b)、ハン・ベニンク(d)である。また、4曲目「Wes Got Rhythm」は、セロニアス・モンクの「Rhythm-A-Ning」やアル・ヘイグの「Opus Caprice」として知られた曲で、オリジナルはアンディ・カーク楽団の「Walkin’ And Swingin’」だ。
さて、演奏には双頭コンボならではのアプローチが見られて面白い。例えば、「Just Friends」ではクラークが吹くテーマに対してウェスはカウンター・ラインで絡んでいき、「In A Mellotone」ではテーマの隙間にオブリガートを挟んでコール&レスポンスを構成している。このようなプレイは管楽器にメロディを任せたジャム・セッションならではのもので、ウェスのプレイとしては貴重だ。ちなみに「Just Friends」は有名スタンダードだが、ウェスの演奏で現在耳にすることができるのはおそらくこのテイクのみだろう。そして、いわゆる“リズム・チェンジ”の「Wes Got Rhythm」とマイルス・デイヴィス作「The Theme」では、“お手のもの”と言わんばかりの疾風怒濤のプレイで本領を発揮していく。
オランダでの名フレーズ
テーマ・メロディに絡んでいくカウンター・ライン
「Just Friends」の冒頭部分、テーマを奏でるトランペットに対してカウンター・ラインで絡んでいく場面をシミュレートしてみた。歌心を感じさせる音使いだが、譜例に示したとおり、そのポイントは[コード・トーン+9th]の形で弾くウェス流のスタイルに起因する。また、8小節1拍目裏はドミナント・コード内での△7th音。スケール・アウトするため通常は避ける音だが、ウェスはこの音を経過音として使用することでメロディを歌わせているのだ。
作品データ
『Straight, No Chaser』
Bandstand/徳間ジャパン/TKCB-30465/1991年リリース