リターン・トゥ・フォーエヴァー『銀河の輝映』/マーク・スピアーの此処ではない何処かへ|第18回 リターン・トゥ・フォーエヴァー『銀河の輝映』/マーク・スピアーの此処ではない何処かへ|第18回

リターン・トゥ・フォーエヴァー『銀河の輝映』/マーク・スピアーの此処ではない何処かへ|第18回

現代の音楽シーンにおける最重要ギタリストの1人、クルアンビンのマーク・スピアーが、世界中の“此処ではない何処か”を表現した快楽音楽を毎回1枚ずつ紹介していく連載。

今回紹介してくれる『銀河の輝映』は、ジャズの巨匠=チック・コリア(k)率いるリターン・トゥ・フォーエヴァーが1974年にリリースした作品。1枚をとおして縦横無尽に弾きまくるファンキー&エネルギッシュなギター・プレイは、当時19歳だったアル・ディ・メオラによるものだ。

文=マーク・スピアー、ギター・マガジン編集部(アルバム解説) 翻訳=トミー・モリー 写真=鬼澤礼門 デザイン=MdN
*この記事はギター・マガジン2022年10月号より転載したものです。

リターン・トゥ・フォーエヴァー
『銀河の輝映』/1974年

グループ黄金期前夜をとらえた
アル・ディ・メオラの出世作

ギタリストの加入によりロック色を強めたチック・コリア(k)率いるフュージョン・バンド第2期の作品で、わずか19歳のアル・ディ・メオラが初参加。まだ“速弾き”は控えめながら、強烈なユニゾン・パートや歪んだトーンによるカッティングでアンサンブルに溶け込み、エネルギッシュなソロを随所に散りばめるなど、すでに大器の片鱗をうかがわせる。

“別の惑星から来たプログレッシブ・ロック”って感じかな。

 これは僕がティーンエイジャーの頃に出会った作品で、初めて聴いたジャズ・フュージョン系アルバムの1枚だね。家の近くに中古レコード屋があって、アートワークがクールだったから手に入れたんだ。

 リターン・トゥ・フォーエヴァーがどんなバンドなのか、チック・コリアが誰だかなんて当時はまったく知らなかったよ。アル・ディ・メオラなんて、まったく認知していなかったね(笑)。当時の僕はベースを弾いていたから、スタンリー・クラークのことはかろうじて知っていたけど。実際、ベースのパートは聴いてみて本当に凄いなぁと思った。

 でもこのアルバムで本当に凄いのは、チック・コリアによるシンセのプレイだ。あまりにもクールだったよ。「Song to the Pharoah Kings」の妖しい感じのイントロは、まるで別の惑星からやってきた得体の知れない何かのようなサウンドだ。

 で、申し訳ないけど、このアルバムのギターは一番好きではないパートかもしれない。むしろそれ以外の楽器パートが好きなアルバムだ。アル・ディ・メオラのギター・プレイは、僕の興味のあるスタイルではないからね。本作で聴けるリズム・プレイはかなり好きだけど。とにかく、ギターが好きでこのアルバムを買ったわけではなくて、音楽そのものやアルバム全体が素晴らしいんだ。ギターはあくまでもその一部、っていうことだね。

 本作が面白いのは、ドラムとベースはかなりタイトでファンキーでありつつ、それでいてプログレッシブ・ロックの要素がどことなくあることだ。チック・コリアがインタールードのようにプレイするピアノもあって、それもまた美しい。“別の惑星から来たプログレッシブ・ロック”って感じかな。

マーク・スピアー(Mark Speer) プロフィール

マーク・スピアー(Mark Speer) 

テキサス州ヒューストン出身のトリオ、クルアンビンのギタリスト。タイ音楽を始めとする数多のワールド・ミュージックとアメリカ的なソウル/ファンクの要素に現代のヒップホップ的解釈を混ぜ、ドラム、ベース、ギターの最小単位で独自のサウンドを作り上げる。得意技はペンタトニックを中心にしたエスニックなリード・ギターやルーズなカッティングなど。愛器はフェンダー・ストラトキャスター。好きな邦楽は寺内タケシ。