トム・ヴァーレイン『Warm And Cool』 岡田拓郎の“Radical Guitarist”第15回 トム・ヴァーレイン『Warm And Cool』 岡田拓郎の“Radical Guitarist”第15回

トム・ヴァーレイン『Warm And Cool』
岡田拓郎の“Radical Guitarist”第15回

岡田拓郎をナビゲーターに迎え、カテゴライズ不可能な個性派ギタリストたちの作品を紹介する連載、“Radical Guitarist”。第15回はテレヴィジョンのフロントマン、トム・ヴァーレインのインスト作! 『Warm And Cool』というタイトルのとおり、アグレッシブで鋭利なギター・サウンドからアンビエントまで、彼の内に眠る様々な顔が表出した1枚だ。

文=岡田拓郎 デザイン=山本蛸

今回紹介する作品は……

『Warm And Cool』
トム・ヴァーレイン

Rykodisc/RCD-10216/1992年リリース

―Track List―

01. Those Harbor Lights
02. Sleepwalkin’
03. The Deep Dark Clouds
04. Saucer Crash
05. Depot (1951)
06. Boulevard
07. Harley Quinn
08. Sor Juanna
09. Depot (1957)
10. Spiritual
11. Little Dance
12. Ore
13. Depot (1958)
14. Lore

トム・ヴァーレインのアヴァンギャルドなインスト作

言わずと知れたNYパンクの代表格、テレヴィジョンのフロントマン、トム・ヴァーレイン(Tom Verlaine)。NYパンクという慣用レッテルも個人的にはどうもいまいちしっくり来ないのだが……テレヴィジョンの1stアルバムがリリースされた1977年当時、ブルースやカントリー、ファンクとも離れたソリッドで硬質な彼らのギター・アンサンブルは間違いなく革新的で、のちのポストパンク/ニューウェーヴ世代に計り知れない大きな影響を与えた。テレヴィジョン時代の代表曲「マーキームーン」は、金属的なフェンダー・ギターのサウンドで、ジョン・コルトレーンの霊が憑依したような長尺のモーダルな名ギター・ソロを披露しており、今一度ぜひ耳を傾けていただきたいところ。

そんなトム・ヴァーレインの1992年作は、彼のギター・プレイが全面に打ち出されたインスト・アルバムとなっている。「Spiritual」は、後期コルトレーンとローレン・コナーズを思わず感じてしまう、霊的な静けさを纏ったギター・アンビエント的トラック。「Ore」、「Lore」、「Saucer Crash」など、モーダルかつフリーキーな演奏は、かねてから公言していたESPジャズ(編注:ESPディスク・レコード/NYのレコード・レーベル)やフリージャズの影響を感じさせる。これらの楽曲での演奏は、いわゆるジャズ的な音使いではないものの、アグレッシブなダイナミクスはギター的な演奏というよりはホーンライクなプレイと言えるかもしれない。一転、ハードボイルドなムードの中、スパイ映画調のトゥワンギーなプレイを聴かせる「Those Harbor Lights」も面白い。

“ギタリスト”というよりは”アーティスト”としてのイメージが強いトムだが、ブリッジのギリギリを引っ掛けるように押し出す本作での彼のギター・プレイには、マーク・リーボウの演奏との親和性を思わず連想した。

著者プロフィール

岡田拓郎

おかだ・たくろう◎1991年生まれ、東京都出身。2012年に“森は生きている”のギタリストとして活動を開始。2015年にバンドを解散したのち、2017年に『ノスタルジア』でソロ活動を始動させた。現在はソロのほか、プロデューサーとしても多方面で活躍中。

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