現代のイギリスを代表するロック・バンドに成長をとげたアイドルズが、2025年1月に約6年半ぶりとなる単独来日ツアーを開催した。1月27日(月)のZepp DiverCity公演にて、マーク・ボーウェンとリー・キアナンの機材撮影に成功。さらにマーク・ボーウェンの対面インタビューも行なうことができたので、膨大なシステムを解説してもらった。本記事では、マークが来日公演で使用した4本のフェンダー・ギターを本人のコメントと共にご紹介。
取材・文=小林弘昂 通訳=トミー・モリー 機材撮影=星野俊
Mark Bowen’s Guitars
1972 Fender
Stratocaster “Stinky”
父親から譲り受けたビンテージ・ストラト
父親から譲り受けたという72年製ストラトキャスター。もともとは叔父がマークの父親から本器を借りており、マークは大学時代に叔父のもとから無断で持ち出し、そのまま使用しているという。叔父が所有していた時にネック・ジョイントが3点留めから4点留めに改造されたとのこと。
過去にはボディが2つに割れたり、塗装が剥がれすぎたため以前は半年に一度ラッカーを塗り直したり、激しいピッキングによりピックガード横の木部が削れ、そこにマークの汗が染み込み悪臭がしてしまうなど、様々な傷を抱えたギターである。悪臭がするため、マークは本器のことを“Stinky”と命名。
ピックアップはCreamery Custom Handwound PickupsのRed ’79に交換されている。リアしか生きておらず、フロントとセンターはダミー。コントロールもマスター・ボリュームのみに改造され、もともとトーン・コントロールがあった場所にはダミーのジャックが搭載されている。ピッキングの際、サドルに手が当たってケガをしてしまうことがあり、通常のプレス・タイプではなくフラットなタイプに交換済み。
弦高はかなり高くセッティングされ、マークも“おそろしく弾きづらいギターだ”とコメントしているが、“本物のパンク・ロックの感触がある”と、アイドルズの楽曲には欠かせない存在で、すべてのアルバムのレコーディングで登場しているという。今回のライブではトゥワンギーなサウンドを求め「Roy」と「Benzocaine」で使用された。チューニングはレギュラー。
使用楽曲(2025年1月27日@Zepp DiverCity)
- 「Roy」
- 「Benzocaine」
2024 Fender
Stratocaster with Baritone Neck
バリトン・ネックを搭載したメキシコ製
本器はもともとレギュラー・スケールのネックが搭載されたメキシコ製のストラトキャスターだったが、特別にフェンダーにバリトン・スケールのネックを製作してもらい、組み上げたという1本。入手したのは2024年とのこと。ピックアップはTexas Specialを搭載。
バリトン・ギターはベースのような分厚い音が出せるが、フェンダーのものはトゥワンギーなサウンドが得られるので愛用していると語る。『TANGK』(2024年)のレコーディングでは、マークはおもにバリトン・ギターを使用したそうだ。
使用楽曲(2025年1月27日@Zepp DiverCity)
- 「Gift Horse」
- 「Car Crash」
- 「Dancer」
2020 Fender
Stratocaster with Baritone Neck
メイプル指板のバリトン・ギター
ダフネ・ブルーの本器も、メキシコ製ストラトキャスターのボディに、フェンダーで製作してもらったバリトン・スケールのネックを搭載したギター。入手したのは2020年とのこと。ピックアップ・セレクターは取り除かれ、リア・ポジションに固定されている。本器のピックアップもTexas Specialが搭載されているという。6弦のサドルのみブロック・サドルに交換されていた。
2本のフェンダーのバリトン・ギターのチューニングは、おもにB-E-A-D-F♯-BかA♯-D♯-G♯-C♯-F-A♯の2種類。しかし、チューニングによって使い分けはしていないそう。また、3本のバリトン・ギターにはErnie Ballの6-Strings Baritone Slinky(.072〜.013)という弦を張っている。本器は指弾きを行なう「Gratitude」で使用された。
使用楽曲(2025年1月27日@Zepp DiverCity)
- 「Gratitude」
2018 Fender
American Performer Mustang
以前はギター・シンセとして使用していたムスタング
フェンダーから提供してもらったという、2018年製American Performerシリーズのムスタング。ピックアップ・セレクターが取り除かれており、リアしか機能していないという。リア・ピックアップはCreamery Custom Handwound Pickupsのものに交換済み。また、FishmanのTriplePlay Wireless Guitar Controller(MIDIギター・コントローラー)が搭載されている。
以前はギター・シンセを使用して本器からピアノのサウンドを出していたそうだが、現在マークはライブでキーボードを使用しているためギター・シンセは未使用。一応、今回のライブでも専用のPCと音源ソース・ユニットを持ち込み、ギター・テックが操作できるようにステージ袖にスタンバイされていた。
「Jungle」を制作してした時に使用していたという理由で、今回のライブでも「Jungle」で使用。本器のチューニングもレギュラーだ。
使用楽曲(2025年1月27日@Zepp DiverCity)
- 「Jungle」
Interview
ギターは表現を伝えるためのものであり、
フェラーリ級である必要はないんだよ。
バリトン・スケールのネックが搭載された、ダコタ・レッドとダフネ・ブルーのストラトについて教えて下さい。
これらはもともとレギュラー・スケールのネックが付いていたメキシコ製のストラトなんだよ。フェンダーにバリトン・スケール用のネックを作ってもらって組み上げたんだ。僕はフェンダーとエンドースしているんだけど、彼らはもうバリトンを製造していなくてさ。以前、バハ・テレキャスター(※クリス・フレミングがデザインしたモデル)を使っていたことがあって、かなり気に入ってたんだけど、実はテレキャスターのボディ・シェイプが苦手でね。ギターをかなり高い位置に構えているから、僕向けのデザインじゃないんだ。
テレキャスターのボディは体に刺さりますもんね。
ストラトは僕の体の動きにもピッタリ合っていて、馴染み深いギターなんだ。ピックアップは手に入れた時から換えていない。そのままにしているのは、あの独特なトゥワンギーさが欲しいからでね。バリトンでは特に重要な要素だと思う。僕がベースではなくバリトンを使う理由は、ベースだと200~400Hzのところにかなりのロー・エンドがあるからなんだ。でもバリトンなら同じ音域をプレイできるし、かなりのトゥワンギーさが伴うんだよ。フランケンシュタインっぽいストラトだけど、フェンダーにはこういうモデルをもっと作ってもらいたいと思うんだ。
リー・キアナン(g)同様、メキシコ製のフェンダーが多いですが、何か理由があるんですか?
ムスタングはメキシコ製じゃないけど、フェンダーからもらったんだ。実はフェンダーと関わるようになった経緯には面白い話があってね。ある晩、僕たちのギターが盗まれてしまった。当時の僕はP-90が搭載されたPlayerシリーズの青いムスタングを持っていたんだけど、その代わりとしてフェンダーからもらったのが今のムスタングというわけ。
なぜムスタングを?
もともとショート・スケールがどんなものなのかを知りたくてムスタングを選んだんだ。USA製かメキシコ製かにこだわったことはないよ。僕は製作のクオリティにそこまでうるさいタイプじゃないからね。僕の72年のストラトなんて、お世辞にも良く作られているとは言えないけど、現代のギターにはないユニークなキャラクターを持っている。それに今ではElectrical Guitar Companyのギターを所有していて、これは非常に良くできているんだ。とはいえ、僕がギターを道具として見ていることに変わりはない。ギターは表現を伝えるためのものであり、フェラーリ級である必要はないんだよ。
想いを伝えるうえで、使う鉛筆にこだわる必要はないという感覚でしょうか?
時にはちょっとこだわってもいいけど、僕にとっては“求める濃さの黒鉛がちゃんと入っているか?”という程度のものかな。鉛筆が折れたり壊れたりしない限りそれで十分だし、幸運にも僕のまわりにはギターの面倒を見てくれる人が常にいるからね。
PiLやギャング・オブ・フォーのようなサウンドが欲しいんだ。
彼らのようにシャープで荒々しいものをね。
各フェンダー・ギターに搭載されているピックアップの詳細を教えて下さい。
2本のバリトンにはTexas Specialが載っているよ。塗装が剥がれてしまった72年のストラトとムスタングのピックアップは、マンチェスターに住むジミーというビルダーが作っているCreamery Custom Handwound Pickupsのものなんだ。72年のストラトにはRed ’79というモデルが載っていて、トゥワンギーさがある一方、少し多めにコイルを巻いているのが特徴だね。3、4弦のポールピースが弦とかなり近くて、凶暴なサウンドが出せるのが気に入っているよ。それがCreameryのピックアップを選ぶ理由だね。
最近は出力が低く、ブルースやネオ・ソウルなどで使われるようなピックアップが人気ですよね。
多くのピックアップ・ビルダーはYouTuberたちが好きそうなクリーミーなトーンを目指しているけど、そういうのは僕がプレイする音楽では使わない。僕はスティーヴィー・レイ・ヴォーンのようなサウンドを目指しているわけじゃなくて、パブリック・イメージ・リミテッドやギャング・オブ・フォーのようなサウンドが欲しいんだ。彼らのようにシャープで荒々しいものをね。
72年製のストラトはお父様から譲ってもらったものだと聞きました。いつ頃から使い始めたのでしょうか?
うん。これは父のものだね。3点留めのネック・プレートは4点留めのものに交換されている。僕が使う前、叔父が父からこのストラトを借りていたことがあって、その時に勝手に改造してしまったらしいんだ(笑)。僕が使い出したのはブリストルの大学に通っていた時。叔父のもとから黙って持って行ってしまい、それ以来返していない。でも叔父は喜んでいるはずだよ。“このギターも埃を被って過ごすよりはいいだろう”ってね(笑)。
大学時代から使っているということは、アイドルズ初期のレコーディングでも使っていたんですか?
アイドルズの全部の作品で使っているよ。僕はこのギターを“Stinky(臭い)”と呼んでいる。なんでかというと、トップの木材がえぐれてしまった部分に僕の汗がたっぷり染み込んでしまい、ある時から悪臭が止まらなくなったんだ。使うたびに臭いが出てきてしまってね。最近になって木が剥き出しになったところを樹脂のようなもので蓋をしたから、もう汗を吸収しなくなったよ。
72年製のストラトとムスタングはレギュラー・チューニングで使用しているとのことですが、2本の使い分けは?
それはトーンのためだね。例えば「Roy」や「Benzocaine」みたいにトゥワンギーなサウンドが必要になれば、新曲/旧曲を問わずにストラトを選ぶ。あとはビンテージのようなスタイルを求めている部分もあるね。ムスタングはミドルがユニークかつヘヴィだ。曲を作った当時に使っていたこともあって、ライブでは「Jungle」だけで弾いているよ。言葉で説明しづらいんだけど、この曲には非常に特徴的なトーンがあってね。
どのようなものでしょう?
トレモロのように聴こえなくもない、長いスラップバック・エコーみたいなエフェクトなんだ。ザ・スリッツはスピーカーが揺れているような、非常にユニークな低音を出していたよね? あれを真似しようと思ったんだよ。トゥワンギーっぽいサウンドの対極で、“ブン!”って感じでさ。そこにアタック感も欲しかったんだ。それを実現できた唯一のギターがムスタングだったのさ。ムスタングに加えて、かなりクリーンなアンプを使う必要があったから、JC-120を使っているよ。それが「Jungle」のサウンドの秘訣なんだ。
サウンド・アプローチで参考にしている、憧れているギタリストはいますか?
いないことはないけど、必ずしもギタリストというわけではない。むしろ“誰かっぽいサウンドに聴こえないこと”を目指しているよ。新しいサウンドを生み出し、誰とも異なるサウンドを生み出す人々に、僕は興味があるんだ。ポーティスヘッド、エイフェックス・ツイン、マーズ・ヴォルタの音楽が大好きで、彼らのサウンドから大きな影響を受けている。彼らのビッグなサウンドは僕の創作に何らかの影響を与えていると思うね。
ギター・プレイに関して好きなギタリストは?
ぎこちなかったり、下手さがあっても、表現力豊かにプレイする人が好きなんだ。ジャック・ホワイトは良い例だね。もちろん彼は下手ではなく、素晴らしいギタリストだけど、彼の表現は少し何かが違っていて、不自然で、ある意味で間違っているようなところがある。でも、大きな影響を与えてくれているよ。
ケイト・ル・ボンも僕のお気に入りのギタリストの1人で、とても美しい不協和音を作り出す彼女の技術が大好きだ。彼女は僕よりもずっと美しい音楽をプレイしているけど、いつも不協和音が存在している。
ほかにはグレアム・コクソンもだね。そしてご存知のとおり、パブリック・イメージ・リミテッドやギャング・オブ・フォーからもだ。70年代のたくさんプレイヤーたちが、僕に大きな影響を与えてくれたよ。
2025年1月27日(月)Zepp DiverCity
【Setlist】
01. IDEA 01
02. Colossus
03. Gift House
04. Mr. Motivator
05. Mother
06. Car Crash
07. I’m Scum
08. Roy
09. 1049 Gotho
10. Jungle
11. The Wheel
12. When The Lights Come On
13. Divided and Conquer
14. Gratitude
15. Benzocaine
16. POP POP POP
17. Television
18. Crawl!
19. The Beachland Ballroom
20. Never Fight A Man With A Perm
21. Dancer
22. Danny Nedelko
23. All I Want For Christmas Is You
24. Rottweiler