Interview|滝 善充&菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)『TIGHTROPE』サウンド・メイク編 Interview|滝 善充&菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)『TIGHTROPE』サウンド・メイク編

Interview|滝 善充&菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)
『TIGHTROPE』サウンド・メイク編

9mm Parabellum Bulletが9枚目となるフル・アルバム『TIGHTROPE』を完成させた。これまで以上に空間の奥行きを意識したサウンド・メイクが印象的で、聴くほどに発見のある1枚だ。今回は、滝 善充と菅原卓郎の2人に、作品のサウンド・メイクに特化して話を聞いた。使用機材紹介は近日公開予定のため、そちらも乞うご期待!

また、9月13日発売のギター・マガジン2022年10月号では、アルバム制作の経緯やフレーズ・メイクに関するインタビューが掲載されているので、そちらもあわせてチェックを!

インタビュー=福崎敬太 撮影=西槇太一

シンプルなスプリングやホール系のリバーブは使ってないんです。
──菅原卓郎

菅原卓郎(vo,g)

今作は「淡雪」や「煙の街」など、全体的に倍音成分やエアー感だったり、立体感や奥行きが感じられるサウンド・メイクやアレンジが多い印象です。「白夜の日々」も、シングル版よりさらに奥行き感が増しているような雰囲気になっていますよね?

 そうですね。アルバム全体で、モジュレーション・リバーブをけっこう使ったんです。

菅原 リバーブをかけているところは必ずモジュレーション・リバーブを一番に採用していて、シンプルなスプリングやホール系のリバーブは使ってないんですよ。空間系をセットにしてかけることが多かったですね。リバーブの高域の倍音をちょっと曖昧にして、より広がって聴こえるようにするっていうのが2人の中で流行っていて。ただ、滝のリードには色々仕掛けがあったりしますけど、バッキングの歪みのパートはソリッドに作っていますね。

ハマるきっかけがあったんですか?

 『BABEL』を作ってる頃から徐々にですね。リバーブ成分ごと歪ませて滲んだ感じの音が“なんか良いな”って思ってたところから、どんどん色んなものをかけるようになっていきましたね。

菅原 それこそ「淡雪」は色んなかかり方をしていて。ブレイクでのブラッシングにも歪んだ音にリバーブをかけたりしていますね。

同じ楽曲でもパートごとにリバーブの設定を変えているんですか?

 そうですね。トーンとか長さも、“ここはもっと長くいけるな”、“もっと近めでコッテリした感じかな”みたいに考えて。そういう味付けレベルの作業をリバーブでやりました。それこそ奥行きの世界ですよね。

菅原 僕らは一発録りでやってた時期が長かったから、以前まではレコーディングでも自分たちでエフェクターを操作していて。だから、歪んでるパートとクリーン・パートのリバーブの設定が一緒だったりして、ライブに近い状態だったんです。でも、だんだん分けて録るようになったので、歪みとクリーンとでかかり方を調整するようにしていって。一発録りのライブ感とは違った方向で、曲に対してのエフェクトのかけ方を考えられるので、今回はそこをより詰めて考えましたね。

“コーラス楽しい!”ってなってる時期です。
──滝 善充

滝 善充(g)

「One More Time」の2Aでのコード・ストロークでパンニングもありましたが、空間で遊んでいる感覚がありました。

菅原 ミックスの時にエンジニアに“こうして下さい!”ってお願いすることもあるし、“遊んで下さい”って任せちゃうこともあって。

 あとがけのリバーブで、シマーっぽい“フニャフニャ”って感じの音がくっつくようにしてもらったりもしましたね。あと、基本的にはバッキングをダブルにしたり、ギター・ソロや単音フレーズを印象的にしたい時はダブルやトリプルにしたりするんですけど、それでも足りないと思う時は、ディメンション(BOSS/DC-2W)をかけていて。さらにちょっとコーラス感を足すというか……ディメンションだと倍音感が近目に感じるので面白いんですよね。あと80年代っぽいなって思って、ボーカルにもかけたりもしてるんですよ。

菅原 「One More Time」はボーカルもギターもかけてるね。

 「One More Time」はけっこう80’sな感じかなと思って作って。なのでエフェクトの距離感はかなりいじりました。裏打ちのギターにもあえてリバーブをかけたり、スネアにゲート・リバーブをかけてみたり。そういう往年のやり方を使ったりして遊んでましたね。

滝さんのコラムで最近コーラスにハマっていると書いてありました。それこそディメンションも近い感じなのかなと。

 まさにそれをやっていたのが「One More Time」や「Spirit Explosion」を録っていた時期でしたね(笑)。“コーラス楽しい!”ってなってる時期です。

コーラスにハマっていったきっかけは?

 何の曲だったかは忘れちゃいましたけど、一度かけた時にめっちゃハマって……。その辺りの時期からよく“このフレーズにはコーラスをかけまくるしかないだろう”って思うようになって。コーラスは、エフェクターによってさっぱりかかるやつとかコッテリかかるやつとかがけっこうあるので面白いですよ。

やっぱり80年代はギターが一番ホットですよね。どんなジャンルでも。
──菅原卓郎

菅原卓郎(vo,g)

今作は歪みの質感が今までよりもラウドな印象がありました。

菅原 俺はセイモア・ダンカンのDIAMONDHEAD(ディストーション)がメインです。

 これがかなりコッテリとした……今回の立役者です。

菅原 「Blazing Souls」(2020年)から使い始めたんです。説明書に書いてあるんですけど、(説明書を読みながら)“80年代の伝説的なギタリストたちが作り上げた独自のメタル・トーンをその手で作り出すことができる”と……。“70年代後半から80年代までを彩ったドライブ・ペダルとチューブ・アンプの組み合わせをペダル上で再現したエフェクター”ということですね(笑)。

強い(笑)。今作全体で目指した歪み感というのはありましたか?

 ミドル~ローミッドにエネルギーがある感じですかね。“シャー”ってなるところとミドルの音程が良い部分のバランスを、録り音の時点から自分でコントロールできると良いなと思っていて。その点でも、卓郎のパートで使ったDIAMONDHEADは、EQが強烈に効いてくれるので重宝しました。私は、自分の音を変えると、耳に触る感じがバンドとしても変わっちゃうと思っているので、コードの部分をこれでビシッと固めたんです。

菅原 これと、ESPのマックス・カヴァレラ・モデルがメインでしたね。

 スーパー・ハイパワー・セットですね。

ところどころで“80年代”という言葉が出てきますね。

菅原 そうですね。やっぱりギターが一番ホットですよね。どんなジャンルでも。

 あとはエフェクターのかけ方もめちゃくちゃだった(笑)。

(笑)。DIAMONDHEADが担った役割は大きそうです。

菅原 電圧が9~18Vで使えるんですけど、挙動が全然違うんです。Ken Bandの南(英紀/g)さんが“18Vだとヘッドルームが広くなるし、プリアンプ的な感じで使えるよ”と話してたって、ESPの9mm担当の方が教えてくれて。まさにそんな感じで使ってましたね。アンプのキャラクターもこいつが持っていってく感じがありました。

 そうそう、後段が何であろうが、こいつで味が多めについている感じ。

菅原 あと、マックス・カヴァレラ・モデルのピックアップはダンカンのSH-6が載っていて、その2つの組み合わせも凄く良かったんですよね。

 スラッシュ・メタルができるセッティング。

菅原 「泡沫」、「白夜の日々」、「One More Time」以外の新しめの曲たちは、そういう音圧感を目指してましたね。

滝さんは制作中のコラムで“トーン・コントロール的な役割でTS系を使う意味がわかった”と書いていましたが、今作は歪みの作り方で何か変化はありましたか?

 なるべくレクチファイアーを使って9mmの個性を保ちたいというのは前提にあって。で、音程になる部分と“シャー”って倍音で音程がなくなってしまう部分のコントロールが、TS系って“こんなにやりやすいんだ”っていうのに気がついて、ギター・ソロを弾く時には役立ちました。アースクエイカーデバイセスのDunes(オーバードライブ)と、メサ・ブギーのGRID SLAMMER(オーバードライブ)を使いましたね。あとは、ミドルにエネルギーを集めたい時は、“シャー音”を削る用途で、先に自作のローパス・フィルターをかけて、そのあとにTS系で歪ませてアンプに送ってましたね。「Spirit Explosion」の単音フレーズは、そういうセッティングで凄く映えたので良かったです。自分が使った歪みエフェクターはそれくらいですね。

菅原さんはほかに使用した歪みペダルは?

菅原 僕はBOSSのOD-1Xと、ボードには入ってないエレクトロ・ハーモニックスのLittle Big Muff Piくらいですね。曲ごとにセッティングを変えて対応してたという感じです。

 エレハモのOp Amp Big Muffも貸したかも。爆音感は普通のビッグマフのほうがあるんですけど、Op Amp Big Muffを使うと潰れずに爆音感を奏でてくれる感じがあるんですよ。

菅原 まさにスマパンの音みたいになって(笑)。ライブで使うと自分と同じ世代の人には“グランジだ!”ってすぐに伝わるみたいで凄く気に入ってます。

今回はミドルを太く入れることにこだわった。
──滝 善充

滝 善充(g)

ハマっているというコーラスに関しては何を使っていましたか?

 アリオンのコーラスとBOSSのCE-3、それと卓郎が持っているCE-2Wを使いました。めちゃくちゃにかけたい時はアリオンで、綺麗にかけたい時はCE-2Wです。かかっているのか、かかっていないのかわからないけど、“味が欲しい”ってくらいの時はCE-3ですね。

楽曲で言うと?

菅原 CE-3は「煙の街」で音色に苦戦してた時に、“CE-3の音がないとダメだね”っていう時があったよね。

 「煙の街」は終始薄く掛かってますね。多少ハイが削れるところも良くて。逆にガッツリCE-3でコーラス感を足したのは「All We Need Is Summer Day」のAメロのアルペジオ。あとは忘れました(笑)。

ディメンションはコーラスとは違う目的で使っていたんですか?

菅原 ディメンションはどちらかというとミックスの時に使うことが多かったですね。

 録ったものをPro Toolsから引き抜いて、ディメンションをかけてからステレオで戻すという感じで。

菅原 オリジナル機も含めて色々と試したんですけど、BOSSのDC-2Wが一番音が良かった。

ほかに今作で活躍したペダルは?

菅原 超定番ですけどMXRのPhase 90は色んなところで使いましたね。「Spirit Explosion」のギター・ソロの裏で鳴っているフレーズとかがそうで。2本録って、左側はゆっくり速くして、右側はだんだん遅くするっていうツマミの動かし方で音を作ったりしました。リバーブはBOSSのRV-6やKeeleyのCaverns Delay Reverbで、モジュレーション系のリバーブを使いましたね。

 私はRV-5と6はほとんどの曲で使ったと思いますね。シマー・リバーブは卓郎のCavernsも使ったりしました。BOSSのシマーとはまた違うかかり方で、音がトロけるけど音程は残るみたいな不思議なシマーですね。

ギターはそれぞれ何を使いましたか?

菅原 ESPのマックス・カヴァレラ・モデル、Tricksterのサンバーストと、あとディープ・ブルーって呼んでいる青いやつ。あとは、「煙の街」でBricoleurの赤を使ったかな。大体この4本で、一番活躍したのはマックス・カヴァレラ・モデルですね。

 私はエレキはほとんど水色のSufferで、「煙の街」や「淡雪」のようなロー・パワーなサウンドの時は普通のSTタイプを弾きましたね。アコギはYAMAHAのThe FG。「Hourglass」のサビのアルペジオは、コーラスをかけたエレキの歪み、クリーン、ゴダンのガットにコーラスとリバーブをかけたもの、あとは生のエレガットも入れて、計4本くらい重ねましたね。「淡雪」ではThe FGを使ってます。

アンプは?

 私はメサ・ブギーのキャビとTriple Rectifierですね。

菅原 僕はマーシャルのVintage Modernに、オレンジのPPC212OBです。

今作は“80年代の歪み”がキーワードな感じがしましたが、今後試してみたいサウンドはありますか?

 今回はミドルを太く入れることにこだわったので、次やるとしたら多少ハイファイを目指していくのかな。でも、ラウドな音圧感も欲しいから、90年代ミクスチャー的な感じですかね(笑)。ハイファイで面で来るような音とか作れたら面白いんじゃないかなと思っています。

菅原 滝のリードの音色を固定して、僕のほうで変化をつけていくのが定番になっているので、次はどんなペダルを使おうかなって感じですね。その時々によって変わるので、常に色々試してるんです。あと、フェンダーのTone Masterを持っているんですけど、9mmだと滝とのサウンドの兼ね合いであまり使ってこなくて。今こそ使えるかもという気がしているので、試してみたいですね。

サウンドメイク編の締めとして、今作でお気に入りのサウンドを教えて下さい。

菅原 「Hourglass」や「Tear」のバッキングは、DAIAMONDHEADとカヴァレラ・モデルでしかないサウンドになっていて気に入っていますね。あと「淡雪」のリバーブやディレイを駆使したクリーンも好きです。もう一個挙げるとすると、「煙の街」のサビ後に聴ける轟音のパートも最高だなと思います。

 私は「タイトロープ」のCメロのアルペジオかな。たしかエレキとガット・ギターを2本ずつ重ねてるんですが、なんかクラシカルな感じが出ていて気に入っています。「Hourglass」のサビのアルペジオも同じような感じで。そのあたりが面白くて好きです。

ギター・マガジン2022年10月号
レス・ポールの70年

ギター・マガジン2022年10月号では、誕生から70年が経ったギブソンのレス・ポールを徹底深堀り! また、9mm Parabellum Bullet『TIGHTROPE』の制作やフレーズ・メイクについて、滝&菅原が語ったインタビューも掲載! 本記事とあわせてチェック!

LIVE INFORMATION

9mm Parabellum Bullet presents
「Walk a Tightrope Tour 2022」

9月9日(金)/Zepp Osaka Bayside
9月11日(日)/Zepp Nagoya
9月19日(月・祝)/Zepp Fukuoka
9月23日(金・祝)/仙台 GIGS
10月2日(日)/Zepp Haneda
10月9日(日)/Zepp Sapporo

※チケット等詳細は公式HPをチェック!
9mm Parabellum Bullet公式HP:https://9mm.jp/

作品データ

『TIGHTROPE』
9mm Parabellum Bullet

コロムビア/COCP-41808/2022年8月24日リリース

―Track List―

01. Hourglass
02. One More Time
03. All We Need Is Summer Day
04. 白夜の日々
05. 淡雪
06. Tear
07. タイトロープ
08. Spirit Explosion
09. 泡沫
10. 煙の街

―Guitarists―

滝 善充、菅原卓郎