スパークス『ナンバー・ワン・イン・ヘヴン』/マーク・スピアーの此処ではない何処かへ|第19回 スパークス『ナンバー・ワン・イン・ヘヴン』/マーク・スピアーの此処ではない何処かへ|第19回

スパークス『ナンバー・ワン・イン・ヘヴン』/マーク・スピアーの此処ではない何処かへ|第19回

現代の音楽シーンにおける最重要ギタリストの1人、クルアンビンのマーク・スピアーが、世界中の“此処ではない何処か”を表現した快楽音楽を毎回1枚ずつ紹介していく連載。

今回紹介してくれるのは、スパークスの 『ナンバー・ワン・イン・ヘヴン』。LAのロン&ラッセル・メイル兄弟によるロック/ポップ・ユニットで、ドリーミーで浮遊感のあるテクノ・ポップ・サウンドが存分に楽しめる1枚だ。マークは彼ら兄弟を“かなりヘンな2人組だ”と語る。

文=マーク・スピアー、ギター・マガジン編集部(アルバム解説) 翻訳=トミー・モリー 写真=鬼澤礼門 デザイン=MdN
*この記事はギター・マガジン2022年11月号より転載したものです。

スパークス
『ナンバー・ワン・イン・ヘヴン』/1979年

ジョルジオ・モロダーと作った
名作グラム・テクノ

LAのロン&ラッセル・メイル兄弟によるロック/ポップ・ユニットが、ディスコ界の名プロデューサー、ジョルジオ・モロダーを招いて制作した8作目。テクノ・ポップとして評価の高い作品で、彼ら独自のシアトリカルな世界観と融合したサウンドは“グラム・テクノ”とでも言えるかも。ギターは入っていないが、歪んだシンセにギター的満足感がないこともない。

ファニーで変な音楽をやらせたら右に出る者はいないだろうね。

 スパークスはグラム・ロックのシーンで評価されているけど、実はかなりヘンな2人組だと思うんだ。ヘンというのは、より大衆的ではないというか、より前衛的なものを扱っているという意味だね。その前衛をポップな見せ方でやっているような印象が彼らにあるよ。

 と言いつつ、僕はこのアルバム以外の作品を知らないんだけど、大好きな1枚だ。このアルバムはジョルジオ・モロダーによってプロデュースされていて、それで気になって聴いてみたのが最初だね。ジョルジオ・モロダーはドナ・サマーの「I Feel Love」とか、多くのディスコ・ヒッツをプロデュースしたことでも知られているよね。シーケンサーと生ドラムを組み合わせて、高いエネルギーのサウンドに仕上げるスタイルが実に魅力的だよ。

 そしてもちろん、このアルバムにも本当に高いエネルギーが詰まっている。ギターはまったく入っていないけどね。このアルバムの中では「The Number One Song In Heaven」が僕のお気に入りの曲なんだけど、BPMがめちゃくちゃ速いのにメロディが突き抜けるようにアメイジングでね。そして歌詞がとても愉快なんだ。このアルバムでは、100万匹のうちの1匹の精子が卵子にたどり着くことを歌っていたりする曲もあるよ(笑)。

 スパークスはとにかくたくさんのファニーな作品を作っていて、そういったファニーでちょっとヘンな音楽をやらせたら右に出る者はいないだろうね。そういう明確なスタイルを持つグループに僕は惹かれるよ。

マーク・スピアー(Mark Speer) プロフィール

マーク・スピアー(Mark Speer) 

テキサス州ヒューストン出身のトリオ、クルアンビンのギタリスト。タイ音楽を始めとする数多のワールド・ミュージックとアメリカ的なソウル/ファンクの要素に現代のヒップホップ的解釈を混ぜ、ドラム、ベース、ギターの最小単位で独自のサウンドを作り上げる。得意技はペンタトニックを中心にしたエスニックなリード・ギターやルーズなカッティングなど。愛器はフェンダー・ストラトキャスター。好きな邦楽は寺内タケシ。